【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】 作:しろとらだんちょー
いつも通り過ごしてたはずだった。
昨日だって日頃のストレスで酒に溺れて、ベッドにある抱き枕に泣きついて、そんでそのまま寝ただけ。特別何かをした訳じゃないし、された訳でもない。強いて言うなら寝相が悪くてベッドから落ちたけど、それが大きく影響してるのかと聞かれたら、きっとそうでもない。
【既に昼番組を映してるテレビと、それを見て笑っている母親。】
【そして、母親の頭上に浮かぶ『75』という数字。】
「……やっぱ、頭でも打ったかな」
がんがんと響く鈍痛は飲み過ぎたせいだろうし、寝過ぎたせいでもあると思う。
さっきからこぶを探してはいるけど、懸命の捜索虚しく見当たらなかった。内出血も起きない程度の衝撃で意識混濁・幻覚の類は表れない(多分)から、騙し騙しやってたストレスがついに実を結んだってのがイイ線いってる推測か。今日が休日で良かったよ、ホント。
さて、どうしよう。
いきなり精神科に行って『変な数字が見えるんです』なんて言っても、そうすぐには解決しないだろう。薬を出されて終わりか、最悪入院だ。会社に行けなくなるのは支障が出るし、精神病棟に幽閉されるのはこちらとしても御免被りたいのが本音。よって、これはナシ。
だけど、病院に行く以外の解決方法もない。
早速手詰まりになってしまった。これも人生経験の浅さか。こんなへんてこりんな事で未熟さを知るなんて、末代までの恥だろうな。……『俺がその末代なんだけどな!』なんて安易なギャグは、心の内にしまっておくことにする。
まぁ、それは置いといて。
身近に相談できる人間がいなかったため、掲示板で聞いてみることにした。
だって、母親に話したってしょうがないし、姉もそこまで親しくない。近所付き合いなんてしてられなかったし、彼女も親友も作る機会がまったく無かった。だから掲示板で聞くしかない。中々に終わっている俺にとって、まさに都合の良い相談先だったってワケ。
「……ん、他の人の数字?」
掲示板に潜むニッチな奴の意見に期待してたけど、この返信もある意味応えてくれてる。
二日酔いで頭がやられてなきゃ気付けてたんだろうけど、そんなこと言ったって今の俺には何も気付けない訳で。いやいや、誰も俺を責めちゃいないさ。大人しく、焦らずいこう。
そう、ちょうど息を殺して、そーっと姉の部屋を覗くんだ。
もう年頃なんて言葉は使わない年齢だし、音さえ立てなきゃ様子を見ることも容易だ。
「42……」
週刊女性誌に夢中になっている姉の頭上には、母親より33も減った『42』が浮かんでいた。
掲示板に報告すると『年齢じゃないか』と挙がったが、おそらく違う。母親にしろ姉にしろ、もうちょっと若かったはずだ。因みに、『おそらく』なのは誕生日を祝う習慣が家(うち)にないから。傍から見ればただの経費がかさ張るイベントだったけど、意外と重要な役を背負ってたんだな。少し、ごめん。
閑話休題。
あまりにも情報が少ないので、コンビニがてら外に出てみる事にした。
出勤以外の外出はかなり新鮮で、迫るものが無い分空気もそれなりに美味い。風景に関しちゃ代わり映えしないが、特段そこに期待はしてないからノーカン。むしろ風景を見てないまである。普段余裕がないとかじゃなく、興味が湧かないというか、そそられないというか。紅葉も花見も魅力的に感じないのが本音だ。
「ワン!ワン!!」
「おお」
周りを見て無いから、吠えられて初めて犬に気付く。数字は『56』。
20年経てばただの猫も猫又になるそうだから、仮に年齢だったらこいつはケルベロスにでもなるんだろうか。いや、失敬。既に過ぎた話だったな。繰り返すようじゃ、閑話休題の意味がないわな。
「ありがとうございましたー」
ハーゲン〇ッツを買ってみた。
店員の数字は『13』。この時点で俺は『好感度なのでは?』と思い始めた。スレの中でも挙がってたし、答えとしては妥当なのかもな。しっかし、何とも言えない数値たちだ。75が高い部類なのは分かるが、それ以外の判断がまぁ難しい。俺の頭がおかしくなってるだけだから、指標もクソもないのが更に拍車をかけている。
「確信が欲しいな……」
ここで言う〝確信〟は、〝俺に向けている感情が分かりやすい奴〟の事。
例えば『同じ仕事場の上司』だったり、『取引先の客』だったり。普段からの態度があからさまな奴ら。あぁ、一応言っておくが好きじゃなくて嫌いの方な。この症状がある内に会っておきたいけど、休日を返上するやる気も価値もないから困ったもんだ。どこかに俺の事が嫌いな奴はいねぇもんか……
「あ? ……は!?」
「久しぶりに会って第一声がそれですか。何か好意的な言葉を貰えると期待していたのですが、残念です」
「いやいやいや……おいおいおい……」
俺の神経をどこまでも逆撫でする、相も変わらない皮肉と嘲笑を秘めた発言。
俺がいわゆる激情型だったら、頭の中の文字が全部消えるくらいには取り乱してただろうな。だけどまぁ、意外と冷めてる上に、慣れっこなもんで。そんな事は疾うの数秒前に清算してて、今はただ一つの異常をどうにか理解しようと頭で反芻してる。
『2億8000万』。
