最終決戦に向けて家族との大切な時間を過ごす者もいれば、馴染みの店に足を運ぶ者もいる。
決戦に備えて念入りにLBXの整備に精を出す者もいれば、いつもの様に過ごす者もいる。
思い出の場所に足を運ぶ者もいれば、思い出の詰まった我が家で過ごす者もいる。
こうして決戦前の最期の一時を過ごし、改めて決意を胸に灯した少年少女達は、一路シーカー本部へ向けて足を運んだ。
サターン発射までのタイムリミットを告げるカウントダウンが残り3時間に迫る中。
物々しい雰囲気に包まれたシーカー本部内では、拓也の口からサターン発射阻止作戦の概要の説明がなされていた。
「サターンの発射予定時刻は20時、その30分前には研究所内の人員は安全確保の為に安全区画に退避し、研究所内の警備は手薄になる」
そこで一拍置くと、更に説明を続ける。
「俺達はそのタイミングを狙いサターンの発射を阻止する!!」
拓也の言葉に、聞き入っていた面々が静かに頷く。
「その要となるのが地上からの潜入部隊だ。……だが、警備が手薄になるとはいえ万が一のあり得る。そこで、潜入を確実なものとするべく、陽動部隊による陽動作戦を行う!」
「陽動作戦?」
曰く、ロンド・ベルが陽動作戦を担当し、その内容は以下の通り。
陽動部隊はエクリプスに乗り込みイノベーター研究所付近の空域まで移動、そこからド・ダイ改を使ってイノベーター研究所に対しLBXによる空挺強襲を仕掛ける。
因みに、エクリプスは陽動部隊の移動手段だけではなく、潜入部隊の回収の任も帯びている。
「では、潜入部隊のメンバーだが──」
陽動作戦の説明が一通り終わった所で、本作戦の肝となる潜入部隊のメンバーが発表される。
バン・カズ・アミ・凛空・ミカの他、ジン・ハンゾウ・キヨラ、更に拓也と里奈の合計十名。
なお、潜入部隊や陽動部隊のメンバーに選ばれなかった残りの面々に関しては、予備戦力としてエクリプス内で待機する運びとなった。
「最後に、分っているとは思うが、この作戦に失敗は許されない! 故に、皆の奮戦に期待する、以上!!」
拓也の力強い締めの言葉と共に、各々が与えられた役割を果たすべく動き出した。
十数分後。潜入部隊のメンバーに選ばれた十名は車上の人となっていた。
拓也の運転する車でイノベーター研究所の近くまで移動する為である。
車窓から見える景色が都会から木々や山々などの自然一色となった頃、漸く車が停まった。
場所はトキオシティの北西部にあるとある山中、既に時刻が黄昏時を過ぎたという事もあり、また場所柄道路灯のようなものもない為、月明りだけが頼りであった。
そんな月明りの下、一行は里奈の先導のもと、ひたすらに山道を歩き続ける。
「凛空、大丈夫?」
「ありがとうミカ。でも心配しないで、あるくエンジェルのお陰で山道も平気だから」
「ん、分かった」
舗装などされていない凹凸の激しい山道は今の凛空には負担が大きいかも知れないと心配するミカ。
しかし、あるくエンジェルの謳い文句は伊達ではないらしく、寧ろその足取りはミカやバン達よりも軽そうに見えた。
そんなやり取りを挟みつつ山道を歩き続ける一行。
やがて、一行の目の前に開けた場所が姿を現す。
所々ツタや雑草に覆われたプラットホーム、乱雑に置かれたコンテナ、錆びついた線路にトロッコ、山の中へと続く漆黒のトンネル。
そして、トンネルの反対側に広がる広大な湖。
「ここが、目的地よ」
「えぇ、ここが!?」
「でも、それらしい施設なんて何処にも……」
「おいおいおい、まさかイノベーターの研究所ってのは湖の中にあるのか!?」
里奈の言葉に、事情を知る拓也と里奈、更に凛空やジン以外の面々は困惑せずにはいられなかった。
「皆落ち着いて、一見湖に見えるけど、この湖の水は全て"ホログラム"なの」
「「えぇ!?」」
里奈の語った衝撃の事実に、バン達は驚愕する。
刹那、まだ半信半疑だったのか、カズが徐に自らの手を湖の中に入れる。
「うぉ、本当だ!! 水の感触が全くねぇ! かがくのちからってすげー!!」
刹那、科学の力の素晴らしさに感動するカズ。
そんなカズを他所に、拓也は自身の腕時計で現在の時刻を確認すると、この後の行動について説明を始めた。
「間もなく陽動部隊による作戦が開始される。俺達は、陽動作戦が開始されイノベーターの注意が陽動部隊に向いたのを見計らい、一気に研究所中枢まで突入する!」
「「はい!」」
各々から返される力強い返事に安心感を覚えつつ、拓也はその時が訪れるのを静かに待つのであった。
月夜の大空を悠然と飛ぶ巨大な怪鳥。その正体は、機内に幾多もの戦士達を内包したエクリプスだ。
その機内では、内包された小さな戦士達が、今まさに出撃の時を迎えようとしてた。
「各機の接続状態、問題ありません」
「作戦空域の風速約7ノット、飛行に問題なし」
「乱気流などの発生も確認されていません」
「よし……」
エクリプスの操縦室内、オペレーターからの報告を受けた嶺警部は静かに呟く。
次の瞬間、今一度表情を引き締めると、嶺警部は力強く号令を下した。
「作戦開始!!」
刹那、エクリプスのLBX用発進口から、ド・ダイ改に搭乗した第一陣となるLBX群が発進していく。
「では八神教官、後は頼みます」
「気をつけてな、嶺」
