【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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遅くなったな
短く書けなかったので上下に分けました


束縛系彼女(上)

「ただいま~!」

 

「ッ!!!」

 

扉の開く音と、存在を強調するような透き通った声が男のいる部屋にまで響いてくる。男はスレ民に彼女が帰ってきた旨だけを伝え、急いでスレを閉じてスマホを所定地に戻す。焦りながら行動に移すその姿は、叱りを怖れて俊敏に隠蔽工作を図る子供のようだった。

 

「ただいま~、秋人くん」

 

「あっ、ははは…おかえり陽菜ちゃん…」

 

陽菜と呼ばれる女が腕に下げている袋からはネギがはみ出ており、買い物に行っていたのだと推測できる。動揺した思考を元に戻す時間を稼ぐため、秋人はそれを話題にして陽菜に話しかける。

 

「きょっ、今日の夕ご飯は何かな?鍋とかだったら嬉しいけどなー…」

 

「ん! 今日はすき焼きだよ~! 昨日食べたいって言ってたもんね! えへへ…」

 

「お、おー…やったー!」

 

あまり会話は続かなかったが、思考を戻す分には事足りる一拍だった。あとはアレに意識を向けさせる事なく、そのまま台所へと向かわせれば完璧なのだが…

 

「あ、そうだった」

 

「あっ…」

 

そう上手くはいかない事を、秋人自身も理解していた。自分が言いつけた通り"スマホの利用"をしていないかどうかを、陽菜はスマホに手を伸ばして確認する。秋人は止めようと手を伸ばすが、止めた方が怪しまれより詰め寄られてしまうだろうと途中で考え手を引っ込める。

 

もはや何に祈っても無駄だろうが、それでも消せていない履歴を覗かれない事を祈る。

 

「…充電、減ってるけど?」

 

「ッ…!!!」

 

しかし、淡い祈りなど水泡に帰すのみ。陽菜の表情は一変して、雰囲気も秋人が恐怖するものへと変容を遂げた。決して揺るがない事実を突き付けるが如く陽菜はスマホの画面を秋人の顔面に近付け、異様な威圧感を放ちながら問い詰め始めた。

 

「私がいない間、触っちゃダメって言ったよね? ねぇ、なんで約束守らないの? この前もそうだったもんね。私だって本当は信じたいのに…だからわざと隠さずに置いていってるんだよ? ねぇ、ねぇねぇ、そんなに難しいかな。触っちゃダメって、そんなに難しい事なのかな?」

 

問い詰める表情。非をどこまでも突き付ける表情。秋人はそれに怯むが、いつものように頭を下げて機嫌を取ってでは何も変わらない。

 

(ここしか…ないっ!)

 

秋人は決心がバレないように深く短く呼吸し、反撃を開始した。

 

「心配…だったからだよ」

 

「…何が?」

 

「僕以外の男と会ってないか、疑ってたんだ」

 

「えっ…」

 

予想外の言葉だったのか、陽菜は再び表情を一変させて弱々しい乙女の表情へと変貌を遂げた。ここから畳み掛けなければ意味がない。秋人はどうにでもなれの精神で陽菜に追撃する。

 

「だって、僕ばかり縛っておいて君は自由じゃないか。僕が家の中に籠っている間、君は本当に買い物や学校に行っているの?…もしかしたら、僕の自由がない事をいい事に、悠々自適に浮気をしているんじゃないかって。…そう思ったんだ」

 

「そ、そんな事ないよ! 私は誰よりも秋人くんを愛してる。秋人くんだけを愛してる! 他の男なんて眼中にないよ……っ!」

 

「僕だって…その言葉を信じたいさ。でも、それを決定付ける証拠はまるでない。だからずっと疑ってたんだ。でも、今日やっと思いついたんだよ。…陽菜ちゃんの愛と潔白が証明できる方法が」

 

秋人は、『我ながらよく回る頭と舌だ』と自画自賛と皮肉を噛み締める。初めて見た陽菜の動揺する姿に秋人は一種の優越感を覚えたが、すぐに振り払い反応を待つ。ラグがあったように陽菜は固まっていたが、すぐに正気を取り戻して必死に聞いてくる。

 

「なっ、何? 教えて? 何でもする…私っ、何でもやるから!」

 

望んでいた言葉が陽菜の口から出て、秋人はもはや勝ちを確信していた。秋人は不敵な笑みを浮かべ、陽菜に正面から伝える。

 

「陽菜ちゃんが僕にやってた事、僕も陽菜ちゃんにするんだ」

 

「…え?」

 

「食べるときも、寝るときも、遊ぶときも、トイレにいくときも。陽菜ちゃんがする行動全部を、僕が管理するんだ」

 

陽菜が見せた告げられた事に対する表情は、困惑しながらも納得の感情を現していた。陽菜は徐々に事態を呑み込むようにゆっくりと相槌を打ち、秋人の提案に応えた。

 

「……う、うん。分かった。でも、秋人君は、ずっと一緒にいてくれるんだよね?」

 

「そんな訳ないよ。陽菜ちゃんと同じだ。最低限だけど、僕も僕のやるべき事をやる。買い物とかもそうだし、ずっと顔を出してなかった大学にも行かなきゃいけない。少なくとも、陽菜ちゃんが離れていた時間くらいは一緒にいれないよ」

 

「あ、う、そう…だよね。分かった…」

 

陽菜は一瞬寂しそうな顔を見せたが、自分のしてきた事を思い出したのかすぐに返事をする。秋人は陽菜が完全に同意した事を確認すると、自分がしていた手錠を外させてそれを陽菜に付けた。久方ぶりに窮屈さのなくなった手に感動を覚えながら、浸っている暇はないと考えて行動に移る。

 

(まずは…夕飯だな。とりあえずこれが出来なかったら束縛なんて話にならない。確かすき焼きだったよな…)

 

秋人は食材の入った袋を台所へ持っていき、早速スマホでレシピを調べる。夕飯の成功とスレ民の作戦の成功を願いながら、秋人は先駆けである料理を始めた。




因みに料理は失敗しました
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