【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】 作:しろとらだんちょー
陳腐な終わり方だけど許して…ユルシテ…
『いつか起こり得た』という、全ての傍観者が抱く無責任な言葉。しかし懇切丁寧に教えられたとして、桔梗はそれを理解する事はないだろう。愛も敵意も脆弱さも、当人でさえ計り知れない重さなのだから。
(…何で、こうなってんだろ)
怒り、不安、愛情、狂気。表面だけでも見て取てる感情の爆弾は、今にも爆ぜそうに燻っている。それは桔梗も肌で感じ取っていた。
――〝だが、何故?〟
たとえ燻りを感じ取ろうとも、理解にまでは至らない。これまで共に過ごしてきた時間を走馬灯のように思い返してみても、見えるのは過去にした無駄な努力ばかり。その中にもヒントに近い何は映っていたが、昔より遥かに荒んだ思考では答えに辿り着く事は出来なかった。
「僕の薄汚い〝本当〟を変えてくれたのは君だ。苦しい以外の感情を教えてくれたのも君だ。僕の人生を…何の価値もなかった時間を輝かせてくれたのも君だ。…君だけなんだ。だから…お願いだよ、桔梗。『大好き』だと…『愛してる』と言ってくれ。僕の体も、心も、財産も、君に全て捧げると誓うから…!!」
「俺さ、桔梗に会って変わったんだ。タバコも止めたし、万引きとか、カツアゲとか、暴力…は微妙だけど、でもすんげぇ減ったんだ! 成績だってちっとは良くなったんだぜ? 全部、全部お前のおかげなんだ。……大好きなんだ。だから、言って欲しいんだよ。『大好き』だって。そしたら俺、もっともっともっと桔梗のために尽くすから…な…?」
(変えた? 変わった? 俺のおかげで…?)
熱烈に語られる自身への愛と願いを聞いても、まだ理解が出来ないでいる桔梗。自己評価の低さと生粋の鈍感さという根底は、当事者なる立場になっても変わっていないからだ。しかし、だからといって無意識に甘んじている訳でもない。
(…じゃあ、俺のせいでいがみ合ってる…?)
桔梗は鈍感なりに考える。無言の間に樒と花梨は不安そうにしているが、不器用な思考はその現状を置いていく。
(こいつらは俺のことが好きなんだ…よな。理由は分かんないけど、それは普通に嬉しい。…けど、その好きって大丈夫なやつなのか? 樒も花梨も両極とはいえ女子からも人気で人望があったのに、段々と追っかけとか見なくなったし………もし、俺のせいでそんなことになってるんなら…)
なってるのなら、どうすべきだろうか。桔梗は深く深く考える。日頃の浅はかな思考とどこまでも相反するように、最良の解釈を探し出そうと頭を回していた。
・樒の想いに応える。
〝NO〟 どちらか片方にだけ返してしまったら、もう片方の想いが報われない。
・花梨の想いに応える。
〝NO〟 上に同じ。
・どちらとも断る。
〝NO〟 平等かつ公平とはいえ、このような最悪の形は求められていない。
・どちらとも受け入れる。
〝…………〟
最良でありながら、最悪最低でもある選択肢。『どこかの国では当たり前』『そういう愛の形もある』『現状これしか円満解決は見込めない』。探せば探すだけ、いくらでも言い訳は出てくる。いつものように平然と口にすれば受け入れて貰える事も、桔梗は理解していた。
(それでいいのか…?)
が、それは桔梗の求めている選択肢ではない。
(今、優先すべきなのは……俺にとっての解決じゃなくて、こいつらにとっての解決じゃないのか…? でも、そんなもの…)
今考えている条件を満たす選択肢こそが桔梗の求めているもの。しかしそんなものは存在しない。選ぶか選ばないか、ただその二択が存在するのみ。その中で最も理想に近いものを選ぶしかないのだ。
(…いや、ある)
否、桔梗は諦めなかった。かつて恥を知らず尋ねたように、かつて恐れを知らず近付いたように、限りなく自分らしく〝振る舞えばよい〟のだと。
「…分かった」
「!! 俺を…」
「いや! 僕を!!」
沈黙から明けた途端、一斉に桔梗に詰め寄る二人。必死に縋る顔でさえ美しく、並の人間であれば容易く揺らいでしまうだろう。桔梗にとっても例外ではない。既に固まった決意がそれを防いだだけの事。桔梗がそれを好機と取り、重い口を開いて遂に答えを出す。
「どっちも…じゃ駄目かな?」
それは、最低最悪の選択肢。
「だって、こんな可愛い女の子が俺に尽くしてくれるんでしょ? しかも二人も! だったらどっちか片方とかじゃなくて、両方とも選びたいじゃん」
普段なら修羅場の影響でどもってしまう声も、今だけは何故か通っている。
「あっ、そうだ。大好きだよ、大好き。これでいいんでしょ?」