程なく、モニター越しにその様を見届けた嶺警部は、八神に見送られながら操縦室を後にすると、自身も第二陣として陽動作戦に参加するべくコントロールポッドに急ぐのであった。
一方その頃、エクリプスを発進した第一陣は、月明りの夜空の中、イノベーター研究所を目指し突き進んでいた。
「全機、この高度を維持して研究所を目指す」
「「了解!」」
集団の戦闘を飛ぶド・ダイ改、同機に搭乗した機体は一見するとズゴックに見える。しかし同機は、ズゴックにしてズゴックにあらず。
ズゴックをベースに、肩や腰部にフェアリングを兼ねた装甲の追加や脚部の形状変更など、細部に設計変更が施されただけではなく。
水中用の推進機能を下半身に移設し、陸上用のスラスターを本体に内蔵した事で、ズゴック以上の陸戦能力を手に入れた。まさに最強の水陸両用LBXと呼ぶに相応しい機体。
その名を、"ズゴックE"。
そんなズゴックEに率いられるのが、ゴッグのコンセプトを元に新規設計された機体。
モノアイの形状の他ショルダーアーマーを可動式のものに変更、更に新技術の導入により小型軽量化にも成功し、加えて機動性の向上や総合火力の向上も果たしている。
その名を、"ハイゴッグ"。
そんな二機種で構成された陽動部隊の第一陣は、暫し月夜のフライトを堪能した後、目的のイノベーター研究所上空へと到達した。
「全機、研究所降下後は予定通り行動しろ。何としても潜入部隊の潜入を成功させるんだ!」
「「了解!!」」
刹那、第一陣のLBX群がド・ダイ改を離れイノベーター研究所へと降下を始める。
「さーて、それじゃ派手におっぱじめるぜ!!」
その最中、一機のハイゴッグが腕部のオプション装備であるハンド・ミサイル・ユニットを使用する。
更に、他の機体もハンド・ミサイル・ユニットを使用し、多数のミサイルがイノベーター研究所の一角に降り注ぐ。
次の瞬間、複数の爆発が発生すると同時に、イノベーター研究所内に警報が鳴り響く。
「へへへ、いい目印だ」
誰かが呟いた言葉の様に、第一陣のLBX群は爆炎を目印に次々とイノベーター研究所へと降下を続けた。
そして、背部に装備したブースターパックを逆噴射し減速の後着地すると、イノベーター側の注意を引くべく派手に暴れ始めた。
「複数のLBXによる敵襲だ! 繰り返す、複数のLBXによる敵襲!! ブラウンチームは直ちに迎撃に当たれ!!」
刹那、降り立った第一陣のLBX群を迎撃するべく、イノベーター製LBX達が次々と姿を現す。
「デクータイプって奴か、面白れぇ」
その内の一機であるデクーカスタムRは、物陰にいたハイゴッグを捉えるや、装備しているスキャッターガンを撃ち始める。
次々と飛来する弾丸がハイゴッグの肩や頭部の装甲を掠める。しかし、ハイゴッグの操縦者は慌てる事無く、冷静に、腕部に内蔵されたビーム・キャノンで応戦する。
次の瞬間、放たれたビームがデクーカスタムRの腕部を撃ち抜く。
すると、制御不能となったスキャッターガンは発砲を続けながら円を描き、やがて、デクーカスタムRを蜂の巣にした所で漸く停止するのであった。
また別の場所でも、ハイゴッグが自慢の機動性を生かし懐に飛び込むと、デクーカスタムRに対してゼロ距離のビーム・キャノンをお見舞いする等。
戦局はロンド・ベル側の有利に進みつつあった。
「隊長、迎撃に出てくるLBX、どいつもこいつも動きがワンパターンだ」
「サターンの発射前で人手を割けなかったんですかね? いずれにせよ、この分なら自分達だけでも片を付けられそうです」
数こそ多いものの、何れも自律型らしくその動きは単調なものばかり。
これには腕に覚えのある隊員達も少々拍子抜けした様子。
「お前たち油断するな! ここは敵の本拠地だ、この程度で終わる筈はない」
だが、直後に隊長の活が入り、隊員達は再び気を引き締める。
とその時、彼らの前に新たなイノベーター製LBX達が姿を現した。
「さぁ来たぞ、ここからが本番だ!! 間もなく第二陣も到着する筈だ。お前たち、気合入れろ!!」
「「応ッ!!」」
隊員達の力強い言葉と共に、戦いは次なる局面に突入するのであった。
一方、陽動作戦が始まり、予想通りイノベーター側の注意が陽動部隊に向いた事を確認した拓也達は、この機を逃さず研究所への潜入を開始。
ホログラムを抜けた先、近未来的な構造物の数々が目を引く研究所敷地内をひた走り、やがて、とある扉の前で足を止めた。
「待ってて、今開けるわ」
里奈が手にしたタブレット端末を操作し扉のロックを解除する。
刹那、一行は扉を潜り研究所内部へと足を踏み入れる。
「あれは?」
それから暫く、通路をひた走っていた一行だが、とある通路に足を踏み入れた所で不意に足を止めた。
その通路は片側がガラス張りとなっており、その向こう側には巨大なロケットが鎮座していた。
「もしかして……」
「間違いない。これがサターンだ」
衛星画像や概略図では感じられない、直接目にしたからこそ感じられるサターンの威容。
その圧倒的な姿に、一行は息を呑む。
「発射させる訳にはいかない、絶対に!」
そんな中、バンは自身を奮い立たせるように決意を口にする。
すると、他の面々もそれに同意するかの如く頷くのであった。
「時間がない、急ぐぞ!」
刹那、拓也を先頭に、一行は再び走り始めるのであった。