うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

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蜉蝣の記憶

 凛空が、アミとミカの巧妙な罠にかかってから二日後。

 凛空の姿は、今日もオタク達の活気に溢れた町、アキハバラにあった。

 

「……」

「凛空?」

「ミカ、今は"リンコ"ちゃんって呼ばないと」

「あ、そっか」

 

 しかし、アキハバラ駅の出入り口で佇む彼の姿は、金髪のウィッグを被り清楚な色合いの衣服を身に纏い、黒のチョーカーを付けた、神谷重工の内覧会に潜入した時の姿であった。

 

(あぁ、こんな辱めを受けるぐらいなら、いっそ殺して……)

 

 さて、何故凛空が女装させられリンコとなってアキハバラにやって来たのか。

 それは、二日前のあの発言が原因であった。

 あの発言に対してアミとミカから要求されたのが、バン達には内緒の秘密の特訓の一環として、本日アキハバラで行われるというLBXの大会に一緒に出場してほしい、と言うものであった。

 

 因みに、何故大会に出場するだけなのに女装する必要があるのかと言えば。それは、その大会が女性限定の大会だからである。

 なお、今回の女装に必要な衣服や小道具などはアミが用意したとの事だが、凛空には、それが嘘であるとハッキリ理解していた。

 同時に、アミに衣服や小道具を提供した協力者の顔が、脳裏に思い浮かぶのであった。

 

「さ、行きましょう! 早くしないとエントリーに遅れちゃうわ」

「ん、リンコ、行こう」

「……、はい」

 

 時折すれ違う男性達の、美少女三人が歩いていると勘違いし向けられる視線を受けながら、少々俯き加減のリンコは、アミとミカの二人と共に大会会場目指して歩みを進めた。

 

 

 

 

 アキハバラの一角に佇む高層ビル、そこに足を運んだ三人。

 ビルのエントランスには、ビル内にあるイベントホールにて開催されるLBX大会の案内看板が掲げられている。

 アキハバラ発祥の女性ブランド"ルイ・ビット"、同社が主催する女性限定のLBX大会、その名を"フェアリー杯"。

 

 同大会が行われるイベントホールへと到着した三人が目にしたのは、大会優勝を目指し、或いは雰囲気を楽しもうと集まった数多くの女性プレイヤー達。

 

「さ、受付に行くわよ」

 

 そんな女性プレイヤー達を横目に、三人は早速、大会エントリーを済ませるべく受付に向かう。

 程なく、無事にエントリーを済ませた三人は、開会式が始まるのを待つ。

 

「皆さま、本日は我がルイ・ビットが主催するフェアリー杯にご参加下さり、誠にありがとうございます」

 

 やがて、ルイ・ビット社長による挨拶から始まった開会式も滞りなく終了し、遂に、トーナメントの幕が上がる。

 まずは、チームから選出された一名が代表として戦う一回戦。第一試合から、激しいバトルが繰り広げられる。

 

「第三試合終了。続きまして、第四試合を始めますので、出場選手はステージにお集まりください」

「さ、いよいよ私達の番よ!」

「ん!」

「……、おー」

 

 そして遂に、リンコ達のチームの試合の番となる。

 初戦に臨むべく、力強い足取りでステージに向かうアミとミカ。一方、リンコの足取りは重い。

 

志麻(しま)様、大漁を!!」

「あいよ!」

 

 対して、対戦相手となる、緑のロングヘアを靡かせベージュのスーツを着こなした志麻と呼ばれた女性も、応援団と思しき屈強な男達の声援に応え、ステージへと足を運ぶ。

 

「っ! あ、あの人……」

「リンコ、あの人、知ってるの?」

「う、うん。あの人、サイバーランスのテストプレイヤーを務めてる一人なんだ」

 

 志麻の姿を目にした瞬間、リンコは目を見開いた。

 どうやら彼女は、プロジェクトMS関係の機体のテストプレイヤーを務めている内の一人のようだ。

 

 そうなると、必然的に凛空と面識があるという事になる。

 

(不味い不味い不味い! バン達には内緒だから知り合いはいない筈なんて安心してたけど、まさか知り合いが出場してるなんて! もしここで僕の正体がバレたら……。く、ここは何としても彼女とのバトルは避けないと!)

