うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

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波乱の内覧会 後編

 アナウンスを聞き、多くのギャラリー達で周囲が埋め尽くされる中。

 中央の特設ステージ上では、Dキューブを挟んで、ジンと、五人の男達が対峙していた。

 

「クククッ。ジン様、お初にお目にかかります。我ら、神谷重工が誇る精鋭部隊、その名も"デクー5(ファイブ)"」

「我らの使用する機体は、文字通りデクー」

「しかし、我らのそれは、各々が極限までカスタマイズした機体」

「如何にジン様と言えど、一筋縄ではいきませんよ」

「ですが、だからと言って、手加減などいたしませんがね」

 

 不敵な笑みを浮かべる、デクー5と名乗った五人の男達。

 彼らが口にした通り、DキューブでエンペラーM2と対峙しているのは、デクーとその派生型。

 隊長格のデクーエースを筆頭に、デクー、デクー改、デクーカスタムR。そして、肩のアーマーの変更等、装甲の軽量化により機動力の向上を図った軽装型、その名もデクーカスタムL。

 

 各々の得物を装備した五機のデクーシリーズであった。

 

「五対一! エンペラーちゃん、大丈夫かしら?」

「大丈夫よ。この勝負、エンペラーちゃんが勝つわ」

 

 シジミとリンコを含め、多くのギャラリー達が見守る中、合図と共に、バトルの幕が切って落とされる。

 

 だが、次の瞬間。

 エンペラーM2は一瞬の内にデクーカスタムLを踏みつけ、自身の得物であるエンペラーランチャーを叩きつけ、先ずは一機を撃破。

 次いで、距離を取ったデクー改とデクーカスタムR目掛けて、エンペラーランチャーに内蔵された多連装ミサイルを発射し、二機を撃破。

 爆発により発生した爆煙に乗じ、一気にデクーエースの懐に飛び込むと、エンペラーランチャーの重く鋭い一撃を叩きつけ、同機を撃破。

 そして、仲間の敵討ちを果たすべく、ヘヴィソードを構え背後から襲い掛かるデクーを、エンペラーランチャーの一振りで難なく返り討ちにする。

 

「四秒八……、他愛ないな。どの程度カスタマイズしたかは知らないが、所詮、このエンペラーM2の敵ではない」

 

 それはまさに、あっという間の出来事であった。

 圧倒的な力の差を見せつけたジンは、エンペラーM2を回収すると、呆然と立ち尽くすデクー5にそう言い残すと、特設ステージを後にする。

 

「ん?」

 

 だが、その時であった。

 不意に、ジンは背中に違和感を感じ振り返る。

 

「オイ……、一体このタヌキはなんだ」

 

 そこでジンが目にしたのは、ジンの背中に飛びつき、エンペラーM2目掛けて前足を伸ばすムジの姿であった。

 刹那、先ほどまでの歓声が一転して笑い声に変わる。

 

「キャーッ! すいません、すいません!」

 

 すると、慌ててシジミがジンのもとへと駆け寄り、ムジの粗相を謝罪すると、次いでムジが狸ではなく猫である事を説明する。

 

「ジン君も、すっかりムジに好かれたみたいね」

「……」

 

 そんなジンのもとに、やや遅れてリンコが歩み寄る。

 リンコを一瞥したジンは、ムジを早く引き離すようにシジミに催促する。

 

 こうして、ジンの背中の荷が取り除かれた所で、不意にシジミが先ほどのバトルの感想を語り始める。

 

「あの、ジンさんって本当に強いんですね! あたし、憧れちゃいます! あたしも、いつかエンペラーちゃんみたいなLBXを手に入れたら──」

「シジミ! あぁ、ウチの娘がとんだご無礼をしてしまい、申し訳ありません!」

 

 だが、そんなシジミの声を遮るように、シジミの父親、更に母親と思しき男女が歩み寄ってくる。

 

「こらシジミ、駄目じゃないか、人様にご迷惑をかけちゃ!」

「ごめんなさい、パパ」

「……、チッ!」

 

 シジミと両親の、ごくありふれた親子の姿を目にした、刹那。

 ジンは不快感を感じると、堪らず舌打ちを行う。

 

「おい」

「あ、はい! 何ですかジンさん?」

「LBXは、遊びじゃない。悪いが、用が済んだのならさっさと帰ってくれないか」

「は、はい……」

 

 ジンの少々ドスの効いた声を前に、シジミは少々怯えた様子を見せる。

 一方、ジンはそう言い残すと、足早にその場を後にするのであった。

 

 

 

 

「ジン君!」

 

 足早に内覧会の会場を後にしたジンの後を追い、追い付いたリンコはジンに声をかける。

 

