そして、迎えたアングラビシダス当日。
会場となる地下闘技場に足を運んだ凛空達が目にしたのは、開会式を今か今かと待ち望んでいる、大勢のギャラリー達でごった返した地下闘技場の光景であった。
大会の性質故か、ギャラリー達の多くはまるで世紀末の住人を彷彿とさせる格好の者が多く見られた。
「スゲー人だな……」
「ねぇ凛空、アングラビシダスってこんなに盛り上がるものなの?」
「僕が前に出場した時は、ギャラリーも少なかったけど。今回は、アルテミスへの特別出場枠が優勝者に与えられるから、それが原因で例年以上に盛り上がっているのかもね」
ギャラリーや他の出場プレイヤーに混じり、開会式を待つ凛空達。
程なく、突然地下闘技場内の灯りが消えると、同時に、地下闘技場内も静寂に包まれる。
刹那、地下闘技場の中央目掛けて、スポットライトが当てられる。
そこには、一人の男性の姿があった。
「諸君、アングラビシダスにようこそ。俺の名はレックス。この大会を俺の名のもとに開く事、光栄に思え」
「あれが、レックス……」
「あれが伝説のLBXプレイヤーか!」
スポットライトに照らされた、レックスと名乗った男性は、次の瞬間、伏せていた顔を上げ、その素顔を晒した。
「えぇ!?」
「あの人は!」
「檜山さん!?」
「伝説のLBXプレイヤー・レックスって、檜山さんだったのか!」
「でも、檜山さんの時と雰囲気が違うわね……」
その素顔を目にした瞬間、バン・カズ・アミの三人は目を見開いた。
格好こそ違うものの、その顔は紛れもなく、三人もよく知る檜山その人であった。
そして同時に、以前、拓也や凛空に投げかけた疑問の答えを見出すのであった。
「アングラビシダスは破壊の祭典、ルールが無いのがルール! バトルはアンリミテッドレギュレーションのみで行われる! 尚且つ、今回の大会で優勝した者には、LBX世界大会アルテミスへの出場権が与えられる! 最強のLBXプレイヤーを目指し、存分に腕を振るい、ぶっ壊してやれ!!」
刹那、それまでの静寂が一変、地下闘技場内の熱気が最高潮に達する。
「凄い熱気だ……」
「バン、雰囲気に吞まれちゃ駄目だ。この中に、イノベーターの刺客がいるんだからな」
「あ、あぁ」
「でも、皆怪しく見えちゃうわね」
盛り上がる地下闘技場内を見渡していたアミ。そんな彼女の肩に、不意に誰かの手が置かれた。
それに驚いたアミが悲鳴を上げて慌てて振り返ると、そこには、見慣れた人物の姿があった。
「り、リュウ!?」
「アミちゃん。アミちゃんもこの大会に出るんだよね? 頑張ってくれよ! あ、バンとカズと凛空は適当にやってていいから」
そこにいたのはリュウ。
一体何処から情報を得たのかは分からないが、どうやら凛空達、特にアミの応援に駆けつけたようだ。
「俺、こういう場所に来るのは初めてなんだ。きっとスゲーバトルが見られるんだろうな! 楽しみだな!」
地下闘技場内の熱気にあてられてか、本来の目的を忘れてしまいそうになるリュウ。
そんなリュウを他所に、凛空達はレックスが発表したアングラビシダスの対戦表に目を凝らしていた。
各出場プレイヤーがAグループとBグループ、二つのグループに分かれてトーナメント戦を勝ち抜いていく本大会。
バンはAグループに振り分けられ、同じグループにはキヨラの名前もある。
一方、カズ・アミ・凛空の三人はBグループに振り分けられ、同じグループにはジンの名前もあった。
「俺の初戦の対戦相手は……」
大事な初戦、その対戦相手が誰なのか、それを確かめようと欄干から身を乗り出す勢いで対戦表を凝視するバン。
すると、そんなバンの背後に、大きな影が迫る。
「お前か、俺の初戦の対戦相手、山野 バンってのは?」
「え?」
ふと背後から自身の名を呼ぶ声がして、バンが振り返ると。
そこにいたのは、バンの初戦の対戦相手である巨漢の男性、ガトーであった。
「俺はどんな奴が相手でも容赦しねぇ。お前のLBXの首、頂くぜ」
ガトーの圧倒的な威圧感を前に、バンはたじろぐ。
「ん? よぉ、誰かと思えば、凛空じゃねぇか」
「ご無沙汰してます、ガトーさん」
「お前と戦うとなると決勝戦。その時は、今度こそお前の首を頂くぜ」
ガトーは凛空と面識があるようで、凛空にも宣戦布告を告げると、他の面々を一瞥すると、準備を行うべくその場を後にした。
一方、宣戦布告を受けたバンも、気を引き締めると、準備の為に移動を開始するのであった。
出場するプレイヤーの為に用意された準備スペースで、初戦の為の準備を進めるバンとそれを見守る凛空達。
「凛空って、あのガトーって人と知り合いなの?」
