【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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久しぶり!!!!!!!!!!


抱擁系彼女(中)

「オムライスはね~、意外と簡単なんだよ~?」

 

「あっ……っす」

 

「こーやってね~、油をちょこっと引いてね~?」

 

―――何だろう、凄く帰りたい。

 

大した経歴も覇気もないのに何故だか一発目で面接を受かって、何故だかそのまま厨房に案内されている。もちろんこなしている業務自体は皿洗いなどの単純なものだが、隣に立つ派手めの先輩が何故だか合間合間に料理を教えてくる。出来ないって言ってるのに。いや、出来ないって言っちゃったからなのか?

 

「――それで形が出来上がったら~、あとは盛り付けてかんせ~! どう? やってみる?」

 

「……いや、いいっす」

 

「そっか~。じゃあ次はパスタについて教えまーす! これも簡単なんだよ~?」

 

―――何だろう、果てし無く帰りたい。

 

無論、突如組まれたシフトを完遂するまで帰るつもりはない。

だけど、やっぱり帰りたい。業務内容に絡んでくる説明ならまだしも、延々と関わる機会のない料理について話されたら、断固たる決意を抱いた筈の精神も流石に疲弊してくる。もしかすると、これは何か別の形で試されているのだろうか。客に提供する物なのか分からない料理が後ろに積みあがっていく様に、何かしらの疑問を呈した方が良いのだろうか。

 

「まずはここにある麺を規定時間茹でまーす。大体ね~、三分くらい!」

 

本当に大体でいいのか?

袋に書いてある四分半の文字は無視していいのか?

 

「ここのコンロは火力が強いからね~、危ないから使うときは気を付けてね~」

 

そこの下にあるつまみは何の為にあるんだ?

常時MAXにするものなのか?

 

「んー……こんくらいでいっか! ちょっと食べてみて~!」

 

絶対三分なんか経過してないぞ。

なのに何で美味しいんだ?

 

「あとはソースを絡めて~、バジル乗っけて~、盛り付けたらかんせ~!」

 

分からない。

皿洗いを一旦止めて全部見てみたけど、やっぱり何一つ分からなかった。俺が感知出来ないだけで、本当は時空を歪めているんじゃなかろうか。それとも適当に作っても、何だかんだ美味しく出来ちゃう天賦の才なのか。どちらにせよ、俺には料理は向いていないんだろうな。

 

◇◇◇

 

業務終わり。

結局先輩に作られた数多の料理は、無事客席へと運ばれていった。俺に料理の教鞭を取る事との兼ね合いを考慮していたのなら、あまり侮れない先輩なのかもしれない。のほほんとしてそうなのに、意外だ。

 

「あ~、疲れたね~。明日こそは、一緒に料理作ろうね!」

 

「いやぁ……」

 

「そうだ! 私ね、奈留(なる)って言うの! それじゃあ、ばいばーい!」

 

「えぇ……」

 

ようやくここで自己紹介されたと思ったら、返す暇もなく颯爽と帰っていった。

コミュニケーション能力はずば抜けて高いが、おそらく極度の自己中なんだろう。天然と言い表した方が幾分か聞こえは良いだろうか。ただ、それに不満を覚えられるほど俺は良く出来ていないし、何よりああいう性格は嫌いじゃない。

 

「まぁ、何にせよ――」

 

疲れた。しかも途轍もなく。

ルミナはこんな疲労を毎日背負って帰ってきてたのか。いや、今の時点では比べるのもおこがましいな。バイトと正社員ではプレッシャーも仕事量も何もかも違うだろうしな。

 

「これで心から労わる事が出来そうだ」

 

言葉だけでなく、心と行動で。

給料は当分先だからまだ何も出来ないが、少しずつ意識して態度を変えていく事は出来る。外を歩く足取りがこんなにも軽い事だって、確実に変わっている証拠なんだから。

 

「ただいまー……」

 

