【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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長い……か?



百合系姉妹(中)

時々、夢を見る。それは俺がまだ、嫌われていた頃の光景だ。

 

『触らないで。話しかけないで。視界に映らないで。アンタみたいな奴、私達のこれから先の一生に、一切必要ないから。さっさと辞めて、消えて』

 

『使用人さん? 勝手に部屋に入らないでくださいと言いましたよね? 清掃だろうが何であろうが、私達の部屋ですから私達の許可が必要なんです。そんな事も分からないようであれば、今すぐに辞めて貰って結構です』

 

16歳になった時。家庭の事情でとても金に困っていた俺が、半場無理矢理転がり込んだ金持ちの屋敷。俺以外の使用人は全員女性で、当時驚いた記憶がある。むしろ何で俺が採用されたのが不思議なくらいだ。でもおかげで、時給2500円とこの世界で最も美しいものの恩恵を手に入れる事が出来た。それは何か?

 

『お姉さま、愛しています。この世界で一番……いえ、唯一。麗しく美しい存在です……』

 

『えぇ、私も愛しているわ……ユリィ。私が世界一なら、貴女は宇宙一よ。とても可愛らしくて……とても愛おしい』

 

『あぁ……! お姉さま……!』

 

『ユリィ……!』

 

この百合を間近で見れる事、それ以外に何があるというのか。いや、間近というと齟齬がある。詳しく言えば、扉や壁の向こう側だったりする。だがそれでも美しかった。この世の何よりも重要で、尊い存在。それを見れる俺は、間違いなく銀河一幸せだった。

 

罵倒? 嫌悪? 構わない。百合もあるし、高賃金もある。こんな恵まれた環境にいつまでもいられるのなら、まさに現世のユートピアと言えるこの場所にいられるのなら。命すら惜しくないとそう思っていた。

 

 

『きゃあっーーー!! 誰かっ、誰か救急車をっ! 使用人さんがお姉さまを庇って……!』

 

 

だから、リリィの上に落ちてくるシャンデリアを見ても、庇う事への躊躇は一切無かった。

 

 

『アンタは私に恩を売って何がしたいの? そんな体になってまで、巨額の謝礼金でも欲しかった訳? だとしたら大馬鹿だわ』

 

『いえ……むしろ……恩を返したかった……だけですよ……』

 

『はぁ? そんな恰好付けた事言って、少しでも好感度を上げるとか考えてるんじゃないでしょうね。生憎だけど、私は変わらずアンタの事が大嫌い。こうやって見舞いに来るのも時間の無駄だわ』

 

『そう……ですか……では……さようなら……』

 

『~~~っ!!! 本っ当に! 何なのよ!! そんな……そんな態度取られたら、謝る事も出来ないじゃないの! お母さまが言ってたわ。男ってのは皆クズなんでしょ? じゃあクズはクズらしくしなさいよ!! 恩着せがましく、傲慢に、見返りを求めなさいよ! ……ほら! 早く!』

 

『…………今まで、ありがとうございました……どうか……ユリィ様と……これからも……仲睦まじく……お過ごし下さい……』

 

そこから俺の意識はなくなった。その後のリリィは凄い慌てようで、何でも『どんな手を使っても死なせない』だの『用意できる最高の医療技術と機器を持って来なさい』だの言っていたらしい。でもあの時はまだ嫌われていた筈だし、決してそんな事は有り得ないと未だに思ってる。きっと俺の奇跡的な回復力で生還したに違いない。

 

生還したあとはすぐには屋敷に戻らずに、何週間か病院でお世話になっていた。その間、一日たりともかかさずお見舞いに来てくれたリリィには、嬉しくも複雑な気持ちになった。もしかしたら俺が屋敷にいない内に関係が拗れたんじゃ、なんて不安も抱いたりした。

 

だけど結局、屋敷に戻ってからは普段通りの百合が見えて、単なる杞憂だったと笑った。

 

 

 

それが杞憂でなくなったのは、約二・三年前の話。

 

 

 

『あの……使用人さん……?』

 

『はい。どうされました? ユリィお嬢様』

 

『いえ、その……使用人さんの誕生日はっ、いつでしょうか……?』

 

『9月18日ですが、それが何か?』

 

ユリィから、急に誕生日を聞かれた。そのときは『一端の使用人如きの情報を知ってどうするんだ?』と本気で思ったし、何なら『嫌がらせに使うのか?』とさえ思った。その頃は変な挙動不審さが姉妹共々目立っていたし、何かしらの策略を練っていてもおかしくなかった。

