凛空がミカと共に観覧席へと戻ってくると同時に、ユウヤの救護の為に一時中断していたファイナルステージの再会が司会者の口から告げられる。
刹那、アリーナ内に観客達の声援が響き渡る。
程なく、バンとジンによるファイナルステージが幕を上げると、今度は、アリーナ内が静寂に包まれる。
それは、開始早々激しい鍔迫り合いを演じ、更には、エンペラーランチャーの多連装ミサイルによる攻撃を必殺ファンクションで防ぐ等。
アキレスとエンペラーM2による激しい攻防を、固唾を飲んで見守っているからであった。
「これで終わりだ! 焼き尽くせ!」
〈アタックファンクション、インパクトカイザー〉
「負けるか!」
〈アタックファンクション、超プラズマバースト〉
やがて、エンペラーM2のインパクトカイザーが炸裂したが、アキレスは自身に迫るエネルギーを跳躍し躱すと、超プラズマバーストを発動し、必殺ファンクション発動直後の無防備なエンペラーM2に襲い掛かった。
刹那、巨大な爆発が生じ、司会者を含め、観客達の誰もが、アキレスの勝利を確信した、次の瞬間。
爆煙が晴れ、そこで彼らが目にしたのは、超プラズマバーストにより形成されたクレーターの中心に佇む、全身傷だらけながらも、まだ戦意を失っていないエンペラーM2の姿であった。
そして、第二ランド開始とばかりに、再び繰り広げられる両機の激しい攻防。
超プラズマバーストを耐えたとはいえ、残りLPも余裕がないのか、苛烈な攻撃を繰り広げるエンペラーM2。
そんなエンペラーM2の攻撃を前に、アキレスはアキレスシールドを失い、更には崖に追い込まれ、絶体絶命の危機に陥る。
だが、バンの諦めない心がアキレスにも伝わったかの如く、一瞬の隙をつき危機を脱すると、エンペラーM2に攻撃を仕掛ける。
そんなアキレスを迎撃するべく、エンペラーM2はエンペラーランチャーの多連装ミサイルを発射する。
回避する素振りも見せず、ミサイルに正面から向かうアキレス。直撃するかと思われた、次の瞬間。
アキレスは装備した水月棍を使い、棒高跳の跳躍の如く動作で躱すと、その勢いのままエンペラーM2の懐に飛び込み、水月棍による一撃をお見舞いした。
「はぁぁぁっ!!」
更に直後、水月棍による渾身の突き攻撃が炸裂すると、それはエンペラーM2の胴体を貫通し、エンペラーM2は程なく膝を地につけると、その機能を停止させた。
「か、勝った……。父さん、俺、やったよ!」
直後は勝利した事が信じられず、暫し呆然としてたバンであったが、やがて司会者の勝利宣言や観客達から送られる割れんばかりの拍手や声援。そして、カズやアミの祝福を受けて、漸く自身が勝利した事を実感するバン。
一方ジンは、敗北したものの、その顔には悔しさなどは見られず。むしろ、晴れやかな表情を浮かべ、勝利に沸くバン達の事を眺めていた。
こうして、第三回LBX世界大会アルテミスの優勝者がバンに決定し、表彰式の準備に移行するかと思われた、その時。
「何!?」
突如、機能を停止したはずのエンペラーM2が再起動を果たすと、既に勝敗が決したにも関わらず、アキレスに飛び掛かり組みつく。
この異変に気付いたジンは、慌ててCCMを操作するも、エンペラーM2はジンの操作を一切受け付ける事はなかった。
「駄目だ、コントロールが出来ない」
「ん? どうしたんだ、ジン?」
すると、漸く異変に気がついたバン達が、ジンに何が起こっているのかを尋ねる。
だが直後、ジンは自身のCCMの画面に表示された"デストロイ"の文字を目にし、叫んだ。
「伏せろ!!」
刹那、エンペラーM2が光を放った直後、巨大な爆発が起こる。
ジンのお陰で、間一髪身を伏せていたバンは、爆発がおさまると、慌ててアキレスの状況を確かめるべくDキューブ内に目を凝らした。
「そんな……、アキレス!!」
そこでバンが目にしたのは、爆発により無残に破壊された、アキレスの姿であった。
突如として起こったこの出来事に、アリーナ内にどよめきが起こる中。
次の瞬間、突如としてアリーナ内の照明が落ち、どよめきが大きくなる。
そんな中、凛空は自身のCCMを取り出すと、事前に配置させていた六機の陸戦型ガンダムを起動させる。
そして同時に、バッグから一機のLBXを取り出すと即座に起動させ、特別ステージへと急行させた。
