うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

57 / 122
流転

 インビット達を撃退し、再びプラチナカプセル奪還を阻止した凛空達は、レベル4研究室に戻ってきた。

 すると、山野博士がバンの為に設計したコアスケルトンとアーマーフレームの製造が、丁度開始されようとしていた。

 

「これが、我が社の誇る最新鋭のLBX製造機、高速成形機だ」

「流石はタイニーオービット社ですね。所で、所要時間はどれ位なんですか?」

「おそらく、数十分という所だろう」

 

 "VX-13"と名付けられたコアスケルトン、そして"オーディーン"の名が付けられたアーマーフレームの設計図データの入力が完了し、稼働を始めた高速成形機により製造が始まる。

 こうして暫く製造の様子を見守っていた一行だったが、ふと、悠介社長が声をあげた。

 

「そうだ、製造が完了するまでまだしばらくかかる。その間、君達のLBXのメンテナンスをするというはどうかな? 先程の戦いで傷ついている事だしね」

「え、マジで!」

「凄い! タイニーオービットでメンテナンスしてもらえるなんて夢みたい!」

 

 悠介社長の提案を聞き、カズとアミは嬉々とした様子。

 一方、凛空は少しばかり複雑な表情を浮かべていた。

 

「安心してくれ、データの収集などは行わないよ。何より、我が社では、会社見学にやって来た子供達のLBXメンテナンスを行っていて、他のメーカーのLBXのメンテナンスにも自信はあるつもりだ」

「分かりました、では、お願いします」

 

 悠介社長の言葉を聞き、安心した様子の凛空は、パワード・ジムを回収に来た開発部の男性社員に手渡す。

 同じく、カズ・アミ・ミカの三人も、それぞれのLBXを開発部の男性社員に手渡した。

 

(ん? この人、もしかして……)

 

 こうして、四人のLBXを受け取った開発部の男性社員がメンテナンスの為にレベル4研究室を後にするのを他所に。

 凛空はふと、その開発部の男性社員の顔に見覚えがある事に気が付いた。

 

 サングラスに黒い皮手袋、更にオールバックの髪型等。まるで1980年代の流行を取り入れた身だしなみの男性社員。

 原作において、服装こそ違えど、そんな彼とよく似た身だしなみの男性が山野博士のエージェントとして登場している。

 

 まさか、同一人物か、確かめてみたい衝動に駆られた凛空ではあったが、原作においてその人物の本名が語られていない事もあって、凛空は声をかける事無く静かに見送るのであった。

 

 

 

 

 さて、ここで時間を少しばかり遡る。

 それは、凛空達がタイニーオービット社の本社ビルに到着した頃。

 

 トキオシティの北西部、同地域は山岳美でも知られる地域で、同時に一級河川である多摩川水系の上流域としても知られる。

 そんな、トキオシティ内でも自然あふれる地域の一角、そこに設けられた、一見すると何の変哲もないダム。

 しかしながら、それは地下に隠された巨大な施設を隠す為のカムフラージュ。

 そう、このダムの地下には、イノベーターの大規模な研究施設が存在していたのだ。

 

 その施設内にて、現在、不穏な動きが見られ始めていた。

 

(ルナ、待っててね……)

 

 警備の為に巡回する赤の部隊の兵士達の視線を避けつつ、施設内の通路を歩く一人の女性。

 それは誰であろう、妹を救うべくイノベーターのスパイとして拓也達を裏切った、石森 里奈その人であった。

 

 イノベーターのスパイの筈の彼女が、何故、イノベーターの研究施設で赤の部隊や監視カメラなどに発見されないように行動しているのか。

 それは、彼女のポケットに自動拳銃が収まっているからに他ならない。

 

(お姉ちゃん、ルナの為ならなんだって……)

 

 何故、自動拳銃のような物騒な品物を所持しているのか。そして、何故人目を忍んでいるのか。

 その理由は、彼女の妹の為。

 

