うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

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凛空(の思惑)散る

 その日の授業も全て無事に終了し、迎えた放課後。

 学校を後にした凛空達は、その足でブルーキャッツへと赴いた。

 

「やぁ、皆」

「拓也さん、こんにちは」

 

 ブルーキャッツの店内には、幸いというべきか拓也以外にお客の姿はなく。

 カウンターで作業する檜山と、若い男性従業員の三人の姿しかなかった。

 

「よく来たな」

「こんにちは、檜山さん」

 

 拓也と檜山に挨拶をする凛空達。

 そんな中、初対面となる若い男性従業員の事が気になる様子のバン・カズ・アミの三人。

 すると、そんな三人の様子を察して、檜山が三人に若い男性従業員の事を紹介する。

 

「そう言えばバン達は初対面だったな。こいつは、ウチの従業員の黒沢(くろさわ)だ」

「黒沢です、よろしく」

「あぁ、安心しろ。黒沢も、俺達同様お前達の味方だ」

 

 若い男性従業員こと黒沢の紹介を終えた所で、バンは早速アングラビシダスについて詳しい説明を求めるべく、檜山に尋ね始める。

 

「アングラビシダス。第一次LBXブームの頃、A国の裏路地で開催されていたものが始まりとされ、やがてそれが世界中に広まり、今や世界中でその名を冠した大会が開かれている、ルール無用の闇のLBX大会だ」

「ルール無用……」

「大会のレギュレーションは、基本的にはアンリミテッドレギュレーションで行われる。機体や武器の改造に制限はなく、戦闘方法も同様。まさにルール無用だ」

 

 そして、檜山は一拍置くと、さらに説明を続けた。

 

「当然、参加する連中は、情け容赦のない強者ばかり。まさに、生きるか死ぬかの戦いだ」

「生きるか死ぬか……」

「想像以上に過酷そうね……」

「しかも、次のアングラビシダスは、ちょっと特別でな」

「特別?」

 

 ルールがないのがルール、そんな大会に特別な事などあるのかと、疑問を浮かべるバン達を他所に、檜山は説明を続ける。

 

「お前達、"アルテミス"は知っているな?」

「勿論」

「知ってる」

「おいおい、俺達だってそれ位は知ってるぜ。というか、LBXをやってる奴で、知らない奴の方が少ないだろ」

「二年前に始まった、LBX世界一のプレイヤーを決める大会でしょ。LBXプレイヤーなら、誰もが憧れる夢の舞台」

「確か、今年の開催地はお台場ビッグスタジアムだよね」

 

 正式名称、LBX世界大会アルテミス。

 同大会は、LBXが販売再開された折、各企業が出資し設立されたLBXの管理機構オメガダインが主催となり、西暦2048年の第一回大会から毎年開催され、今年で三回目を迎える。

 同大会の参加資格を得るには、世界各地で行われる各種大会で入賞を果たす等好成績を残す、或いは、大会スポンサーである企業の公式宣伝チームとして登録されるかの何れか。

 

 バン達の言う通り、LBXプレイヤーにとっては夢の舞台だが、何故、そんな大会の名前が今登場するのか。

 バン達の疑問を他所に、檜山は、衝撃的な言葉を口にした。

 

「実はな、次のアングラビシダスに優勝した者には、アルテミスへの特別出場枠が与えられる」

「「えぇっ!?」」

 

 檜山の口から語られた特別の意味を知り、驚きを隠せないバン達。

 

「つまり、その特別出場枠を狙って、次のアングラビシダスでは、いつも以上に激しいバトルが行われる」

「おそらく、イノベーターが山野博士の解放条件にアングラビシダスを指定したのは、バンを参加させて、アキレスをバトルの最中に破壊しプラチナカプセルを奪う狙いだろう。その為に、連中が刺客を送り込んでくることは、十分に考えられる」

 

 檜山の言葉を引き継いだ拓也の言葉を聞き、カズがアングラビシダス出場は火中の栗を拾うも同然と零す。

 それでも、バンは父親である山野博士を救うべく、改めて出場を表明する。

 そんなバンの姿を見て、カズとアミの二人も、バン一人だけに危険を冒させまいと、出場を表明した。

 