一方、別の方角から、特別ステージへと急行する小さな影が存在していた。
その小さな影は、独特の駆動音を響かせながら特別ステージへと到着すると、見事な跳躍でDキューブ内へと降り立つ。
その際、ジンの横を通った事で、小さな影の存在がジンに気付かれる事となる。
「っ! 今のは、デクー改!?」
慣れない暗闇の中、うっすらと見えたその輪郭は、紛れもなくデクー改のものであった。
そして、このデクー改は、やがて破壊されたアキレスの残骸の中から何かを探し始める。
程なく、残骸に隠れていたお目当ての物、プラチナカプセルを見つけ出し、それを手にしようとした、その時。
デクー改の頭部を、背後に忍び寄った何者かが繰り出した鋭い剣先が貫き、程なく、デクー改はその機能を停止させた。
こうして、プラチナカプセルがデクー改の手に渡るのを阻止したと思った刹那。
新たに、二機のデクー改がDキューブ内へと降り立ち、プラチナカプセルの回収を行おうとする。
だが、そんな二機の前に、先ほどデクー改を葬った、蒼き竜殺しの戦士が立ちふさがる。
「っ! あれは!」
「どうしたの、バン!?」
「よく見えないけど、LBXが戦ってる。……あれって、ザイフリート・カスタム?」
徐々に目が慣れてきたバンは、Dキューブ内の異変に気がつくと、目を凝らした。
そこで目にしたのは、ザイフリート・カスタムと思しき機体が、両手に装備したヒートサーベルを使い、二機のデクー改を薙ぎ倒す光景であった。
何故、Dキューブ内にザイフリート・カスタムが、そして、何故戦っているのか。
状況が飲み込めないバンは、見守る事しかできなかった。
一方、ザイフリート・カスタムを操作する凛空は、とりあえずDキューブ内の安全を確保した所で、安どのため息をもらす。
しかし、直ぐに表情を引き締め直すと、メタナスGX側の状況を確認し始める。
(こちらも、今の所は順調か……)
メタナスGXを強奪するべく、停電の闇に乗じてメタナスGXが保管されている部屋へと向かっていた赤の部隊の武装兵達。
しかし、彼らは通路上で待ち構えていた陸戦型ガンダムの装備した特殊ロケットランチャー、その弾頭に搭載されたトリモチにより、動きを著しく制限され、最早メタナスGXの強奪どころではなかった。
(なんて、言ってるそばから増援か!)
だが、万が一の場合に備えて待機させていたのか、赤の部隊の武装兵達の間を縫うように、デクーやデクーエース等のLBXの群れが姿を現し、陸戦型ガンダムの排除に動き始める。
これに対して、六機の陸戦型ガンダムは、背負っていたコンテナから"YF-MG100"と呼ばれるマシンガンを取り出すと、増援のLBXの群れに対して応戦を始めた。
(く、こっちもかよ)
メタナスGX側にばかり気を取られていると、今度は、プラチナカプセルのあるDキューブ内に、新たな機影が降り立つ。
どうやら、プラチナカプセル側の増援として現れたのは、一機のみ。
素早く片付け、メタナスGX側に注力しようとザイフリート・カスタムを増援の方へと向かわせた、その時であった。
(……嘘、だろ)
暗闇の中、ザイフリート・カスタムのモノアイが捉えたその機影は、闇に紛れる漆黒に彩られた無敵の火竜。
その姿は、予選Aブロックの準決勝においてエンペラーM2とのバトルに敗れた、Gレックスそのものであった。
(黒いGレックス!? まさか、レックスなのか!?)
原作においても、レックスはアルテミスを境に、自らの目的の為に独自の行動を起こしている。
しかし、直接的に敵対行動を取るのは、それから暫しの話を挟んで、物語も終盤の頃。
所が、この世界では、現時点で直接的な敵対行動を仕掛けてきたことになる。
このイレギュラーな事態に、凛空は顔をしかめた。
(いや、外見だけで中身は全くの別物……、っ!)
とはいえ、LBXだけで操作している者がレックスであると断定するのは性急ではないか。
そんな考えが凛空の脳裏を過った、次の瞬間。
黒いGレックスはバーンナックルを装備したその拳を構えると、ザイフリート・カスタム目掛けて飛び込んだ。
一瞬、考え事をしていた為に反応が遅れたザイフリート・カスタムだったが、寸での所で、黒いGレックスの一撃を回避する事に成功する。
(あの動き、一撃のあの威力。……あれは、擬い物なんかじゃない。紛れもなく、本物!)
