そして翌日。
今日こそ頑張るバン達を影ながら応援するべく、凛空は、待ち合わせの場所でミカがやって来るのを待っていた。
しかし、約束の時間の五分前になっても、更には約束の時間を十分過ぎても、ミカが待ち合わせ場所に現れない。加えて、連絡もない。
いつもならば、こんな事は絶対になかった。
凛空は、不安な気持ちを落ち着かせつつ、ミカの自宅に電話をかける。
電話に出たのは、ミカの母親であった。凛空は平静を装いながら、ミカの様子について尋ねてみる。
すると、ミカの母親から返ってきたのは、待ち合わせの為に既に自宅を出た、という驚きの返答であった。
「どういう事だ……」
既に自宅を出ているなら、待ち合わせ場所に来ていてもおかしくはない。
だが、ミカがこの場所に現れる気配は全くない。
まさか、道中で何か事故にでも巻き込まれたのか。
不安が高まりつつも、凛空は、再度ミカに連絡を入れる。
しかし、電話もメッセージも、やはりどちらも反応はなかった。
「ミカ……」
不安に押しつぶされそうな中、凛空は、ミカの名をぽつりと呟く。
刹那、凛空のCCMが着信を告げる。しかも、画面に表示された相手の名は、何とミカであった。
待ち望んでいたミカからの連絡に、凛空は安堵の表情を浮かべると、早速電話に出る。
「もしもし、ミカ、心配したんだよ。連絡も──」
「よぉ、お坊ちゃん」
「っ!」
だが、聞こえてきたのはミカの声ではなく、聞き覚えのない男性の声であった。
「誰だ、お前」
「ははは、いきなり誰だはねぇだろ、お坊ちゃん」
「ミカはどうした?」
「あぁ、坊ちゃんの大事なお友達か? 安心しな、"今"はまだ、丁重にもてなしてるさ」
ミカの無事を確認し、とりあえずは内心安堵する凛空。
だが、それで凛空の怒りが収まる筈もなく、凛空は怒気をはらんだ声で話を続けた。
「お前は何者だ、目的は一体何だ!?」
「おいおい、まだ状況を理解してないのか? 今、主導権を握ってるのは俺の方だ、お坊ちゃん、お前じゃねぇ」
「く!」
「ははは! 見える、見えるぞ、悔しさに歪むお坊ちゃんの顔がな」
愉快に笑う男性に対して、凛空は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
「さて、笑わせてくれたお礼と言っちゃなんだが、お坊ちゃんの質問に一つ、答えてやろう。俺の目的は、お坊ちゃん、お前自身だよ」
「何?」
「まだ何のことだかさっぱり、だよな。もし知りたきゃ、今から言う場所に"一人で"来てみろ。そうすれば、全部話してやるよ。それに、大事なお友達にも、会わせてやる」
男性の口から語られたのは、あからさまな罠としか思えぬものだった。
「別にいいんだぜ、我が身可愛さに見て見ぬふりをしても。もしそうなったら、大事なお友達は、俺達がたーっぷりと可愛がってやるから安心しな」
下卑た男性の笑い声に、凛空は怒りに燃えた表情を浮かべた。
「……え」
「ん? 何か言ったか、お坊ちゃん?」
「早く場所を言え! 今すぐお前らのその鼻っ柱をへし折ってやる!!」
「ふ、お坊ちゃんが。いっちょまえに熱くなりやがって。……いいだろう、教えてやる。ただし、他の連中、特に警察なんかにバラしてみろ、お友達の命の保証はないぞ」
「外道が」
「では言うぞ、一度しか言わないからよく聞け。場所は──」
指定の場所を告げ、男性は電話を切る。
一方凛空は、電話が切れるや否や、指定された場所を目指して駆け出すのであった。
息を切らしながら走り続ける凛空。そんな凛空がやって来たのは、トキオ湾を見渡せる、トキオシティのとある埠頭。
色とりどりのコンテナが整然と並べられているのを横目に、凛空は、指定場所である岸壁に辿り着いた。
「よく来たな、お坊ちゃん」
そんな凛空を出迎えたのは、黒いハットに黒いスーツ、それにサングラスという、全身黒一色という出で立ちの壮年男性。
「ほぉ。ちゃんと言いつけを守って一人で来たのか、偉い偉い」
「はぁ、はぁ……。ミカは、何処だ!」
「そう焦らずとも合わせてやるよ。だがその前に、自己紹介がまだだったな。俺の名は"キラー"、以後お見知りおきを」
「ミカは何処だ!」
「たく、お坊ちゃまの癖に、挨拶の大切さってやつを理解してないのか?」
「お前みたいな外道に、行儀作法なんて必要ない!」
「言ってくれるねぇ、お坊ちゃま。いや、西原 凛空」
キラーと名乗った壮年男性の口から自身の名が零れ、凛空は、厳しい視線を向けた。
