オタクロス、そして共に戦った戦友たちに見送られながら、アキハバラタワーを後にしたバン達一行。
それから数十分後、一行はイノベーターの妨害に遭う事もなく、無事にタイニーオービット社の本社ビルへと到着した。
「社長、拓也さん達をお連れしました」
エントランスで霧野に出迎えられた一行は、そのまま彼女の案内で社長室へと足を運んだ。
「バン君、凛空君、それに皆も。拓也から話は聞いている、本当に、よくやってくれた」
「私からも、皆さんに賛辞を送らせてください。本当に、皆様の活躍には感服いたします」
社長室へと足を踏み入れた一行を出迎えたのは、部屋の主である悠介社長、そして、スーツに身を包んだサラリーマン風の男性。
悠介社長は兎も角、謎のサラリーマン風の男性から出迎えを受けたバン達は、少々困惑する。
そんな中、凛空だけは、違う反応を示していた。
「田中さん!?」
そう、何故なら凛空は、謎のサラリーマン風の男性の素性を既に知っていたからだ。
「凛空、あの人」
いや、正確に言えばもう一人。
ミカも、以前ビーハイヴファミリーとの騒動の際に、彼の事を目撃していた。
最も、顔を見た事がある程度で、名前までは知らないのだが。
「おや、貴女はあの時の……、その後、お変わりありませんか?」
「ん、特には」
「それはそれは、息災そうで何より」
ミカの事を気遣う田中が、ミカとの短いやり取りを終えた所で、不意にバンが田中について悠介社長に尋ね始める。
「紹介しておこう、彼の名前は田中さんだ」
「田中です、どうぞよろしく」
「あの、悠介さん。田中さんって、一体何者なんです?」
「田中さんは、私達の活動に賛同し協力を申し出てくれたんだ。イノベーター、そして、組織を率いる海道 義光の野望を阻止する為にね」
「「っ!!」」
悠介社長の口から告げられた説明を聞き、驚愕するバン達。
一方凛空は、準備が整い次第シーカーとの正式な協力関係を結ぶ、と以前田中が話していた事を思いだし、遂にその時がやって来たのだと悟った。
「けど兄さん、申し出はありがたいが、そんな簡単に信用していいのか!?」
「拓也、残念ながら今の私達では、イノベーターと正面から対峙する事は出来ない。だが、田中さんの協力を得られれば、それも可能になる」
「この人にそれ程の力が?」
「あぁ、私はあくまでも代理人に過ぎません。誠に力があるのは、私の上司の方です」
「上司?」
「そうです。生憎と、依頼人である私の上司は、この国の、そして国民のより善き未来を目指し日々奔走している故、こうして私が代理人として足を運んだ次第なのです」
「成程、そう言う事か……」
田中の言葉に、今一つピンと来ていない様子の拓也。それに対して、八神は、何かを察した様子。
「このビルに入る際に感じた視線は、貴方の手引きによるものか」
「おや、流石は元黒の部隊の司令官。そうです、万が一を考慮し、安全策としてこの本社ビルの周辺に私の部下を配置しておきました」
「おい、どういう事だ?」
「彼は……、いや、彼の上司は確かに信用できる。そして、その人の協力は我々にとって大いなる力になるという事だ」
今だ理解が追い付かない拓也を他所に、八神は話を締めくくる。
「拓也さん、もう迷ってる暇はないと思います。エターナルサイクラーの製作に必要な鍵が揃った以上、イノベーターはアキハバラタワーのように、これまで以上に強引な手段で奪い取ろうとしてくる筈です。その時、田中さん達の協力なしに、守り切れる自信はありますか?」
「それは……」
更に、凛空の投げかけた質問に、言葉に詰まる拓也。
「……分かった、受け入れよう」
そして、暫し悩んだ末、拓也は田中の協力を受け入れるのであった。
こうして話が一段落した所で、悠介社長が新たな話題を切り出し始める。
「そうだ、皆にもう一つ伝えておかなければならない事がある」
「兄さん、それは一体?」
