【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】 作:しろとらだんちょー
スレ民に相談してから迎えた休み明けの月曜日。
具体的な解決策は何一つ教えちゃくれなかったが、これからの俺の身の振る舞い方として「当事者意識」を持つ事を勧められた。
起きる争いの内容すら知らずして「当事者意識」とは自分としても片腹が痛いが、少しでも争いが収まるように立ち回って、それで得たノウハウ的なやつを今後モテる為に使えたらいいんじゃなかろうかと思う。
てか思ってた。
机の上に並べられた〝二つの弁当箱〟を発見するまでは。
「……」
ちらりと教室の外を見る。見覚えのある二人が、扉の影に隠れるようにしてこちらの様子をうかがっている。普段は俺の机の周りに張り付いていたあいつらが、今日に限っていなかったのはこういう事なのか。
俺は試しに黒く無骨な弁当箱の方に手を伸ばす。
「あっ…!取れっ…!それっ、取れっ…!」
見た目ヤンキーの
「…!!それだっ…!そっちの方が絶対に美味しいっ…!」
見た目王子様の
「…とりあえず中身を…」
「ううおおおおおっしゃあああ!!どーだ!!俺の勝ちだぞ!!てめぇのきったねぇ弁当なんざあいつは好きじゃねぇんだよ!!!!」
「ええっ…?」
とりあえず中身を確認してから判断しようと思ったら、突然教室中どころか校舎中に響き渡る大声で花梨が喜んだ。かたや樒の方は、この世の終わりのような絶望した表情で膝を着いていた。
「何で、何で、何で…!そんなの君に相応しくない。そんなの君に必要ない…!!」
…いつもなら傍観気味だったこの光景も、何となくヤバいという事だけは理解できた。おそらくここは修羅場になるんだろうけど、残念ながらそれを止める力は俺にない。もちろん思考停止とかをした訳じゃなくて、当事者である事を意識しての結論だから仕方ないと思うんだ。
「ふぅ~!勘違い野郎をぶちのめしてスカッとしたぜ!!よし、桔梗!俺と一緒に飯食おうぜ!あーん♡ってしてやるよ」
「…あまり、調子に乗るなよ溝女。まだ桔梗は手に取っただけだ、肝心の中身を見てから決めて貰おうじゃないか」
「あぁ~?最初に手に取った方が勝ちって言ったの誰だっけなぁ?負け惜しみもいい加減にしとけよ、お前のかっこいい(笑)姿期待してるファンから幻滅されるぞ~?」
「ふふっ、中身がお粗末だから手に取っただけで喜んでしまったのかな?それだったら無理もない。そこで薄っぺらい喜びに浸っているといい」
「…あぁ?」
「いいね……そんな余裕のない醜い顔がお前にはお似合いだよ」
仕方ないと思うんだ。険悪な空気のまま徐々に距離を詰められるのはあまりいい気分ではないから、少しでも空気を良くしてから来てほしいものだ。けれど現実は無情。空気はそのまま、あっという間に目の前まで来てしまった。
「
「桔梗ぉ、俺の弁当はてめぇが好きそうなものだけ入れたから絶対美味いぜ?だからほら、そのまま開けてみろよ」
あれ?これもしかして先に開けられた方が勝ちみたいなルールになってる?遠くから聞いた限りじゃそんな事はなかったような気がするんだけど、この重圧から鑑みるに多分そういう要素は含んでいるんだろう。
まぁでも、普通に考えれば今触っている花梨の弁当箱から開けるのが妥当だろう。そう思って俺は花梨の弁当から開けた。
「おおぉ…」
中身はハンバーグやスパゲッティ、唐揚げなどが敷き詰められていた。男の望むおかずを見事に把握しているその中身に、俺は思わず声を漏らす。その反応を見て花梨は自慢げに鼻息を鳴らし、樒はこれ以上なく冷ややかな目をしていた。
樒の様子があまりにも怖いので、花梨の弁当はほどほどにして樒の弁当を開ける。中身はサンドイッチやサーモンの燻製や生ハムが乗ったサラダなどが丁寧に飾られた、昼時にあるだけで優雅なひと時を過ごせそうな中身だった。
「うおおお…」
また俺は中身に圧巻されて声を漏らす。その反応に樒はこれ以上なく嬉しそうに笑みを零し、花梨は心底つまらなさそうに鼻で笑った。
「それで…どっちを食べるんだい?」
「あー…と」
「まぁ決まってるだろうけどな」
「あー…」
もしかしたら詰んだのかもしれない。どっちを選んでも荒れる未来しか見えないし、選ばなくてもそれ以上に荒れるだろう。まぁここはとりあえず唐揚げでも食べて落ち着いて考えよう。
「…あっ」
口に入れてから気付いた。悪手の中の悪手を選んでしまったことに。
「はっ、あははははっ♡あぁ、桔梗…♡食べたいんだったら言ってくれよ♡俺がいくらでも口に運んでやるのにさぁぁ♡」
「…何がっ、何が駄目だった?何が足りなかった?遠慮せずに言って?全部全部直すから。ねぇ、教えてよ桔梗。何が気に食わなかったんだ?」
もう言葉ではどうにもならないことを悟って、俺は樒の方も食べる。サンドイッチを大きめに頬張って、美味しさを精一杯の笑顔で伝えた。
「あ、あああぁぁ♡…どうだい?美味しいかい♡?」
「…何でだよ…いらないだろ…そんな…ゴミ…」
もはや俺には両方を順番に食べてこいつらを一喜一憂させるしか方法がなく、いちいち笑顔を振りまきながらなんとか昼休みを乗り越えたとさ。