透けて見えるどころか、オープンに開かれた最低な魂胆。真剣な恋心を弄ぶ思考、軽々しく口走る愛の言葉、おちゃらけてふざけたような仕草。粗悪な道化と化した男の姿は、誰の目にも最悪に映っているだろう。
「…ふふっ」
「…はははっ」
だが。
「何笑ってんのさ?」
「いやぁ…わざとらしいなぁ、って思っただけだよ」
「あぁ、ほんとにな」
それを見破れないほど、二人の目は節穴ではなかった。
「わざと…って、何が? 俺はただ本心を――」
「いいんだ。もう、いいんだよ。……ごめんね。いや……本当に、ごめんなさい。自分の事で精一杯になってて……君の気持ちが知りたいくせして理解してなかったなんて……僕は、馬鹿だ」
「桔梗は優しいもんな。二人で一気に気持ちを伝えたって、傷つけないように行動しちまうだけだよな……ほんと、俺…っ…あぁ、くそっ!」
桔梗の弁明ままならぬまま、二人は反省と懺悔を零す。傍から見れば急に態度が変わった者が三人。何が何だかさっぱり分からないだろう。しかし分からなくてもよい。
「いや……謝る必要は……」
「じゃあ、ありがとうね。桔梗」
「ありがとな、桔梗」
「ん~……(思ってた反応とだいぶ違う……)」
互いが互いを思いやる気持ちで溢れるこの尊い空間に、他者の評価など必要ない。
「……もう一回だけ、チャンスをくれないかな。今回みたいな独りよがりじゃなくて、ちゃんと大好きだって証明したいんだ。……もちろん、相応の罰は受ける。そのあとに、ね?」
「俺は……俺の気持ちはもうお前に伝わってんだから、今更証明したってうざってぇだけだろ? だから、今度は俺を好きにさせる。桔梗の言うように二人同時でもいい。そん中でも絶対、本心で振り向かせて見せるから」
「桔梗はお前の気持ちを理解していないし、絶対に振り向く事もないよ。随分と自惚れてるんじゃないかな?」
「てめぇに言ってねぇよ。まっ、俺ぁ優しいから答えてやるけどよ……愛を伝えれば応えてくれるなんて、んな都合がいい訳ねぇだろ。てめぇも分かってたからさっきみてぇになってたんだろうが」
「…ん?(なんか悪い方に流れが変わってきたような……?)」
桔梗はいち早く空気の変化に気が付く。かといって止める事も出来ず、またいつものように傍観を決め込む。先ほどの自ら嫌われに行く精神と気概こそがモテる要素なのだと知る由も無い桔梗は、それを紡いでいく事を放棄したようだった。
「そんな、事……」
「自信がねぇんなら別にいいぜ? 俺が独り占めするだけだからよ…♡」
蛇のような絡みつく視線を向けられ、桔梗は萎縮してしまう。冷静になったとはいえ、濁り混ざった愛そのものは健在だと思い知らされる。
「いや、それは駄目だ。……絶対に」
「じゃっ、決まりだな」
「……あぁ。けど、くれぐれも〝競っている〟だなんて思わないでくれよ。どうせ僕が選ばれるんだからね。…ね? 桔梗……♡」
猫のような纏わりつく視線を向けられ、桔梗は萎縮してしまう。深い一呼吸を置いて落ち着かせた精神を再び乱され、もはや瀕死になってしまった男にあらゆる余力はなく―――
「はっ、自惚れてんのはどっちだか」
「うるさいな。……そういう事だから、これからもよろしくね? 僕の桔梗♡」
「よろしくな? 俺の桔梗♡」
「…………ハイ」
ただただ異常な展開を、受け入れる事しか出来なかった。
ハッピーエンド以外の何物でもない
長編書けそうな題材でしたね
【榊原 樒(王子様系)】
厳格かつ由緒正しき家柄・周りからの評価と期待の重圧に耐えきれず、ストレスがはち切れた所を桔梗に見つかってしまった人。脅すでもない純粋さと繕わない態度に触れていく内に徐々に蟠りが解け、それと同時に惹かれていった。狂愛に近しい感情とそれに比例しない現実に焦りを感じ、今回の件で爆発してしまったようだ。因みにファンクラブなるものは自身で解散させた。理由は『桔梗との時間を邪魔されるから』。
【梔子 花梨(ヤンキー系)】
疾うの昔に破綻していた家族関係と所属している暴走族での終わらない悪循環に荒み切っている所を桔梗に話しかけられた人。分け隔てなく接する様子と妙に温かさのある他愛もない会話に触れていくにつれ蟠りが解け、同時に惹かれていった。初めて覚えた〝特別〟という感情が途轍もなく成長し、反比例するように精神が脆弱になってしまった結果が今回。因みに暴走族とファンクラブ的なものは自身で解散させた。理由は『俺の中に桔梗以外はいらないから』。
【萩城 桔梗】
モテる為だけに起こした行動が、本来の意図とは異なるものになってしまった奴。一昔前の桔梗は二人の好意を認識していなかったため、〝自分の周りに来る奴ばかりがモテている状況〟になり、すっかり愛嬌は失われてしまった模様。自己犠牲だったり純粋だったりでモテるポテンシャルはあるものの、二人がいる限りそれが発揮される事はない。