その後、特にイノベーターからの追撃が行われる事なく、無事にタイニーオービット社の本社ビルに到着した凛空達。
業界を牽引するリーディングカンパニーらしく、その巨大で特徴的な本社ビルを目の当たりにしたバンとカズは、暫し言葉を失うのであった。
「これが、タイニーオービット社の本社ビル……」
「おい、見て見ろよ! ビルの中をリニアモーターカーが通ってるぜ!」
「確か、あのラインには最新式のデルタ7系車両が通ってたはずよ」
「先駆者は、自社ビルも独創的」
「だね(原作で目にしていたけど、実際に目の当たりにすると、本当に奇抜な外観だよな……)」
タイニーオービット社の本社ビルを目の当たりにした感想を、各々が零し終えた所で、凛空達は拓也の案内のもと、本社ビルの正面出入り口へと足を進める。
するとその途中、アミは電光掲示板にリニアモーターカーの運行情報が表示されている事に気がつき、その内容を目にして、とある事実に気がついた。
(160秒間隔……、それって、2分40秒間隔よね!)
そして、リニアモーターカーが本社ビルを通過する時間を計ると、アミはとある確信を得るのであった。
「おーい、アミ! どうしたんだよ?」
「え、あぁ、待って!」
そんなアミを含め、本社ビルに足を踏み入れた凛空達。
清掃が行き届いたエントランスを進む一行だが、不意に、壁に設置された大型モニターに広告映像が流れ、一行は足を止めた。
その内容とは、現在タイニーオービット社が実用化を目指し開発中の新技術、"コントロールポッド"と呼ばれる、まるでLBXに乗り込み操作しているかのような感覚を味わえる、コクピット型のCCM。
次世代の高レベル帯域無線通信規格スパークブロード通信と組み合わせる事により、その操作可能距離が半径50kmにまで延伸する為、アナウンスの通り、宇宙空間などでのLBXを用いた作業が行えるようになるという。
最後に、悠介社長の、自社の技術で明るい未来を創る、という言葉で映像は締め括られる。
「この人が、タイニーオービット社の社長か」
「LBXで宇宙開発か。プロジェクトMSといい、夢が膨らむよな!」
「そうだね」
「ん」
「それにしても、コントロールポッドか。スゲー楽しみだな!」
「あぁ!!」
広告映像を見終わったカズとバンは、コントロールポッドの実用化に胸を高鳴らせる。
一方、そんなカズとバンを他所に、アミは一人、物思いにふけっていた。
「主任ーっ!!」
しかし、それは突如として聞こえてきた声により、一時中断させられる事となる。
アミの他、凛空達も、声に反応して声のした方へと視線を向けると、そこには、他の社員にぶつかりながらもエスカレーターを駆け下りる、白衣を纏った男性社員の姿があった。
「
「はい! 並列光量子コンピュータ、いつでも稼働できます!」
「そうか」
結城と呼ばれた男性社員。どうやら、拓也が車内で解析準備を頼んでいた人物は、この人の様だ。
「あのー、拓也さん。この人は?」
「あぁ、紹介しておこう。
「へぇ~、そんなに凄い人なんだ……。ん?」
「今、確かに、部下って言った」
「って事は、もしかして!?」
拓也の口から結城の紹介が行われた次の瞬間、バン達は、拓也の肩書きに気付く事になる。
今までは特に気にしてはいなかったが、拓也がタイニーオービット社、それも根幹とも言うべきLBXを生み出す開発部の責任者であると知り、凛空を除き目を丸くするバン達。
同時に、拓也の肩書きを知り、態度を改めるべきかとの迷いが生じたものの、拓也の口から畏まらずに今まで通り接してくれて構わないと言われ、迷いが晴れるのであった。
「よし、早速解析を始めるぞ」
「あの、主任……、その前に」
「ん?」
早速プラチナカプセルの解析に取り掛かろうとした、その矢先。
不意に、結城の歯切れが悪くなる。
その様子に拓也が疑問を抱いた、次の瞬間。
「
「っ!」
男性の声が響き渡ると共に、奥から、秘書を引き連れ悠介社長が姿を現した。
悠介社長の姿を目にしたバン達は、先ほど目にした広告映像にも登場していた事もあり、悠介社長本人であると気がつく。
「話したのか、結城」
「すみません」
どうやら、事を悠介社長に知られたくなかった様子の拓也。
しかし、悠介社長に知られた以上、叱責を受ける覚悟を決める。
だが、悠介社長は拓也を素通りすると、一目散にバン達のもとへと歩み寄った。
「はじめまして。君が、山野 バン君だね」
「え? 俺の事、知ってるの?」
「勿論だとも。タイニーオービット社、宇崎 悠介だ」
初対面にも関わらず、自身の名前を知っている事に困惑するバン。
それでも、悠介社長から差し出された手を握り返し、握手を交わす。
「そして君が、青島 カズヤ君だね」
「は、はい!」
「君が、川村 アミ君」
「はい!」
「君が、三影 ミカ君」
「はい」
「そして……」
「お久しぶりです、宇崎社長!」
「元気そうで何よりだよ、凛空君」
既にプロジェクトMSの発表会にて会っている事もあり、慣れた様子で悠介社長と握手を交わす凛空。