 里奈の妹である石森 ルナの容体は、日に日に悪化している。しかし、唯一の希望であるオプティマの認可は、一向に下りる気配がない。

 裏切りの汚名を被ってまでイノベーター側についたというのに、いつまで立っても許可の下りない事に業を煮やした里奈は、遂に、海道 義光に直訴するべく、こうして行動を起こしたのだ。

 

 この通路を抜け角を曲がれば、海道 義光の部屋に到着する。

 目的地に近づくにつれ、自然と歩く速度も速くなる、その矢先であった。

 

「人目を忍んで、何処に行くんです、石森 里奈さん?」

「っ!?」

 

 不意に、背後から声をかけられ、立ち止まり振り返ると、そこには、気配を感じさせることなく近づいたのか、作業着姿の男性が一人、立っていた。

 

「おっと、女性がそんな物騒な物を取り出すもんじゃない」

 

 咄嗟に、里奈はポケットに収めていた自動拳銃を取り出そうとするが、男性の一言に、寸での所で手を止める。

 

「貴方、誰なの?」

「見て分かりませんか? ただのしがない整備士ですよ」

 

 里奈の質問に、飄々と答える男性。

 作業帽子を深々と被り、頬に絆創膏を貼った男性整備士は、更に言葉を続けた。

 

「所で、そんな物騒な物を持って、何処に行くつもりですか?」

「貴方には関係ない事よ!」

 

 初対面の筈なのに自身の名前を知り、更には自動拳銃を所持していた事も見抜いた。

 男性整備士から得体のしれない不気味さを感じた里奈は、早くこの場から離れたい衝動に駆られるも、何故か動く事が出来ずにいた。

 

「さしずめ、海道先生の所に行き、その拳銃でオプティマの認可が下りるように脅迫という名の直訴を行う、といった所でしょうか?」

「っ!」

「悪い事は言わない。おやめなさい」

「あ、貴方には関係のない事よ!」

「妹さんを想う気持ちは分かる。だが、貴女は今後、その血で染めた手で、妹さんを抱きしめる事になるぞ」

「私は、海道を撃つつもりなんて!」

「貴女は撃つ。目を見れば分るさ」

 

 まるで全てを見通しているかの如く男性整備士の言葉に、里奈は背筋が寒くなるのを感じた。

 

「わ、私は……、私はルナが助かる為ならなんだってするわ!」

「その結果、人殺しの業を背負う事になっても?」

「構わない!」

「そうですか。……なら、一つだけ忠告しておきます。人殺しの業は、貴女が思っている程軽くはない」

「っ!!」

 

 その瞬間、里奈は初めて、チラリとのぞかせた男性整備士の目を見た。

 その目は、全てを吸い込んでしまう程暗く、凍り付くほど冷たいものであった。

 

 その目を見た瞬間、里奈は理解した。この人は、これまで両手では数えきれないほどの業を背負った人間なのだと。

 同時に、イノベーターの人間でない事も。

 

「貴方……、本当は何者、なの?」

「ただのメッセンジャー、ですよ」

「メッセンジャー?」

「そう。貴女の妹さん、石森 ルナちゃんが助かる事を伝える為のね」

「……、え」

 

 妹が助かると聞き、里奈は目を見開く。

 

「どういう、事?」

「妹さんを救う手立てはオプティマだけではない、という事ですよ」

「嘘じゃ、ないのよね?」

「勿論。貴女がここで私と引き返すのなら、私の"上司"が、妹さんの為に最善を尽くす事をお約束します」

 

 その瞬間、里奈は喜びと共に、これまでルナを助けるために奔走してきた事が全て徒労に終わった事を理解し、その場にへたりこむ。

 

「ねぇ、一つ教えて」

「答えられる範囲で良ければ」

「貴方が上司と呼ぶ人物は、どんな人なの?」

「あの方は、貴女や貴女の妹さんを含め、この国の人々のより善き未来の為に日々奔走している。とだけ申しておきます」

 

