【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】 作:しろとらだんちょー
食事のときも。
「あう、そんなに見つめられると恥ずかしいよ…」
「陽菜ちゃんもこれぐらい僕のこと見てたでしょ?」
「…ん、それもそうだね。でも、飽きない?」
「飽きる訳ないでしょ。僕の拙い料理を美味しそうに食べてくれてるんだから」
「えへへぇ…美味しいよ、秋人くん」
寝るときも。
「今まで私から抱きしめてたから、なんか嬉しいな。秋人くんから抱きしめてくれるの…」
「僕も嬉しいよ。もし暑かったら言ってね?」
「ふふっ、大丈夫。前よりずっと、ずーーっとあったかいから…」
トイレのときも。
「や、やっぱ無理ぃ…は、恥ずかしいよぉ…」
「…嫌ならやめようか。僕も嫌がることまではしたくないし…」
「う、ぁ、う…する、するよ。嫌われたく…ないし…」
「いや、別に嫌いにならない…ぁ…」
休憩のときも。
「ずっと、こうしてたいなぁ…すごく、幸せ…」
「ははっ、そんなに手を繋がれるのが好きなの?」
「うん…秋人くんと一緒になってる感じがする……はぁ、好き。大好き。もっともっと一緒になりたい…ね、しよ? 私の全部、私の愛の全部、秋人くんに証明したいの…」
「え? あ、ちょっ…」
遊びのときも。
「あ~…負けちゃった…」
「あはは、色々陽菜ちゃんに負けてる僕でもこれだけは負けられないな」
「ん~もう一回! 次は勝てるもん!」
僕はこの二週間、全てを束縛してきた。目立った発展は無かったものの、陽菜ちゃんが少しでも監視や管理のうざったさを理解してくれていたらそれで良かった。が、そんな僕の願いとは裏腹に、陽菜ちゃんは僕からの束縛を楽しんでいる様子しか見せなかった。
「ふ~疲れた~…」
「ッ!!! おかっ、おかえりっ!」
「あ、ただいま。…本、読んでて良かったのに」
「おかえりっ! えへへ、本なんかより秋人くん優先だよっ!」
僕が帰ってきた姿を見た陽菜ちゃんは、読んでいた本を投げ捨ててまで僕の前に移動して正座する。それだけではない。手錠や鎖のついた首輪をつけられ行動に制限がある状態でも、それに構わず僕の荷物や羽織っていた上着を持って行ってくれる。
ここ最近はトイレの監視も恥ずかしがる事もなくなったし、自慰行為の鑑賞もむしろ進んでせがむようになっている。
「…それ、苦しくない?」
「んーん、全然!」
拒否反応を見せるだろうと希望的観測を込めていたこの一芸も、陽菜ちゃんにとってはただの首輪のプレゼントという形に終わってしまった。いや、多分それ以上の意味合いで受け取っていると思う。これに関しては間違いなく悪手だった。
「ふふっ、これってなんかわんちゃんみたいだねっ!」
楽しそうに犬の仕草をなぞる陽菜ちゃんの姿に、僕は思わず溜め息を吐く。これから行う事に不安しかないが、それでもするしかない。でないと心身を削ってまでやった束縛に意味がなくなる。
「陽菜ちゃん、少し大事な話があるんだけど…いいかな?」
「へ? あ、いい…けど、何?」
ここからはとても重要な話になる。溜め息とは違う深い息を吐いて、心拍を整える。陽菜ちゃんの目をまっすぐと見つめ、話を始めた。
「…陽菜ちゃんを束縛し始めてから、二週間ほど経ったよね。疑念から始めた事だけど、僕はそれなりに楽しかった。…それでね、束縛をしていく中で少しだけ分かった事があったんだ。それは、陽菜ちゃんは不安だったんだなって」
「…うん」
陽菜ちゃんも真剣な空気を感じ取ったのか、犬の耳を表す仕草をしていた手を下ろし、少し縮こまるようにして僕の話を聞き始める。
「僕は浮気の疑念から始めたけど、陽菜ちゃんは違うよね。陽菜ちゃんは、本当に愛されているか不安だったんだ。同じ組み分けの女子と話したり、グラビア見たり、一人で趣味に没頭したり…それに対する陽菜ちゃんの想いをちゃんと理解できてなかった」
