【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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迫真の月一投稿
エタってないです


ヤンキー系と王子様系 番外(中)

「これは、一体…?」

 

「桔梗!」

 

「桔梗ぉ…!」

 

榊原樒と梔子花梨。二人が同じ一人の愛を欲しているが故になってしまった、修羅場という一言で片づけるには過ぎた場面。互いが縋るような瞳で入り口に現れた男を見つめ、その他のクラスメイトも同様に目線を向けている。

 

つまるところ、この場での平穏の全ては萩城(はぎしろ)桔梗(ききょう)という男に委ねられていた。

 

「なぁ…桔梗。大事って、言ってくれたよな。あれ…嘘なんかじゃないよな?ちゃんと…ちゃんと俺の事、見てくれてるよな?」

 

「いや、嘘ではないけど――」

 

「本当でもない、だろう?」

 

「…!」

 

桔梗の中の不明瞭な思いを花梨の濁りへと変えるため、核心に近しい言葉を発する樒。桔梗は分かりやすい動揺を見せた訳ではないが、微かな揺らぎでも花梨には大きく伝わる。それほどまでに精神状態は不安定だった。

 

しかしそれは樒も同じ事だ。

 

「るせぇよ…てめぇだって…大事すら言われてねぇくせに…!」

 

「…だとしたら、何だっていうんだ」

 

「結局、余裕面して俺と同じじゃねぇかよ。…てめぇも、何とも思われてない」

 

「…!!!」

 

取り繕った余裕はすぐに崩れ去り、瞳孔は限界まで開き切る。震える程固く握られた両者の拳は、いつ殴り合いに発展してもおかしくない事を表しており、当然それを含めた様子に桔梗も気が付いている。

 

(ヤバい…!!ヤバすぎる…!!!)

 

かつてない警報が鳴り響く脳内で、桔梗は走馬灯のように思考を巡らせていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「タバコって体に悪いらしいよ」

 

「…はぁ?」

 

とある休み時間の校舎の裏側。先端に火のついた白い棒を咥えて、いわゆるヤンキー座りで休憩している女子を見かけた。煙を吐き出すという行為を影から観察するまでもなくタバコであると分かっていたが、日和った俺は何回かその行為を確認した上で指摘した。しかも中学の保健体育で習うような当たり前の事を、ドヤ顔で。

 

「んだてめぇ…喧嘩売ってんのか?」

 

「いやいやいやそういうわけでは」

 

予想外の凄みに俺は再び影へと後退する。出しうる限りの親切心で話したのだから『ああ、そうだったんだ!やめるよ!』ぐらいの反応を期待していたけど、全然違った。むしろ喧嘩を売った人と勘違いされる始末…帰りたい。

 

「…さっさと失せろ。気持ち悪ぃ」

 

けど帰る前に一応何が体に悪いのか教えておいた方が良い気がする。漠然と知っているのと明確に知っているのでは差が激しいからな。もちろんこれも親切心だ。

 

「タバコにはニコチンとタールってのが含まれてて…」

 

「失せろよもう!!」

 

何故か過剰に反応されてしまったので帰った。そして何故か次の日も同じ場所で吸っていたので、親切心で続きを教えてあげた。

 

「でそのニコチンってのは高い依存性があって、なんちゃらアミンってのが血管をどうのこうのして…」

 

「……せめて全部調べて来い…いや、来んじゃねぇ」

 

「何でさ」

 

「気持ち悪りぃからだって言っただろうが」

 

「え~…」

 

しかし親切心に反して酷い事を言われたが、結局は次の日も同じ場所で吸っていた。

 

「タールは血液中のヘモグロビンと結合して全身の細胞を酸欠状態にして、運動能力の低下や動脈硬化を促進するんだってさ」

 

「…ちゃんと調べて来てんじゃねぇよ」

 

次の日も。

 

「受動喫煙って知ってる?」

 

「うるせぇよ」

 

その次の日も。

 

「タバコの臭いがついてるって怒られたんだけど」

 

「知らねぇよ」

 

更にその次の日も。

 

「あれ?タバコは?」

 

「…今日は、気分じゃねぇ」

 

その女子は、欠かす事無く校舎裏で待っていた。『待っていた』というのは決して自信過剰という訳ではなく、いつしかタバコも吸わずに座り込むようになっていたから、一番状況が当て嵌まる言葉を使ったまでだ。

 

「んで…だよ…」

 

「え?」

 

「何で!かまうんだよ!!」

 

「……」

 

俺はその言葉に悩み込む。ぶっちゃけたことを言ってしまえば、単純にモテたいからだった。このヤンキーにではなく、女子という未知の生物との関わり方を練習したかっただけ。今回はどちらかと言えば男子よりだったが、それでも極端な例として慣れたかった。

 

ただそれだけ。

 

「…た、のしいから?」

 

「…!!!」

 

言える訳なかった。からかいに来たという言葉でも綾にならない行動、まともに受け入れてくれる筈がない。でも別に嘘は言ってない。だから大丈夫という訳でもないけど…

 

「そっ…か。ははっ、変な奴!」

 

何か笑ってくれてるからヨシ!