 男性整備士の答えを聞き、里奈は、彼が上司と呼ぶ人物の当たりを付けた。

 そもそも、政界の大物に、国内でも有数の神谷グループが協力している巨大秘密組織に正面から対峙できる人物など、国内だけで言えば数えるほどしかいない。

 故に、当たりを付けるのはさほど難しいものではなかった。

 

「そう言えば、まだ貴女の答えを聞いてませんでしたね。どうします、引き返しますか?」

 

 そして男性整備士は、言葉ではなく、この手を取るか否かで答えを示して欲しいとばかりに、里奈に手を差し出した。

 差し出された手を暫し見つめた後、里奈は、意を決したかのように差し出された手を取り、立ち上がるのであった。

 

「さてと。それでは、後はここから脱出するだけですね」

「どうするの?」

「実は、もうすぐこの研究施設から脱出するための"特別便"が出発する予定なので、それに乗って脱出しましょう」

「特別便?」

 

 男性整備士の口から漏れた脱出方法を聞き、里奈は疑問符を浮かべる。

 しかし、後に里奈は、男性整備士の言葉の意味を理解するのであった。

 

 

 

 

 施設の一角でそんな事が行われている一方で、別の場所でも、不穏な空気が漂い始めていた。

 

「独自に情報収集を行っているのは間違いないかと」

「八神め、海道先生の恩を仇で返すとは、何を考えている……」

 

 施設内にある司令室、そこで会話を行っているのは、赤の部隊の司令官である貞松。そして、もう一人。

 神谷グループの会長にして、イノベーターの協力者、神谷 藤吾郎その人であった。

 

「このまま放っておいては、イノベーターの最重要機密ファイルを入手し、"タイニーオービット社への攻撃計画"や、ひいては"例の計画"の事もしるやもしれません」

「ふむ、最早裏切りは明白か……。所で、海道先生は八神の処遇をどのようにお考えと?」

「もう、イノベーターには不要。……と、仰られております」

「そうか。ならば、制裁を下す役はこのワシが引き受けよう」

「お願いしますよ、貞松司令」

 

 司令室で行われる物騒な二人の会話。

 司令室内には二人以外に他の者はおらず、その会話を聞く者はいないかと思われていた。

 

 だが、司令室の換気口、そこに、一機のデクーが潜んでいる事に、二人は気付くことなく。

 

「それがイノベーター、海道 義光の意志なのか……」

 

 そのデクーを通じ、別の部屋で二人の会話を盗み聞いていた八神の存在に気付く素振りもなかった。

 

(やはり海道 義光は、己の目的の為ならば平気で人を欺き、その命を奪う奴だ。奴の掲げる思想は、世界を誤った未来へ導こうとしている)

 

 九年前のトキオブリッジ崩壊事故、この事故により、妻と娘を失った八神は失意のどん底にいた。

 そんな彼に手を差し伸べたのは、他でもない海道 義光であった。

 この国を変える。そんな彼の言葉を聞き、八神はその言葉が本当か否か、海道 義光の秘書として働き見極める中で、それが本当であると、そして、その言葉を現実のものとするのは海道 義光しかいないと、そう思えるようになっていた。

 

 そしてある時、八神は海道 義光本人からイノベーターの存在を打ち明けられ、イノベーターの一員となる事を決めた。

 それは、イノベーターこそ、トキオブリッジ崩壊事故のような悲劇をこの国から無くす事の出来る組織であると、信じていたからだ。

 

 だが、今ではそれが、ただの幻影であったと、八神は理解していた。

 以前より、時折イノベーターのやり方に疑問を抱いた事はあったが、その都度八神は、変革の為の必要な痛みであると納得してきた。

 だが、アルテミスでの一件を知り、八神は、イノベーターが最早悲劇をなくすどころか自ら生み出す存在に成り果てたのだと理解し、自身が、その一員である事に後悔の念を抱いた。

 

