【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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曇る ただし天気ではない


従順?系後輩(下)

「ぁ、ぁの……折り入って……はなっ、話がある……ん……です」

 

今、俺は一世一代の挑戦をしている。それは……基本美羽輩以外には会話を試みない俺が、バスの運転手さんに交渉をしようとしているのだ!! 何故かって? そんなの、美羽のために決まってる……だろ?(イケヴォ)

 

流石にいつまでも隣の席だとキツイものがあるし、美羽にとっても俺が隣にいるのは気持ち悪いだろう。それを鑑みた結果の行動なのだ。いやぁ、愛の力は偉大ですね。極限コミュ障でも立ち向かう勇気を抱けるんだからさ。

 

「あ? どうしたんだい、兄ちゃん」

 

あ、何かもう諦めそう。いかつい顔で『あ?』とか言わないでくれよ。

 

「ぃ、いえですね? す……少し、座席の……方を……ッスネ?」

 

「あー……別にいいけどよ。何でだい?」

 

「と、隣の……ひっ、人に……嫌われてる……ミタイナ」

 

「なるほどな。分かった、じゃあ今日からそっちの空いてる席座りな」

 

「ぁ、……ッス」

 

まぁ途中諦めかけたが、これはパーフェクトコミュニケーションだろう。意外と俺はコミュ力高いのかもしれんな。受け手に頼りがちの昨今の日本語、俺が改革していく日もそう遠くはないような気がする。

 

しかしこの席、なんかギャルに囲まれてるな。話しかけられることなんてないとは思うが、こうも周りでキャピキャピされては集中するものもないのに気が散ってしまう。いや、ここはあえてどっしりと構えることで、更なるメンタルの向上が見込めるとかそういう……

 

「おはようございます、先輩」

 

「ピャッ!!」

 

「朝から元気ですね。……ところで、席変わったんですか?」

 

急に話しかけられて多少テンパってしまったが、俺はすぐに持ち直してメッセージを打つ。あれ? なんか指が震えて文字が打てない。くそっ、対話をするしかないみたいだ。

 

「あ、ぁあ……うん。変わった……ッスネ」

 

「そうですか」

 

頑張って話したのに、全然興味なさそうに俺の隣に座ろうとしてくる美羽。そのとき鼻を通った匂いはどこまでも甘くて、興味なさげなその顔さえ昨日の数段可愛く見えた。俺は数瞬の間魅了されて固まってしまったが、何とか美羽が座る前に手で制止し、次の言葉を喋る。

 

「ぃゃ、ちが……ぅ……」

 

「? 何ですか?」

 

「その……スネ……変わった、のは……俺だけ……トイウカ……美羽……さんは、あそこのまま……で、お願いしたい……ンスケド」

 

「…………は?」

 

先程まで全開だった可愛いオーラが幻覚だと思ってしまうほどの怒気が、美羽の全ての動作から溢れ出す。活気に満ちた車内で唯一ここだけが極寒の空気で、言葉どころか呼吸をする事さえ困難だと本能で感じる。現に呼吸がしずらい。

 

俺はそこまでの不快を今ので与えてしまっただろうか? 走馬灯のように思い返してみても見当は付かず、ただ美羽の言葉を恐怖に震えて待つばかりだった。

 

「…………っ……!!!」

 

美羽の顔が一瞬、くしゃりと歪んだ気がした。すぐにいつもの顔に戻ったが、握り締められた拳や嚙み締められた歯は、立ち止まっていた数分の間ずっとそのままだった。

 

「……そうですか」

 

あの様子を見る限り、かなり怒っていた。けど、いつものように嫌みたらしく責める事も無く、ただ元の席へと座りに行った。『勝手な事をするな』とでも言いたかったのか。俺じゃあるまいし、そういうのは直接言って欲しいところだ。

 

……はて、でも何で離れる事に怒ったのか? そもそも本当に怒ってたのか?

 

思慮浅い俺の頭では永遠に考えつかなさそうだったから、俺は考える事を止めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

授業は全部終わって、今は帰りのホームルーム後。いつもなら一直線にバスに向かっていたのだが、今朝の美羽の様子を思い出して少し躊躇している俺がいる。でもいつまでもここにいても無駄な時間が過ぎるだけだし、周りのクラスメイト達も続々と帰り始めている。

 

よし。そろそろ俺も荷物まとめてバスに―――

 

「ねぇ、そこのキミ!」

 

「…………ぇ?」

 

「そう! キミ! えーと……なに君だったっけ? まぁいいや! ちょっと手伝ってよ! これ一人で運ぶの大変でさ~」

 

WTF。予想外かつ想定外の事態が発生した。この俺が、美羽以外の女子に、話しかけられる。どっかで徳を積んだ覚えもないし、これはおそらく何かのバグだろう。だからここは人生のチャートに乗っ取って、きちんと断るべきだ。バスにも遅れるしな。

 

「ぇ……? ぃや……デモ……バスガ……」

 

「ん? ごめん、もうちょっと大きな声で話して!」

 

「……やっ……何でも……アハハッ」

 

『あはは』じゃないだろ『あはは』じゃ。え? バスの運転手に話しかけれたあの気概はどうしたの? どれだけ美羽バフに支えられてたの? 不甲斐ないとか思わないの?

 

「じゃっ、これ持って~。一緒に職員室まで運ぼ!」

 

「ぁ……ッスー……ハイ」

 

「それで、なに君だったっけ?」

 

「かげ……みち……ッス」

 

「あっ、名前の方聞いたつもりだったんだけど」

 

「カゲヒサデス」

 

「へー! かげひさって言うんだ! なんかクラスで喋ったところ見た事なかったけど、結構優しいんだね! ねね、かげひさ君は何が趣味なの? てか普段何考えてるとかあったりする?」

 

もう不甲斐なくていいです。こんな怒涛の会話ラッシュに対抗できる気がしない。おそるべし陽キャ。しょうがない、もうバスは諦めて大人しく仕事を遂行しよう。帰る手段もバスだけって訳じゃないし、それよかこの会話を上手くいなせるかの方が心配だからな。

 




誰が見てるかも分からないのに女子と話すなんて……死にたいのか?

次回は後輩ちゃんの視点です
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