「お前、何者だ?」
「ふ、それでは、この辺りでお友達とのご対面序に、改めて、俺……、いや"俺達"の自己紹介をするとしようか」
刹那、キラーは徐に指を鳴らす。次の瞬間、フルフェイスヘルメットを被った十数人の男女が現れ、凛空を包囲する。
「っ!」
「では改めて、自己紹介させてもらおう。俺の名はキラー、ビーハイヴファミリーの創設者にして首領だ。以後、お見知りおきを」
「ビーハイヴファミリーだと! まさか、アルテミスの!?」
「そう、お前が完膚なきまでに叩きのめした、あのビーハイヴファミリーだ。……全くもって、余計な事をしてくれる。お前のお陰で、苦心して築き上げた業界内の評判はダダ下がり、出直しよ」
「何が評判だ! お前たちの請け負ってるのは、非合法の汚れ仕事だろ!」
「何とでも言うがいい。俺達は、所謂必要悪なのさ。そう、"LBXマフィア"って言う、この時代が生み出した必要悪」
「LBXマフィア?」
「おっと、話が逸れたな。……西原 凛空、此度の代償、きっちりと支払ってもらうぞ」
キラー率いるビーハイヴファミリー、その目的が体面を傷つけられた復讐であると判明し、その手段としてフルフェイスヘルメットの男女たちが襲い掛かってくるのかと思い、身構える凛空。
だが、彼らは動くことはなかった。
「ふ、お前をここで痛めつけるのは簡単だ。だが、それでは面白くない。そこで、お前にチャンスをやろう」
「チャンス?」
「そう、LBXバトルでお前が勝てば、俺達は金輪際、お前に関わる事はしない。それに、お前の大事なお友達も、返してやるよ」
「っ! そうだ、ミカ。ミカは何処だ!」
「あぁ、そう言えばご対面がまだだったな。……ほら、あそこを見て見ろ」
そう言ってキラーは、とある方向を指さす。
キラーが指を差したその先、そこで凛空が目にしたのは、ガントリークレーンの先端に、縄で縛られ吊るされたミカの姿であった。
「ミカァァァ!」
「安心しな、ちょっと眠ってるだけだ、危害は加えてない」
「貴様……」
「ふ、バトルを受けるか否か、聞くまでもなさそうだな」
凛空の鬼のような形相を目にし、キラーはDキューブを展開させる。
展開したDキューブ内に広がるのは、特に変わった所は見られない、草原のフィールドであった。
そのフィールドに、ビーハイヴファミリー側のLBXが降り立つ。
その姿を目にし、凛空の目が少し見開いた。
「どうだ、今回のバトルの為に特別に用意したLBX。その名も、ゲム・カモフだ」
赤と白のツートンカラーで彩られたその機体は、ゴーグルの奥に光るモノアイ、一部装甲の排除等など、細部に違いはあるものの、一見するとジム前期生産型と誤認してしまうほど酷似していた。
更に誤認効果を高めるべく、装備しているマシンガンもジム等が装備しているビームライフルを意識した形状をしている他、シールドもジム等が装備している物と酷似していた。
そして当然、肩にはビーハイヴファミリー所属である事を示す、蜂の巣をモチーフとしたエンブレムが描かれていた。
そんな三機のゲム・カモフと対峙するべくフィールドに降り立ったのは、フルアーマー・サンダーボルト・ガンダム。
全てを焼き尽くす稲妻の機体。
「ん? アルテミスの時とは別の機体か? まぁいい。どんな機体だろうと、蜂の巣にしてやる。お前ら、いけ!」
「「「青き清浄なる世界に平穏のあらんことを」」」
キラーの号令と共に、部下達の操作する三機のゲム・カモフが三方に分かれると、装備したマシンガンが火を噴く。
だが、放たれた弾丸は、フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムの六枚ものシールドに阻まれ、直撃弾を与える事は叶わない。
刹那、フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムが両腕部の二連装式ビームライフルを発砲する。
放たれたビームは、見事な光跡を描き、標的となったそれぞれのゲム・カモフを貫き、破壊する。
更に残った一機も、二連装式ビームライフルの餌食となり。バトルは、凛空の勝利によって、あっという間に幕を閉じる。
「ヒュー。流石は天下のサイバーランス、えげつないLBXを作りやがる」
「さぁ、勝負はついた、約束通りミカを開放しろ!」
「おいおい、誰が一回きりのバトルだって言った?」
──かと、思われた。
だが、次の瞬間、フィールドに新たなゲム・カモフが舞い降りる。しかも、六機という、先ほどの倍の数だ。