凛空は、先ほどの一撃を目にし、対峙している黒いGレックスが、レックスの操作するLBXであるとの判断を下す。
刹那、凛空の背筋に冷たいものが走った。
例え、後に使用する究極のレックス専用LBXでないとしても、黒いGレックスの性能は、それに勝るとも劣らないもの。
そんなLBXを相手にして、果たして勝てるのか。
(何弱気になってるんだ。無理だと諦めたら、後で絶対後悔するだけ! これまでだって、格上相手に挑んで倒されても、何度だって立ち上がってきたじゃないか! ……そうだ、これは、僕が臨んだ未来を手に入れる為の試練! なら!)
刹那、自身を奮い立たせると、凛空はザイフリート・カスタムを操作し、黒いGレックスに立ち向かう。
(その試練を、この拳で乗り越える!)
〈メインシステム、EXAMモード、起動します〉
次の瞬間、ザイフリート・カスタムのモノアイが一際赤く輝くと、一段と速度を上げ、あっという間に黒いGレックスの懐に飛び込むと、黒いGレックスの繰り出す拳を躱し、背後に回り込む。
そして、両手に装備したヒートサーベルを、その無防備な背部に叩き込もうとした、次の瞬間。
それを阻止せんと、黒いGレックスの尻尾がザイフリート・カスタムに迫り、ザイフリート・カスタムはバックステップでそれを躱すと、一旦距離を取り仕切り直す。
(流石に、背後を取った位で簡単に勝てる程甘くはないか……)
再び、ザイフリート・カスタムを黒いGレックス目掛けて突撃させる凛空。
それを迎撃せんと、黒いGレックスも拳を振るう。
ヒートサーベルと拳、互いの得物が交差し、それぞれの装甲にダメージを与えていく。
一見するとお互いノーガード戦法で戦っているように見えるが、実際には、黒いGレックスは細かな動きでヒートサーベルの軌道を逸らせ致命傷を避けている為、蓄積したダメージ量ではザイフリート・カスタムの方が勝っていた。
凛空自身も、黒いGレックスのこの細かなテクニックには薄々感付いており、このままでは自身の敗北が濃厚である事を理解していた。
(機体の負荷も考えると、これ以上長引かせるのは得策じゃない。……次の一撃で、決める!)
刹那、ザイフリート・カスタムはバックステップで一旦距離を取ると、再び仕切り直す。
そして、一拍置くと、両手に装備したヒートサーベルを構え直し、再び黒いGレックスと刃を交える、かと思われた。
だが次の瞬間、ザイフリート・カスタムは左手に装備したヒートサーベルを、黒いGレックス目掛けて投擲した。
この予想外の行動に、黒いGレックスは咄嗟に拳を突き出し、投擲されたヒートサーベルを叩き落とす。
直後、その瞬間を狙っていたザイフリート・カスタムは、黒いGレックスの懐に飛び込むと、残った右手のヒートサーベルを、黒いGレックスの頭部目掛けて勢いよく突き出した。
ヒートサーベルの剣先が、黒いGレックスの頭部に突き刺さろうかと思われた、その時。
黒いGレックスは、咄嗟に腕を突き出す。次の瞬間、ヒートサーベルは黒いGレックスの腕に突き刺さる。
(な!?)
片腕を犠牲にしてザイフリート・カスタムの一撃を回避した黒いGレックスは、一瞬動きが止まったザイフリート・カスタムに、尻尾を使い攻撃を仕掛ける。
尻尾攻撃が直撃し、その威力に吹き飛ばされるザイフリート・カスタム。
刹那、着地する間も与えまいと、黒いGレックスはザイフリート・カスタムの着地点に先回りすると、残った片腕から会心の一撃となる拳を叩きつけた。
次の瞬間、無防備な胴体に拳を叩きつけられ、その勢いのまま地面に叩きつけられたザイフリート・カスタムは、モノアイの輝きを失うと同時に、その機能を停止させた。
(く! しまった、レックスとのバトルに集中し過ぎたか)
黒いGレックスとのバトルに敗れた凛空であったが、敗北感に打ちひしがれている余裕はなかった。
再びメタナスGX側に意識を向けると、そちらの状況も、既に手の施しようがない程になっていたからだ。
倒しても倒しても、次から次へと現れるLBXの群れを前に、応戦していた陸戦型ガンダムの数は、今や最後の一機を残すのみ。
しかも、防衛戦が崩壊した事で、メタナスGXが保管されている部屋には、デクーやデクーエース等のLBXの侵入を許してしまっていた。
開けっ放しの部屋の扉からは、倒れたまま動かないアンドロイドや警備員の姿等、部屋の中の惨状が垣間見える。
(結局、未来は変えられなかったという事か……)
そして、最後まで応戦していた最後の陸戦型ガンダムも破壊され、通信が途切れる。
(ありがとう、皆)
最後まで戦い尽くしてくれた機体達に感謝の言葉を心の中で述べた凛空。
