うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

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争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない

 激闘の決勝戦が終わり、いよいよ、最後の一戦が幕を開けようとしていた。

 

「それでは皆様お待ちかね! アキハバラの頂点に君臨し、その華麗なるバトルで世界を魅了する天才LBXプレイヤー! マスターキングのご登場です!」

 

 角馬 王将のアナウンスが終わると共に、ステージ上にスモークが噴射される。

 程なく、スモークが晴れると、そこには、一人の女性が佇んでいた。

 

「あの人が、マスターキング?」

「ちょっと想像と違ったわね」

「おいおい、本当にあのオバサンがキングなのか」

 

 女性の姿を目にし、口々に感想を零す山野 バンチームの面々。

 すると、彼らの感想に眉をひそめながら、女性は「マーくん」なる人物を呼んだ。

 

 刹那、ステージの一部が開かれると、王座がせり上がってくる。

 その王座に座る、小さな男の子の姿と共に。

 

「っ! ま、まさか!?」

 

 その幼稚園児程と思しき男の子の姿を目にした瞬間、バン達を始め、ジンチームや応援に駆け付けた面々も驚きの表情を浮かべた。

 一瞬、何かの間違いかとも思ったが、ハッカー軍団が男の子の事をマスターキングと呼んだ事から、マーくんと呼ばれたあの男の子がマスターキングである事は間違いない様だ。

 

「そう、僕がマスターキングさ! そしてこれが僕のLBX、太陽神、アポロカイザーだ!!」

 

 マーくんは自慢げに、その異名に違わぬ煌びやかな、黄金の大剣ヒーローソードを装備し、黄金に輝く装甲を身に纏ったLBX、アポロカイザーを見せびらかす。

 

「は! どんな奴かと思えば、五歳のガキかよ」

「カッチーン!! ガキじゃない、もう立派な五歳だ!!」

 

 すると、ハンゾウの呟きを耳にし、マーくんは頬を膨らませて反論する。

 しかし程なく、不敵な笑みを浮かべると、得意げに語り始めた。

 

「知ってるよ、君達、オタクロスに唆されて出場したんでしょ?」

「え!?」

「それに、インフィニティネットに散らばった大切なデータを回収してもらう為、でしょ?」

「どうしてそれを!」

「ふふーん、僕はキングだからね! アキハバラで僕の知らない事なんてなーんにもないんだ!」

 

 マスターキングの肩書きを有しているのは伊達ではないらしく、バン達の事情を存知しているマーくん。

 そんなマーくんとの、キングの座をかけた一戦が、間もなく開始されようとしていた。

 

 

 

 

 バトルの舞台となる、分厚い氷と幻想的なオーロラが広がる、南極をモチーフとした南極ジオラマ。

 そのジオラマが収められたDキューブの前に立つ、山野 バンチーム。マーくん、そしてハッカー軍団から選出された二人を加えたキングの即席チーム。

 開始直前、マーくんは自信満々に勝利宣言を行い、それを聞いた会場内からはキングコールが沸き起こる。

 

「果たして、マスターキングがキングの座を守り切るのか! それとも、新たなキングが誕生するのか! それでは、注目の一戦、Ready……」

 

 そして、各々の愛機がDキューブ内に投下され、開始の合図を待つ。

 

「バトルスタート!」

 

 刹那、合図と共に動いたのは、マーくんの僚機を務める、メイド型LBXのグレイメイド二機。

 向かってくるグレイメイド二機を迎撃せんと、ハカイオー絶斗とナイトメアが向かうものの、慣れない氷上でのバトルに、二機は苦戦する。

 一方、グレイメイド二機は、まるでスケート靴を履いているかの如く滑るような動きで、バンチームの三機を翻弄する。

 

「くそ、高みの見物かよ!」

「ふふ。僕が攻撃しちゃうと、すぐに終わっちゃうからね」

 

 そんな様子を、ハンゾウの言う通り、アポロカイザーは氷山の頂上から傍観していた。

 

「山野 バンチーム防戦一方! このまま敗北してしまうのか!?」

 

 確かに、バン達は翻弄され防戦一方だったが、いつまでも防御に達していた訳ではない。

 やがて、ハカイオー絶斗とナイトメアがそれぞれのグレイメイド目掛けて飛び出した。

 

