うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

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特別編第四弾でございます。
このお話は、本編の十年後を描いたアフターストーリー的作品となっております。
因みに、このお話にはLBXは登場しませんので、あしからず。


Blue Velvet

 大人になる。

 子供の頃は、それがどういうものなのか、漠然としていてハッキリとはしていなかった。

 だけど、今なら、それがどういう意味なのか、彼女、三影(みかげ) ミカにはハッキリと理解できた。

 

 最愛の恋人、西原 凛空(さいばら りんく)に依存せず、自立する事こそ、大人になるという事なのだと。

 

「はぁ……」

 

 しかし、頭では理解できていても気持ちがついていかないのか、溜まったモヤモヤを吐き出すかの如く、ミカの口からため息が零れる。

 

 閑静な住宅街に建てられた一件の住宅。

 お付き合いを始めて十年という月日が経過し、共に大人の男女へと成長した凛空とミカの二人は、この住宅で同棲生活を送っていた。

 中学生時代にお付き合いを始め、そこから日本を、そして世界を、かけがえのない友人たちと救うという体験を経て、お互いに学校を卒業し、凛空の父親が社長を務めるサイバーランス社に入社したのを機に同棲生活を始めたのが、今から一年ほど前の事。

 

 二人が同棲するにあたって、凛空の両親が二人にプレゼントしたこの住宅。

 初めて足を踏み入れた際、実家とほぼ同じ位の広さはあるのではとの印象を受けたリビングに、本日何度目かのミカのため息が響き渡る。

 

「はぁ……」

 

 リビングに置かれたソファー、凛空と二人で様々な思い出を共に過ごしてきたそのソファーの上で、ミカは三角座りをしながらため息を零す。

 ミカがこうなってしまった原因、それは、今朝の凛空との喧嘩。

 

 勿論、付き合って十年にもなればこれが初めての喧嘩という訳でもないが、今朝の喧嘩は、これまで以上であった。

 その要因を、ミカは理解していた。そう、自分が大人になりきれていなかったからだと。

 

 凛空はサイバーランス社の社長を務める西原 蔵土(さいばら くらど)の息子で、いわば次期社長だ。

 だが、社長の息子という色眼鏡で見られることなく、周囲の従業員達に後継者として相応しい人材だと認めてもらうべく、凛空は現場で汗水を流し、コツコツと実績を積み重ねていた。

 そんな凛空の努力を、ミカも頭では理解していた。

 

 だけど、その為に毎日仕事から帰ってくるのが夜遅くなったり、仕事の付き合いで見知らぬ女性と飲みに行くなど。

 彼には必要な事だと割り切りたくても、それが我儘だと分ってはいても、自分よりも仕事を優先する事が、見知らぬ女性と一時を過ごしているのが、どうしても許せずにいた。

 

 そんなモヤモヤが募っていた最中、遂に今朝、些細な事が切っ掛けで、ミカの感情が爆発。

 珍しく語気を荒らげ、果てには「さっさと仕事に行けばいいじゃない!」と、凛空を自宅から追い出したのであった。

 

「あ、もうこんな時間……」

 

 そして現在、ふと時計に視線を向けたミカは、既に時計の針が夕方を示していた気がつく。

 それは即ち、今朝から数時間もの間、ミカはソファーの上でため息を零し続けていた事を意味していた。

 

「お腹、空いた」

 

 そして、お昼を食べていない事を自覚した、刹那。

 ミカのお腹の虫の鳴き声が、リビングに鳴り響いた。

 

 これを切っ掛けに、ミカはソファーから立ち上がると、空腹を満たすべく、キッチンに足を運ぼうとした。

 

「ん?」

 

 しかしその時、不意に、テーブルの上に置いていたスマホが、電話がかかって来た事を知らせる。

 

「……アミから?」

 

 スマホを手に取り、電話をかけてきた人物を確かめると、画面に表示されていたのは、ミカにとって中学校以来の友人の一人である川村 アミであった。

 刹那、ミカは応答ボタンを押すと、久しぶりの友人との話に花を咲かせ始めるのであった。

 

 

 

 

 夜の帳が下りる頃。

 いつもよりも早く本日の業務を終えた凛空は、サイバーランス社の本社ビルを後にすると、車を走らせ家路を急いだ。

 

 その理由は言わずもがな、自宅で待っているミカに一刻も早く会う為だ。

 

「ん?」

 

 同じように家路を急ぐ多くの通行人で賑わう交差点で信号待ちをしていると、不意に、凛空のスマホが着信を知らせ始めた。

 急いで車を路肩にとめてスマホを確認すると、画面には、今凛空が一番会いたがっているミカの名前が表示されていた。

 

