【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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4日しか経ってない!!!!!!!!


弟子系後輩 番外(下)

「……思い通りには、いかんものだな」

 

校舎裏の壁に背を任せ、ぽつりと零す。

この世界を心から愛して守る事。その見栄えの良さは計り知れないだろう。だからこそ、それが一番正しいのだと錯覚してしまう。アルバニア筆頭の蒼牙ですら、例外ではなかった。世界の為に、そしてミアの為に切り捨てたあの瞬間。何度夜に伏して朝を迎えても、鮮明に思い出してしまう。

 

「なぜ、泣いたんだ」

 

誰に向けるでもない言葉、空に浮かんで消えるだけの虚。

別れを惜しむ気持ちはあった。それでも弟子が救いに囚われるくらいなら、と決めた事だった。だというのに、蒼牙は未だ女々しく揺らいでいる。時間を大きく巻き戻しては、間違いを探し続けている。才能に満ち溢れた弟子を失った現実を、未だ直視しようとしないでいるのだ。

 

「はぁ……ここまで脆かったのか、吾輩は」

 

まるで恋に敗れた乙女のようだ、と鼻で笑う。

おそらく、割り切ろうと思えば出来るのだろう。傍から見て可笑しな茶番に興じるより、ずっと有意義で魅力的に見える何かに没頭した方が遥かに健全なのだから。いくら蒼牙が世界を守ろうと、周りが見るのは〝画一化されている〟か〝否か〟だけ。異端である意味など、端から存在しないも同然であるからだ。

 

蒼牙は、この全てを誰よりも理解していた。

それでも、蒼牙は考え続けた。

 

『誰よりも優しいあの子だから、きっと先輩みたいな変人でも蔑ろに出来ないんです。必死に話を合わせてあげて、無理に笑っているんです。』

 

あの時、別れを告げたあの瞬間。

縋るように泣いて見せたミアの姿は、果たして本当に優しさだったのかを。

 

「……儘ならんな、何もかも」

 

師であった事の驕りや思う通りであって欲しい願望が、熱を込めて伝えられた言葉と交錯し、複雑な思考回路が組み立てられていく。勿論、簡単に結論に辿り着く訳もない。感情の整理が不慣れな蒼牙の脳はすぐにオーバーヒートを起こして、たちまち停滞を引き起こす。やはり、儘ならない。

 

気付けば、日陰だった場所も煌煌と照らされていた。

これでは冷却も儘ならなくなると、渋々蒼牙は立ち上がる。

 

その時だった。

 

「きゃーーーー!!!!」

 

「!?」

 

遠くから響いてくる甲高い悲鳴。

決して戯れの類でない事は瞬時に理解出来た。それほどまでに異常な声量、声質。

 

「奴ら、か?」

 

先程までとは違い、考え込んでいる暇などない。

蒼牙はすぐさま体制を整え、悲鳴の出所へと向かう。だが、悲鳴が上がったのはたったの一度だけ。やや長く響いたとはいえ、探し出せるまでには至らない。このままでは教職員や野次馬が先に辿り着いてしまうだろう。もし蒼牙の予想通り〝奴ら〟だったとしたら、それだけは絶対に避けなければならない。

 

故に、駆ける。

聞こえた方向自体は既に把握している。そして、声の籠り具合からしておそらくは室内が発生源。現在の情報だけで導き出すのは至難の業だが、蒼牙の高い洞察力がそれを可能にする。

 

(聞こえたのは北方向……そこにあるのは北校舎と体育館だ。現時点ではどちらも有り得るが、休み時間である事を考慮すれば可能性が高いのは前者……!)

 

やや前傾姿勢の全力疾走。

息が上がった状態での邂逅は望ましくないが、第一に優先すべきは〝奴ら〟と一般人とを遭遇させない事。まず最初に着くのが自身でなければならない以上、後の体力など気にしていられなかった。だが幸いにも校舎までの距離は70m弱程度。事件発生時に何者かがいない限り、最初の着くのは蒼牙だ。

 

「はぁっ、はぁっ。大丈夫、か―――」

 

一段飛ばしで上がっていった階段の途中。

発生現場は蒼牙が洞察した通り、北校舎内の三階へ続く踊り場だった。

 

ただ、一つ。否、二つ。

予見の届かなかった事を挙げるとするなれば。

 

【一方の被害者は頭部への損傷が激しく、既に細かな確認など必要ない程であった事】

そして、

【一方の被害者は、頭と胴体とを繋ぐ部位の破壊程度が著しく高く、原型を留めていなかった事】

 

「―――なん、だと?」

 

胃が搾り上げられるような、爆発的に湧き上がる吐き気があった。

脳を直接叩かれたような、何よりも感情的な怯えがあった。

四肢を鎖で繋がれたような、抗いようのない重さがあった。

そして、それすら明らかに見劣りする、衝撃的な光景があった。

 

「何故、貴様がいるのだ……? ミアっ……!!」

 