その様子を見て、バン達は社交界の凄さを感じるのであった。
「アルテミスや、その他の君達の活躍、聞いているよ」
こうして、バン達との自己紹介を終えた悠介社長は、バン達に見せていた柔らかな表情から一変、険しい表情を浮かべ、拓也の方を振り返った。
「拓也、プラチナカプセルの事、何故私に黙っていた?」
「……巻き込みたくなかっただけだ、"兄さん"を」
「全く、何を今更」
遠慮するなと言わんばかりの表情を浮かべた、直後。
バン達は、拓也が悠介社長に対して兄さんと言った事から、二人が兄弟関係である事に気がつき、再び目を丸くした。
「タイニーオービット社の社長と拓也さんが、兄弟!?」
「えー! 嘘!?」
「マジかよ!?」
「っ!」
驚きの連続、そんなバン達を他所に、凛空は悠介社長の秘書である
「おいおい凛空、驚かねぇのかよ」
「二人が兄弟じゃないかなとは、以前から、何となく感じてたんだ」
実は原作を見たので関係性に関しては既に知っていた。とは素直に言えないので、カズの問いに誤魔化して答える凛空であった。
さて、エントランスでの一幕を終えた凛空達は、悠介社長案内のもと、本社ビル内を移動していた。
そして、案内された先の扉を潜り、凛空達が目にしたのは、懐かしい光景であった。
「これって……、シーカーの本部!?」
それは紛れもなく、イノベーターにより占拠されたシーカーの本部そのもの。
二度と見る事は叶わないと思っていた光景を再び目にし、凛空達は歓喜に沸いた。
「スゲー、そっくり元通りだ!」
「何だか、凄く懐かしいわね」
「ん」
「でも拓也さん。短期間の間に、よく再建できましたね」
「実は……、これも兄さんのお陰なんだ」
「昔から、拓也の尻拭いには手を焼かされたからね。もう慣れたものだよ」
短期間で、タイニーオービット社本社ビルの中にシーカーの本部を再建できたそのカラクリを知り、凛空は納得した様子を見せる。
同時に、悠介社長が弟である拓也の事を大切に思っているという事も、理解するのであった。
再建されたシーカーの本部を見学し終え、再び移動を再開した一行。
程なく、一行は、プラチナカプセルの解析が行われるレベル4研究室に到着した。
到着と同時に、結城がプラチナカプセルの解析作業を開始する。
その作業の様子を、凛空達は静かに見守る。
「どうだ、結城?」
「流石は山野博士、と言ったとことですね。こんな複雑なプロテクト、見た事がありません。解析するには、やはり解読コードがなければ……」
「くそ、やはりメタナスGXがなければ駄目か」
しかし、やはり正規の手順以外では解析は不可能であるとの結論が下され、凛空達が険しい表情を浮かべた次の瞬間。
「待ってください! どうやら、別のデータが入っています」
「別のデータだと!?」
「展開パスワードは……、"J"」
Jとのアルファベットが出た瞬間、悠介社長が反応を示す。
そしてその直後、プラチナカプセル内に存在していた別のデータ、その詳細が、メインモニターに表示された。
そこに表示されたのは、コアスケルトンとアーマーフレームの設計図であった。
一体なぜこのデータが、と、凛空達が小首を傾げていると、結城の口から、このデータがインストールされたのが、第三回LBX世界大会アルテミスの開催当日であると告げられる。
「あ!」
それを聞き、バンははっと思い出した。
ファイナルステージでのバトルの最中、マスクドJから何らかのデータが送信された事を。
「もしかして、あの時の……」
「バン、何か心当たりがあるのか?」
「うん。実は、ファイナルステージでのバトルの最中にデータを送られたんだ、マスクドJから」
「マスクドJ、だって? ……成程、そう言う事か」
バンの口からマスクドJの名前が出た刹那、悠介社長の口から、何かに気がついたかのような言葉が漏れる。
「見て見たまえ、このコアスケルトンの腹部。意図的に作られたスペースが存在している」
「本当だ!」
「おそらくこのスペースは、プラチナカプセルを収納する為に設けられたのだろう。"アキレス"と同様にね」
「え、それって……」
「そして、このアーマーフレーム。新機軸を盛り込んではいるものの、その基本となる部分は、アキレスと同じ設計思想で作られているようだ」
そこで悠介社長は一拍置くと、再び説明を続けた。
「そして、データの送り主がマスクド"J"。これで、辻褄が合ったな」
「あの、どういうことですか?」
「まだ気づかないかね? つまり、マスクドJの正体は、山野 淳一郎博士という事だよ」
「「えぇっ!!?」」
悠介社長の口から出た言葉に、バン・カズ・アミ・ミカの四人は驚きの声をあげた。
「しかし、山野博士も大胆な事をする。アルテミスと言う大舞台、その決勝戦でのバトルの最中にこのデータを送信するとは……。いや、あの人らしい大胆さとも言うべきか」
山野博士の行動に苦笑いを浮かべる悠介社長を他所に、バンは、マスクドJが自身の父親である山野博士であった事を、複雑な心境で受け止めていた。
「にしても、マスクドJがバンの父親である山野博士ならさ、何でわざわざ正体隠して、そんな面倒な方法を取ったんだ?」
