【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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早く投稿出来たゾ~^
って思ってたら普通に一か月過ぎてました
もう笑うしかない


抱擁系彼女 番外(下)

古びたレンズが景色を濁らせて映す事と同じように、正しく定まらない私の意識は現実を薄ぼんやりと認識する。正気の沙汰じゃない連絡履歴、ひび割れた爪とスマホの画面、散乱したインテリアと電気家具。こんな惨状を見たら新斗くんはきっと困惑するだろうな。いや、きっとそれだけじゃ済まないだろうな。けどもう、片付ける事すら面倒臭い。壊れてしまったから。〝物〟がじゃない、〝私自身〟がだ。

 

これだけの事をしておきながら、それをこの目に映しておきながら、未だに現実を受け入れられない。意識は徐々に戻っていくのに、反比例するように現実は遠のいていく。まるでスクリーンを挟んだ物語のような、壁一枚を挟んだ他人事のような、そんな感覚だけが虚ろに残る。

 

「ルミナぁっ!!」

 

「……!!」

 

いつ何時も強く待ち侘びる、あの人の声が玄関から聞こえた。

都合の良い私の脳は全ての認識能力を彼に向けて、都合の良い私の心臓は血液を巡らせる事で愛を訴える。全てが夢幻の如く見える癖に、彼が帰ってきた事だけは現実であると全身で解釈する。もはや自己矛盾を抱く事すら烏滸がましい痴態。

 

どこまでいっても、私は変わらない。それは何となく理解していた。胸の内を理解して欲しい感情も、突き詰めれば変化の停滞から来る甘えだから。どれだけ自分を責め立てても、内側にある本音はいつだって『受け入れて欲しい』という自分本位な願望だけ。

 

「あっ、おかえりなさい!」

 

あぁ、自分で自分を許せない。

身に染みた罪深さが心を侵すほど、どうしようもなく罰が欲しくなる。その反面、どこかで私は許しを乞うている。自分で自分を殺せないから、自分で自分を許せないから、新斗くんに縋りついてしまう。

 

「……?? あ、た、ただいま……」

 

「うんっ、おかえり。心配したよー、もう……どこか行くなら連絡してて欲しいな」

 

今だってそうだ。

【どこかで私を分かってくれている。】

【この笑顔のぎこちなさも、きっと感じてくれている。】

そんな思い込みを、さも当然のように求めて縋っている。

 

「……ごめんな」

 

「んーん、こっちこそごめんね。リビング、少し散らかっちゃってて。今から片付けるから、しばらくうるさくしちゃうかも」

 

神に祈る人の気持ちもこんな感じだったんだろうか。

不確かで、不明瞭な、極わずかな光を求めて矮小な思いを馳せる。

 

 

 

 

 

私の全てを、どうか許して欲しい。と。

 

 

 

 

 

―――なんて、叶う訳ないのに。

 

 

 

 

「なぁ、ルミナ」

 

「なぁに?」

 

震えた声は媚びた表情で隠した。

スマホはポケットに入れて、爪は手の内側にしまう。今溢れて止まない感情は、計り知れないほどに身勝手で、幼稚で、荒唐無稽な感情だから。例えそれが醜い行為だとしても、少しでも良く見えるよう最大限に気を配る。

 

「話があるんだ」

 

ドクン、と心臓が跳ねる。

言われた言葉もそうだ。でも、それよりも、久しぶりに見た新斗くんの瞳が、あまりにも綺麗で。まるでこの瞬間、初めて恋に落ちたかのような感覚に陥ってしまった。けど、それも数秒。現実逃避なら何度もしてきた。今更どこかへ目を背けるなんて事はしない。

 

いや、厳密に言えば目を背けたくないだけだ。

だって目の前の新斗くんめっちゃかっこいいもん。

 

「……なぁに?」

 

あぁ、鏡を見ないでも分かる。今の私は最高に気持ち悪い。

どれだけ後悔の意を示しても重罪は免れない状況で、発情したイヌのような顔をしてるんだから。

 

