それは、少し前の事。
夕暮れに染まる放課後の教室、校庭で練習をする運動部の声が聞こえる中、二人の女子生徒がガールズトークに花を咲かせていた。
「ねぇ、ミカ」
「ん、何?」
その二人とは、アミとミカ。珍しい組み合わせの二人であった。
「前から気になってたんだけど。ミカって、凛空の事が好きなんだよね?」
「……うん」
そして、話題は恋愛に関するものへと移る。
「でもミカって、郷田の事も好きなのよね」
「ん。郷田さんの好きと、凛空の好きは、違う」
「どう違うの?」
「郷田さんは、見てるだけでいいの。でも、凛空は、見てるだけじゃ、嫌」
ミカの表情を目にし、アミは意味深な笑みを浮かべる。
「ね、アミ。そう言うアミは、バンとカズ、どっちが好きなの?」
「ふぇ、私!?」
だが次の瞬間、ミカの口から飛び出した一言に、アミは素っ頓狂な声を漏らすと共に、頬を一気に赤らめる。
「で、どっちが好きなの?」
「ちょ、ちょっと待って! どうして選択肢がその二人だけなの!?」
「もしかして、リュウも──」
「絶対ないから!!」
どうやら、リュウの可能性は微塵もない様だ。
その後、再度問いただしてみたものの、結局アミは最後まではぐらかし、その話題は終わりを告げた。
「そうだミカ」
「ん?」
「居心地がいいのも分かるけど、いつまでも居心地の良さに甘えてちゃダメよ」
「……、うん」
それから程なく、最後にそんな言葉を言い残し、アミは一足先に教室を後にする。
一方、教室に残されたミカは、開けられた窓から、徐々に暗くなる外の風景を眺めていた。アミの言葉を噛みしめながら。
その時の事を、勝利の喜びの中で思い出したミカ。
「ありがとうミカ。そうだ、助けてもらったお礼をしないと……」
そんな時、不意に凛空の口から千載一遇の言葉が零れた。
「ねぇミカ、何が──」
「手」
「……え?」
「手、繋いで」
「う、うん。いいよ」
これに対して、ミカは間髪入れずに自らの要望を口にする。
手を繋ぐこと自体初めてではない為、この程度でいいのかと小首を傾げながらも、凛空はミカの要望通り彼女と手を繋ぐ。
「え、み、ミカ!」
だが、普通の繋ぎ方ではなく、お互いの指が絡み合うように手を繋ぐ、所謂恋人繋ぎをしてきた事に、凛空は少々困惑した。
「この繋ぎ方が、いい」
「う、うん。分かった……(ミカの手って、こんなに柔らかかったんだ)」
少々恥じらいながらも、要望を口にするミカ。
そんなミカの姿にドキリとしつつ、凛空は恋人繋ぎを受け入れるのであった。
「凛空」
「何?」
「このまま、行きたい所があるの」
「え! このまま!」
「……、駄目?」
だが、どうやらミカの要望はこれで終わりではなかったようだ。
目を潤ませ、小首を傾げながらお願いをするミカ。そんなミカの姿を目にし、再びドキリとする凛空。
そして、凛空は小さく頷くと、ミカと肩を並べ、彼女が行きたいという場所に向けて歩き始めた。
アキハバラの町を歩く事十数分。
二人が足を運んだのは、最近オープンしたばかりの、動物たちと触れ合いながら飲食ができる喫茶店。所謂動物カフェだ。
可愛い猫をモチーフとした看板が掲げられた同店に足を踏み入れる二人。そして二人が目にしたのは、愛らしい動物たちの数々であった。
「いらっしゃいませ!」
店の従業員に案内され、先ずは席に着く二人。
すると早速、一匹の猫がミカの方へと近づいてきた。
「ニャー」
「!!」
足元に近づいてきた猫は、自らの頭をミカの足元にこすりつける。
所謂すりすりと呼ばれるこの猫の行動に、ミカは悶絶する。
そして、悶絶し終えた所で、すりすりのお礼とばかりに、ミカも猫の頭を優しく撫でる。
「おいで」
「にゃ~」
「ん、いい子」
「にゃー」
一通り撫で終えた所で、ミカは猫に抱っこをしたいと頼んでみる。
すると、猫はミカの腕の中に自ら身を進め、それを受けて、ミカは猫を優しく抱き上げた。