「おそらく、山野博士は自分やバン君にイノベーターの監視の目がある事に気付いていた。だから、イノベーターに悟られないように、あのような手段を取ったのだろう」
「そうか、そうだったんだ……」
「うーん、だとしても、あの格好は、ちょっとね……」
「そ、そうだよな」
「ん」
「あはは……」
離れていても息子であるバンの事を想う山野博士の行動に感動したい所ではあるが、その為に使用した変装を思い出して、凛空達は苦笑いを浮かべるのであった。
「アキレスとハンターの設計図も、山野博士がJと名乗り私のもとに送ってきたものだ。……バン君。山野博士は、君の事をずっと見守っていたんだ。人類の希望を託した君をね」
そして、悠介社長が締めの言葉をバンに送った所で、不意にアミが声をあげた。
「貴方もですよね」
「ん?」
「貴方も陰ながら、バンの事を守ってくれていた。あるLBXを使って」
「はて、何の事だか、さっぱり分からないが?」
アミの発言に、悠介社長は心当たりがないと返すも、アミは話を続けた。
「ここに来て確信が持てました。"パンドラ"を操作していたのは貴方ですね、宇崎 悠介社長!」
「えぇ!?」
「アミ、それ本当か!?」
驚くバンとカズを他所に、アミはパンドラのプレイヤーが悠介社長である事の説明を始める。
「ここに来る間に助けてくれたパンドラ。あの機体は、CCMの操作可能範囲である100メートルより更に離れた場所から操作されていたとしか思えません。しかしあの時、私達の乗る車と、イノベーターのトレーラー以外、高速道路を走行していた車輛は存在しなかった」
「それでは、パンドラはどうやって操作されていたと?」
「それは、スパークブロード通信です。つまり、パンドラはコントロールポッドを使用し、このビルから操作されていた。間違いないでしょう」
「ふむ、面白い推理だね。しかし、スパークブロードに関する技術は、我が社のみならず、様々な企業が研究開発している。それなのに、何故我が社のコントロールポッドだと断定できるのかね?」
「それは、パンドラが証拠を残したからです」
「証拠?」
「はい。五秒のノイズです」
自信満々に証拠を提示するアミ。
すると、話を聞いていたバンが、不意に質問を投げかける。
「バン、スパークブロード通信の弱点って知ってる?」
「えーっと、確か……」
「高出力のプラズマ磁場には干渉されてしまう、だよね」
「正解」
バンが咄嗟に思い出せないのを見兼ね、凛空がスパークブロード通信の弱点を語った所で、アミは再び説明を続ける。
「五秒のノイズの正体こそ、そのプラズマ磁場なんです」
「だけど、プラズマ磁場なんて、こんな街中では発生しないのでは?」
「そうそう。核融合炉や太陽の中でもない限りね」
すると今度は、霧野と結城の口から質問が投げかけられる。
「その通りです。でも、ここにはプラズマ磁場を発生させるものがある。……リニアモーターカーです!」
「ほぉ」
「最新型のデルタ7系車両、その推進用電磁コイルは、走行中にレール側の電磁石と干渉して高出力のプラズマ磁場を発生させます。加えて、このビルを通るリニアの運行間隔は2分40秒、ビル内を通過するのに五秒間。……つまり、その五秒間だけはスパークブロード通信が遮断される。それがパンドラを行動不能にした、五秒のノイズの正体です。これらの事から、パンドラのプレイヤーが、このビルにいたのは間違いないと思います」
「成程、そこまでは分かったよ。……だが、我が社のビルには平均四千人もの社員が勤めている。何故その中で、パンドラを操作しているのが私だと?」
「それ、反論になっていませんよ」
アミは一拍置くと、更に説明を続けた。
「今までの常識を覆すコントロールポッド、それもまだ実用化されていない物となれば、使用できる人は自ずと限られる。そして、その中から、コントロールポッドをいつでも自由に使える権限を持っている人物はただ一人。貴方しかいないじゃありませんか、タイニーオービット社社長、宇崎 悠介さん」
そして、アミの説明を聞き終えた悠介社長は、観念した様子で参ったと呟いた。
「バレてしまいましたね、社長」
「ピンチの時に颯爽と現れる謎のLBX。気に入ってましたよね、社長」
そして、霧野と結城の口からも、そんな言葉が零れるのであった。
「大したものだ」
悠介社長がアミの推理に感服した次の瞬間、彼は、パンドラを取り出してみせた。
「あぁ、パンドラ!」
「じゃ、アミの言った通り!?」
「その通り。パンドラを操作していたのは、この私だよ、川村 アミ君。見事な推理だったよ」
「うふふ」
こうして、パンドラのプレイヤーが悠介社長である事が判明した、その時。
不意に、緊急事態を告げる警報が鳴り響き始めるのであった。
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そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。