俺がこいつによっぽど好かれてりゃ、『好感度で間違いねぇ!!』と確信が持てたんだけどな。逆も逆、真逆だ。目の前の
「どうかしましたか? 随分と呼吸が乱れてるようです。一旦、深呼吸を挟んでみては?」
「るせぇよ、大して心配もしてないくせに」
「悲しいですね、私は心からそう思っているというのに。……あぁ、そうだ。働いてばかりの貴方は知らないでしょうが、最近ここらにカフェが出来たんです。よろしければ、今から一緒に行きませんか? 丁度いい休憩にもなるでしょう」
あぁ、クソ。
やっぱりこいつと話してると腸が煮えくり返りそうだ。生理的に無理なのか、それとも俺自身すら知らないこいつを嫌う何かがあるのか。それを探って理解しようとする事も憚られる。だからこの反応はそういうものなんだ。猫や犬の一挙手一投足が愛らしいように、俺はこいつの全ての言動が嫌いでしょうがないんだ。
「行きてぇなら勝手に行ってろ。俺は帰る」
「確かに行きたいですが、私は貴方と行きたいんです。私一人で行っても、あまり意味はありません」
「俺もお前と行ったって意味ねぇよ」
「……そう言われると、弱りますね。何か、大きな意味があれば良かったのですが。私はただ、貴方と一緒にいる事を楽しみたいだけ……」
俺の返した言葉を皮切りに、うんうんと一人唸り始めた。
せいぜいそこで考えればいい。どんな言葉を俺に向けても、返ってくるのは総じて『NO』だ。
「…………お金を、払います。貴方といれる時間分だけ、貴方が満足する金額を。これならきっと、貴方にとっても大きな意味がある」
――思わず、天を仰いだ。
こいつはどうして、こうも俺の地雷を踏み抜いてくるのか。
認めるよ。お前には俺をイラつかせる才能がある。マイナスの方向に心を揺れ動かす、紛れもない天賦の才がお前には備わってる。もう俺の負けで良い。何かにつけてお前を言い負かそうと頑張ってきたが、これでよく分かった。お互い相容れないんだ。あらゆる要素で俺たちは関わるべきじゃないんだよ。
「そうか、うん。それでいいよ」
「……!! では早速カフェに」
「お前はもうそのままでいいよ。そのまま生きていけ。どんな意図があるか分からねぇが、俺に関わろうとさえしなけりゃ、至極真っ当に生きられるだろうよ」
幸いお前は見た目が良い。
性格も他から見れば良い方だろう。
ただ、俺がいないだけで全てが丸く収まる。
簡単な話じゃないか。
「……何の、話ですか? うまく要領が掴めません」
「『お前とはもう会わない』……って事だ。簡単だろ? 理解するのも、行動するのも」
「何故ですか? 何か不快になる部分があったのなら教えてください」
「いやいや、もうそういうレベルの話じゃないんだよ。目立つ凹凸をちょっと直したぐらいじゃどうにもならないんだよ。分かるだろ? お前は俺が嫌いで、俺はお前が嫌いだ。これだけはずっと変わらない」
「っ、私はっ! ……貴方が好きです。信じて貰えないかもしれませんが、本当に好きなんです」
柄にもなく張り上げられた声に、俺は俯きがちだった顔を上げる。
久しぶりに見る顔は相変わらず整っていて、泣きぼくろとか、高い鼻とか、潤んだ瞳とか、部分部分でも強烈かつ鮮明に頭に残る。でも、それだけだ。『本当に好き』なんて安っぽい言葉は、俺に心に響かない。いつもの何気ない言葉の方が、よっぽど心に響くだろうよ。別の意味でだがな。
「ここらが終わり時だろ、いい加減な」
「いいえ、いいえ、違います。まだ一緒にいたいです」
「俺はもうお前の顔も見たくないんだ。『本当に好き』なんて言うなら、少しは俺の気持ちも尊重してくれよ。……なぁ、頼むよ。
「……!!」
気のせいか、名前を呼んだときに珂世の顔が赤くなったような気がする。
いや、気のせいだろ。かなり久しぶりに、それこそ顔を見るよりも久しぶりに呼んだから驚いただけだな。
「…………!!!」
……てか、驚き過ぎだろ。
明らかに固まってるじゃねぇか。そんなに嫌だったのか、何か悪い事したな。
「じゃ、そういう事でよろしく」
固まってるところ悪いが、ここは逃げさせてもらう。
これ以上話すとこれ以上に白熱しかねん。そうなると通報される。更に面倒事に発展する訳だ。そもそも俺は頭の上の謎の数字が知りたくて外出してたんだし、嫌いな奴と話をする事ほど無駄な事はないだろう。結果的に頭の数字が何かは分からなかったが、収穫はあったのでよしとしておく。
しかし、好感度ではないなら何だと言うのか。
振り出しに戻された気分だ。
「はー……なんなんだマジで。いい加減誰か教えてくれー……」
【54:雨降れば名無し
マジレスすると鏡見ろ】
あっ、そっかぁ(アホ)。
やっぱり二日酔いは駄目だな。こんな事にも気付かない。家も近付いてきた事だし、ダッシュして確認してこよう。あぁ、やっとこの疑問から解放される。短いようで長い道のりだった。分かったところで俺の人生が好転する訳でもないが、不思議と充足感はある。そんな感覚に包まれながら意気揚々と扉を開けて、俺は玄関にある姿見の布を取った。
そこに書かれていた数字は―――『30』。
「……これは……」
一日一回で、今日は30日。
「オナニーの回数じゃねぇか!!!」
アイツ、マジかよ。
母親が75
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