いよいよ迎えた、アキハバラキングダム当日。
アキハバラでも一二を争うビッグイベントという事もあり、アキハバラの町は朝から、いつも以上の人の数と熱気に包まれていた。
そんなアキハバラの町を一望できるアキハバラタワー、その最上階。オタクロスの部屋に、バン達の姿はあった。
この一週間の努力が実を結び、バン達は誰一人欠ける事無く、裏LBXランキング100位以内という目標を達成し、無事にアキハバラキングダムへの出場資格を得るに至った。
と言っても、凛空は治療のために出場できず、ミカもまた、凛空の看病を理由に出場を辞退した為、全員出場とはならなかったが。
「凛空とミカたんが出場できんのは残念じゃ。じゃがその分、二人の分まで皆頑張るんじゃぞ!」
「あぁ、勿論!」
「うむ、皆いい顔をしてるデヨ。……ま、顔で言えばこの子には勝てないがのぉ」
部屋の主であるオタクロスは、バン達を前に大会直前の檄を飛ばし終えると、愛すべきさくら☆零号機をめで始める。
そんなオタクロスを他所に、バン達はアキハバラキングダムに向けての意気込みを語っていた。
「ジン、必ず優勝しよう!」
「勿論さ、バン君」
「バン達ばかりにいい格好はさせられねぇ、俺達も頑張らねぇとな!」
「ふん、私は別に、優勝なんてどうでもいいわ。強い奴とバトルできればそれでいい」
「キヨラ、てめぇ! 俺の舎弟なんだから、もっと協力的になろって発想はねぇのか!」
「ないわ」
「こんのぉ……」
「まぁまぁ、二人とも!」
ふとした事で一触即発の雰囲気となるハンゾウとキヨラ。
バンは、そんな二人の間に慌てて入ると、取り成し始めるのであった。
やがて、何とかハンゾウとキヨラを取り成し終えた所で、さくら☆零号機をめで終えたオタクロスが、不意にカズに来客が来た事を告げた。
「俺に客?」
心当たりがなく疑問符を浮かべるカズ。
刹那、エレベーターの扉が開き、バン達にとって見知った二人の人物が部屋に足を踏み入れた。
「あ、悠介さん!?」
部屋にやって来たのは誰であろう、悠介社長とその秘書を務める霧野の二人であった。
「どうしてここに?」
「実は、オタクロスさんから直々に連絡があってね」
「オタクロスって、悠介さんと知り合いだったの!?」
「う、うむ。まぁの」
「カズ君、君にこれを届ける為に来たんだ。霧野君」
「はい、社長」
どうやら悠介社長はカズに届け物があるらしく、それは、霧野が持っていた銀色のアタッシュケースの中に収められているようだ。
霧野から銀色のアタッシュケースを受け取ったカズは、中身の見当が全くつかず、再び疑問符を浮かべた。
「開けてごらん。それはきっと、君の力になる筈だ」
悠介社長の言葉を聞き、カズは意を決して銀色のアタッシュケースを開いた。
そして、その中身を目にし、カズは驚きの声をあげる。
銀色のアタッシュケースの中に入っていたの物は、カズにとって忘れもしない、バーチャルLBXのフェンリル、そのアーマーフレームであった。
「でも、どうして?」
「オタクロスさんがフェンリルのアーマーフレームの設計データを保存しておいてくれたんだ。そして、そのデータを基に製作してほしいとの依頼を受けてね。こうして完成したという訳さ」
「オタクロス……」
「カズ君、今日からこれは、君のLBXだ」
「ウソみたいだ」
「よかったわね、カズ」
「カズ、早速組み立ててみよう!」
「お、おう!」
アミやバンに祝福を受けながら、カズは早速、作業スペースを借りてフェンリルのアーマーフレームを組み立てていく。
順調に組み立て、最後に頭部のパーツを装着させたところで、遂に、データ上の存在だったフェンリルが現実世界にその姿を現した。
「また会えたな、フェンリル」
手に入らないと思っていたものが手に入り、嬉しさを滲ませるカズ。
「山野博士がお前に託したLBXじゃ、大切にするんじゃぞ」
「ありがとうございます、悠介さん! それにオタクロスも、ありがとう!」