「凛空は、どうするの?」

「うーん」

 

 一方、不参加を表明したミカに尋ねられ、バン達と共にアングラビシダスに出場するか否か、頭を悩ませる。

 

「もう少し、考えてもいいですか?」

 

 出場経験のある凛空が出場すれば、バン達にとっては心強かったが、当の本人は、まだ迷いがある様だ。

 

「エントリーの締め切りまでには、まだ時間がある。ギリギリまで考えるのもいいだろう」

「ありがとうございます」

 

 こうして、凛空が結論を保留にした所で、檜山の口からアングラビシダスの開催が一週間後である事が告げられる。

 

「一週間後……」

「なら、早速キタジマに行って特訓しないとね!」

「あぁ、むざむざLBXを破壊されにいくわけにはいかねぇからな」

「あぁ、そうだな!」

 

 アングラビシダスまで残された時間が少ない事を知ったバン達は、当日までに少しでも腕を磨くべく、特訓に意欲を示す。

 だが、そんなバン達に、檜山からとある提案が出される。

 

「ならその前に、アングラビシダスの会場を見ておくといいだろう」

「え? 見られるんですか!? 何処なんです!?」

「そう焦るな。あぁ、二人はもう知ってるよな」

「はい」

「ん」

「えぇ!? 凛空とミカは知ってるの!?」

「バン、何処で行われるかを知ったら、きっと驚くよ」

 

 一体どんな場所で行われるのか、期待に胸弾ませるバンを他所に、案内役を請け負った拓也が、バン達を、店内の一角にある扉の方へと呼ぶ。

 

「さぁ、行くぞ」

「拓也さん、どういう事?」

「アングラビシダスは、この店の地下で開催されるんだ」

 

 思いもよらぬ開催場所を知り、バン達は驚きの声をあげる。

 その後、バン達は拓也の後に続いて、扉の先にある長い階段を下っていった。

 

 

 

 

 長い階段を下る道中、バンは、ふとした疑問を拓也に投げかける。

 

「拓也さん、何でブルーキャッツの地下なんですか?」

「いずれ分るさ」

「……、凛空は、どうしてか知ってるの?」

「一応ね。でも、僕の口から伝えるより、バン自身の目で、確かめた方がいいと思うな」

 

 しかし、拓也からも、そして話を振った凛空からも明確な答えは返ってこず。少々腑に落ちないバン。

 だが、そんなバンの気持ちも、階段を下りた先に広がる光景を目にすると、一瞬にして切り替わった。

 

「さぁ、着いたぞ。ここが、アングラビシダスの会場だ」

「っ! こ、これって……」

「すげぇ、地下にこんな場所があったなんて」

「驚きね」

 

 初めて目にする地下闘技場、モニター画面に映し出される激しいバトルの様子、それを観戦して熱気が上がり声を張るギャラリー達。

 バン・カズ・アミの三人は、その雰囲気に気後れする。

 

「大会がない時は、こうやって、自由にバトルが出来るように開放しているんだ」

 

 拓也の説明を聞きながら、バンは、地下闘技場を見渡し始める。

 老若男女、様々な人の姿が見られる中、バンは、ふと自分の方に視線を向けている人物がいる事に気がつく。

 それは、一部が白い綺麗な紺のショートヘアに整った顔立ち、そして魅力的ながらも、何処か高圧的な雰囲気を醸し出す女性。

 一体何者かと気になったバンだが、直後、カズが声をあげた事で、バンの意識と視線はそちらに向けられることになった。

 

「海道 ジン!」

「嘘、LBXには興味なさそうにしてたのに」

 

 視線を向けた先、LBXバトル用のステージ、その中心に設置されたDキューブでバトルをしていたのは、見紛う事なき海道 ジン、その人であった。

 しかも、驚くべきことに、ジンのバトルの相手は三人組。三対一でのバトルを行っていたのだ。

 

「すげぇ、三対一なのに互角に渡り合ってる」

「あぁ」

 

 ジンの相手が操る三機のLBX、リーダー機は青い戦士を彷彿とさせる外観のズールと呼ばれる機体で、第一次ブームの際に開発され、開発企業がタイニーオービット社に買収されてからは同社が製造販売を行っている。