 そして八神は、とある決心を固めた。

 アルテミスでの犠牲者、更に、これまでイノベーターの犠牲となったであろう人々の無念を晴らし、新たな悲劇を生み出さない為。更には、イノベーターの一員として活動してきた自分自身に対する贖罪として。

 イノベーターの活動を、否、海道 義光の野望に終止符を打つ為に反旗を翻す事を。

 

「八神司令、データのコピー、完了しました」

「そうか」

 

 とはいえ、敵はあまりにも巨大な組織。

 何よりも、八神自身、イノベーター内でも中心となる立場の一員である為、組織を抜け出す事は容易ではない。

 

 その為、八神は反旗を翻すにあたり、同志を集う事にした。

 その結果、黒の部隊を中心として、少なくない数の同志を集める事に成功し。

 その内の一人から、イノベーターのこれまでの活動内容を記録したデータのコピーを入手した旨を告げられた八神は、耳に付けたイヤホンを外すと声をあげた。

 

「よし、格納庫に向かうぞ!」

「はい!」

 

 そして、八神は同志であるオペレーターを引き連れ、部屋を後にし目的の場所を目指して歩み始めた。

 

 そんな八神達と入れ違うように、八神達のいた部屋に、完全武装の赤の部隊の兵士達がなだれ込む。

 そして、部屋の中を隅々まで捜索し始めた。

 

「司令、誰もいません!」

「く! 遅かったか!」

 

 捜索の結果、部屋の中がもぬけの殻である事を兵士から告げられた貞松は、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

 

「逃がさんぞ、八神。……直ちに警報を鳴らせ! そして、施設内をしらみつぶしに探し出すんだ!」

「は!!」

 

 程なく、施設内に警報が鳴り響き、八神達を発見するべく、赤の部隊の兵士達が施設内の捜索を開始した。

 

 

「やはりそう簡単に逃がしてはくれないか……」

 

 この状況の変化に、自分達の逃走が察知されたと気づいた八神は、赤の部隊の兵士達の目を掻い潜りながら、目的の場所を目指して慎重に進み続ける。

 だが、順調に目的地に近づいていたその矢先。

 

「何!?」

 

 行く手を遮るかの如く、オートマシンガンを装備したアヌビス、更にはスキャッターガンを装備したデクーカスタムR、合計六機のLBXが姿を現した。

 

「おやおや、そんなに慌てて、何処に行こうというのですか、八神司令? いや、今や"元"司令とお呼びした方がよろしいですね」

二階堂(にかいどう)

 

 更に姿を現したのは、長い黒髪に色白の肌、泣きぼくろが特徴的な、黒の部隊の一員。

 即ち、八神の部下の一人であった二階堂 友紀人(にかいどう ゆきと)という人物であった。

 

「はぁ……、実に残念ですよ。先生(海道 義光)のお考えに賛同していた貴方が、こんな形で先生を裏切るとは」

 

 そして、その発言からも分かる通り、二階堂は海道 義光の事を慕っている。

 

「どけ、二階堂」

「ふ、それは無理というものですよ」

「ならば、仕方ない」

「そうですね。では、元部下のよしみで、私が直接引導を渡してあげましょう! トロイ!!」

 

 刹那、二階堂は自身のCCMを取り出すと、相棒となるLBX、トロイを通路に投下させる。

 

「トロイだと!?」

「驚きましたか? このトロイは、以前エンジェルスターの内覧会で暴走したものとは異なり、有人操作に改めたもの。有人の為、無人型と比較し反応速度は劣りますが、その他無人型と同様。つまり、圧倒的な火力を誇るという訳です」

「成程。なら、勝機はあるな。ゆくぞ、"ジェネラル"!」

 

 二階堂の言葉を聞き、不敵な笑みを浮かべた八神は、直後、自身のCCMを取り出すと、相棒となるLBXを通路に投下させる。

 

 ジェネラルと呼ばれたLBX、その紫を基調とした外観は、デクー最上位モデルとして開発された為、同機の面影を多く残しているが。分厚い装甲や脚部に備えられたブースター等、その性能はデクーを遥かに上回る。