「ここ、三か月くらい…………ずっと考えてた事がある。覚えてないかもしれないけど、唯一ルミナを怒らせてしまった日の事だ」

 

ううん、覚えてるよ。

私もずっと考えてる。

 

「あの時だけじゃないな。あの時までずっと、俺はルミナに甘え切ってた。今振り返ってみれば、ずいぶんと気持ち悪かったと思う。最悪な頼み事もしてしまったし、色々と人間的な何かが欠如してた。きっと俺が慮れないほどに迷惑をかけたと思う」

 

ううん、全部全部、嬉しかったよ。

かっこいい貴方だけじゃない。ダメダメな貴方を知れたのも、そのダメダメな部分すら愛おしい事を知れたのも、何一つだって迷惑だなんて思った事はないよ。

 

「でも、三か月! あの時から三か月だけ、本気で頑張ってみた! 『たったそれだけ?』と思ってるかもしれないけど、俺なりに死ぬ気で努力した。働くって事がどれだけ大変か……まだアルバイトだけどそれなりに分かってきた。ニートの時よりか、多少はマシになったとも思ってる」

 

うん、すっごく頑張ってたね。

私から離れていくのは悲しかったし寂しかったけど、『私の為に本気で変わろうとしてる』って事だけは唯一嬉しかったな。でも、元に戻れる選択肢があるのなら、私は間違いなくそれを選んじゃう。

 

「迷惑かけた分の慰謝料とか、この……壊れた物の弁償代とか、少しずつだけど払っていける。どれだけ小さくても不満が残るのなら、全部解決してみせる」

 

あぁ、優しいなぁ。私が壊した物の事まで考えてくれてるんだ。

ストレスで壊したとでも思ってるのかな? 全然違うのにね。自分勝手な妄想と衝動に耐えきれなくなっただけの産物なのに、全部自分のせいだって考えてるんだ。なんて、なんて残酷な優しさなんだろう。自己満足なんかじゃない、相手を最大限慮って出た言葉だからこそ、私はそれを受け容れなきゃいけない。

 

それは多分、この後に出る言葉も含めて。

 

「―――だから、別れよう」

 

「……………」

 

このまま首を縦に振る事と、横に振る事。

どちらの方が罪深いか、少しの間考える。

 

縦に振ってしまえば、馬鹿げたこの〝償いもどき〟は終わる。ただし、それ以上に大きなものを背負う事になる。それは『騙している』という感覚。今までなら〝償い〟という後ろ盾があったからこそ、自己嫌悪に揺れ動きながらも騙せていた。でも、今度は正当化出来ない。100%純粋な悪意で構成された行為。新斗くんに対して何も生み出さない、むしろ奪いながら過ごすなんて考えたくもない。

 

逆に横に振ればどうなる?

今ここで全てを吐き出して、『別れたくない』って必死にごねれば、優しい新斗くんはきっと受け入れてくれる。だけど、新斗くんの私を見る目は変わってしまう。貴方に縋りつける理由を償いとしか形容出来ない私では、まっすぐな愛を信じている新斗くんには見合わなくなってしまう。

 

 

 

じゃあ、どうする?

 

 

 

「私が、いけなかったのかな」

 

「いや、違う。全部俺が――」

 

「私は! とっても嬉しかったよ!」

 

嘘を吐こう。隠そう。

また、あの日と同じように。

 

「ねぇ、ダメなの? それじゃ新斗くんはダメなの? 迷惑なんて私もかけてる! 最悪な部分だっていくつも見せてきた! それの何がいけないの……?」

 

「いや……ルミナはあの時、耐えきれなくなったから怒ったんだろ? だから――」

 

「だから、終わりなの?」

 