「リンコ君か」

「ジン君、一体どうしたの? さっきの態度、いつもの君らしくないじゃないか」

「……」

「前にも言ったでしょ、一人で抱え込んでちゃ毒だって」

「なら、少し話を聞いてくれるかい?」

「勿論」

 

 そして、ジンとリンコの二人は、近くにあった休憩室に足を運び、そこで話をする運びとなった。

 休憩室に設置された自動販売機で各々飲み物を購入すると、互いに椅子に腰を下ろし、話を始めた。

 

「シジミとその家族を目にした時、不意に思い出したんだ。僕の、本当の両親の記憶」

 

 ジンは、トキオブリッジ崩壊事故で死別した本当の両親との記憶、トキオブリッジ崩壊事故に遭遇する直前の両親との記憶を不意に思い出した事を語った。

 

「だが、何故か一部だけ思い出せないんだ。僕があの事故の中、かすり傷程度で助かった、その部分だけが」

「ジン君、多分それは──」

 

 ジンの話を聞き、リンコが話し始めた、その瞬間であった。

 不意に、爆発音と共に、休憩室を振動が襲う。

 

「何だ?」

「爆発?」

 

 これには二人も話を中断し、何が起こったのかを確かめ始める。

 

「坊ちゃま! ジン坊ちゃま!!」

 

 すると、ジンの執事が慌てた様子で休憩室に駆け込み、二人が知りたがっていた情報を話し始める。

 

「大変ですジン坊ちゃま! 先ほど、神谷重工のAI搭載試作無人LBXトロイが、デモンストレーション中に突如として謎の暴走をはじめました!」

「何だと!?」

「執事さん、もしかしてさっきの爆発って!?」

「はい。暴走現場となった内覧会の会場で起こった爆発です。会場にいた出席者達は、スタッフの避難誘導により多くが避難しておりますが、逃げ遅れた者がいるとの情報も……。現在、保安担当のデクー部隊がトロイの対処に当たっておりますが、トロイの性能を前に苦戦を強いられております」

「ジン君、急いで会場に向かおう!」

「分かった!」

 

 ジンの執事から説明を聞き終えたジンとリンコの二人は、休憩室を後にすると、急いで内覧会の会場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 会場に到着した二人が目にしたのは、まさに戦場の如く様相に様変わりした会場の光景であった。

 

「ジン君! あそこ!」

「っ!」

 

 そんな会場内で、リンコはあるものを見つけると、ジンに知らせた。

 リンコが見つけたのは、会場の一角で、恐怖のあまりへたり込んでいるシジミと、そんな彼女の腕の中にいたムジの姿であった。

 

「逃げ遅れたのか、だからさっさと帰れと言ったのに」

「そんな事よりも、彼女を助けよう!」

「分かっている。エンペラーM2!」

「ジム・ガードカスタム、発進!」

 

 二人は早速、各々のLBXを投入すると、シジミを救出するべく互いのLBXを操作する。

 今回リンコが操作しているのは、プロジェクトMSにて販売されている"ジム"、最近同機のアップデート型の販売が開始された事で区別の為に"前期生産型"と呼ばれるようになった同機の派生型、ジム・スナイパーカスタム。

 その派生型機をベースに、更に防御力向上を目的に開発されたのが、ジム・ガードカスタムである。

 同機の特徴は何と言っても、身の丈程もある巨大な盾、ガーディアン・シールドを装備している事だろう。

 

 

 刹那、トロイの武器腕、デスバレルの銃口がシジミの方へと向けられ、二機のLBXは動きを速めると、シジミの前に飛び出した。

 次の瞬間、デスバレルが唸りを上げ銃口が火を噴き、吐き出された弾丸の雨が襲い掛かるものの、エンペラーM2は途中で拾ったデクーの残骸を盾にし、ジム・ガードカスタムはガーディアン・シールドを使用して弾丸の雨を防いでみせた。

 

「ふぇ? え、エンペラーちゃん! それに、このLBXは……」

「シジミちゃん! 大丈夫!?」

「リンコさん! もしかしてこっちの子って、リンコさんのLBXですか!?」

「うん、そうよ」

「そんな事よりも、僕はさっさと帰れと言った筈だが?」

「ジン君、今はそんな場合じゃないでしょ」

「……、いくぞリンコ!」

「援護は任せて!」

 

 呼吸を整えた所で、ジンとリンコは目の前のトロイを止めるべく、再びCCMを使用して互いのLBXの操作を再開する。

 刹那、それに呼応するように、トロイは自らの武器腕、デスバレルの銃身を回転させ始めると、次の瞬間、再び弾丸の雨をばら撒き始めた。

 