 更に、精度の高いセンサー系に、装備した大口径の大型ライフル"アーチャーライフル"の組み合わせにより、優秀な長距離射撃能力を備えている。

 

「吠え面をかかせてやりますよ、ジェネラルをハチの巣にしてね!」

 

 八神達と二階堂が、流れ弾に当たらぬ様に通路の角に移動したのを合図に、戦いの幕が切って落とされる。

 

 デスバレルが唸りを上げると、次の瞬間、火を噴くと共に大量の弾丸がジェネラル目掛けて飛来する。

 それに続くように、アヌビスやデクーカスタムRも、装備した武装の銃口をジェネラルに向けると、引き金を引き弾丸を放ち始める。

 一方ジェネラルは、自身目掛けて飛来する大量の弾丸を可能な限り躱し、分厚い装甲で多少の被弾を受け流しつつ、アーチャーライフルを使い反撃を行う。

 

 アーチャーライフルはデスバレル等のように連射速度に優れている武装ではないが、大口径故、一発の威力は凄まじく。

 弾丸が頭部に命中したアヌビスは、その頭部を吹き飛ばされ。更に、直撃を受けたアヌビスやデクーカスタムRが爆散する。

 

「く、なかなかやりますね。ですが、このトロイの火力を前に、何処まで粘れますかね!?」

 

 数機倒された所で、まだトロイのデスバレルから繰り出される圧倒的な火力があると、二階堂は自身の有利が揺るぎないものであると確信していた。

 だが、その認識が誤りであったと、二階堂は直後に知る事となる。

 

 トロイから放たれる弾丸の雨を掻い潜りながら、ジェネラルは、トロイの手前に位置していたデクーカスタムRに照準を合わせる。

 刹那、アーチャーライフルから放たれた弾丸は、スキャッターガンを装備していたデクーカスタムRの右腕を撃ち抜き、同機の戦闘能力を喪失させる。

 次の瞬間、ジェネラルは脚部のブースターを使いデクーカスタムRに一気に接近すると、デクーカスタムRの頭部を鷲掴みにし、同機を盾代わりにし、その勢いのままトロイに迫った。

 

「何!?」

 

 そして、トロイの弾丸を防ぎながら懐に飛び込んだ、次の瞬間。

 ジェネラルは跳躍し射線を確保すると、反応の遅れたトロイ目掛け、構えたアーチャーライフルの引き金を引いた。

 

 刹那、至近距離から放たれた弾丸がトロイを襲い、トロイの装甲に穴をあけていく。

 

「チェックメイトだ」

 

 そして、八神の宣告と共に放たれた弾丸がトロイの頭部を撃ち抜き、皮肉な事に、蜂の巣となったトロイは、その無残な姿を晒す事となった。

 その後、残ったアヌビスとデクーカスタムRを片付け、戦闘はジェネラルの勝利で幕を閉じた。

 

「く! これで逃げられると思わない事ですね!」

 

 すると、二階堂はそんな捨て台詞を吐くと、逃げるようにその場を後にした。

 

「よし、急ぐぞ」

「はい」

 

 こうして進路を確保した八神達は、目的の場所を目指し、再び足を進め始めた。

 

 

 

 

 順調に足を進め、あと少しで目的の場所という所で、八神達は再び足を止めた。

 

「く、この辺りは数が多いな……」

 

 隙を見て進もうとするが、巡回する赤の部隊の兵士達の数が多く、なかなか隙が出来ずにいた。

 

「八神司令、一旦こちらの部屋に隠れて、隙が出来るのを待ちましょう」

「それがいいだろう」

 

 オペレーターの提案に乗り、近くの部屋に足を踏み入れる八神。

 そして、八神が部屋の中に入った、その時。

 

「何!?」

 