 刹那、凛空は応答ボタンを押すと、スマホを耳に当てた。

 

「もしもし、ミカ! あの……、今朝は御免! 僕、ミカの──」

「あー、謝ってる所悪いんだけど、私、ミカじゃないのよ」

「え? その声……、もしかしてアミ?」

 

 スマホから聞こえてきたのは、愛しの彼女の声、ではなく、凛空にとっても中学校以来の友人の一人であるアミであった。

 

「でも、どうしてアミが?」

「実はね、今、ジェシカやアスカ、それにランの皆と久々に集まって女子会してたんだけど──」

「もしかして、ミカもそれに参加して?」

「そう。でね、ミカが酔って寝ちゃったから、迎えに来てくれない?」

 

 アミの口からミカのスマホを借りて電話をかけてきた理由を聞き、凛空は納得した様子を見せる。

 

「分かった、直ぐに向かうよ」

「それじゃ、お店の場所を送るわね」

 

 通話を終了し、再度スマホの画面を確認すると、お店の位置情報が添付されたメッセージが通話アプリに届いた。

 場所を確認すると、凛空は車を発進させ、ミカ達のいるお店へと向かう。

 

 

 

 

 車を走らせる事数分、凛空がやって来たのは、ミソラ駅近くにある居酒屋。

 店内に足を踏み入れ、忙しそうなお店の店員に声をかけ案内してもらったのは、店の奥にある個室であった。

 

「お、来た来た!」

「漸く、ヒーローのご登場ね!」

「待ってたよー、久しぶりー、凛空!」

 

 靴を脱ぎ、お座敷の個室に足を踏み入れた凛空を出迎えたのは、かつて世界を救うために共に奔走したかけがえのない友人たち。

 古城 アスカ、ジェシカ・カイオス、そして花咲 ランの三人であった。

 

「来てくれてありがとう」

 

 久々に会う三人と短く言葉を交わした凛空は、アミの言葉を受けつつ、入り口から一番遠い位置でテーブルに突っ伏しているミカの方へと近づく。

 

「ミカ、ミカ。迎えに来たよ」

「ん、んん……」

 

 声をかけながら優しく肩を揺すると、目を覚ましたのか、ミカが反応を示す。

 しかし、まだ完全には目を覚ましていない様子なので、もう一度肩を揺すろうとしたその時、不意にジェシカが声をかけた。

 

「ミカから聞いたわよ、今朝、喧嘩したんだって?」

「え?」

「駄目じゃない。彼氏なら、追い出された後すぐに謝りに戻らなくちゃ!」

「うんうん、そうだぞ。お陰でミカの奴、こんな風に悪酔いしちまうしよ」

「ミカ、凛空の悪口ばーっかり言ってたわよ! アハハッ!」

 

 テーブルに置かれた空のジョッキ、更には手にしたジョッキの状況から見て、三人も相当出来上がっているようだ。

 

「アミ、ミカも相当飲んだの?」

「んー、そうでもないかな。でも、やっぱり気持ちが落ち込んでたからかしら、飲むペースは早かったわ」

「そっか……(ごめんね、ミカ)」

 

 心の中で小さく謝った凛空は、ミカの頭を優しく撫でる。

 

「大事な親友をこんなにも泣かせちゃうなんて、本当に罪作りな男よね!」

「そうだそうだ! 誠意を見せろー!」

「いえーい!!」

「え?」

「ねぇ凛空。私達、ミカのあんな不憫な姿、もう見たくないのよ……」

「皆にも迷惑かけて、本当にごめんね」

「という事で、はい」

 

 そう言うと、アミは凛空に手を差し出した。

 

「えっと……、はい?」

「迷惑料として、今回の飲み会のお会計、よろしくね」

「はは、ははは……、はぁ」

 

 こうして、今回の飲み会、更には迷惑料を含めた金額をアミに手渡す凛空であった。

 

「さぁ皆、まだまだ飲むわよ!!」

「「「おぉーっ!!」」」

 

 アミの音頭と共に盛り上がる三人を他所に、凛空は再びミカの肩を優しく揺する。

 すると、漸くミカが目を覚ました。

 

「ん……」

「おはよう、ミカ。さ、帰るよ、背中に乗って」

 

 目を覚ましたミカをおんぶで車まで連れていくべく、ミカに自身の背中に乗るように促す凛空。

 だが、それを聞いたミカは、思いもよらぬ言葉を口にした。

 

「……、やだ」

「え?」

「だっこ、して! お姫様抱っこ!」

 

