うちの父親は変態企業の社長です   作:ダルマ

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明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。


反撃の狼煙

 薄暗く、人気のないシーカー本部。

 そんなシーカー本部に、二つの人影があった。

 

 一人は、仕立て上げたばかりの白いスーツを身に纏った拓也。

 そしてもう一人は、アルテミス以来、行方知れずとなっていたレックスであった。

 

「聞いたぞ。凛空の意識が戻ったそうだな」

「あぁ……。しかし、雲隠れしてのに一体何処で耳にしたんだ、凛空が撃たれた事?」

「ふ。連日、あれだけ大々的にニュースで取り上げられちゃ、嫌でも耳に入るさ」

 

 アキハバラ交差点での銃撃事件。

 被害者である凛空がサイバーランス社の御曹司という事もあり、新聞やテレビ、更にはネット等。ありとあらゆるメディアがこぞって取り上げていた。

 

「で、犯人の女は?」

「田中さんの話では──」

 

 事件の犯人であるチーム・ビーハイヴファミリーのリーダーの女性は、その後間もなく、駆け付けた警察官に逮捕され、警察署で取り調べを受ける事となった。

 取り調べには田中も立ち会い、事件の全容を把握するべく、徹底的な取り調べが行われた。

 その結果判明したのが、敬愛するビーハイヴファミリーの首領キラー、逮捕された彼の釈放を条件に、彼女がイノベーターから凛空とバン、二人の殺害依頼を請け負ったというものであった。

 

「成程な。つまりその女も、イノベーターの被害者みたいなもんか」

 

 しかしながら、彼女が依頼を遂行したとして、イノベーター側がキラーの保釈に動いたかどうかは疑問が残る。

 というのも、事件発生後、現場からエターナルサイクラーのサンプルユニットが入ったアタッシュケースが忽然と姿を消しているのが判明し。

 更には、事件が緊急速報として伝えられタイニーオービット社内が騒然となる中、何者かがエターナルサイクラーの設計図のデータを消去する等。

 イノベーター側は当初から、彼女を上記の作戦を完遂する為、シーカー側の注意を引き付ける"囮"として、使い捨ての駒程度にしか見ていなかった可能性がある。

 

 最も、これらは田中が彼女の証言や状況証拠をもとに推理したものであるが、八神の見立てでは、事件の真相は概ねこの通りだろうとの事。

 

「はぁ……、完敗だ。今回は完全にしてやられたよ」

「奪われたサンプルユニットは仕方がないとして、設計図のデータの復旧はできないのか?」

「復旧は可能だ。今、結城達が全力で取り組んでいる」

「なら、まだ諦めるには早いんじゃないのか?」

「それは、そうだが……」

 

 今回の一連の騒動で、シーカー側は手痛いダメージを負った。

 だが、それでもまだ、完全に敗北したという訳ではない。希望の光は、まだ残されている。

 

 にも拘らず、今の拓也は弱気であった。

 

「拓也、しっかりしろ! お前は、兄貴の意志を継いだんだろ!」

「……」

 

 レックスの叱咤激励の声が飛ぶ中、拓也はふと、昨晩の悠介社長とのやり取りを思い返していた。

 

 

 

 

 それは、事件から三日が経過した昨晩の事。

 その日の業務を終えた拓也のもとに悠介社長から連絡が入り、拓也は社長室へと足を運んだ。

 

「兄さん、話って何だ?」

「その前に、一杯どうだ。霧野君の淹れてくれたものではないが」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべる悠介社長。そんな彼の手から珈琲の入ったカップを受け取った拓也は、一杯口にすると、早速用件の内容を尋ねる。

 

「その前に、聞いたか拓也。先ほど病院から連絡があり、凛空君が目を覚ましたそうだ」

「あぁ、俺も呼び出される前に聞いた」

 

 田中の部下達の迅速な応急手当、更には、使用された銃の口径が比較的小さかった事などもあり、凛空は九死に一生を得る事が出来た。

 しかし、意識が回復するかどうかについては予断を許さない状態であったのだが、それも、めでたく解消される事となった。

 

 だが、そんなめでたい筈の一報を受けた悠介社長の表情は、晴れないでいた。

 

「兄さん?」

「今回の失態は、全て私の"甘さ"が招いた結果だと思っている」

「っ! 何を言ってるんだ、兄さん! 兄さんは一生懸命──」

「いや、これは私の責任だ」

 

 拓也の言葉を遮るように、自身の責任だと断言する悠介社長。

 そして、一拍置いた後、悠介社長は再び話を始めた。

 

「だからこそ、私は、本日をもって、タイニーオービット社社長の職を辞する事にした」

「な!?」

 