 

 

学校一のイケメンは誰か?と、アンケートを取ったとする。普通はサッカー部の部長だの、バスケ部の部長だの、女子が思い思いに想う人物に投票することだろう。しかし、中には予想外の名を挙げる者もいる。それは男という枠組みに属していない人物だ。

 

女子が女子にモテる?と懐疑的に感じる人もいるだろう。しかしその人物を一度でも目の当たりにすると、その考えはすぐに消え去る。巷では王子様と例えられるほどに、オーラや雰囲気が桁違いなのだ。

 

そんなイケメンで王子様な女子が、今目の前にいる。

 

「…落ち着いて、大丈夫。見なかったことにするから」

 

「スマホを構えてる人の事を信じられると思うかい?」

 

学校の植木鉢を故意に壊している場面に遭遇するという、最悪の形で。

 

「これは…何と言いますか…飾りみたいなもので…」

 

「ふぅん…?まぁ飾りだろうと何だろうと、僕にとっては良く思わしくないものだね。少しでいいから貸してくれないかな?」

 

「いやぁ…」

 

スマホを構えていたのは事実。それでいて王子様が物を壊していたのも事実。その事実が互いに影響し合った結果、最悪の形になってしまっている。〝構える〟という言い方だとあらぬ誤解を生んでしまいそうなのではっきり言っておくが、ちゃんと撮っていた。

 

脅してどうこうという意思は全く以て無い。ただ一つのコミュニケーションの道具として使えるかと思っただけだ。実際喋るきっかけになっている…けど、ぶっちゃけ撮ってなくても良かった気がする。というより、撮らない方が良かった。

 

「…脅す気なら、僕は何だってするよ。けど、リスクは理解した方が良い。その後ろ盾がなくなった瞬間、君はまずこの世にいられなくなるからね」

 

荒唐無稽、とも言えない。何せ怖すぎる。けれど脅しとして取られているなら、それを利用しない手はない。内容も非常に良心的かつ健全だ。

 

「じゃあ、一つお願いがある…ます」

 

「何だい」

 

「モテる方法を教えてください!!」

 

「……は?」

 

比較的早く入れた本題、通称〝モテたいけどモテない問題〟。健全な男子高校生なら一度は悩むその問題は、大抵一人では解決に至れない。故に高校生活の中で一度もモテずに終わってしまう。だが俺は考えた。モテる人に直接聞けばいいじゃないか、と。

 

相手が女子であろうと何であろうと、モテているのなら俺の質問相手の範疇。多少空気は悪くなってしまっていたが、聞けることが出来たのならここからは俺のターン。ひたすらに疑問をぶつけるだけだ。

 

「方法…と言われてもな…」

 

「じゃあ何か意識してることは!?」

 

「いや、特に何も…」

 

「普段の生活は!?」

 

「えっと…ちょっと落ち着いて」

 

間髪入れずにいくつもりだったが、何故だか制止されてしまう。

 

「本当にその質問でいいのかい?」

 

「うん!ていうかこれしかない!」

 

重要なことを聞かれるかと思い一旦止まったが、普通に愚問だった。ただ相手にとっても俺の質問は愚問かもしれない。その証拠に相手は動きを止めてしまっている。『そんなくだらないことのために…?』なんて考えている可能性も否めない。

 

「…なる、ほど。分かったよ。だけど…そういうのは一つ一つの疑問に時間をかけた方が幾分か良いんじゃないかな。きっと真剣なんだ…よね?だったら一日一つの質問にしよう。僕もそれに真剣に答えてみるから」

 

「おお…それだ。じゃあ早速…」

 

「…うん」

 

しかしそんな考えも杞憂に終わり、険悪な空気もいつの間にか消し飛んでいた。俺のおかげか、相手のおかげか。どちらにせよ俺のモテに一歩近づいたのだから、大きな進歩だと言えよう。それから俺は更に踏みしめていくように、毎日イケメンの元に通い続けた。

 

「仕草とかは?」

 

「あんまり意識した事はないけど…女性が何か魅力的に感じる部分っていうのは確かに存在するだろうね。でも個人差があるだろうし、今から身につけれるとしたら所作の方かな。とりあえずは丁寧な過ごし方を心がけてみるといいよ。そういうのは本にも載ってるし」

 

「ほぉん、なるほどね…」

 

次の日も。

 

「髪の整え方は?」

 

「うーん…それに関しては僕自身も適当だからなぁ。朝は櫛で一通りとかしてはいるけど、ほとんどそのままだよ。ごめんね、アドバイスできなくて。その分僕の方で髪のセットに関する有用な情報を探してみるよ」

 

「自然でそれ…?」

 

「うん、そうだよ」

 

「……」

 

その次の日も。

 

「女子への接し方が分からない…」

 

「基本的には優しくすれば良いと思うよ。人との関わり全てに配慮とか尊重が必要だから、女子に限らず色んな人にも優しく接していればいい。そしたらいつの日かモテる…とまでは言えないけど、好意的な印象を抱かれる事が多くなるだろうね」

 

「ほぉぉ…」

 

更にその次の日も。

 

「あれ?今日は生徒会の日じゃ?」

 

「…うん、少し休む事にしたんだ」

 

脅されたにしては、随分と親身になって答えてくれていた。なぜか関係も少し近くなって、必要範囲内の個人情報を互いに知れる仲になっている。小労力で最低水準をクリアしながらいかに形成逆転を図る、くらいはしてきそうな器だと思っていたから驚きだ。

 

「………聞かない、の?」

 

「んー…散々聞いてきたからな…流石にもうないかも」

 

「そっちの事じゃ……」

 

だから実感が湧かない。目の前にイケメンがいることも、そのイケメンが時折憂う表情を見せることも。友達とも言い切れないような俺の前でそんな表情をされても、反応にも対応にも解釈にも困ってしまう。何か俺に問題があれば、教えて貰ったモテの極意でどうにかできるのだが…

 

「…いや、何でもないや!今日は何を教えようか?」

 

「え?もうないって…」

 

「じゃあ個人的なものでもいいよ!何なら僕が聞こうか?」

 

まっ、多分仲良くなれたって事でしょ!




短期間で二人もオトしておいて〝モテない〟はないと思うぞ桔梗くん
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