 そして、その僚機を務めるのが、手足をウォーリアーやムシャ等、別のLBXのパーツに組み替えた二機のカスタマイズ機。

 

 一方、ジンが操るのは、深紫(こきむらさき)の禍々しい雰囲気を醸し出すジ・エンペラー。

 ジ・エンペラーはその俊敏な動きで、相手の三機から次々と繰り出される斬撃を躱していく。

 

「でも、防戦一方。三対一じゃ勝てっこないよ」

 

 アミの言う通り、ジ・エンペラーは相手の攻撃を躱すのに精一杯で、とても攻勢に転じる余裕があるようには見られない。

 やがて、ジ・エンペラーは追い詰められると、三機に包囲され絶体絶命となる。

 

「よし、囲んだぞ!」

「へ! 三対一でバトルするなんて粋がるから、こんな事になるんだよ」

「トドメだ!」

 

 誰しもがジ・エンペラーの敗北を確信した、次の瞬間。

 ジ・エンペラーはティターニアを地面に突き刺し、棒高跳びの要領で三機の包囲から抜け出すと、着地後すぐに攻勢に転じ、ティターニアの重く鋭い一閃をくり出す。

 刹那、反応が遅れた三機はジ・エンペラーの一撃を受けて、無残に爆散するのであった。

 

「二四秒一七……」

 

 そして、勝敗が決すると、ジンは自身の腕時計でバトルにかかった時間を確認する。

 一方、ジンのバトルを観戦したバン達は、各々の感想を零し始める。

 

「あんな状況から逆転するなんて、すげぇ奴だな……」

「いや、違う。あいつは、初めから三機同時に撃破するつもりだったんだ」

「え!?」

「まさか、嘘だろ」

「バンの言う通り。彼のバトルは、全て計算尽くだった」

「でも、どんなに計算尽くでも、それを実行できる腕前がないと、意味がない」

「その通り」

「海道 ジン……、まさか、これ程凄腕のプレイヤーだったなんて」

 

 LBXバトル用のステージを後にするジンの姿を見送るバン達。

 すると、敗北した三人組のリーダーが、悔し紛れの一言を言い放つ。

 

「テメェのジ・エンペラーなんか、次のアングラビシダスで粉々にされちまえ!!」

 

 それは、バン達に更なる衝撃を与えるものだった。

 

 

 

 

 こうして、アングラビシダスの会場となる地下闘技場を見学したバン達は、早速特訓を行うべくキタジマ模型店に向かう事になった。

 しかし、凛空は知り合いを見つけたから声をかけてくると言って、バン達とは別行動をとる。

 

誠司(せいじ)さん!」

「ん? やぁ、凛空くん」

 

 地下闘技場の一角、スーツを着込み髪をオールバックにした男性に声をかける凛空。

 声をかけたのは、サイバーランス社の開発部開発局長、プロジェクトMSと双璧を成す次世代LBX研究室の主任研究員を務める西原 誠司氏。

 西原の苗字からも分かる通り、誠司は凛空と親戚関係である。

 

「奇遇だね」

「はい。所で誠司さん、こんな所で何を?」

「実は、我々が開発した次世代LBXの試作機、そのテストプレイヤーの候補の調査にね」

「あの機体の、ですか」

 

 プロジェクトMSの発表以降、サイバーランス社が新商品として世に送り出したのは、プロジェクトMS関係の機種が多かった。

 しかし、サイバーランス社はプロジェクトMSのみに注力していた訳ではない。

 従来型の次世代LBXの開発も並行して行われており、最近になり、集大成とも言うべき次世代LBXの試作機が生み出された所であった。

 

「確かに、従来のLBXとは一線を画す機体ですからね、あの機体は。操作できるプレイヤーとなると、当然、要求される腕前も並大抵でないものが求められる。だから、そんなプレイヤーが集う場所に赴いて、直接調査してるんですね」

「その通り、流石、凛空くんは理解が早いですね」

「それで、誠司さんのお眼鏡に適ったプレイヤーはいましたか?」

「えぇ、とても気に入ったプレイヤーが一人」

(十中八九、海道 ジンの事だろうな)

「実は、今からそのプレイヤーとコンタクトをとろうと思うんだけど、凛空くんも来るかい?」

「はい、行きます。誠司さんのお眼鏡に適ったプレイヤー、どんな方なのか気になるので」

 