 その弾丸の雨を、エンペラーM2は自慢の機動力、更には周囲の瓦礫などを遮蔽物として利用し躱していく。

 一方ジム・ガードカスタムも、自慢のガーディアン・シールドを使用して、被弾を防いでいた。

 

「見た目通り、凄い弾幕だね」

「それに、あの大型弾倉では、弾切れを起こす前にこの会場自体が崩壊しかねない」

 

 トロイの放つ弾幕を目にし、各々感想を零すリンコとジン。

 

「ならば、一瞬で勝負をつけるのみ! 前進しろ、エンペラーM2! あの重装備ではお前の動きについてはこれない、そのスピードで翻弄してやれ!!」

 

 刹那、ジンは威勢のいい声と共にCCMの入力速度を向上させると、エンペラーM2の移動速度を更に上昇させ、トロイ目掛けて突撃を仕掛ける。

 

「っ! 何!?」

 

 だが、あろうことかトロイはエンペラーM2の速度に反応し、デスバレルの銃口から放たれた弾丸の雨が、エンペラーM2を襲う。

 しかし幸いな事に、寸での所でエンペラーランチャーを盾にしたお陰で直撃は免れ、かすり傷程度のダメージで済んだ。

 

「エンペラーちゃん!」

「喚くな! 問題ない、エンペラーランチャーで弾は防いだ(しかし、どういう事だ。高性能なAIだとしても、所詮はAI。僕の動きをあそこまで完璧に予測できる筈がない。これは一体──)」

 

 先ほどのトロイの動きに対して思考を巡らせるジン。

 だが次の瞬間、そんなジンの思考を中断させられるシジミの声が響いた。

 

「キャー! ムジがまた!!」

「って、なんでそうなる!!」

 

 シジミの腕から抜け出したムジは、トロイのもとへと一目散に駆け寄る。

 だが、ムジの接近を感知したトロイは、ムジに対してデスバレルの銃口を向けると、容赦なく弾丸の雨を放つ。

 しかし、ムジは自慢の瞬発力で弾丸の雨を躱していく。

 

「キャー! ムジ!」

「今助けるよ!」

 

 ムジの救助に向かうべく、ジム・ガードカスタムを向かわせるリンコ。

 一方ジンは、その様子を目にし、ある事に気がつく。

 

(AIらしく、相手の動きに反応して自身の行動を開始する。そして、その際に攻撃対象か否かの選定の基準となるのは、搭載したセンサーの範囲内で動くもの全て。だが、その為に搭載したセンサーのすさまじいまでの感度、高感度センサーによる超反応速度が仇となり、今回の暴走に至ったのか!)

 

 トロイの暴走の原因を突き止めたジンは、この暴走原因を利用し、トロイを止める方法を思いつく。

 

「リンコ! それからシジミ! 二人はその場を一歩も動くな! 特にシジミ、そのムジとかいう猫を絶対に逃がすんじゃないぞ!」

「ジン君!」

「ジンさん!」

 

 そして、二人に声をかけたジンは、トロイの注意を自身に向けるべく、エンペラーM2と共に出口に向かって走り出した。

 すると、ジンの読み通り、トロイはジンとエンペラーM2に標的を絞ると、その後を追いかける。

 

 

 廊下を走るジンとエンペラーM2、それに向かって、唸りを上げたデスバレルから弾丸の雨をばら撒くトロイ。

 エンペラーM2は巧みな動きで、ジンは途中にあった曲がり角や自動販売機を利用して、襲い来る弾丸の雨を避け続ける。

 

 そして、走る事幾分、目の前に扉を開け、遂にジンは、屋外に出る事に成功する。

 

「っ!」

 

 だが、屋外に出た事に安心した一瞬の隙を突かれ、デスバレルから放たれた弾丸がジンの右頬をかすめ、真っ赤な鮮血が滴る。

 しかし、ジンは痛みに堪えながら走り続け、程なく、斜張橋形式の歩道橋の真ん中で立ち止まった。

 

 それに呼応するように、追いかけていたトロイも、その動きを止める。

 

「あれ、あの子止まっちゃった?」

「多分、トロイは動いている物が攻撃対象になるから、動かなければ、その対象からは外れる。だから、今のトロイは、ジン君を見失っているんだ」

「でも、それじゃジンさんも動きようが……」

 

 ジンとトロイの後を追い、歩道橋の近くまでやって来たリンコとシジミ。

 二人がその行方を見守る中、ジンがゆっくりと口を開き始めた。

 

「悪いが、僕には一週間後にアルテミスの本番を控えているんだ。こんな所で、立ち止まっている訳にはいかない!」

 

 そして、一拍置くと、ジンは更に言葉を続けた。

 