 

『いえっ……ただ、その、祝いたいなぁ……と思っただけで……』

 

『……!?』

 

『だ、だから! その日は予定を空けておいてくれると助かります!』

 

『……承知しました』

 

でも違った。いや、正確に言えば違わない。全ての時間を百合の時間に割くべきだと思っている俺にとって、俺のために一日を無駄にするという行為は嫌がらせそのものだったからだ。今までがストレートな罵倒だけだったのもあってか、そのときの俺は酷く衝撃を受けた。もちろんあまりに急すぎて、その変化球に対応出来るはずもなかった。

 

『ねぇ、アンタ。プレゼントで何が欲しいか言ってみなさいよ。限りなく可能性は低いけど、買ってやるかもしれないから』

 

『いえ、プレゼントだなんてそんな……自分には身に余ります』

 

『そんなの当たり前でしょ? その上で聞いてるのよ。馬鹿なの、アンタ』

 

『申し訳ありません。……でも、本当に何もいりません。お嬢様方がただ健康に過ごしていただければ、それだけで充分嬉しいです』

 

『はぁ……アンタって本当……』

 

百合百合しい空気を感じる能力は、この人類の中でもかなり優れている方だと言えよう。しかし、それ以外の空気や流れは一切読めない。『何だかんだ言ってやらないだろ~(笑)』なんて甘い考えが通るような流れではないと、どうしてあの時に気付かなかったのか。今でも悔やまれる。

 

そして、誕生日当日。その日もいつもと変わりなく仕事をこなして、言いつけられていた通り〝一応〟部屋を訪れてみた。どうせ嘘なんだろうという期待を込めて、部屋をノックしたのは覚えてる。その後はあまり覚えてない。何せ、鳴らされたクラッカーの音が脳内をぐわんぐわんと揺らしていたから。

 

『誕生日おめでとう』

 

『おめでとうございます!』

 

『まっ、庶民のアンタが喜びそうな食事を用意させたわ。精々楽しむといいけど、無礼講ではないから勘違いしないでね?』

 

『でも、私には少しくらい無礼講でもいいですよっ!』

 

ぐわんぐわん。

 

『……? 何ボーっとしてるのよ。言っておくけど、この食べ物がプレゼントとは思わないでね。こんな物なんかじゃ比べ物にならないくらい、特別なものを用意したから。と言っても、物じゃないわよ。……いい? 今から言うから、聞き逃さないよう耳を最大限傾けなさいね』

 

『…………はい』

 

『―――アンタの事を今度から、〝貴方〟と呼んであげるわ。……感謝しなさい』

 

ぐわんぐわん。

 

『私からはっ、〝兄さま〟と呼ばれる権利を差し上げますっ!』

 

ぐわんぐわん。ぐわんぐわん。

 

『二人で色々と考えたのですが、やっぱり形ある物だとどうしても高価になってしまうし、使用人さんもそれだと遠慮してしまうだろうなぁ、って思って……でも、あははっ! 本音を言ってしまうと、私がそう呼びたいだけです!』

 

『私は別に呼びたいとかじゃないわ。ただ貴方にそれなりの敬意を払ったまでよ』

 

『とか言ってお姉さまも……』

 

『黙りなさい。いくらユリィとはいえ、怒るわよ』

 

『きゃあっ! 怖いですっ! 守って、兄さまっ!』

 

ぐわんぐわん。ぐわんぐわん。ぐわんぐわん。

 

思考が揺れる、凍る、滞る。何で俺を貴方と呼ぶ? 何で俺を兄さまと呼ぶ? 今までと何ら変わりなく俺の事を蚊帳の外の外にして、姉妹愛を育んでいればそれでいいのに。本物の百合すら劣る美しさを、成るがまま体現していれば良かったのに。

 

ここまで考えて、俺は自主的に考えるのを止めた。

 

結局『ずっと百合でいて欲しい』や『俺の事を考えないで欲しい』なんてのは俺のエゴでしかなくて、リリィとユリィの幸せを心から願って出た言葉じゃない。なら押し付けるのは駄目だ。ここは大人しく笑ってやり過ごそう。いや、これからも笑ってやり過ごそう。

 

雇用主と使用人という垣根を少しだけ超えて、良き仲として親しくなった。

ただ、それだけ。それだけだ。

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