そして、フェンリル制作に尽力してくれた悠介社長とオタクロスに感謝の言葉を述べるのであった。
「お優しいんですね」
「ん、当然じゃ。何せ、宇崎氏が希望を託した子供達じゃからな」
「希望、ですか。あの頃に、貴方がその希望を見いだせていれば、祖母や母は涙を流さずに済んだのでしょうね」
「もう過ぎたことじゃ。それに、涙を流したのは……、いや、よそう」
一方、そんなカズとは対照的に、何やら意味深な会話を行う霧野とオタクロス。
すると、そんな二人の妙な空気を感じ取ったのか、ジンが二人に気付かれぬようにバンに声をかける。
「バン君、あの二人」
「え、オタクロスと紗枝さん?」
「何だか、とても赤の他人とは思えないだ」
「うーん。悠介さんと介して知り合ったんじゃないのかな」
「いや、それにしては──」
と、その時。
二人の背後に、巨大な影が出現する。
「説明しよう!!」
「「っ!?」」
その正体は、装置を一新して生まれ変わったシブネキクゾウであった。
「オタクロスと霧野 紗枝の二人は、血縁者なのである。即ち、祖父と孫の関係なのだ!」
「えぇ! 紗枝さんがオタクロスの孫!?」
「最も、法律上、今の二人は赤の他人である」
シブネキクゾウの説明曰く、若き日のオタクロスは、その頃から才能を発揮してたハッカーとしての能力を生かし仕事をこなしていた傍らで、オタク文化に対する造詣を深めていたという。
そんな中で、若き日のオタクロスは一人の女性と恋に落ち、やがて結婚、彼女との間に新たな命を授かった。それが、霧野の祖母と母親だという。
こうして、幸せな日々が末永く続く、かと思われた。
だが、結婚後も仕事とオタク趣味に没頭するオタクロスは家庭をないがしろにしがちで、それでも当初こそ、霧野の祖母はオタクロスの気持ちを尊重していたが、やがて我慢の限界に達し、些細な事で口喧嘩が絶えなくなってしまう。
そして遂に、霧野の祖母は、まだ幼かった霧野の母親を連れてオタクロスのもとを去った。
離婚後、オタクロスは霧野の祖母や母親と会う事はなかったが、それでも、霧野の母親の成人式や結婚式の連絡や写真などは、霧野の祖母から伝えられていたとの事。
そして、孫である霧野が生まれたとの連絡を受けた際、オタクロスは大粒の涙を流していたのだとか。
因みに、やはり初孫は可愛いものの様で、霧野が大学を卒業後、就職先としてタイニーオービット社を紹介する等、オタクロスは就職の力添えをしたとの事。
「へぇ、オタクロスにそんな過去が」
「人は誰しも、他人には言えない過去を持っているという事だね」
「因みにオタクロスは──」
と、その時。突如としてシブネキクゾウはその姿を消した。
また装置が故障したのかと思ったバンとジンの二人だが、どうやら、今回はそうではないようだ。
「やれやれ、キクゾウたんはたまにお喋りなのが玉に瑕デヨ」
どうやら、オタクロスが意図的に停止させたようだ。
「お前たち、今キクゾウから聞いた事は、絶対に他言無用じゃ、分かったな!」
「は、はい」
「分かりました」
バンとジンの二人のもとへとやって来たオタクロスは、いつになく真剣な様子で二人に釘を刺した。
それを受けて、二人はこの一件を口外しないと固く誓うのであった。
「さ、フェンリルの鑑賞会もその辺でいいじゃろう」
オタクロスの過去や霧野との意外な関係性が暴露されていたなど露知らず、フェンリルの鑑賞会を行っていたカズ達の注目を集めるオタクロス。
「では、バン君達の活躍は、後でじっくりと見せてもらうよ」
「悠介さん、どういう事?」
「アキハバラキングダムの主催は、タイニーオービット社なんだ」
「「えぇ!」」
「では、私は準備があるのでこれで。オタクロスさん、後は頼みます」
「うむ。任せておくデヨ」
こうして意外な事実が判明した所で、アキハバラキングダムの開会式の準備の為、悠介社長は霧野と共に一足先に会場に向かうべく、オタクロスの部屋を後にする。