「そして僕には、アルテミスの本番を、共に戦う仲間(エンペラーM2)がいる!」

 

 刹那、歩道橋の主塔の最上部、小さな黒い影が光を反射する。

 それにトロイが気がつき、見上げた次の瞬間。

 

「今更気づいてももう遅い! くらえトロイ! これがエンペラーM2の新たな必殺ファンクション!!」

〈アタックファンクション、カイゼルスパイク〉

 

 主塔の最上部から、トロイ目掛けてエンペラーM2が急降下を開始する。

 同時に、手にしたエンペラーランチャーを構えると、重力を利用し、減速する事無く一気にトロイに接近する。

 そして、ぶつかる寸前、エンペラーランチャーに内蔵されたミサイルの発射口が一斉に開かれると、超至近距離で、ミサイルをお見舞いする。

 

 これにはトロイも耐えられず、断末魔の様な爆発の中、その機能を停止させるのであった。

 

「五四秒二三……。何とか一分を切ったが、これでは、アルテミスの本番が思いやられるな」

 

 トロイを倒すまでにかかった時間を確認し、ジンが感想を零した、その時。

 軋むような音と共に、歩道橋が揺れ始める。

 そして、次の瞬間、歩道橋は大きな音と共に崩れ始めた。

 

 当然、ジンもその崩壊に巻き込まれる。

 

 その瞬間、ジンの脳裏に、思い出せなかった記憶が走馬灯のように過ぎった。

 トキオブリッジ崩壊事故で、本当の両親が、自分達の命にかえてでも幼かったジンを守った、その記憶。

 その際、本当の両親が、ジンに生きろと言ってくれた、その言葉。

 

 それらの記憶を思い出したジンは、薄れゆく意識の中で、皮肉なものだと呟いた。

 何故なら、こうして記憶を思い出せたのも、自身が不快感を感じた、シジミとその家族に触れた事が切っ掛けだったのだから。

 

 だが同時に、ジンは、自身の事を愛してくれていた家族の事を思い出し、心が温かくなるのを感じ。

 そして程なく、ジンは自らの意識を手放すのであった。

 

 

 

 

「っ! ここは!?」

 

 それから、どれ程意識を手放していたのか。

 不意に意識を取り戻したジンは、目を見開くと、現在の状況を確認し始める。

 

「よかった、目が覚めて」

「ジンさん、安心して。ここはさっき倒壊した歩道橋のたもとだよ」

 

 どうやら、ジンはあの崩壊の中、大きな怪我を負う事もなく救出されたようだ。

 シジミに膝枕され、リンコにも見守られていたジン。

 

「僕は、どうして……」

「エンペラーちゃんが、ジンさんの事を助けてくれたんだよ」

「っ! エンペラー! そうだ、僕のエンペラーM2は!?」

「ジン君、急に動くと危ないよ!」

 

 シジミの口からエンペラーM2の名が飛び出し、ジンは慌ててエンペラーM2を探そうとする。

 だが、リンコに制止され、渋々それに従ったジン。

 

「安心して、エンペラーM2なら、ほら、あそこに」

 

 刹那、リンコが直ぐ近くの芝生を指さす。

 リンコが指をさした所には、装甲の各所に傷が入り、マントも擦り切れ所々穴が開いている、まさに満身創痍な状態のエンペラーM2。

 そんなエンペラーM2を守る様に寄り添う、ムジの姿があった。

 

「エンペラー……」

「ジンさん、エンペラーちゃん、今は休ませてあげよう。あんなに頑張ったんだから」

「ふ、そうだな」

「あ、ジンさん、今笑った!?」

「へぇー、ジン君もあんな笑顔を浮かべる事があるんだ」

「っ! あ、当たり前だ! 僕だって笑う事もあるさ!」

 

 気恥ずかしさから、頬を少々赤く染めるジン。

 そんなジンの姿を目にし、微笑むリンコとシジミ。

 

 そんな三人を他所に、ムジが暢気にあくびをし、エンペラーM2はそれに応えるかのように光を反射させるのであった。




 やぁ皆、店長だ!
 今日は、作中に登場したジム・ガードカスタムについての豆知識だ。

 元々はMSVのジム・スナイパーカスタムのプラモデルの解説書に名前のみ登場していたが、後にMSV-Rにてデザイン画の公開や、詳しい設定が書き起こされた。
 ジム・スナイパーカスタムをベースに開発された防衛用の機体で、その特徴は何と言っても、専用の超巨大盾ガーディアン・シールドを装備している事だ。
 4種類の材質を5層に重ね合わせた複合装甲で構成されたこの盾は、一説によると敵艦からの砲撃をも防いだという。

 では! また。
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