 また氷に足を取られる、かと思いきや、要領を掴んだのか、ハカイオー絶斗とナイトメアは滑るようにそれぞれのグレイメイドに追いつく。

 刹那、まだ不慣れと油断していたグレイメイド目掛けて、ハカイオー絶斗とナイトメアの必殺ファンクションが炸裂し、二機のグレイメイドは共に瀕死状態になる。

 

「へぇ~、おもったよりもやるじゃん。でも……」

 

 だが、次の瞬間、瀕死状態グレイメイドが最後の力を振り絞り、ハカイオー絶斗とナイトメアに飛びつく。

 この奇妙な行動にバン達が疑問符を浮かべた、その時。

 遂に、それまで傍観していたアポロカイザーが動き出す。

 

 ビームウイングを展開させ、ハカイオー絶斗とナイトメアの前に降り立つアポロカイザー。

 刹那、マーくんが必殺ファンクションの発動を宣言する。

 

 動けぬハカイオー絶斗とナイトメアを守る為、オーディーンが二機の前に飛び出した、次の瞬間。

 

〈アタックファンクション、神速剣〉

 

 発動と同時にアポロカイザーの姿が消えると、三機に対して次々と斬撃が襲い掛かる。

 それは、目にも留まらぬ速さのアポロカイザーが繰り出す斬撃の数々であった。

 

 やがて、神速剣が終了し姿を現したのは、左腕が切り落とされたオーディーン。そして、各所から火花を散らすハカイオー絶斗とナイトメアの姿であった。

 

「一撃でLPが半分に……」

「くそ! なんて必殺ファンクションだ!」

「これは何という事でしょう! アポロカイザー、味方を犠牲にして必殺ファンクションを決めた!!」

「そうさ、誰も僕を倒せない! 僕こそがキングなんだ!!」

 

 更に、アポロカイザーの攻撃が三機を襲い、その力を前に、三機は膝をつく。

 

「こんなものなの? よわーい!」

「っ! だったら!!」

 

 無邪気に笑うマーくんを他所に、バンはCCMを操作し、必殺ファンクションを繰り出す。

 だが、アポロカイザーはそれを難なく躱してみせた。

 

「必殺ファンクションっていうのはね、こうやるんだよ!」

〈アタックファンクション、神速剣〉

 

 刹那、再び無数の斬撃が三機を襲い、三機のLPを次々と削っていく。

 

「あれ~? まだ倒れないんだ。ま、次で終わりかな」

「っ! 黙れ!」

 

 マーくんの態度に激昂するキヨラ。

 刹那、キヨラの操作するナイトメアがアポロカイザー目掛け、徐にナイトメアズソウルを投げつける。

 

 すると、アポロカイザーは避ける事無く、ナイトメアズソウルが命中するのであった。

 

「あ……。おめでとう、初めて攻撃、当たったね」

「わざと避けなかったって言うの」

「野郎、ふざけやがって!」

 

 マーくんの反応を目にし、更に頭に血を上らせるキヨラとハンゾウ。

 一方バンは、先ほどのアポロカイザーの様子に、違和感を覚えるのであった。

 

「あ~あ、何だか僕、君達が弱すぎてもう飽きてきちゃった。だから、そろそろおしまいにしてあげる。準備はいい?」

 

 そして、マーくんが宣告を行うのを他所に、バンは一発逆転の作戦をひらめき、キヨラとハンゾウにその作戦を伝える。

 バンの作戦を聞いた二人は、その作戦に勝利の可能性を賭け、バンの作戦に乗る事となった。

 

「今更小細工したって無駄だよ、トドメだ!!」

〈アタックファンクション、神速剣〉

 

 アポロカイザーに向けて突撃する三機。

 刹那、三機に対して三度無数の斬撃が襲い掛かる。

 

 そして、斬撃が終わり、ハカイオー絶斗とナイトメアが遂に力尽き倒れる。

 オーディーンも、それに続く、かと思われたその時。

 

「嘘!?」

 

 オーディーンは、倒れる事無く踏みとどまった。

 

「いっけー!」

〈アタックファンクション、グングニル〉

 

 刹那、必殺ファンクションのグングニルが繰り出され、巨大な光の槍がアポロカイザーを貫き、爆散させた。

 その瞬間、会場内から割れんばかりの歓声が沸き起こると共に、角馬 王将による山野 バンチームの勝利宣言が行われるのであった。

 

 

 

 

 アポロカイザーの弱点、必殺ファンクション発動時の負荷に機体が耐えきれず、発動後僅かの間動けなくなるというそれを見事に見抜き、三人の連携で無事に勝利を手にしたバン達。