 こうして、凛空は誠司の後に続いて地下闘技場内の移動を始める。

 程なく、移動した先で、凛空と誠司の前から歩いてきたのは、誰であろう海道 ジンその人であった。

 

「こんにちは、ジン君」

「……君か」

 

 凛空が声をかけ、凛空と誠司の存在に気がついたジンは足を止めて二人を見据える。

 

「おや、凛空くんは彼と知り合いで?」

「はい。実は今日、僕のクラスに転校してきたのがジン君なんです」

「ほぉ……。これは、まさに巡り合わせと言う他ありませんね」

 

 凛空とジンがクラスメイトであるという事実を知り、誠司は好都合と言わんばかりの言葉を零す。

 

「海道 ジン君、はじめまして。先ほどのバトル、拝見させていただきました。全てが計算され尽くされたあれは、まさに、素晴らしいの一言に尽きる」

「……」

「おっと、これは失礼。私はサイバーランス社の主任研究員、西原 誠司と申します」

「サイバーランス……」

 

 警戒するジンに、誠司は怪しいものではないと身振り手振りを交えながら、スーツの内ポケットから取り出した自身の名刺を手渡す。

 

「ご存知の通り、我がサイバーランス社は、タイニーオービット社、プロメテウス社と並ぶLBXメーカー。LBXメーカーとしては後発ながらも、近年はプロジェクトMSの成功により、シェアの面で、国内シェア一位を誇るタイニーオービット社に差を縮める等、我が社の誇る高い技術力が──」

「用件は?」

「……ふ、無駄話は不要ですか」

 

 すると誠司は、前置きを止め、早速本題を切り出した。

 

「海道 ジン君、貴方を、我が社のテストプレイヤーとして迎え入れたいのです」

「テストプレイヤー?」

「現在、我がサイバーランス社は、これまで培ってきた技術の集大成と言うべき、新型CPUを搭載した、次世代LBXを開発しています。これが完成すれば、LBXの世界に革新を起こす事になるでしょう」

「……」

「しかし、完成の為には、試作機を用いて様々なテストをクリアしなければならない。そして、そのテストをクリアする為には、優れた腕前を持つプレイヤー。そう、海道 ジン君、貴方が必要なのです」

「……、悪いが興味はない」

 

 ジンは誠司の勧誘を断るかに思われた、次の瞬間。

 

「と、言いたい所だが、条件次第では考えてもいい」

 

 判断が変わる事を示唆する発言をしたのだ。

 

「ほぉ、条件、ですか。因みに、一体どの様な条件をお望みで?」

 

 すると、ジンは不意に凛空の顔を見据え始める。

 

「凛空君。君は、一週間後のアングラビシダスに出場するのか?」

「え?」

「答えろ」

「……まだ、保留の状態だけど」

 

 何故か凛空にアングラビシダスに出場するか否かを尋ねるジン。

 そして、答えを聞いたジンは、暫し沈黙した後、再び視線を誠司に向けると、条件を話し始めた。

 

「凛空君が一週間後のアングラビシダスに出場すると言う条件を提示するのならば、テストプレイヤーの件、考えましょう」

(僕のアングラビシダスに出場が条件……。ジンの奴、もしかして、昨日のエンジェルスターでのバトルの決着をアングラビシダスでつける為に?)

 

 ジンの提示した条件を聞き、凛空は眉を顰める。

 一方、自身の予想に反する条件に、肩透かしを食らった誠司は、気を取り直すと、凛空のもとへと近づき、小声で話を始めた。

 

「凛空くん。サイバーランス社の未来の為、ここはどうか、ひとつよろしく頼むよ」

「は、はい……(く! 謀ったな、ジン!)」

 

 凛空がサイバーランス社の社長の息子であるとの立場を知り、更には社員の前というこの状況を利用して、自身の望む答えを引き出させる。

 このジンの策略にはまった凛空は、内心苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるのであった。

 

 こうして、凛空のアングラビシダス出場が半ば強制的に決まった所で、良いお返事を期待している誠司と、少々浮かない表情の凛空に見送られ、ジンはその場を後にするのであった。

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