「さぁ、第二ラウンドの開始といこうか」
こうして、第二幕が始まりを告げた。
鳴り響くスラスターの噴射音、耳をつんざく爆発音。そして、フィールド上に擱座するゲム・カモフの残骸の数々。
Dキューブ内は、最早地獄と化していた。
「はぁ……、はぁ……」
そんなDキューブ内で、フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムは、最早何機目かも分からないゲム・カモフを撃破する。
倒しても倒しても、次々と新たなゲム・カモフが現れ、バトルは一向に終わる気配を見せない。
これには、流石の凛空にも疲労の色が見え始めていた。
「どうした、動きにキレがなくなってきているぞ」
「く!」
飛来するバズーカの弾頭を躱し、お返しとばかりに二連装式ビームライフルをお見舞いする。
だが、放たれたビームはゲム・カモフに躱された事で空しく空を切るだけだった。
「っ!」
刹那、死角から飛来したバズーカの弾頭が命中し爆発する。
幸いサブアームで保持したシールドで防ぎ直撃は免れたものの、その代償としてシールドは使い物にならなくなる。
既に、サブアームの三枚、更に左腕部の外装のシールド、合わせて四枚が使用不能となり。更には、大型のビーム砲も砲身が破壊され、勝色で彩られた装甲の各所にも被弾の跡が見られるなど、徐々にではあるが、確実に活動の限界を迎えつつあった。
「どうした、そろそろ限界か?」
「っ! まだまだ!」
〈アタックファンクション、ミサイルパーティー〉
刹那、フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムは機体の各部にある増加装甲内に収納したミサイルを露出させると、それらを一斉に発射する。
放たれた無数のミサイルは、周囲にいたゲム・カモフに次々と降り注ぎ、それらをただの破片へと変えていく。
「ほぉー、流石はガンダム。……なら、こいつはどうだ?」
キラーが不意に、再び指を鳴らした、次の瞬間。
銃声と共に弾丸が飛来すると、フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムの左腕部に備えた二連装式ビームライフルを貫く。
「攻撃、何処から!?」
慌てて周囲を見回すも、周囲にゲム・カモフの姿は見当たらない。
刹那、再び銃声が鳴り響き、飛来した弾丸が、今度は頭部をかすめた。
「っ! まさか、Dキューブの外から!?」
「ほぉ、気がついたか、いい耳だ。その通り、攻撃は、フィールドだけからとは限らないんだよ」
銃声の発生源へと視線を向けた凛空が目にしたのは、コンテナの上を陣取り、身の丈以上もある長砲身のライフルを構え、その銃口をDキューブ内へと向けるゲム・カモフの姿であった。
「く!」
「おいおい、俺達がお行儀よくバトルするとでも思ってたのか?」
Dキューブ外からの狙撃を気にかけつつ、Dキューブ内に次々と舞い降りるゲム・カモフの相手をする。
ただでさえ疲労している上に、多方面に注意を払わなければならない。この様な状況では、集中力が続く筈もなく。
フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムは遂に、その動きを止めた。
その瞬間をゲム・カモフ達が見逃す筈もなく、弾丸や弾頭が次々と放たれると、フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムに襲い掛かる。
僅かに遅れて凛空も反応するも、躱しきれない弾丸や弾頭が命中し、勝色で彩られた装甲に火花を散らせる。
「世の平穏を乱す、愚か者よ」
「消さねばならぬ、さもなくば、この世に安寧は訪れぬ」
「「青き清浄なる世界に平穏のあらんことを」」
刹那、二機のゲム・カモフが、その手にヘヴィソードを装備し、トドメを刺すべくフルアーマー・サンダーボルト・ガンダムに接近する。
しかし、フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムは左手に装備した高出力ビームサーベルで横一閃を繰り出すと、二機のゲム・カモフを同時に撃破する。
とはいえ、フィールド内にはまだ数多くのゲム・カモフが各々の得物を手に殺意を向け。コンテナ上のゲム・カモフも、狙撃の手を休める気配はない。
「我らの本懐を妨げる愚か者……、消えよ!! 青き清浄なる世界に平穏のあらんことを」