そんなミカと猫の触れ合う様子を、凛空は微笑みながら見つつ、自身のCCMのカメラを使ってその様子を写真に収めるのであった。
「凄いね、ミカは」
「ん?」
「だってその子、そんなにリラックスしてる。初対面なのに、よっぽどミカの事を信頼してるんだね」
「そう、かな……」
「やっぱり分かるんだね。ミカが優しい人だって」
刹那、ミカは頬を赤く染めると、恥ずかしさを誤魔化すかのように俯いてしまう。
「そうだ、折角だから、何かおもちゃでも持ってくるよ」
「……、ん」
それを知ってか知らずか、凛空は猫用のおもちゃを探しに、おもちゃなどを置いているスペースへと向かった。
(この一枚は家宝だな)
先ほど撮った写真を確認しつつ、目的のスペースへと向かう凛空。
だが、そんな凛空の目の前に、小さな影が二つ、突如として現れる。
「ん? ネズミ?」
その手に何かを抱え、何故かジャケットを羽織った黒と白の二匹のネズミが、何処からともなく現れ、凛空の視界を横切る。
気づいた時には、既に物陰に隠れ見えなくなっていたが、凛空は、そんな二匹のネズミの姿に、何処か見覚えがあった。
(何処かで見たような気がするんだけどな……、何処だったっけ?)
記憶を辿るも、結局思い出す事が出来ず。わだかまりが残りつつも、適当におもちゃを選び終えると、凛空はミカのもとへと戻る。
「ミカ、お待た……、せ?」
「あ、おかえり」
だが、戻ってきた凛空は、テーブルの上に白くてモフモフする物体が鎮座している事に気がつき、一瞬固まってしまう。
「この子、このお店の、人気ナンバーワンだって」
「そ、そうなんだ……」
それは白いフェレットだった。だが、人気ナンバーワンと言われるだけはあり、ただのフェレットではなかった。
その愛らしい見た目に反し、厳つい軍服を見事に着こなしていたのだ。
「あ、見て。歓迎してくれてるよ」
「う、うん、そうだね」
刹那、軍服を着た白いフェレットが徐に立ち上がると、その愛らしい両手を広げる。
それはまるで、「歓迎しよう、盛大にな!」とでも言っているかのようであった。
こうして、店の人気ナンバーワンである白いフェレットの歓迎を受けた凛空とミカの二人は、猫とおもちゃを使って遊んだり、犬やうさぎ等、他の動物たちとも触れ合い、楽しい一時を過ごすのであった。
しかし、楽しい時間と言うものはあっという間に過ぎるもの。
気がつけば、外はすっかり夕暮れ景色となり、凛空とミカの二人は家路につく事となった。
「今日は、付き合ってくれて、ありがとう」
「こちらこそ、楽しかったよ」
ミカを自宅まで送り届ける為、夕焼け色に染まる河川敷を歩く凛空。
「あの、ね」
「ん、何?」
「その、ね……」
その時、ふとミカが何かを言い出そうとして、肝心な所で言い淀む。
「どうしたの、ミカ?」
「ん……、その……」
いつものミカとは違う、何処か落ち着きのない様子。
そんなミカの様子に、凛空は疑問符を浮かべた。
「凛空!」
そして次の瞬間、珍しくミカが声を張り上げる。
それに驚き、凛空は背筋を伸ばした。
「あの、ね……」
「う、うん」
「あの……」
意を決したのかと思われたが、言い出そうとして踏ん切りがつかなくなったのか、再び落ち着きをなくすミカ。
「送ってくれて、ありがとう」
「え?」
「今日は、ここまでで、いいよ。それじゃ、また明日」
「あ、ミカ!」
それは、真っ赤に染まった自身の顔を凛空に見られたくないからか。
ミカはそう言い残すと、足早にその場を後にする。
一方凛空は、足早に立ち去るミカの後姿を見送ると、程なく、改めて家路につく。
(明日、何が言いたかったのか尋ねてみよう)
その道中、凛空は明日、ミカに会ったら先ほどの事を尋ねようと心に決めた。
だが、そのミカに魔の手が迫っていようとは、この時の凛空は、まだ知る由もなかった。
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