二人を見送った所で、オタクロスが口火を切った。
「では、これよりチーム分けを発表するデヨ!」
「え?」
「チーム分け?」
「おりょ、言ってなかったかのぉ?」
初耳と言わんばかりのバン達の反応を目にしたオタクロスは、改めて説明を始める。
「アキハバラキングダムはチーム戦が基本。勿論、個人で出場してもよいが、優勝を狙うには一チーム三人で出場するのが一番じゃ!」
「そうだったんだ」
「では、肝心のチーム分けじゃが……」
一拍を置き、オタクロスはチームメンバーの発表を行う。
「先ず一チーム目。バン、郷田、そしてキヨラたんの三人デヨ!」
「え!?」
「こいつと!」
「……チッ」
「そして二つ目のチームは、ジン、カズ、そしてアミたんの三人デヨ!」
「俺達、ジンと一緒かよ!?」
「でも、味方なら、心強いんじゃない」
「……」
チームメンバーが発表され、各々の反応を示すバン達。
「あぁ、いっておくが不満があろうとメンバーの変更は無理デヨ。さっきのチーム分けで、もう既に登録してしまったからの」
「しょうがねぇか。……、ジン、よろしくな」
「よろしくね、ジン」
「あぁ」
「郷田、仙道、二人ともよろしく」
「まさかお前と組む事になるとはな!」
「それはこっちの台詞よ!」
「あ、あの……、二人とも……」
正反対の様子を見せる二つのチーム、果たして、優勝の二文字を手にする事が出来るのは、どちらのチームになるのか。
「では、会場に向かうデヨ!!」
オタクロスの掛け声と共に、一行は部屋を後にすると、一路会場に向けて歩き始める。
アキハバラタワーから会場である大通りの交差点に近づくにつれ、徐々に多くなっていく人の数を目にし、バン達は普段のアキハバラとは異なる光景に驚きの声をあげる。
「アキハバラキングダムはこの町で一番とも呼べるイベントじゃからの。遠方からも、生で観戦するべく多くの人が足を運んでいるデヨ」
「へぇー、凄いや」
オタクロスの説明を聞きながら交差点へと近づくバン達。
すると、不意に後ろから、聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。
「バーン!」
「あれ、沙希さん?」
声に反応して振り返ると、そこには、沙希の姿があった。
「おぉ! バン、こちらのべっぴんさんはどちらさんかのぉ!?」
「この人は、俺達が通ってる模型店の店長の奥さんだよ」
「ぬほー! えぇのぉ、えぇのぉ、人妻、えぇのぉ!」
沙希の姿を目にし、早速オタクロスが見惚れる。
「沙希さんと言ったかのぉ。どうじゃ、今度是非ともフィギュアのモデルになってくれんかのぉ!?」
「うーん、そうね。ウチでLBXを百体ほど買ってくれたら、考えてもいいわ」
「百体、それ位ならお安い御用デヨ! いや、百体と言わずに二百でも三百でも買っちゃうデヨ!!」
「えぇ……」
沙希は適当にあしらうつもりだったが、オタクロスの熱意を目にし、反応に困ってしまう。
すると、そんな沙希のピンチを救うべく、遅れていた北島店長が姿を現した。
「おーい、沙希! まったく、俺を置いていくなよ」
「ごめんごめん。あ、お爺さん、この人あたしの旦那の小次郎さんよ」
「ぬぉ! そ、そうデヨか。仲睦まじそうで何よりじゃ……」
北島店長に身を寄せ、仲の良さをアピールする沙希。
すると、それを目にしたオタクロスは、潔く沙希の事を諦めるのであった。
「おい沙希、一体何なんだ?」
「あぁ、気にしないで」
「……所で、お前まさか、バン達に"アノ"事を話したのか?」
「え? まだだけど。でも隠したってしょうがないんじゃない、どうせすぐにバレちゃうんだし」
「まぁ、そうだが……」
そんなオタクロスを他所に、沙希と北島店長はこっそりと話を行う。
すると、そんな二人の様子を見て、バンが勘付いたかの如く声をあげた。