一機のゲム・カモフが、動きを止めた所を見計らい、その手に装備したチェーン・マインと呼ばれる、文字通り複数の機雷をワイヤーでチェーン状に連結させた武装を使用する。
フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムに巻き付いたチェーン・マイン、次の瞬間、機雷が爆破し、同機の姿を爆煙の中に消した。
「やったか!? ……何!?」
勝利を確信した、その時。
爆煙を突き破り、増加装甲や大型のバックパック等をパージし身軽となったフルアーマー・サンダーボルト・ガンダムが姿を現す。
刹那、唯一装備した高出力ビームサーベルの一突きがゲム・カモフの胸部を貫き、同機を行動不能にする。
こうして、また一機、ゲム・カモフを撃破した、次の瞬間。
銃声と共に飛来した弾丸がフルアーマー・サンダーボルト・ガンダムの右脚を貫く。
バランスを崩し、転倒するフルアーマー・サンダーボルト・ガンダム。急いで立ち上がろうとする同機に、新たな機影が迫る。
「まさかここまで粘るとは思わなかったぞ、褒めてやる」
「っ! その機体は!」
「その頑張りに敬意を払って、最後は俺自らが引導を渡してやろう」
フルアーマー・サンダーボルト・ガンダムの前に現れた機影の正体、それは、ジーライン・ライトアーマーであった。
「お前の大切なお友達の機体を使ってな」
「っ! 貴様!」
「はーっははは!」
キラーの高笑いが、岸壁に響き渡った。
上司であるキラーの高笑いを他所に、狙撃手を務めるゲム・カモフ、同機を操るビーハイヴファミリーの男性は、小さなため息を零した。
「はぁ……。あの
欲にまみれた独り言を呟きながら、男性は、最早自分の役目は終わったと、視線を動かし穏やかなトキオ湾を眺め始める。
「そう言えば、久しく海なんて行ってないな。今度、久々に海でも行くかな……」
そして、暢気に休暇の予定を立てていた、その時。
「ん?」
ふと、対岸で何かが光ったと気づいた、次の瞬間。
自身が操作していたゲム・カモフが爆散し、男性は一瞬、何が起きたのかわからなかった。
だが、我に返った男性は、今し方何が起こったのかを理解した。対岸から自機が狙撃されたのだと。
「馬鹿な、対岸からここまで300メートルはあるぞ!?」
「おい、一体何が起こった!」
しかし、男性は信じられなかった。何故なら、人間用の火器ならまだしも、LBX用の火器で300メートルもの長距離狙撃が可能など、そんな事例聞いた事がなかったからだ。
とはいえ、自機が対岸から狙撃されたのは事実であるし、その異変にキラーや他のファミリーの面々も気づいている以上、男性は何が起こったのかを説明するしかなかった。
「じ、実は──」
「おい、アレは何だ!?」
だが、男性の説明は、何かに気がついた別の男性の声にかき消される。
声に反応し、各々が視線を向けた先で目にしたのは、岸壁目掛けて空を飛ぶ複数の物体。
扁平な機体形状をしたそれは、徐々に高度を落として岸壁に近づいてくる。
「何だあれは、LBXが乗ってるぞ!」
やがて、地上からもその姿がはっきりと視認できる距離まで近づいた所で、機体の上部にLBXが搭乗している事に地上の面々は気がつき声をあげた。
(あれは……、ド・ダイ改!)
そんな中、凛空はLBXが搭乗している物体の正体を見抜く。
それは、LBXを搭乗させ輸送手段として用いられる他、場合によっては空戦や偵察行動等の用途にも使用可能な、サイバーランス社開発のLBX用の万能サポート飛行ユニット。
アイデアの基となったロボットアニメ内では、サブフライトシステムという航空機の一種として描かれた、その名を"ド・ダイ改"。
数機のド・ダイ改は、一旦凛空達の上空を通過すると、機体を翻し、再び凛空達の方へと機首を向けた。
(まさか……、ロンド・ベル!)
LBXの行動範囲を飛躍的に広げるド・ダイ改だが、残念ながら、まだ一般には販売されていない。
現在、ド・ダイ改を運用しているのは、唯一つ。LBX犯罪対策部隊、ロンド・ベルのみ。
やがて、ド・ダイ改が凛空達のもとへと最接近した、刹那。
先頭を進むド・ダイ改に搭乗していたLBXが離脱し、Dキューブ内に降り立つ。
降り立ったのは、その肩に一角獣をモチーフとしたパーソナルマークの描かれた、白き機体。
そして、それに続くように、後続のド・ダイ改に搭乗していた機体も、次々とDキューブ内に降り立つのであった。