 目を潤ませ、頬を膨らませながら両手を広げ、まるで駄々をこねる子供の様な口調でお姫様抱っこを要求するミカ。

 そんな彼女の姿を目にした凛空は、彼女の方に向き直すと、片膝をつき、ミカの腰と脚に手を伸ばした。

 

「これで満足ですか、お姫様?」

 

 そして、ミカをご要望通りお姫様抱っこで抱き上げた凛空は、これで納得したかを尋ねる。

 すると突然、肩にかけていたミカの手が凛空の首に回り、そのまま凛空の顔を強引に近づけた、次の瞬間。

 

「Phew!!」

「おぉー!」

「ひゃーっ!!」

「……」

 

 二人の唇が重なる。

 しかも、それだけでは終わらなかった。

 

 唇を伝い、ミカの舌が凛空の口内に侵入し、官能的な音を奏でる。

 それは紛れもなく、ディープキスであった。

 

「ん、ちっ、ひ、ミカ! ま、待って!」

 

 凛空は何とか止めさせようとするも、ミカは止める気配がない。

 それから暫く、情熱的なキスを友人四人に見せつけた所で、漸く満足したのか、ミカの唇が糸を引きながら凛空の唇と離れる。

 

「はぁ……、はぁ……。り、りんく。も、もっと……」

「っ!!」

 

 潤んだ瞳、火照った顔、そして、求める声。

 刹那、ミカの色香にあてられ、凛空は生唾を飲んだ。

 

「もー、見せつけてくれるじゃない!」

「ヒューッヒューッ!」

「熱々だね!」

「……」

 

 だが、友人達の言葉に、ここが公共の場である事を思いだした凛空は、彼女達に別れの言葉を残すと、逃げるように店を出て、ミカを車の後部座席に乗せると家路を急ぐのであった。

 

 

 

 

「よっ、と」

 

 無事に自宅へと帰宅した凛空は、再びお姫様抱っこで、ミカを車から自宅のベッドへと運ぶ。

 

「ん……」

「ミカ、大丈夫?」

「んー……」

「ちょっと待ってて、今、水を持ってくるから」

 

 そう言うと、凛空は水を用意するべく、ベッドから離れようとした。

 だが、そんな凛空を制止するように、ミカは凛空の着ていたスーツの裾を掴んで離さない。

 

「……だ」

「え?」

「や、だ。行かない、で。お願い……」

 

 トロンとした目付きのミカの口から零れたか細い声。

 刹那、凛空の中で何かが弾けた。

 

「ミカ……」

「ん……」

 

 凛空はネクタイを緩めながら、自らの顔をミカの顔に近づける。

 そして、軽く唇を重ねる。

 

「ごめんね、ミカ」

「私の、方こそ……」

「愛してるよ、ミカ」

「私も、愛してる」

 

 ゆっくりと、言葉を紡ぐ二人。

 

「だから、めちゃくちゃに、……して」

 

 凛空の耳元で囁かれた、ミカからの甘い誘惑。

 刹那、凛空はミカの唇を奪う。

 

 それは、先ほどよりも長く、そして深いキス。

 互いの体温を、互いの鼓動を感じ合い、互いを求めるように、二人はドラマティックな夜を過ごし始めるのであった。

 

 

 

 

 東の地平線から太陽が顔をのぞかせると共に、新しい一日が始まりを告げる。

 それを知らせるかの如く、閑静な住宅街に鳥のさえずりが響き始める。

 

「ん……」

 

 そんな鳥のさえずりで目を覚ました凛空。

 ふと、隣を見ると、昨夜愛し合った最愛の彼女の姿が見当たらない事に気がつく。

 

「ミカ?」

 

 下着姿の凛空は、ゆっくりと上半身を起こすと、寝室内を見渡す。

 しかし、寝室内にミカの姿は見当たらない。

 

 そこで、探しに行くべくベッドから起き上がろうとした、その時。

 不意に、寝室の扉が開き、誰かが入室してくる。

 

「おはよう、凛空」

 

 それは、凛空の着ていたワイシャツを身に纏い、両手にコーヒーカップを持ったミカであった。

 因みに、ワイシャツの下からは、透き通るような白い肌の御御足が姿を晒し。また、胸元部分のボタンが留められていない為、そこから魅惑の谷間が顔をのぞかせており、それが凛空の情緒を刺激したが、寸での所で思いとどまるのであった。

 

「はい」

「ありがとう」

 

 隣に腰を下ろしたミカから、コーヒーの入ったコーヒーカップを受け取る凛空。

 そして暫し、淹れ立てのコーヒーを堪能する二人。

 

 それから一頻りコーヒーを堪能し終えた所で、凛空が口火を切った。

 