言葉一つ一つを脳内で吟味し、陽菜ちゃんを決して傷付ける事がないように話す。自分の思いと相手の思いが釣り合って、初めて会話が成り立つんだ。ぶつけ合う事はしたくない。一方的なのも、僕が忌避した行為と同じだ。慎重に、ちゃんと伝わるように、陽菜ちゃんの瞳をじっと見つめて話す。
「けど今回の束縛で、陽菜ちゃんも僕の愛を理解してくれたと思う。もちろんまだまだ伝わってない部分とか、汲み取れてない感情とかあるだろう…けど、束縛し合うだけじゃ分からないと思うんだ。改めて対等に生活して対等に愛していく事で、初めて全部理解できるんじゃないか。って…」
短い息継ぎ。
それすら震えてるのが分かる。でも言い切らなきゃ。
「……だから、僕の親に挨拶にいくの…もう少し先にしない? 偏って歪んだ愛じゃなくて、互いが互いに尊重して分かち合えるような愛になってから行くべき…だと僕は考えてる」
この二週間の間に生まれた思いのたけを全てを話し、疲れからかその場にあった椅子に座り込む。長々と話してはみたが、結局のところ言いたい事は『親に会うの先送りにしない?』だけだ。やや早口で告げられた内容を、ゆっくりと呑み込むように陽菜ちゃんはぎこちない相槌を打ち、やがて口を開いた。
「…そう、だね。それの方が…良い、気がする…」
その言葉に僕は思わず心の中でガッツポーズする。あぁ、無駄じゃなかった。この二週間の束縛の日々は、無駄じゃなかったんだ。
(いや、落ち着け…落ち着け僕…ここでまた言動に不穏を感じさせてしまっては元の木阿弥…あくまで冷静を保つんだ…!)
そう意思を固めた僕は決して感動に浸る事はせず、変わらず陽菜ちゃんをまっすぐ見つめて続けて出てくる言葉…陽菜ちゃんも思いのたけを聞いた。
「…ずっと、ずっと怖かったんだ。秋人くんは本当に私の事好きなのかな…って。でも、理由は違うけど私に対して愛をぶつけてくれて、私がしてきた行動を振り返らせてくれて、とっても…嬉しかった。……ありがとう、本気で私の事を愛してくれて。…好き、大好き! 秋人くんの事、もっともっと大好きになった!」
想いの重さは相変わらずだが、自分の愛の形を考え直してくれただけでも凄く嬉しい。束縛関係に終止符を打ち新たな関係を始めるため、僕は陽菜ちゃんの前に跪き陽菜ちゃんに付けられていた手錠と首輪を外しながら言う。
「じゃあ、改めて…陽菜ちゃん、僕と付き合ってください」
縛られていた物がなくなった喪失感に不安を覚えたのか、一瞬表情を曇らせるがすぐに笑顔になってそれに応える。
「うん…! よろこんで…!」
その時見せた笑顔は、今まで見てきたどの笑顔よりも綺麗で鮮明に残るものだった。
いやぁ初めの話がハッピーエンドとは幸先がいいですねぇ
【秋人くん】
最初は束縛が嫌で別れようとしていたが、自身も束縛をしていく内に陽菜ちゃんの気持ちに気付き、二人とも幸せになる選択を取った。元々自分の境遇を変えてくれた陽菜ちゃんの事を好いてはいたので、今回の束縛でそれが確固たるものになっただけ。ただ親への挨拶を先送りにするという意思は変わらなかった模様。ま、先送りさせる理由は変わったんやしええやろ(適当)
【陽菜ちゃん】
自分の愛とは相反するような秋人くんの態度や行動に不安が生まれ、グラビア事件を皮切に監禁してしまった。秋人くんの弱い時期に漬け込んだような交際だったからこそ不安だったのかもしれない。秋人くん優先という気持ちと抱いている不安の間で揺れ動き、何かと厳しいルールを作りそれをわざと違反させる事を繰り返して、良心の呵責に侵されないよう監禁を継続させていた。秋人くんの束縛を経験してから、日々の中で少しだが物足りないと感じるときがあるとかないとか。
【オチ】
一年後に一緒に挨拶に行きました。