「田中さんの上司の口添えによって、サイバーランス社やプロメテウス社等、国内の競合他社が垣根を超え、対イノベーターでの協力関係が築かれる事となった」
悠介社長の口から告げられたのは、更なる衝撃の事実であった。
自分達の知らない間に、事態がとんでもない規模にまで膨れ上がっていた事に驚きを隠せない一行。
そんな一行を他所に、悠介社長は更に話を続けた。
「あぁ、丁度、西原社長と郷田社長の二人と通信がつながった所だ」
刹那、悠介社長は徐に社長机に設置された通信機器のボタンを押す。
すると、二つの空中ディスプレイが出現し、それぞれのディスプレイに、蔵土と郷田社長の姿が映し出された。
「親父!」
「ははは、驚いたか、ハンゾウ」
「ったく、協力するならするで、事前に一言ぐらい相談してもよかったんじゃねぇか?」
「いいかハンゾウ。これはな、高度に政治的な判断が求められる事で、幾ら息子のお前であっても軽々に相談していいものじゃないんだ、分かったか?」
早速親子の会話を繰り広げるハンゾウと郷田社長。
一方、凛空と蔵土の親子も、親子の会話に興じ始めた。
「今朝ぶりだな、凛空」
「うん。でも驚いたよ、知らない間にこんな事になってたなんて」
「郷田社長も言っていたが、この一件は慎重に慎重を重ねなければならなくてな。それ故に、お前に相談もできなかったのは、本当にすまないと思っている」
政界の大物である海道 義光と対決姿勢を取る、勝てば、会社にとっては大きな成長の糧となる。
しかし、負ければ、会社が危うい立場に立たされることは想像に容易い。
自身のみならず、多くの社員達の行く末すらも左右する。
今回の決断の重大性を理解している凛空は、蔵土に、その判断を尊重する旨を伝えるのであった。
「そうだ凛空、もうすぐ嶺部長が、お前の為に調整していた新しい機体と共にそちらに到着する筈だ」
「え、本当!?」
「と、そろそろ次の会議に出なきゃならない。凛空、頑張れよ」
「ありがとう、父さん!」
そして、蔵土との通信を終えたのと時を同じくして、郷田社長との通信も終了するのであった。
対イノベーターでの協力関係があらかた判明した所で、いよいよ本題に入る。
「悠介さん、これが、プラチナカプセルの解読コードです」
バンの手からUSBメモリーを受け取る悠介社長。
「本当に、皆よくやってくれた。これで、エターナルサイクラーのサンプルユニットを作る事が出来る」
「サンプルユニットさえ完成すれば、海道大臣が推し進めている"地殻動発電"計画の強力なカウンターになりますね」
「地殻動発電? 何だそりゃ?」
「ニュースで聞いた事があるわ、確か、海底火山を意図的に噴火させて、その際に生じた莫大なエネルギーを発電に利用して、膨大な電力を得る計画よ」
悠介社長と田中、二人のやり取りの中に出てきた地殻動発電なる計画に疑問符を浮かべるハンゾウ。
すると、概要を知るアミが補足説明を行う。
「確か、近々行われるエネルギー問題対策評議会で、計画を認可かするか否か、その評議が行われるという話を聞いた事がある」
「そうだ。だからこそ、評議会が行われ認可が下りるその前に、なんとしてもエターナルサイクラーのサンプルユニットを完成させなければならない」
「あの、どういう事ですか、悠介さん?」
今だに要領を得ないバン達に、悠介社長は改めて説明を始める。
「地殻動発電は、海道 義光と先進開発省の推進派が中心となって推し進めている計画で、太平洋沖に建設された実験施設の建設には、海道建設や神谷グループが関わっている」
一拍置き、悠介社長は更に説明を続ける。
「一般的には次世代発電の大本命と言われているが、実際には、この発電方法はとてつもない危険性を孕んでいる。即ち、地球全体の地殻バランスを崩しかねない危険なものなのだ」
「「えぇ!?」」