「ひょっとして、アキハバラキングダムに店長も出るの!?」
「え、いや……、それは」
「はーい! 大会にはあたしが出場しまーす!」
歯切れの悪い北島店長の言葉を遮るように、沙希がアキハバラキングダム出場を宣言する。
すると、予想外の人物の出場に、バン達は興味を惹かれた。
「えぇ、沙希さんが出場するの!?」
「この前は、そんな事一言も言ってなかったのに」
「ふふ、ビックリした?」
「沙希さん、やっぱりLBXやってんだ」
「えぇ、あたしかなり強いわよ」
自信満々な様子の沙希、一方、北島店長は対照的に浮かない様子。
「強いって、もしかして店長より?」
「あぁ……、まぁな」
「うふふ、今日は思う存分暴れるわよー!」
「っ! じゃ、じゃぁなバン、また後でな!!」
刹那、北島店長は沙希の腕を掴むと、会場に向かって足早に立ち去るのであった。
二人を見送った所で、今度はハンゾウの名を呼ぶ声が聞こえてくる。
「リーダー! 応援に来たよ!」
「おいどん達の応援があれば百人力でごわす」
「ちょっと言い過ぎだろ」
近づいてきたのは、リコ・テツオ・ギンジのゴウダ三人衆。そして……。
「アーミちゃーん! 応援に来たよ!!」
アミの応援にやって来たリュウであった。
「アミちゃん! 俺、アミちゃんだけを応援するからね! 頑張ってねアミちゃん!」
「う、うん……」
「何言ってるデヨ! アミたんはワシが応援するデヨ!」
「え、ちょっと……」
「何だ? 誰だよおっさん!」
「お前こそアミたんの何でよ!」
「俺はアミちゃんのクラスメイトだ!」
「ワシはアミたんのファン一号デヨ!」
「何を!」
「デヨ!」
アミを巡って激しく火花を散らすリュウとオタクロス。
そのあまりにも低次元な争いに、事の成り行きを見守っていたカズはため息を漏らすのであった。
「お集まりの皆様、本日は、我がタイニーオービット社が主催するアキハバラキングダム観戦の為、ご足労いただきまして、ありがとうございます」
刹那、主催であるタイニーオービット社を代表し、悠介社長による開会宣言が始まる。
「これより、アキハバラキングダムを開催いたします!」
悠介社長による開会の宣言が行われた、次の瞬間。
突如、けたたましいサイレン音が鳴り響くと共に、地面が揺れ始める。
「え、何!?」
「地震か!?」
「さぁ、くるデヨ! お前ら、刮目するべし!!」
オタクロスが意味深な言葉を発した、次の瞬間。
突如、交差点が開くと、そこから巨大な特設会場がせり上がってくる。
「これぞ、アキハバラキングダム名物、ホコ天コロシアムじゃ!!」
「業務連絡、業務連絡。これより、選手入場を開始いたします。出場選手の皆様は、速やかにステージ上にお集まりください」
アナウンスが流れると共に、特設会場であるホコ天コロシアムの一部が展開し、ステージ上へと続くエスカレーターが完成する。
「よし、行こう皆!」
「おう!」
「えぇ!」
「それじゃ、オタクロス、行ってくる」
「うむ、健闘を祈るデヨ」
バンを先頭に、出場するメンバーがエスカレーターを使いステージに上がっていく。
「師匠!」
「ん?」
そんなバン達を見送った、刹那。五人の影がオタクロスに近づく。
「アキハバラのキングの座は、必ず我らが勝ち取ってみせます!!」
「おぉ、お前たちか」
それは誰であろう、オタレンジャーの五人であった。
「オタ道スピリッツの名誉の為、力の限り戦います!」
「おぉ、頼もしいのぉ。うむ、頑張るデヨ」
「「はい!!」」
そして、宣誓を行ったオタレンジャーの五人も、エスカレーターを使いステージに上がっていく。
「さてと、ワシは特等席で高みの見物としゃれこむかのぉ」
そんな若者たちを見送ったオタクロスは、自身も観戦のために移動を開始するのであった。
霧野 紗枝さんって、ゲームではさくら☆零号機を使っているんですよね。
そこから独自の解釈で、オタクロスとは祖父と孫の関係という事にしました。