「お久しぶりです。師匠……いえ、赫喰蒼牙」

 

血だまりと散乱した死体の傍らに立っていたのは、蒼牙の良く知る人物。

決別を告げた筈の、最愛の元弟子だった。

 

 

◇◇◇

 

 

疼く、と言えば正しいのだろうか。

皮膚のすぐ下で大量の蟲が蠢いているのか、内臓に巡る血液が沸騰しているのか。少し気を抜けば見悶えてしまう状態が、絶えず体を侵している。貴方にいち早く会いに行きたくて、今の姿では会いたくなくて、まるで身の丈に合わない恋をしているみたいだった。

 

「何故、貴様がいるのだ……? ミアっ……!!」

 

呼吸が荒い。体が火照っている。

私と同じだ。貴方と同じだ。

こんなにも、近くて一緒だなんて。

捨てられた事がまるで嘘みたい。

 

「お久しぶりです。師匠……いえ、赫喰蒼牙」

 

心からではなく、貴方を傷付ける為だけに発する『師匠』はこうも重いのか。

フルネームを呼んだ事だって初めてだ。思わず繰り返したくなるような、特別感と充足感で出来た言葉。どさくさに紛れてやった事だけど、こんなにも喜びに震えてる。

 

「ッ、動くな!!!」

 

「……つれないですね。離れてると話しづらいと思っただけなのに」

 

当然の事だけど、近付かせては貰えない。

情や希望的観測はどこにもない、最大限の警戒だ。今は師匠でもなく、赫喰蒼牙でもなく、アルバニアとして私の前に立っている。少し前までは怯えた子犬みたいだったのに、凄い胆力だ。

 

だけど、胆力だけじゃどうにもならない。

私の力は触らなくても発動するから。

 

「!? ぐあッ!!」

 

首を強く掴んで、壁に押し付ける。

触っていないのに、触っている感覚が肌を伝う。甘美な電撃が脳にまで行き届く。どれだけ弄っても攻撃としか捉えられない、今にこそ露わになる私の恥ずべき官能的部分。思わず下腹部に熱が籠る。

 

「目をっ、覚ませ!! ミアっ!!」

 

「私の夢を覚ましたのは貴方なのに、随分と無責任な事言ってくれますね」

 

「わる、かった。気付けなかったのだ。間違いにもっ、貴様の事もっ!」

 

「そうです、貴方は私に気付けなかった。それで話は終わりなんです。今はただ、私の間違いが続いてるだけ。貴方は何の関係もない」

 

万が一にも殺してしまわぬよう、押し付ける際にも後にも力は抜いていた。

貴方が愛おしいから、なんて分かり切った理由だけじゃない。『私の師匠だった貴方なら、きっと』と何の根拠もない期待を抱いているからだ。だけど、今のところは説得しか選択肢がないようで、少し悲しく思ってしまう。私の言葉を聞き入れなかったあの時の貴方と心情は全く同じであると、勘の鋭い貴方はいつ気が付いてくれるのだろう。

 

「関係がない、だと?」

 

そう、溜め息が出そうになった瞬間。

空気が確かに揺れた。

 

「吾輩は師で、貴様は弟子だった。その関係すら無いものとするのか?」

 

初めて見る、憤怒の模様。

明らかに優勢なのはこちら側なのに、首筋に刃が突き付けられている気がしてならない。

 

「初めに捨てたのは貴方でしょう」

 

「捨ててなどいない。大事で、かけがえのない存在だったからこそ、数多の幸福と成長を願って見送ったのだ。それが間違いだったと知った今でもっ、恥ずべき事では断じてない! 貴様ほど才に溢れた人間ならばっ! 吾輩の元で燻るより、よほどまともな生を謳歌出来ると思ってした事だ!」

 

「……!」

 

「関係がない? 捨てた? 甘えた思考を持つのも大概にしろ愚か者!! よもや、ここに転がっている骸も、それに気が触れて手をかけたのではあるまいな!?」

 

怒号が踊り場に響き渡る。

いつか見た父親のそれとは一線を画す、道徳や正義に満ちた怒り。少しは精神的にもリード出来るかと思っていたが、どうやら思い上がりだったようだ。反論も揚げ足も余地がない、完璧なまでの言葉。慣れ合う日々が続き薄れていたが、この人は軽い気持ちでここにいる訳じゃない。

 

「そうです。気が触れたから殺しました。そうしなきゃ、私のプライドも何もかもが壊れていたから。いわば正当防衛ですよ。それも貴方にとっては間違っている事なんですか?」

 

「殺して保たれる矜持など塵も同然だ。それに間違っているかだと? 笑わせるな、貴様自身が『間違いが続いてるだけ』と宣ったのだぞ。言葉にすら一貫性が持てないのなら、今すぐそこに立つのを止めろ。不愉快だ」

 