「実は、以前から一部の学者が、この地殻動発電の安全性を疑問視する論文を発表していた。……だが、海道 義光はそれら計画の妨げとなるものを全てもみ消し、最終的な認可を待つまでに至った」
「そんな……」
「それじゃ、もし計画が認可されて実験が行われたら……」
「海道の野郎は、地球がどうなってもいいのかよ!?」
「目的のためには手段を選ばない。それがあの男、海道 義光だ」
一国どころか、最早地球規模での命運がかかっていると知り、余りの重大さに言葉が出ないバン達。
「もし実験が行われれば、想像もつかない悲劇が地球全体を覆うだろう。そして、財前総理は計画を認可した責任を問われ失脚、そうなれば海道達は政府を牛耳り、この国を……。いや、もしかすると実験の被害による混乱に乗じて、世界をも牛耳ろうとしているかもしれない」
悠介社長の説明を聞き、八神は、海道 義光の底知れぬ欲深さに対する怒りから、握り締めた拳を震わせた。
「そんな悲劇を引き起こさせない為にも、地殻動発電計画の認可を取りやめさせる必要がある」
「その為の、エターナルサイクラーのサンプルユニットですか?」
「そうだ。無限稼働機関であるエターナルサイクラー、これをコアとした"無限動力発電所"。地殻動発電よりも安全でクリーンなこの次世代発電を、私はエネルギー問題対策評議会で提案するつもりだ」
「成程、地殻動発電よりも安全で安定した発電方法があれば、地殻動発電計画そのものが白紙化になるという事か!」
「その通りだ。だからこそ、エターナルサイクラーのサンプルユニットを一刻も早く完成させなければならない」
話のスケールが大きすぎて実感が湧かない様子のハンゾウ等を他所に、悠介社長は説明を終えると、早速サンプルユニットの製造に取り掛かるべく、開発部の社員に招集をかける。
「お話は、聞かせてもらいましたよ」
と、その時。
不意に、社長室にとある人物が足を踏み入れる。
「貴方は?」
「あ! 嶺部長!」
それは誰であろう、嶺部長であった。
「凛空君、この方はもしかして?」
「はい。サイバーランス社でプロジェクトMSの開発チームのリーダーを務めている嶺部長です」
「はじめまして、嶺です」
「成程、貴方がそうでしたか、お噂はかねがね」
悠介社長は嶺部長と握手を交わすと、早速先ほどの発言の意味を問い始める。
「事は一刻一秒を争うのでしょう? ならば、人手は一人でも多い方がいい。技術者の端くれとして、私も微力ながらお力をお貸しします」
「よろしいのですか?」
「えぇ、必要とあれば協力するようにと、西原社長から仰せつかっておりますから」
「感謝します」
発言の意味を理解し、悠介社長は嶺部長に深々と頭を下げた。
「と、本来の目的を忘れるところだった。凛空君、これを」
刹那、嶺部長は手に持っていた銀色のアタッシュケースを凛空に差し出す。
受け取った凛空は、早速中身を確認する為に、アタッシュケースを開く。
アタッシュケースの中に入っていたのは、白を基調とし、胸部に青、腰部や脚部が赤く塗装された、所謂トリコロールカラーの機体。
額のV字型ブレードアンテナ、人の目を模したツインアイ、そして、シンプルな、人間に近い機体形状。
後のシリーズにおいて"ガンダムタイプ"と呼ばれる機体群の基本となり、原作においては、"連邦の白い悪魔"と呼称された伝説の機体。
その名を、"ガンダム"。
そんな同機に対し、命中精度向上のためのディスク・レドームを備えた大型のビーム砲、そして六連装ミサイルポッドを配し、更に二基の大型ロケットブースターを備えた大型のバックパック。
小型ミサイルを内蔵し、スラスターを備えた追加装甲を、肩・腰・脚部に施し、右腕部には外装部にシールドを備えた二連装式ビームライフルを装備している。
正史とも、サンダーボルトとも異なる、
その名を、"
これこそ凛空が、原作とは異なる"もう一つの未来"を切り開く為に準備していた、新たなる力の名であった。