「うん、以前アングラビシダスに出場した時に戦ったのが切っ掛けでね」
「凛空、ガトーはどんな戦い方をするんだ?」
「積極的に攻撃を仕掛けてくるよ、遠距離ならランチャー系、近距離ならアックス系でね。そして、最後にパフォーマンスとして、相手のLBXの首を切り落とす事でも有名だよ。それが所以で、首狩りガトーの異名を名付けられている」
「確かに、郷田から貰ったデータにも、そう書かれてる」
ハンゾウから受け取ったタブレットPCに目を通すカズとアミ。
一方、バンは実際に戦った事のある凛空からの情報を得て、対ガトー戦の戦略を練り始めた。
初戦の舞台となる神殿のジオラマ、現代都市やジャングルなどに比べ身を隠す場所が少ないなども考慮し。
その結果、ガトーとの初戦には、アキレスの基本武器であるアキレスランスやアキレスシールドを、ランチャー系の武器に強いスクウェアガードと、攻撃時の隙が少なくシグマDX9との相性も良いブロードソードに変更して挑む事となった。
「只今より、Aグループの一回戦を行います」
こうして準備が整った所で、アングラビシダスの司会進行役を務めるプログラムのアナウンスが流れ、ガトーやキヨラ等、Aグループに振り分けられたプレイヤー達が続々とステージに現れる。
「それじゃ皆、いってくる!」
「頑張ってね!」
「応援してるぜ!」
「焦らず、自分らしくだよ」
「頑張れ……」
そしてバンも、凛空達四人の応援を背に、ステージへと向かった。
指定されたDキューブの前に立ち、対峙するバンとガトー。
「さぁこい小僧、アングラビシダスの恐ろしさ、たっぷりと教えてやるぜ」
「アキレス、いっけーっ!」
「ブルド改、見参!!」
司会進行役の合図と共に、バンにとって大事な初戦の幕が切って落とされた。
緒戦こそ、バンはアングラビシダス初出場の緊張と、ガトーの勢いも相まって防戦一方となっていたが、やがて、調子を取り戻したバンの反撃により、一時はバトルの主導権を握ったかに思えた。
しかし、ガトーのスタングレネード攻撃、更にはグレートアックスに仕込んだ火薬等。アングラビシダスの洗礼を受けて、アキレスの右腕を切り落とされる等、一転して窮地に追い込まれる。
だが、バンの諦めない心と、スクウェアガードを使用しロケットランチャーを誘爆させるという咄嗟の機転により窮地を脱し。
最後は、必殺ファンクションにより見事ガトーのブルド改を撃破し、見事初戦を勝利で飾った。
自身の勝利がコールされ、安堵するバン。
そんなバンに、更に幸運が舞い込んでくる。それは、二回戦の相手となる筈の試合で、両プレイヤーが共倒れした為、二回戦は不戦勝となったのだ。
とはいえ、この幸運を、バンは素直に喜べないでいた。
その原因は、言わずもがな、ガトーとのバトルで切り落とされたアキレスの右腕であった。
「やったわね、バン!」
「流石だぜ!」
「あぁ……、だけど」
「そっか、それじゃ次のバトルは……」
「今からじゃ、キタジマに行って直してもらう時間はないし、どうすれば」
万全ではない今の状態では、次のバトルの勝算は見えない。
何か解決策はないものかと頭を悩ませているバン達のもとに、ふと、今回のアングラビシダスの観戦に来ていたハンゾウとゴウダ三人衆が現れる。
「困ってるようだな」
「そうなんだ。このままじゃ次のバトルが……」
「だったら、このハカイオーの腕を使え」
「え?」
「パーツを交換しろ、腕全体を交換するんだ。パーツ交換はLBXの醍醐味じゃねぇか、だろ!?」
ハンゾウからの申し出を聞き、バンの表情がパッと明るくなる。
因みにその横で、ハンゾウの男らしさに、ミカが惚れ惚れしていたのはここだけのお話。
「郷田……、ありがとう、使わせてもらうよ!」
「バン! おいコラ、分かってんだろうね? リーダーのパーツ使って負けたら承知しないよ!」
「アキレスの右腕は、俺がキタジマに持って行ってやる、安心しろ。……お前ら、行くぞ」
「あ、待ってよリーダー!?」
こうして、アキレスの右腕を預かったハンゾウがゴウダ三人衆を引き連れてその場を去るのを見送ると、バンは早速、ハカイオーの右腕をアキレスに取りつける作業を始める。
一方、頭痛のタネがなくなり安堵したカズ・アミ・凛空の三人は、Bグループの第一回戦に臨むべく、ステージへと向かった。
「三人とも、頑張れよ!」
「おう!」
「うん!」
「凛空」
「ん?」
「頑張れ」
「うん、頑張ってくる!」
バンの応援を受けて気合を入れるカズとアミ、一方凛空は、珍しく身振りを交えたミカの応援を受けて、一段と気合を入れるのであった。
