【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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こういうの得意


従順?系後輩 番外(上)

私は昔、皆名前も知らないような、窮屈で鬱屈した田舎で生まれた。そんなところで育つ子供の倫理観などたかが知れていて、私の長い髪や大きな目を『人形に似てる』と馬鹿にして、すぐに嘲り罵る娯楽の一つに落とし込んだ。

 

当時の私にそれを屁でもないと笑う精神は無く、あらゆる境遇が周りと違う自分自身も醜いとさえ思った。叔父や叔母はいたが、私を産み落としてすぐさま男遊びに耽る女の娘など、可愛がる筈もなかった。

 

あぁ、この田舎にいる全ての人間が。いや、この世界にいる全ての人間が。私の事を笑ってる。私の事を嫌ってる。私の事を蔑んでいる。

 

 

分かる。分かってしまう。

 

 

私は、望まれた存在じゃなかったのだと。

 

 

 

「うるせぇ! さっきから人形人形って、バカかお前らは!! 人形可愛いだろうが!! お前ら不細工じゃ足元にも及ばないくらい、人形ってのは凄いもんなんだよ!」

 

 

 

―――そう思っていた。

 

 

 

「ったく! 散れ散れっ! 馬鹿ども! ……大丈夫だったか?」

 

「……は……い」

 

「色々遅れてるよなー、あいつらも。こぉんな可愛い奴を馬鹿にして……しかも人形って褒め言葉だよな! ……あ、そういやお前、名前は?」

 

「……みう」

 

活発に喋っているのに、何一つ不快に感じない。男の子は額や頬から汗を流して、時折拭う仕草をしながら私と会話を試みてくれる。それだけで私は、

 

【風に靡く不気味な程長い私の髪が】

【暗く黒い深淵のような私の瞳が】

【安物の鈴を転がしたような私の声が】

【病的なまでに白い私の肌が】

 

「みう、ね! じゃあみう、今から俺らで川行こーぜ! 暑いし、あいつらも知らない所だし、ちょうどいいだろ?」

 

「ぁ……は、い」

 

全てが、認められたような気がした。

 

「おーい、置いてくぞー?」

 

今でも鮮明に思い出せる、温かくて優しい幸せな記憶。声も、言葉も、行動も、仕草も、匂いも、感触も、姿も、何もかも。幼い私の目に映る貴方は、いつだって私の光だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何で、今日はしなかったんだろう」

 

私は一人考える。昼休み、いつもなら先輩がくる筈の裏庭の隅で、弁当を食べながら。

 

いつもならあのバスの中で、朝から先輩と愛し合う事が出来たのに。この体を余す事なく触って貰えて、他の誰でもない私に情欲をぶつけてくれたのに。……のに。

 

「何が、違ったんだろう」

 

先輩は大きい胸が好きな筈だ。先輩は適度に太いふとももが好きな筈だ。先輩は染めのない黒い髪が、うねりのないまっすぐな髪が、二重で涙袋のある瞳が、荒れのない声が、好きな筈。なのに。

 

「……体重、とかかな」

 

私はポケットの中にしまっていた手帳を開く。昨日はもちろん、ここ数年の私の体のデータが事細かに記された手帳だ。一番古い記録は先輩が私に初めて話しかけてくれた日。新しい記録は今日の朝に計ったものだ。

 

【6/12】

体重:46.3kg

身長:152.6cm

B:108 W:61 H:92  etc……

 

【6/13】

体重:46.4kg

身長:152.6cm

B:109 W:61 H:92  etc……

 

「胸も……大きすぎると駄目なのかな」

 

分からない。分かんない。わかんない。何が理想と違ったのかな。先輩の好みが変わっちゃったのかな。でも聞いたらきっと引かれちゃうんだろうな。

 

「大丈夫、帰りも一緒だから……その時はきっと……」

 

――いや、触って貰えないだろう。

 

触れて貰えない理由は分からない癖に、そんな事だけは理解出来た。

 

 

今日はいつもより長い時間で鏡を見た。朝食は朝5時の時点で食べ終わっていて、バス停にバスが着く7時まで、ずっと鏡で自分の容姿を確認し続けた。先輩が好きでいてくれた姿の何倍も可愛いと感じるように、また先輩に魅力的だと感じて貰えるように、あらゆる方法で自分を磨いた。

 