 突然の辞任表明に、拓也は言葉を失う。

 だが、直ぐに我に返ると、矢継ぎ早に話を始めた。

 

「辞めるって、幾ら何でも突然すぎる! 大体、なぜ今なんだ! 辞めるのなら、イノベーターとの戦いが終わってからでもいいじゃないか!」

 

 しかし、悠介社長の決意は固い様で、拓也の説得に応じる気配はない。

 

「大体、一体誰が、兄さんの後を継いでこの会社を引っ張っていくって言うんだ!?」

「拓也。次の社長は、お前だ」

「っ!!」

 

 刹那、拓也の目を見据えながら放たれた悠介社長の言葉に、拓也は再び言葉を失った。

 

「本来なら、もう少し色々と修業を積んでから継いでほしい所だったが、こうなっては致し方がない。業務の方は、霧野君達のサポートもあるから、少しづつ慣れていくといい」

「……だよそれ。何だよそれ! 幾ら何でも勝手が過ぎるぞ、兄さん!!」

「今まで散々、お前の尻拭いをしてきたんだ。だから今回は、私のわがままを聞いてはくれないか?」

「だが……」

「それに、私の意志を引き継げるのは、お前しかいないと思っている」

 

 そこで一旦話を終えると、悠介社長はカップに残っていた珈琲を飲み干した後、私物などを入れたビジネスバッグを手に取る。

 

「明日からは、ここ(社長室)がお前の職場だ。頼んだぞ、拓也」

 

 そして、拓也の肩に手を置いた後、悠介社長は扉に向かって歩み出す。

 

「兄さん!」

 

 刹那、拓也の声に、悠介社長は振り返る事無く歩みを止めた。

 

「最後に聞かせてくれ。兄さんは、この先一体どうするつもりなんだ?」

「……実は、今回辞任に際してある人に相談した所、その人から、是非うちに来ないかとお誘いを受けてね」

「それは一体?」

「サイバーランス社の西原社長だ」

「っ! 凛空の父親か! ……それはつまり、兄さんなりの贖罪なのか?」

「どう思おうがお前の自由だ。ただ一つ言えるのは、明日からは、私とお前はライバルになるという事だ」

 

 刹那、悠介社長は再び歩み出し始める。

 

「拓也、頑張れよ」

 

 そう言い残し、悠介社長は社長室を後にする。

 そんな悠介社長の後ろ姿を、拓也は何も言わずに見送るのであった。

 

 

 

 

「おい拓也、聞いてるのか!?」

「……あ、あぁ、すまない」

 

 レックスの声に、拓也は漸く回想をやめると、現在と向き合い始める。

 

「はぁー。本当に、新社長のお前がそんな調子じゃ、タイニーオービットはイノベーターに食い尽くされるぞ!」

「それは、一体どういう意味だ?」

「俺がここ最近雲隠れしていたのは、独自にイノベーターに探りを入れていたからだ」

 

 刹那、レックスは一拍置くと、更に話を続ける。

 

「そこで掴んだ情報によると、タイニーオービット社の役員である沢村は、イノベーターの内通者だ」

「何だって!? ……だとすると、沢村が設計図のデータを」

「それだけじゃない、沢村をはじめとした役員の殆どは、既にイノベーターの息がかかってる」

「っ! そんな……。は! まさか、兄さんが言っていた"甘さ"と言うのは……」

「おそらく、お前の兄貴はこの事実に薄々気づいていたんだろう。だが、ここ(タイニーオービット社)の役員の多くは、お前の親父さんの代から会社を支えてきてくれた人ばかりだ。だから、お前の兄貴は、彼らが裏切り者であっても恩を感じて解雇にまで踏み切れなかったんだろう」

 

 レックスの説明を受けて、漸く拓也は、昨晩の悠介の言葉を理解するのであった。

 

「失礼します」

 

 と、その時。不意にシーカー本部に新たな人影が現れる。

 

「霧野君」

 

 それは誰であろう、霧野であった。

 

「拓也、この方は?」

「彼女は兄さんの元秘書で、今は俺の秘書として、社長業務をサポートしてもらっている」

 

 レックスに霧野を紹介した所で、拓也は彼女に足を運んだ理由を尋ね始める。

 

「実は、是非とも見ていただきたいものがございまして」

「俺に?」

 

 すると、霧野は持っていたノートパソコンを起動し、それを拓也に見せた。

 ノートパソコンのモニターには、とあるデータが表示されていた。

 

「これは?」

「宇崎前社長が、海道 義光を告発する為に、汚職、陰謀、恫喝等々。海道 義光が関わった不正の数々を、命がけで調べ上げたものです」

「ほぉ、こいつはなかなかどうして、緻密な調査データじゃないか。これだけの証言や証拠を集めるのは、金も労力も、相当かかっただろうな」

 