シーンと静まり返った家の中。

まだルミナは帰ってきていないみたいだ。本当なら今すぐにでも働き出した事を伝えたいが、それじゃあまりにも恰好が付かない。ならば出来るだけ隠し通して、独り立ちできるぐらいに成長した時にサプライズするべきだろう。幸い、普段ルミナが帰り着く時間は大体把握している。それまでに家に入れさえすれば、バレる可能性は限りなく低い。これから密かに成長していく上で、問題は何もない訳だ。

 

「家事……はまだいいか」

 

残念ながら、体力はもう無いに等しい。

それに伴って、俺はソファに倒れ込む。だが心配はない。

決意と心意気さえ保っておけば、必ず形になっていくさ。

 

「……でも、せめて洗濯物ぐらいは――」

 

「ただいまー!」

 

「あ」

 

起こしかけた腰は、玄関から響いてきた声に鎮められるようにソファに再び落ちる。

急ぎ足で迫ってくる音は最初リビングを通り過ぎたあと、気付いたようにゆっくりと戻ってくきた。

 

「あれ? リビングにいるの珍しいね。何かあったの?」

 

「いや、別に」

 

ルミナはいつものように話そうとしてくる。体を近付けて、目を合わせて、心を通わせるように。それが嫌という訳ではないが、今は何かと気まずさが勝ってしまう。言うなれば、『合わせる顔がない』だろうか。隠し事すら全て見透かされてしまいそうで、思わず顔を伏せて避けてしまう。

 

「あっ…………ごめん、ね。怒ってる、よね……」

 

怒りではなく、不甲斐なさでいっぱいだ。

『そんな事ない』と言えない俺も含めて、全部が不甲斐ない。

 

「あの時は、そのっ、色々重なってて……仕事もそうだし、生理……とかも。……でもっ! それは言い訳だって分かってる! あ……あの、これっ! 新斗くんの好きなおやつ……なんだ、けど……これで許して欲しいって事でもなくて、えっと……」

 

手に持った大量の荷物を俺に向けて差し出してくる。

まさかそれ全部がそうだとでも言うのか。俺が好きな菓子をいくつか脳内で上げてみたが、どれもそんな量買えるほどの安い金額じゃない。正気の沙汰でもない。

 

「今まで通り楽しくしてて欲しくて、だから……そのっ! 『新斗くんは悪くない』……って言いたかったの。傍にいて欲しいって言ったのは私の方なのに、あんな事言って、ごめんなさい……っ!」

 

いや、正気でないのは俺の方か。

甘えた自分が大嫌いな筈なのに、謝罪されているこの状況に酷く安堵してしまっている。まだ俺の中に残っているくだらない自尊心と虚栄心が、面倒な変化を排斥しようと死力を尽くしている。これが心に深く根付いた甘えという名の狂気。自ら知覚出来ただけ成長と言えるな。

 

「……いや、あれは俺が悪いよ。明らかに邪魔だった」

 

「でも、でもっ!」

 

「いいんだよ。俺に合わせる必要なんてない。仕事は仕事、俺は俺で考えてくれ」

 

「……っ……うん。新斗くんがそう言うなら、そうするね……」

 

よし、とりあえずは言えた。

ただこれでも伝えたい事は三割以下程度。焦りこそしないものの、拭いきれない歯痒さはどうしても残る。まぁ、切り替えていこう。適度に空いた腹と美味しい菓子のセットを揃えておいて、うだうだと考えている方が可笑しいだろう。菓子だけに、ってか。

 

「あの……でも……」

 

「ん?」

 

そんなくだらない洒落を考えていると、不意に服を引っ張られる。

そしてこれまた不意に目を合わせてしまい、魅力的な上目遣いでルミナが一言。

 

「最近忙しくて、しばらく〝あれ〟出来てなかったから……今日の夜、良かったら……しよう?」

 

んんぐうううううう!!!

上手くまとまった後に爆弾出してきやがって!!!!

くそっ、耐えろ!!! 俺!!!!

 

「キョウハ、ヤメテオコウ」

 

「そっ、かぁ……そうだね。そうしよっか。でも、明日はしたいな……」

 

「イヤァ、ワカンナイッス」

 

俺の大事なあそこが無駄に燻っている。

これはどうにも変えられそうにないな。

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