「さて、一回戦、誰が出る?」

「ぼ──、私は、遠慮しとく」

「うーん、でも、私としてはリンコが戦ってる所、見て見たいな~」

 

 意地悪な笑みを浮かべるアミに対して、リンコは視線で必死に訴える。

 すると、それを見て、流石に意地悪が過ぎたとアミも反省する。

 

「なら、私が出る」

「分かったわ、お願いね」

「ん!」

 

 そんな一幕を経て、一回戦は、ミカが代表として戦う運びとなった。

 

 

「おやおや、アンタがあたしの対戦相手かい? 可愛いおぼこじゃないかい」

「バトルに可愛さは、関係、ない」

「フッ、何だ、分かってるじゃないか。そうさ、プレイヤーに必要なのは勝ち残る実力! それだけさね」

 

 Dキューブの前に立ち、バトル開始前から激しい火花を散らすミカと志麻。

 やがて、司会者の合図と共に、二人は互いの愛機をDキューブ内に投下する。

 

「マリーネ・ライター!」

 

 プロジェクトMSにて開発されたザクの直系とも呼べる後継機、ビーム兵装やシールド等、ガンダムに影響を受け、同機と同等程度の性能を追求し開発された機体。その名を"ゲルググ"。

 同機の派生型の一つで、バックパックに稼働時間延長の為の予備バッテリーを内蔵した二基のプロペラントタンクを備え、強襲能力向上を目的に開発されたのが"ゲルググM(マリーネ)"である。

 

 マリーネ・ライターの愛称で呼ばれた志麻の愛機は、そんなゲルググMをベースに、頭頂部にブレードアンテナを備え、更に胸部や脚部などの装甲を変更、機動力低下防止にスラスターを増設し、四基のプロペラントタンクを装備する他。

 武装も、大型のビームライフルに、覗き窓が備えられた大型シールドに変更され、より強襲能力が強化された改修が施されている。

 

「ガーベラ……」

 

 ガンダムを越えるガンダムの開発、をコンセプトに行われたガンダム開発計画、別名ガンダム・プロジェクト。

 同計画により開発・製造された試作機群の一つ、白兵戦に主観を置き開発された四番目の機体。

 肩の大型スラスター等、機体各部に設けられたスラスター群、更にとりわけ目を引くのが、背部に三基装備された、プロペラントタンクとバーニアスラスターが一体化したシュツルム・ブースターと呼ばれる装備。

 更に武装も、標準装備の長銃身のビームライフル、ロング・レンジ・ライフルに替えて、ヒート・ランス。そして専用のシールドを装備し、その開発コンセプトを昇華させている。

 

 "ガーベラ"の開発コードネームを持つ同機の名は、ガンダム試作4号機。

 ミカの新たなる愛機である。

 

「Ready……」

 

 バトルフィールドである昼間の軍事基地に降り立った両機は、開始の時を待つ。

 

「バトルスタート!」

 

 そして、合図と共に、戦いの幕が切って落とされた。

 

「そらそら、踊りな!」

 

 先に仕掛けたのはマリーネ・ライター。

 装備した大型ビームライフルを発砲しつつ、増設されたスラスターを噴射させ、有利な位置を陣取るべく移動を開始する。

 

 一方、ガーベラはその高い機動力を生かし、飛来するビームを躱しつつ、建物の影に身を潜める。

 

「チッ、隠れやがったか。まぁいい、狩りは始まったばかりさ」

 

 兵舎の屋上に陣取ったマリーネ・ライターは、周囲を見渡しながら、ガーベラの次の一手を窺う。

 刹那、スラスターの噴射音をマリーネ・ライターの集音マイクが拾う。

 

「そこかい!」

「っ!」

 

 次の瞬間、背後から物陰を渡り接近を試みていたガーベラ目掛け大型ビームライフルが閃光を放つ。

 これに対して、ガーベラは一旦退く事もなく、ビームを躱しつつスラスター出力を上昇させると、その推力に物を言わせ、瞬く間にマリーネ・ライターの間合いに飛び込む。

 

「小癪な!」

 

 刹那、間合いに飛び込んだガーベラがヒート・ランスによる一突きを放つも、それは寸での所で大型シールドによって防がれる。

 お返しとばかりに、マリーネ・ライターの腕部に内蔵したマシンガンが火を噴くも、伸びた火箭はガーベラを捉える事無く、むなしく空を切るだけであった。

 

「何だい、ありゃ? バッタか?」

 

 ガーベラの機動力を目の当たりにし、思わず本音が漏れ出る志麻。

 しかし、いつまでも驚いている訳もなく、直ぐに思考を切り替えると、次の一手を考える。

 