 共に拝見してたレックスが舌を巻くほど、悠介の調査データは素晴らしいものであった。

 

「兄さん……、俺には、"過去を振り返るな"といつも言っていたくせに……」

 

 自分達の父親である、タイニーオービット社の初代社長宇崎 彰一郎(うざき しょういちろう)

 彼の死後、拓也と悠介の二人は、父親の死が海道 義光の謀略によるものだという事実を知る。

 それを知った当時の拓也は、復讐の念から、その事実を世間に公表しようと主張した。だが、当時の悠介はその主張を退け、それどころか、穏便に済ませるようにと主張した。

 

 この一件で、二人は仲違いする事となるのだが。

 

「負けたよ、兄さん」

 

 あれから数年の月日が経過し、拓也は漸く、悠介の意志を理解した。

 

「その顔、どうやら腹を括った様だな」

「あぁ。兄さんの戦いは、意志は、俺が引き継ぐ!」

 

 刹那、拓也は表情を引き締める。

 

「霧野君。明日の新社長就任式について、これから打ち合わせを行いたいのだが、構わないか?」

「はい、かしこまりました!」

 

 そして、拓也の指示を受けて退室した霧野を見送った所で、レックスが拓也に言葉を投げかける。

 

「お前ならやれるさ」

「ありがとう、檜山」

 

 刹那、友からの激励を受けた拓也も、シーカー本部を後にする。

 

「さてと。俺も、そろそろ行くとするか……」

 

 そして、最後に残ったレックスも、不敵な笑みを浮かべ、シーカー本部を後にするのであった。

 

 

 

 

 翌日。

 新社長就任式が行われる会場に、タイニーオービット社の社員並びに役員が勢揃いする中。

 時間と共に、拓也が姿を現し、壇上に向かって歩みを進める。

 

 そして、壇上に立った拓也は、一度会場を見回した後、マイクに向かって話を始める。

 

「私が、タイニーオービット社の新社長に就任した、宇崎 拓也だ! 私は、兄である悠介の意志を継ぎ、タイニーオービットの更なる発展を目指し、尽力する所存だ」

 

 一拍置いた後、拓也は更に話を続けた。

 

「そこで、社長として、私が最初にやるべき事……」

 

 刹那、拓也は役員席を一瞥し、そして、声を張り上げ言い放った。

 

「それは、本日付けをもって、我が社の役員を"全員"……、"解雇"する事だ!!」

「「なっ!!」」

 

 次の瞬間、会場内にざわめきが起こる。

 当然だろう、就任の開口一番、役員を全員解雇すると宣言したのだから。

 

 

 しかし、驚いていたのは、何も会場内にいた人間だけではなかった。

 新社長就任式を中継で見ていたシーカー本部の面々、更にはそこに居合わせたアミやカズ達。

 

 そして、拓也の計らいで、入院先の病院の個室で中継を見ていた凛空とミカの二人も、この決断には驚きを禁じ得なかった。

 

「拓也さん、随分と思い切ったね」

「ん。でも、大丈夫なのかな、会社」

「多分、霧野さんもサポートしてくれるから大丈夫じゃないかな」

「ん、そっか」

 

 その後、タイニーオービット社の経営の舵取りについて心配しつつも、中継を見終えた凛空とミカは雑談を始めた。

 

「所で、ミカ」

「何?」

「その服って……」

「ん、凛空は、こういうの、嫌い?」

「ぜ、全然嫌いなんかじゃないよ! 寧ろ、嬉しい、かな」

「よかった」

 

 その中で話題に上がったのが、ミカの服装について。

 今のミカは、見慣れた青と黒のボーダー柄の服ではなく、青を基調としたナース服であった。

 

 当然、凛空が入院している病院から貸してもらった物等ではなく、ミカが持参した物である。

 

「でも、どうしてナース服?」

「ん、今日、凛空のお見舞いに行くってオタクロスに連絡したら、『この服を着てお見舞いすれば凛空も忽ち元気になるデヨ』、って言って持ってきてくれた」

「成程……」

 

 とはいえ、ミカ自身が進んでナース服を着るような性格でない事は凛空も理解していた。

 そこで理由を尋ねた所、ミカの口からオタクロスの名前が飛び出し、凛空は漸く合点がいき肩をすくめた。

 

 しかし、結果的に普段見られないミカの新鮮な姿を見られる事になったので、凛空は内心、オタクロスにグッジョブと感謝するのであった。

 

「はい、凛空。あーん」

「あーん」

「おいしい?」

「うん、とっても」

 

 その後、ミカが剝いてくれたうさぎりんごを食べさせてもらう等。

 時間がくるまで、凛空はミカと楽しい一時を過ごすのであった。

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