【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】 作:しろとらだんちょー
お気に入りも増えてるし…やっぱ好きなんすねぇ!
「うーん…どうしたものか」
昨日の弁当事件から一日。学校創立の記念日のおかげで、一日中堕落した日々を送れている。というより、送るつもりだった。
『いきなりですまないが、もし今日の予定が空いていたら10時からお出かけでもしないか?もちろんお金は全部僕が持つよ。駅前で待ってるね』
『どうせ今日暇だろ?一緒に遊びにいこうぜ~。特別に俺が奢ってやるよ!駅前に10時集合な!』
この二つのメッセージが送られてくるまでは。
どちらか片方を選べば、どちらか片方からの重圧がすさまじいものになる事は明白だろう。かと言ってどちらも選ばなければ、明日の学校でのテンションがすさまじいものになる事も明白だろう。
つまり二人同時に遊ぶのが安パイ(悪手)と言える。が、肝心なのはどうやって二人同時に遊ぶ事を伝えるか。俺はそれを十分に考慮して、最大限の言葉選びで作った返信の文章を二人に送った。
『友達も一緒に来るけど大丈夫?』
まぁ及第点と言ったところだろうか。これならメッセージの時点では平穏そのものだし、断られる事もおそらくない。そして予想していた通り反応は早く、すぐにその文章の効果を知る事が出来た。
『問題ないよ。ただその人の分までは負担できないから伝えておいてね』
『別にいいけど、俺そいつと話さねぇからな?』
何か少々不穏な空気を文面から感じる気もするが、気のせいという事にした。それはもちろん当事者意識を持った上での
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「桔梗!こっちだよ!」
「桔梗ぉ!ここだここ!」
(…これはどっちに駆け寄るのが正解なんだろう)
時間に余裕を持って出発してから10分。駅前を目前にした時、俺の目には何故か既に一緒にいる二人が映っていた。どちらもまるで愛犬を呼ぶかのように手招きをして誘っていて、それに俺は直前で立ち止まってしまう。
まさか駅に来た瞬間から選択を迫られると思っていなかった。俺は仕方なく限りなく中間に寄った道を進む。二人が押し合いながら位置をずらしてくる度に中間を意識して歩くため、その不安定さはまるで平均台にでも乗っているようだった。
「おはよう桔梗!僕が買ったその服、着て来てくれたんだね。嬉しいよ、とっても」
「…なぁ、何で俺があげたブレスレットは着けてこなかったんだよ」
「着ける価値がないから、でしょ?」
「てめぇには聞いてねぇよ。黙っとけ」
「わぁ怖い。負け犬って何でこんなに怖いんだろうね、桔梗」
今同意を求められても困る。というよりも、話しかけられる内容全てが反応しづらい。似合うと言われたならいざ知らず、着ているだけで嬉しくなっているのは感謝や謙遜のしようがない。ブレスレットもそうだ。たまたま着け忘れただけなのに、それが喧嘩の発端になるなんて想像もつかない。
こんな事なら、当事者意識の次に必要な考えを教えてもらえば良かった。いくら意識を持ったところで、それに対処する考えや方法がなければ元の木阿弥も当然。これから始まるお出かけにも不安しかないが、両隣を挟まれてるからには逃げようがない。
「どこにいくの?」
俺はリードされているような制限されているような、覚束ない足取りで歩く。目的地さえ知っていればちゃんと歩ける(無理)のだが、何も知らされていないため後手後手のかっこつかない歩みになってしまっている。
「とりあえずゲーセン行ってプリクラでも撮ろうぜ!こんだけ一緒にいてても、〝二人だけ〟の写真って撮った事ないだろ?プリクラだと写りも良いしさ、桔梗も気に入ると思う!」
「ほー…」
「少し気になってるカフェがあってね、そこでお茶でもしないかい?色々と〝二人きり〟で話したい事もあるし、君が気に入りそうなメニューもあったんだ」
「へー…」
どうやっても三人でいる気はないらしい。ゲームセンターとカフェを同時進行できるはずもないし、俺はどんなスケジュールで過ごせばいいんだろうか。
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生死をかけたような
「良いでしょ?ここ」
「すごい…」
「はい、好きなの選んでよ」
差し出されたメニューには、普段目にしないような横文字の名前が連なっていた。ただどれも美味しそうなイメージを彷彿とさせる写真で、朝ごはんをあまり食べてこなかった事もあって俺はじっくりと悩む。
「うーん…これとこれ!」
「ふふっ、分かった。すいません、キャラメルクリームと抹茶シフォンケーキを一つずつください。あと……」
俺のメニューが決まった途端に、スマートに店員を呼んでくれる樒。妬みや嫉みからあまり直視してこなかったが、女子からの人気が半端ないというのも納得できる振る舞いだ。だから尚更分からない。こんなに完璧な人間が、どうして俺に固執するのかが。
「緊張する?」
「…結構」
しかしこんな場面で聞けるはずもない。いずれそういう雰囲気になったら疑問をぶつけてみるが、いずれそういう雰囲気になるのがいつになるのかも分からない。
「…ねぇ、僕って友達なのかな?」
樒が俺に質問してくれたおかげで、丁度良くそういう雰囲気になってくれた。質問の内容は深く考えるようなものではなく、俺は当然のように答えようとする。
「へ?いやもちろんそう…」
「僕達の仲って、友達程度のものなのかな?」
「……!」
が、やめる。思わず息を飲んでしまう程、濃い死の気配を感じたからだ。
「僕は別に怒ってる訳じゃないんだ。あんな奴と同じ文面で返された事も、事前に邪魔者が来る事を教えて貰えなかった事も、どうだっていい事なんだ。ただ、僕達の関係がたかが〝友達〟っていう言葉で終わらせられるのが、どうしようもなく悲しいだけなんだよ」
(…まさかそこで既にミスをしていたとは…)
当たり障りのない単語や文章を選んで送ったつもりだったが、どうやら単語の意味合いの認識がかなり違ったらしい。こればかりは自覚だけではどうしようもない。むしろここからどうやって立て直すかが力の見せ所だろう。
「あー…じゃあ親友」
「ん?」
「…じゃなくてー……」
初っ端から躓いてしまった。幸い起き上がるのが早かったから
「相棒、とか…?」
「……ふふっ、相棒かぁ。まぁ、今回はそれで我慢してあげるよ」
上機嫌になった樒を見るに、どうやら挽回は成功したらしい。俺は胸を撫で下ろして溜め息を吐くと、早々に運ばれてきたスイーツに手をかける。
「相棒は、二人も必要ないもんね」
…肝心のスイーツの味は、あまり感じられなかった。
あと遅くなってごめんね