私に対して向ける目線が、『道を踏み外した元弟子』から『憎むべき奴らの一員』へと変わっていく。

あぁ、痛い。胸の辺りが酷く痛む。多分、高揚と哀情が混じり合っているからだ。でも、嫌われていけばいくほど、貴方の一番に近くなる。私はきっともう、終わっている人間なんだろう。これだけ声を荒げて怒られても、貴方に見られている事が嬉しくてたまらない。

 

貴方を内側から独占していく今の時間が、永遠に続けば良いと願って仕方ないのだから。

だけど、それじゃ駄目だと分かってる。何かしら変化が無ければ、いずれ部外者が来てしまう。私としても意味のない殺しはしたくないし、見せたくない。抱かれる感情が憎悪にまで及んでしまうのは、今の私にはまだ怖いから。

 

「だったら、早く抜け出して退かせば良いでしょう?」

 

「ッ!!」

 

「言葉の良し悪しについて語るのなら、まず言葉だけ語るのを止めてください」

 

いくら気迫で誤魔化そうが、現状は何一つ変わらない。

力の抜かれた拘束すら解けないのであれば、それこそアルバニアとして対峙している意味がない。貴方も痛いほど分かっているんでしょ? 

 

私を救った嘘が、どこまでも貴方を苦しめている事ぐらい。

 

「……捨てているのは貴様の方だ。研鑽を重ねた美しき日々も、己も」

 

ぽつり、ぽつりと零れて出てくる言葉。

先程までとは打って変わって、静けさに針を忍ばせるような物言い。最初はまた話すだけかと落胆したが、次第に気付き始める。その場の空気の揺れが、雰囲気の変化では収まらないレベルにまで達している事に。

 

そう、まるで、その空間が歪み始めているような――

 

バキィン!!!

 

「―――え?」

 

一際大きな音を立てて、壁から背を離し足を着かせた姿を見る。

感覚で分かった。『振り解かれた』のではない、『壊された』のだ。

拘束していた透明な腕そのものを。 

 

「それがどうしても分からぬと言うのなら、吾輩は、貴様を」

 

歪んで消えた空間を補うように、周りが強い力で僅かに縮小する。

近くの壁にはヒビが入り、血液や死体も引き寄せられる。そして補った事を知らせる合図のように、再度、大きな音が鳴り響いた。

 

「〝奴ら〟と見做し、始末しなければならない」

 

あぁ、なんて、なんて残酷で美しいんだ。

1フレームずつ切り取って額縁に飾りたくなるような、言語化する事も邪に思えてしまうような、生ける芸術が今ここに輝いている。この瞬間を隣でなく前から見れた事は、いつまで経っても忘れないだろう。

 

「奴ら、じゃありませんよ。私は、〝私達〟は『テルペンスト』です」

 

「名前などどうだって良い。吾輩の言ってる事は分かるか、ミア」

 

「………………」

 

答えは決まってる。

だけど、少しばかり馳せる。

 

やっぱり、貴方の世界が大好きです。

私は馬鹿で愚図だから、他の世界なんて考えられなかった。こんな方法でしか貴方の世界に入れなかった。この先、延々と許しを乞い続けるでしょう。でも、決して許さないでください。今度こそ、失う事無く貴方の中にいさせてください。それが叶うのなら、叶い続けるのなら、私はどんな事だって厭わない。

 

「いいえ、分かりません」

 

ねぇ、世界で一番大好きだよ。

だから、世界で一番嫌いになって。




(ミアちゃんにとっては)ハッピーエンド

【逆月ミア(さかつき みあ)】
神からの寵愛を一身に受け過ぎた、本物の天才。語彙の発達速度だけを取っても既にレベチだったが、何と齢3歳にして某難関大学難関学部の過去問を解いてしまう。この時点で教育方針は・のびのびやらせる。か・天才教育(いらんこと)する。の二択だったが、ここで外してしまう。結果、憎悪の魔人が完成。芸術に惹かれた時期もあり、ここでも路線変更の二択があったが、またもや外す。とうとう救いようがなくなってしまったという訳だ。蒼牙とかいう変人に会ってからは比較的穏やか(当社比)になっていたが、周りの友人に恵まれず今度は憎悪の魔神になってしまう。しかもその時点で超能力にも目覚める。あーもうめちゃくちゃだよ。因みに能力は念動力。

【赫喰蒼牙(あかじき そうが)】
別に何の寵愛も受けてない、平凡かつ凡庸な一般高校生。いつから自分をアルバニアであると錯覚したのかはもはや誰にも分からないが、この馬鹿がいたおかげで逆月ミアという爆弾は不発のままでいた。しかしこの馬鹿のせいで爆弾は大爆発。土壇場で覚醒した超能力で何とかしようとするが、この後あえなく撃沈。出力がちげーんだよ出力が!! 逆月ミアはその後『テルペンスト』の名で組織を作り上げ、世界を破滅へと導いていくが、それはまた別のお話。でもこれラブストーリーなんですよね(困惑)因みに能力は空間操作
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