「僕、心の何処かで胡坐をかいてたんだと思う。ミカはずっと側にいてくれる、どんな事でも受け止めてくれる、だから、仕事に邁進していいって、勝手にそう思ってた」

「……」

「でも本当は、そうじゃない。辛かったんだよね、不安にさせて、本当にごめん」

「ん……」

「ミカ、これからは、もっとミカとの時間を大切にする! 毎日……とはいかないかもしれないけど、可能な限り早く帰るし、仕事の付き合で飲みに行く時も、決めた時間までに帰るようにする。それに、何かあった時は、ちゃんと連絡を入れる」

「……、私も、凛空の事、もっと信じる」

「ありがとう、ミカ」

 

 刹那、二人は肩を寄せ合う。

 

「ねぇ、ミカ」

「ん?」

「今度のお休み、久々に何処かに出かけようか」

「なら、観たい映画があるの」

「うん、いいよ」

「それから、気になってるお店で、ランチしたい」

「うん」

「それから、夜はイルミネーションを見て。帰ってきたら……、また、いっぱい、愛してほしい」

「分かった、約束する」

「ん……」

 

 これからも、様々な困難が二人に訪れるだろう。

 それでも、この人と一緒なら、どんな困難でも乗り越えていける。

 

「ミカ、これからもずっと、僕の隣にいてね」

「はい」

 

 焦らなくてもいい、少しずつ、共に歩んでいこう。

 笑顔溢れる、輝く未来に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ。

 凛空がミカを連れ帰り、残された四人はと言えば──。

 

「はぁ……。本当、羨ましいわよね」

「んー? 何がだよジェシカ?」

「きっとミカ、あの後凛空と燃えるような一夜を過ごすのよ」

「かもねー。結局、聞かされたのも悪口というよりも惚気だったし」

 

 ジョッキに残ったビールを口にしながら、二人の夜の過ごし方で盛り上がるジェシカ・アスカ・ランの三人。

 そんな三人の様子を、アミは小鉢に手を付けながら眺めていた。

 

「あー、羨ましい」

「ジェシカ、もあしかして欲求不満なのか?」

「ちょ! そんな訳内でしょ!」

「あはは! ジェシカ、顔真っ赤!」

「っ! そ、そもそも、あんなキスを見せつけられちゃ、誰だって欲求不満になるわよ!」

「あー、確かに。ありゃ凄かったな……」

「そうだねー……」

「やば、思い出したら、何だか俺もムラムラしてきた」

「あ、あたしも」

 

 刹那、アスカとランの二人は、ジョッキに残っていたビールを一気に飲み干すと、突如立ち上がる。

 

「俺、今からヒロの所に行ってくる!」

「あたしも、ユウヤに会ってくる!!」

 

 そして、二人は慌ただしく店を後にするのであった。

 

「はぁ……。相変わらず、考えるよりも先に体が動く二人ね」

「そうね」

 

 こうして残されたジェシカとアミであったが、暫くすると、ジェシカが口火を切った。

 

「それじゃ、私もそろそろホテルに戻るわ。明日のお昼の便でA国に帰らなくちゃならないしね」

「そう、なら、今日はこれでお開きね」

「久々に会えて楽しかったわ」

「私も」

 

 女子会もお開きとなり、店を後にし、それぞれの帰路につく。

 

 

 それから十数分後、アミの姿はとあるマンションの玄関先にあった。

 

「ただいまー」

「お帰り」

 

 玄関を潜り室内に足を踏み入れたアミを、一人の青年が出迎える。

 

「女子会は楽しかったかい?」

「えぇ、久々に皆と会えてとっても楽しかったわ。でもね──」

 

 荷物を置くと、アミはリビングに置かれたソファーに腰を下ろし、青年と親し気に話を始めた。

 

「で、三人に冷やかされた凛空は、逃げるようにお店を出ていったの」

「ははは、凛空君らしい」

 

 そして、一頻り話した所で、ふと、青年はアミが物欲しそうな目で自身を見ている事に気がつく。

 

「どうしたんだい?」

「えっと、その、ね。……私も、してほしくなっちゃったの、お姫様抱っこ」

 

 刹那、青年は希望通り、アミをお姫様抱っこの形で抱き上げた。

 

「きゃっ!」

「これでいいかい、アミ?」

「う、うん。ありがとう、ジン」

「所で、してほしかったのはお姫様抱だけなのかな?」

「う、分かってるくせに……、ジンの意地悪」

 

 そして、アミを抱きかかえたジンは、そのまま寝室へと足を運ぶのであった。




因みに、凛空とミカ以外のカップリングについては、作者の独断と偏見ですので、あしからず。
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