 突如、部屋の扉が閉まり、八神は慌てて駆けるも、寸での所で扉は完全に閉ざされてしまう。

 直ぐに扉の脇に設置されたコントロールパネルを操作し扉のロックを解除しようと試みるも、解除する事は出来なかった。

 

「開けろ! 開けるんだ!」

「気づくのが遅すぎるんだよ」

「く!」

 

 扉を叩き外にいるオペレーターに扉を開けるように指示するも、返ってきた言葉を聞き、八神は気付く事になる。

 オペレーターが、自身に賛同するふりをして自身の脱出を阻止する機会をうかがっていた事を。

 

「貞松司令達がいらっしゃるまで、そこで大人しくしているんだな。ははは……、ん?」

 

 八神を部屋に閉じ込め、あとは貞松達の到着を待つばかりのオペレーター。

 だが、不意に背後に気配を感じ取り、振り向こうとした次の瞬間。オペレーターは背後から何者かに首を絞められ、程なく失神するのであった。

 

 そんな扉の向こうの様子に気付く事もなく、部屋からの脱出方法を模索していた八神。

 しかし、不意に扉が開いた事で、八神はその変化に気付く事となる。

 

「っ! 貴方は」

「ご無事でしたか、八神さん」

 

 扉が開き、そこに立っていたのは、作業帽子を深々と被り、頬に絆創膏を貼った男性整備士。そして、もう一人。

 

「っ! 石森 里奈。何故ここに!?」

「八神司令、貴方こそ何故?」

「まぁまぁ、ご両人。気持ちは分かりますが、今は時間がありません。急いで格納庫に向かいましょう」

 

 予想外の人物がいた事に驚きを隠せない八神だったが、男性整備士の言葉に頷くと、失神したオペレーターを一瞥した後、再び目的の場所を目指し足を進め始めた。

 

 

 程なく、三人が到着したのは、研究施設内でも異彩を放つ格納庫と呼ばれる場所。

 そこで三人が向かったのは、格納庫内の一角に待機している、七基のエンジンを搭載しステルス性を考慮し凹凸の少ないのっぺりとした形状の巨大航空機。ステルス司令機と呼ばれるその航空機の名は、"エクリプス"。

 

「「八神さん!」」

「遅れてすまん」

「え、そいつは?」

「話は後だ。出発する!」

「「了解!!」」

 

 エクリプスに乗り込み、まるで船のブリッジを彷彿とさせる、広々とした操縦室内で三人を出迎えたのは、脱出の為に先んじてエクリプスに乗り込んでいた同志達であった。

 彼らの手により発進準備が進められたエクリプスは、やがて、一歩遅れてエクリプスでの脱出に気が付いた貞松司令や赤の部隊の兵士達を尻目に、秘密の滑走路から大空に羽ばたき、研究施設を出発するのであった。

 

「八神司令、いえ、八神さん。一つ聞いてもいいかしら?」

「ん?」

「彼とは、どういう関係なの?」

 

 追手を振り切り、無事に研究施設を脱出し一安心した頃。

 不意に、里奈が八神に男性整備士との関係について質問を投げかけた。

 

 すると八神は、今回の離反に際して、離反後の支援を受ける為に、男性整備士、もとい彼の上司と極秘に協力関係を結んだ事。

 そして、その関係を結ぶにあたり、代価として、八神が手に入れたイノベーターの活動記録のデータのコピーを渡す手筈になっている事も明かした。

 

「組織を裏切る事に、後悔はないの?」

「ないさ。これから我々が向かうのは、まやかしの未来ではなく、本当の未来なのだから」

 

 後悔など微塵も感じられない、むしろ活気に溢れている。

 黒の部隊の司令官だった頃とはまるで別人のような八神の様子を目にし、里奈も、本当の未来の為に、自らが出来る事を精一杯やり遂げようと心に誓うのであった。




ご愛読いただき、そしてご意見・ご感想、評価やお気に入り登録等、本当にありがとうございます。大変励みになります。
そして、次回もご愛読のほどよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。