 刹那、マリーネ・ライターがスラスターを噴射すると、ガーベラの後を追いかけ始めた。

 

「ふふふ、かくれんぼの次は、追いかけっこといこうじゃないか!」

 

 程なく、ガーベラを視界内に捉えたマリーネ・ライターは、大型ビームライフルを発砲しつつ追撃を開始。

 一方、捕捉されたガーベラは、マリーネ・ライターを振り切るべく、建物の間を縫うように駆け抜ける。

 

「そらそら、もっと早く逃げないと、追い付いちまうよ!」

 

 各部のスラスターを使用し、角を曲がって追撃を振り切ろうとするガーベラ。

 しかし、マリーネ・ライターは角を曲がる際も減速する事無く、建物の壁面を蹴って方向転換し、追撃を続ける。

 

 それから暫く、追撃戦が繰り広げられた後。

 遂に、マリーネ・ライターの放った一筋の光が、ガーベラのシュツルム・ブースターを捉えた。

 

「っ!」

 

 刹那、爆発の寸前に被弾したシュツルム・ブースターをパージし、事なきを得るガーベラ。

 しかし、シュツルム・ブースターを失った事で、ガーベラは作戦を変更せざるを得なくなった。

 

「何だい。もう追いかけっこはおしまいかい?」

 

 まるで志麻の質問に答えるかのように、再び臨戦態勢に入るガーベラ。

 それを見て、志麻の口角が上がる。

 

「それじゃ、第二幕といこうじゃないか!」

 

 次の瞬間、マリーネ・ライターの構えた大型ビームライフルが三度閃光を放つ。

 ガーベラは専用のシールドを構え、飛来するビームを受け流しつつマリーネ・ライターにじりじりと近づく。

 

 だが、マシンガンの如く飛来するビームの数々に、遂に専用のシールドが耐え切れず破壊される。

 

「いいぞーっ!!」

「いけーっ! 志麻様!!」

「やっちまえーっ!!」

 

 刹那、その様子を見た応援団の熱気も最高潮に達し、遂に、応援旗を振り始めた。

 すると、それを視界の端で捉えた志麻が、吠えた。

 

「応援旗なんか出すな!! 撮られたいのか!?」

 

 直後、志麻の耳にシャッターを切る音が届く。

 それは、大会の観戦にやって来た観客達のカメラの数々から発せられていた。

 

「いわんこっちゃない……!」

 

 この結果に、志麻は小さく呟く。

 だが、いつまでも落胆している暇はない、直ぐに気持ちを切り替えると、直ぐに意識をバトルに戻した。その時。

 

「何!?」

 

 応援団に気を取られた一瞬の隙を狙い、ガーベラの投擲したヒート・ランスが大型ビームライフルの銃身を貫く。

 刹那、大型ビームライフルの爆発と共に、ガーベラがスラスターを最大噴射し、一気にマリーネ・ライターの懐まで飛び込む。

 

「なめるんじゃないよ!」

 

 ガーベラが、バックパックのホルダーに収められたビームサーベルに手を伸ばしたのを目にし、マリーネ・ライターも、腰部のビームサーベルに手をかける。

 刹那、両機が抜刀し、二つの光が交差する。

 

 攻撃を終え、暫し動きを止める両機。

 一体、どちらに軍配が上がったのかと、観客達が固唾を吞んだ、次の瞬間。

 

「ふ、どうやら、ここまでのようだねぇ」

 

 マリーネ・ライターが糸の切れた人形の如く、がくりと膝をつくと、直後に、ブレイクオーバーを知らせる青白い光を放つ。

 その瞬間、ミカの勝利が告げられると共に、観客達の歓声が沸き起こるのであった。

 

 

 

 

「アンタ、強いね」

「貴女も、強かった」

「言ってくれるじゃない。……そう言えば、自己紹介がまだだったね。あたしは志麻って言うんだ」

「三影 ミカ」

「三影……。成程、アンタがあの坊やの女神さんかい。どうりで強い筈だよ」

 

 バトルを終え、自己紹介と共に互いの健闘を讃え合う志麻とミカ。

 やがて、志麻は人目もはばからず大泣きする応援団の男達に一喝を入れると、彼らを引き連れ、イベントホールを後にする。

 

 一方ミカは、アミとリンコの二人と勝利を分かち合うと、次の二回戦に向けて、ガーベラの修理に取り掛かるのであった。

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