ステージへと赴いたカズ・アミ・凛空の三人は、各々指定されたDキューブの前に立ち、対戦相手と対峙する。
その際、アミとカズは対戦相手のLBX、というよりも対戦相手のプレイヤーを目にして、渋い顔を浮かべる。
(まさか、初戦の相手が"作業用ザク"とはな……)
一方の凛空も、Dキューブ内に広がる、廃墟と化したビル群が一面の砂漠の中に墓標の如く佇んでいる、砂漠都市と呼ばれるフィールド。
そこで対峙する相手のLBX、プロジェクトMSの栄えある第一弾、ザクIをプロジェクトの目的に沿い、その名の通り作業に利用できるように改修したのが、作業用ザクである。
主な改修点は、黄色を基調としたカラーリングに、背部のバックパックをコンテナラックに変更し、両肩のショルダーアーマーを廃してハンガーユニットが設けられ、左腕にフック付きのウインチ、右腕に大型スコップを装備している。
更に、今回の対戦相手である作業用ザクは、独自のカスタマイズとして、両腕に大型ドリルを装備していた。
同じプロジェクトMSから生まれたLBX同士の戦い、意識する凛空だったが。
「うぉおりゃぁぁぁぁっ!! 破壊だ、解体だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その意識は、どちらかと言えば、工事現場の作業員の様な格好をした壮年男性という見た目の、癖の強い対戦相手のプレイヤーに向けられていた。
「俺のLBX解体術、とくと見ろおぉぉぉぉぉぉっ!!」
対戦相手のプレイヤーの雄叫びで試合開始を告げる合図が聞き取り辛い中、凛空は意識をCCM、今回の相棒である"ドム"の操作に集中させる。
「どぉっりゃぁぁぁぁぁっ!!」
ザクI等よりも太くがっしりとした外観、その見た目の通りブロウラーフレームに分類される本機。
しかし、本機は腰部や脚部に設けられた推進用スラスターにより、その鈍重な見た目に反して、砂漠の中を砂埃を巻き上げながら滑るように移動する。
そのスピードを前に、作業用ザクが振り回す大型ドリルは虚しく空を切る。
「どすこぉぉぉぉぉっい!!」
それでも、プレイヤーの雄叫びと共に作業用ザクは両腕に装備した大型ドリルを振り回し続ける。
相変わらずドムを捉える事は出来ないが、廃墟のビルに命中すると、先ほど自身が言った通り、廃墟のビルは見事に倒壊し解体される。
「よいしょぉぉぉぉぉっ!!!」
相変わらず声量が衰える事のない雄叫びと共に攻撃を続ける作業用ザク。
だが、無情にもドムはその攻撃を躱し続ける。
やがて、遂にその時は訪れた。
集中力が途切れ、動きに隙が出来た一瞬を狙い、ドムはスラスターを噴かせて一気に懐に飛びこむと、装備していたヒートサーベルType 2を振るった。
「きるどぉぉぉざぁぁぁぁっ!!」
自らが名付けた愛称を叫ぶ声と共に、胴体を真っ二つにされた作業用ザクは爆散し、砂漠に破片を撒き散らすのであった。
一回戦を無事に突破し、再び準備スペースに戻ってくるカズ・アミ・凛空の三人。
「やったな、三人とも!」
「あれ位余裕よ。さ、この調子で二回戦もいくわよ!」
「あぁ、そうだな」
「だね」
「? どうしたのよ、二人とも?」
「あ、アミ、あれ見て!」
何故か複雑な表情を浮かべるカズと凛空。
そんな二人の様子に疑問符を浮かべるアミとバン。しかし、バンが何かに気付いて声をあげた。
それは、対戦表に表示された次のバトルの組み合わせ。
そこには、カズと凛空、二人が二回戦で戦う事が示されていた。
「カズと凛空が二回戦……」
「つまり、三回戦に進めるのは二人のうちのどちらかだけ……」
カズと凛空が複雑な表情を浮かべていた理由を知り、バンとアミの表情も曇る。
「ま、仕方ねぇさ、トーナメント戦だしな。それよりも、凛空。次の二回戦、どっちが勝っても恨みっこなしだぜ!」
「勿論、手加減なしだね!」
「おう!」
しかし、カズと凛空は気持ちを切り替えると、互いの健闘を祈るかのように、拳を突き合わせた。
そんな二人の様子を目にし、バンとアミも安堵の表情を浮かべるのであった。
やぁ皆、店長だ!
今日は、作中に登場した作業用ザクについての豆知識だ。
MSVにて登場したこの機体は、ザクⅡの登場で旧式化したザクIや、戦闘で損傷したザクⅡを現場が再利用して作られた、所謂リサイクル兵器だ。
各部の装甲が撤去され、操縦席も重機に近い形状に改められるなど、作業用の名の通り、戦闘用の装備は撤去されている。また、その誕生経緯から、統一された規格が存在してはいないが、大型スコップやフック付きのウインチなどは、共通装備として備えられていたぞ。
では! また。