 嬉しさを露わにするバンに、勝利を分かち合うべくハイタッチを行うキヨラとハンゾウ。

 ただ、ハイタッチの直後、急に決まりが悪くなるキヨラであった。

 

「うわぁぁぁん! まげぢゃっだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「マーくん泣かないで! 大丈夫よ、マーくんはよく頑張ったわ! 安心して、ママはマーくんの味方よ。そうだ、キャンディ食べる?」

「ぐす、……うん」

 

 一方、負けたマーくんは号泣したものの、ママに抱っこされ美味しいキャンディを食べたことで、機嫌が元通りになった。

 

「兄ちゃん達強いね。……オタクロスの仲間だから嫌~な奴かと思ってたけど、兄ちゃん達とのバトル、すっごく面白かった!」

「お、生意気なガキかと思ってたが、随分と素直じゃねぇか」

「まー、失礼ね! マーくんは素直でいい子です!」

 

 バトルを終えて、お互いの事を認め合うバン達とマーくん。

 すると、そんな彼らのもとに、聞き馴染みのある声が聞こえてくる。

 

「だまされるなバン!!」

 

 ふと、声の方へと視線を向けると、そこにはトロフィー授与の為にやって来た悠介社長と霧野。

 そして、そんな二人の前を歩く、ご立腹な様子のオタクロスの姿があった。

 

「優勝おめでとう、バン君」

「ありがとうございます、悠介さん」

 

 悠介社長から祝福の言葉を受けたバンは、同時にトロフィーを受け取る。

 そしてトロフィー授与を終えると、バンはオタクロスに、先ほどの発言の意味を問う。

 

「よいか……、そやつは、そやつは! 前回のアキハバラキングダムで、ワシがわざと負けるかわりにくれると約束した、"東海道リニア開通30周年記念0系1/48モデル、500個限定生産品"をくれなかったんデヨォ~~!!!」

 

 刹那、会場内が一瞬、静寂に包まれる。

 と同時に、霧野は頭を抱えるとため息を漏らした。

 

「酷いデヨ! 恐ろしいやつデヨ! マスターキング!!」

「あれは僕のお気に入りなんだ、あげるわけないだろ!」

「なにぃーーっ!!」

 

 成人した孫までいる老年男性とはとても思えぬ大人気のなさに、バン達を始め応援していた面々も、呆れて物が言えなくなる。

 

「あれはワシが寒風吹きすさぶ中、寒さに耐えながら列に並んでもゲットできなかった至高の逸品デヨ!!」

「でもさ、その後風邪ひいて寝込んじゃったんでしょ? そーいうの、"年寄りの冷や水"って言うんだよ、おじいちゃん」

「な、なにぉーっ!!」

 

 そして遂に、オタクロスとマーくん、言い争っていた二人は喧嘩を始めてしまう。

 とても祖父とひ孫程年の離れた二人とは思えぬ、子供同士のような喧嘩に、会場内からは失笑が沸き起こるのであった。

 

 

 

 

 そんな会場の雰囲気とは打って変わって、張り詰めた空気が漂う場所があった。

 そこは何処であろう、凛空の自室。

 

「バン達、何とか勝てて良かったねミカ」

「……」

「えっと……、お、オタクロスも大人気ない、よ、ね」

「……」

 

 バトルの終了直後から、一言も発する事のないミカ。

 表面上は、いつもの様子と変わりないようにも見えるが、凛空には解っていた。ミカの背後で、怒りの炎が燃え盛っている事を。

 

「あの……、ミカさん?」

「……い」

「え?」

「……、ユルサナイ」

 

 今にも消えそうな声ではあったが、凛空はミカの呟いたその発言を確かに聞き、そして、はっきりと理解した。

 このままじゃ、明日がバンの命日になる、と。

 

「そ、そうだミカ! もうすぐ安静期間も終わるし、そしたら、軽い運動がてら一緒に公園にでも行こうよ!」

「……」

「あ、そうだ! どうせなら、途中のお店で美味しい料理やデザートをテイクアウトして、公園で食べるっていうのはどうかな?」

 

 刹那、ミカの背後で燃え盛っていた炎がその勢いを弱め、程なく消えた。

 と同時に、ミカがゆっくりと話し始める。

 

「ん、いいよ」

 

 どうやら機嫌が直った様子のミカ。

 何とか友の危機を救う事に成功し、内心安堵のため息を漏らす凛空。

 と同時に、凛空は今日一番の疲れを感じるのであった。


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