「大丈夫……だよね」

 

【6/14】

体重:46.3kg

身長:152.6cm

B:109 W:61 H:92  etc……

 

成長してしまった胸を除いた全ての値を、先輩が愛してくれていた日まで戻した。これできっと先輩は触れてくれる。見た目だって、何時間も調整したから。またいつものように、先輩は私だけを見てくれるだろう。

 

あぁ、心臓がうるさい。

 

不安も緊張も高揚も混じり合った心が、私の体温を最大限まで高くする。バスの中はほんのり涼しい筈なのに、乗っても大した変化は感じられない。強いて言うなら、先輩がいつもの席に見当たらないという事だけだ。

 

私はすぐに周りを見渡して先輩を探す。一瞬休んだのかと心配になったけど、早くに見つかって私はほっとした。それからはこの心情を悟られないように、いつも通りに近寄って、声をかけた。

 

「おはようございます、先輩」

 

「ピャッ!!」

 

急に声をかけたせいで、先輩は変な声を上げて驚く様子を見せる。それが愛くるしくて堪らないのは当たり前として、何でいつもの席にいなかったんだろう。

 

「朝から元気ですね。……ところで、席変わったんですか?」

 

「あ、ぁあ……うん。変わった……ッスネ」

 

「そうですか」

 

え? 先輩が挨拶以外に喋ってくれた? 

それが衝撃的すぎて、私は思わずぶっきら棒な態度になってしまった。やっぱりいつもと違う私を見て、そういうふうに思ってくれたのかな。そうだと嬉しいな。

 

「ぃゃ、ちが……ぅ……」

 

「? 何ですか?」

 

僅かに顔をにやけさせながら席に座ろうとしたら、先輩に止められてしまった。一瞬、私の頭の中を覗かれて言われたのかと思ってびっくりしてしまったけど、続く言葉を聞いてどうやらそうではないと分かった。分かってしまった。

 

「その……スネ……変わった、のは……俺だけ……トイウカ……美羽……さんは、あそこのまま……で、お願いしたい……ンスケド」

 

「…………は?」

 

分かった筈なのに、理解が出来なかった。体温が急激に下がっていくのを感じる。あらゆる『何で?』という感情が、私の中で蠢いているのを感じる。なのに、先輩の温もりだけは感じる事が出来ていない。それも同じくらい理解が出来なかった。

 

「…………っ……!!!」

 

抑えろ。抑えろ。抑えろ。抑えろ。抑えろ!

ここで爆発させたら先輩に迷惑がかかってしまう。それだけは駄目。

だから泣くな、喚くな、叫ぶな。

 

「……そうですか」

 

本当は取り繕いたかった。こんなときでも、先輩の理想に少しでも近くありたかった。けど、震えて掠れた声しか出せなかった。強く握り過ぎて爪が割れていた。顔だって、もしかしたら歪んでいるかもしれない。

 

こんなにも取り乱した私には、元の席に座る選択肢しかなかった。

 

 

放課後、私はバスに向かう事を躊躇っていた。理由はもちろん、先輩の事。『朝はそういう気分じゃなかった』『次はきっと大丈夫』と心の中で何回も言い聞かせても、その心のどこかでまた不安が湧いてくる。

 

「だって……先輩は、私の事……もう――」

 

熱くなって冷たくなってを繰り返す思考も体も何もかもが嫌で、自分自身も諦めそうになる。でも駄目だ。それだけは言っちゃ駄目なんだ。それを言ったら私が私じゃなくなってしまうだろうから。

 

『けど、大丈夫』『きっと大丈夫』

 

先輩なら私をまた見てくれる筈だから。そう持ち直して私は校舎から出る。バスはすぐそこだ。先輩ならバスで待っててくれてる。だって先輩は私の光で、私は先輩の―――

 

「―――あ」

 

バスの窓に反射して見えた、誰かと話してる先輩の姿。

相手の表情や髪色は明るくて、私なんかじゃ到底似合わない風体。なのに、距離は近くて、笑っていて、否定なんて及ばないくらい、先輩の姿がとても楽しそうで。

 

 

 

 

楽しそうで。

 

 

 

 

なのに。なんで。

 

 

 

 

それをわたしにみせてくれないんですか。せんぱい。

 




昔は陽、今は陰……思春期をこじらせてそうなった方も多いのではないでしょうか
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