身勝手で、幼稚で、荒唐無稽な言葉。中身のない、欲に支配された言葉。

きっとこの内服された醜さは消えない。どれだけ時が経っても、どんな現象が起きようと、あの日に生まれてしまった澱みは未来永劫消える事はない。そう、だからそれでいい。打ち明ける事もしなくていい。私は新斗くんの全てが知りたいけど、新斗くんは私の全てを知らなくていい。

 

捧げると決めた人生が、私にどう見えるかなんて関係ない。

 

ただ、新斗くんの都合の良いように。

ただ、新斗くんが心から幸せになれるように。

ただ、新斗くんが満たされ続けられるように。

 

あるべき形で、あり続ければそれでいい。

 

「私はっ、大好きだよっ!! 大好き、大好き、大好き!! 耐え切れなくなんかなってない、今でもずっと、ずっとあの時の言葉を後悔してるっ! まだまだ一緒にいて欲しいよっ、おじいちゃんおばあちゃんになるぐらいまで一緒にいてほしいっ。怒られるのが嫌ならもう一生怒らないから、仕事を持ち帰られるのがイヤならもう持ち帰らないから、だから……っ!」

 

「ち、がう。違う……俺はただ、もう、ルミナの横にいる資格がないって事に気付いて……!」

 

「資格なんて必要ない! 新斗くんにとってここの居心地が悪いなら、私だって変わってみせる! 絶対に、もう、イヤな思いはさせない……!」

 

「駄目、だ。それじゃ俺はまた、駄目になる……ルミナに、相応しい、男に……っ!」

 

「それなら、私はもっとにダメになる。新斗くんが決して劣等感を抱かないように、変な心配も及ばないように、新斗くんナシじゃ生きていけないような女になってみせる。……それじゃ、ダメ?」

 

あぁ、今ほど私の生まれ持った顔に感謝した事はない。

否が応でも目に入る情報の一つ。感情表現の大半を占める部分の質が高いほど、誘惑はより強くなる。情に訴えかける事も、欲に訴えかける事も出来る。今の貴方がどれだけ後ろめたさなく篭絡されてくれるか、全てが私にかかってる。

 

「ねぇ、新斗くん。大好き……だよ。何百回だって、何千回だって言える」

 

「……俺も、好きだ」

 

「~~~~~!! 嬉しい……っ♡」

 

穢れた心、(ただ)れた体。

鏡が映す私の姿はそんなものだ。でも新斗くんが見るのは鏡じゃなくて、完璧で理想を繕った私。それは悪い事じゃない。ありのままを受け容れ合う事が、真実の愛に繋がる訳じゃない。ただ、新斗くんが望むような命を捧げ続ければいい。

 

 

それが私の(つみ)だから。

 

 

「ずっと、ずっとずっとずっと……! 新斗くんを、新斗くんだけを……っ」

 

 

貴方は私の(ばつ)でいて。

 

 

「愛してる……っ♡」




なんかもう、ノリだよね

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【日鴉ルミナ】
どっかの国とのハーフ(適当)。見た目は果てし無くよろしいが、性能は今一つといったところ。周りと自分との評価の乖離が酷すぎて元々自己嫌悪気味だったが、高校時代の陽キャ新斗くんに死ぬほど差を見せられてついに病んでしまった。それまでならまだセーフだったのに、好意のドラが乗ってあーもうめちゃくちゃだよ(呆れ)。更には善意100%の教師一喝パンチを見せられてついに役満。憧れと嫉妬と好意と執着とetc……
まさに歪みや澱みと言って差し支えない感情のパラダイスを、『好意』の鍋に全部ぶちこんじゃってさぁ大変。リアル闇鍋になってしまいましたとさ。

この後はなんやかんやあって人生を無事捧げ切ります。

【新斗くん(主人公)】
高校時代の陽気はどこへやら。
一人の少女を救いそして堕とした事など、残念ながら思考の片隅にもない。まぁ繊細かつ優しさに磨きがかかった性格からすると、その方が幸せなのかもしれない。無事人生を捧げられましたとさ。おしまい。
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