刹那、非常用照明が点灯し、アリーナ内に薄明りではあるが灯りが戻る。
「会場内の皆様にご案内いたします。照明機器、並びに舞台装置の故障により、大会の進行が困難となりました。復旧の目途が立たない為、これより略式ながら結果発表をもって、閉会とさせていただきます」
次いで、アリーナ内にアナウンスが流れる。
だが、華々しい表彰式や、締めを飾る筈の閉会式もなく結果発表をもって閉会するというこの決定に、観客達からは不満の声が上がる。
「凛空、何処、行くの?」
「ちょっと、ね。大丈夫、直ぐに戻るよ」
「ん、分かった」
そんな中、凛空は徐に席を立つと、何処かへと移動し始めた。
観覧席を後に足を進めた凛空は、とある通路にて、前方から歩いてくるとある人物の姿を目にして足を止めた。
「ジン君!」
「っ!」
その人物とは、誰であろうジンその人であった。
「僕は本当に、何も知らないんだ!」
「うん、分かってる」
非常用照明が点灯する直前、カズとアミから今回の強奪劇に関与しているのではと問い詰められていたジン。
そこから逃げるように立ち去った為、凛空からも、同じ追及を受けるのではないかと考えていたジン。
だが、凛空の口から返ってきた言葉を聞き、ジンは一瞬呆気に取られる。
「凛空君は、僕の言う事を信じてくれるのかい?」
「勿論。だって僕達、友達、でしょ」
「ありがとう、凛空君」
凛空の言葉に、目を潤ませるジン。
「所で、ジン君はこれからどうするの?」
「お爺様と、話をしてくる」
「エンペラーM2の自爆機能について、だね。それに」
「灰原 ユウヤ。僕は、彼の事を知っている。トキオブリッジ崩壊事故で被災し搬送された先の病院、彼は、僕と同じ病室にいたんだ。彼は、僕が退院する前に、誰かに引き取られ退院した。おそらく、表向きには、引き取ったのは神谷重工の関係者。だが、裏で手を引いていたのは」
「海道 義光大臣、だね」
「信じたくはない。だけど、もしもお爺様が、灰原 ユウヤに人体実験を行うように指示したのならば……」
ジンは一拍置くと、凛空の目を見据えながら、続きを話し始める。
「お爺様が、目的の為なら他人の命など顧みないというのなら。僕は、お爺様と袂を分かつ!」
「それが、ジン君の導き出した決断なんだね」
「あぁ」
「そっか。なら、僕はそれを尊重するよ」
「ありがとう、凛空君」
そして、最後に握手を交わし終えると、凛空はお台場ビッグスタジアムの出入り口に向かうジンを見送るのであった。
ジンを見送り終えた凛空は、その足でミカのもとへと向かう。
連絡を取り足を運んだのは、選手控え室。そこには、ミカの他、バン・カズ・アミの三人と、アルテミスの観戦に訪れていた拓也の姿もあった。
しかし、ミカ以外、四人の表情は一様に冴えない。
プラチナカプセルを奪われたとあっては、致し方ないだろう。
「バン、優勝おめでとう」
「うん、ありがとう……」
そんな状況を少しでも改善しようと、凛空はバンに賛辞を贈るも、箱に収められたアキレスの残骸を前にしては、心の底から喜べるような心理状態ではないだろう。
こうして、引き続き重苦しい空気が漂う中、不意に、拓也の携帯電話に電話が入る。
急いで電話に出る拓也。どうやら、電話の主は拓也のお兄さんの様だ。
「何だって! それは本当か!? ……くそ!」
しかも、拓也の反応からするに、その内容はかなり深刻なもののようだ。
「聞いてくれ兄さん! こちらも、プラチナカプセルを奪われたんだ!」
程なく、電話を終えた拓也は、一拍置くと、お兄さんから伝えられた事実を凛空達に話し始める。
「皆、聞いてくれ。どうやら、プラチナカプセルだけでなく、メタナスGXも、イノベーターに強奪された様だ」
「「えぇっっ!!」」
金庫だけでなく、鍵となるメタナスGXもイノベーターの手中に収まったという事実を聞かされ、驚愕するバン・カズ・アミ・ミカの四人。
「拓也さん! 俺達に、俺達に何かできる事はないの!?」
「すまない。今は、情報が少なすぎる」
父親である山野博士との約束、アルテミス優勝を成し遂げたにも関わらず、プラチナカプセルもメタナスGXも守り切る事が出来ず、自身の無力さと共に歯痒さを感じるバン。
だがそれは、表情にこそ出さなかったものの、凛空も同じであった。
「兎に角、今は情報が集まるまで待つしかない」
こうして、世界の命運をかけた第三回LBX世界大会アルテミスは、最悪の形で幕を閉じる事となった。
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