【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】 作:しろとらだんちょー
『一世一代』という言葉を聞いて、殆どの人は告白を当てはめるだろう。
かくいう私も同じだ。今までにない緊張や高揚に包まれながら、まるでこれからの人生が左右されるが如く気迫を見せる。残酷さや尊さを彷彿とさせる青春群像劇だからこそ、『一世一代』という枕詞が最も相応しく感じるのだろう。そう、私も思う。思っていた。
「好きです。付き合ってくださ」
『イヤだ』
私の『一世一代』は、いとも容易く打ち砕かれた。
言葉通り、今世の魂すら賭けたつもりだった。失敗すれば死すら厭わないと、安易ながら本気で出したセリフだった。それが、たったの数秒。意気消沈を通り越した表情の私に一瞥もくれる事なく、彼は歩き去ってしまった。
当時はフラれた理由なんて考えなかった。
ただただ怖かった。彼に拒まれた事実を曲がりなりにも受け止める事が、怖くて仕方がなかったから。でも今なら分かる。彼は私ではなく、彼自身を嫌っていた。私がいくら彼を好いていようと、彼は自分すら愛せないのだから、私の気持ちに応えられる筈もない。最初から私を見てなどいなかったのだ。
そして私は、そうなってしまった理由も知っている。
嗤う女と、茫然とする彼。
『一世一代』であるべき告白が、ほんの数瞬楽しむ為の玩具に使われたと知った、彼の表情。向ける感情も向けられた感情も全て嘘だと知った、彼の感情。全部見ていた。全部知っていた。すぐにでも寄り添って、彼の唯一の理解者になれば良かった。でも、今となってはその願いも届かない。
ただ〝知っている〟だけだ。
激しい自己嫌悪に苛まれ、自己肯定感なんて微塵も持たず、周りに流されるままに生きた結果ブラック企業に辿り着き、そこでも自分の価値を見出せず、過去に経験した悪夢に縛られ、生きる意味を考えても箇条書きがやっとで、そのくせ酒に溺れてまで生にしがみ付こうとする、可哀想だと慰めて欲しそうな人生を。
つらつらと、ただ〝知っている〟だけ。
私はそこに一ミリだって関与出来ない。
彼の事がどうしようもなく好きで、それがどうしようもなく届かない。ある種私は悟っていた。『一世一代』にいくら気持ちを込めようが、伝わらなければ塵も同然。むしろ伝わって当然とする考えこそ、酷く傲慢であると。だから、やめた。私の気持ちが彼に伝わるなんて淡い期待も、彼がいつか変わってくれるなんて身勝手な期待も。
ただ私は彼を――貴方を愛せればそれでいい。
貴方にいくら傲慢だと嫌われようと、嫌みな奴と罵られようと、私は貴方をずっと想ってる。淡泊な言葉に愛を込めて、無機質な声に恍惚を忍ばせて、不愛想な顔で貴方だけを見てる。この愛は一方的でいい。傍から見てそれが滑稽だとしても、私は貴方のピエロでいい。
ピエロで良かった、筈なのに。
『俺はもうお前の顔も見たくないんだ。『本当に好き』なんて言うなら、少しは俺の気持ちも尊重してくれよ。……なぁ、頼むよ。珂世』
貴方がそんな顔で、そんな声で私を呼ぶから。
貴方がどこまでも欲しくなってしまった。
―――貴方に名前を呼ばれたあの瞬間から、より一層貴方を想っています。
今度こそ嘘だと思われないように、貴方を否定させないように、緻密かつ綿密に想っています。伝わるかどうかではなく、確実に伝わるように、言葉を繰っては書き記しています。そして、こうしてでも貴方が振り向かない未来がある事も、もちろん理解しています。
だから、私は知っている全てを使う。
「2億8000万、ですか」
具体的に言うなら、
手紙はあくまでも最終手段だ。むしろ成功率だけでいえば一番低い。だから、貴方と私にしか分からない数字を使う。だって、今の貴方にとって、これが〝全て〟でしょう? 彩りもない、輝きもない。そんな人生の道端で、持って帰りたくなるような石ころを見つけたのが、今の貴方だから。
いいですよ。
私がいくらでも教えてあげます。
数字の意味も、何もかも。
だけどその代わり―――
◇◇◇
「あー……俺、確かお前に『顔も見たくない』って言ったよな?」
「はい、言われました。では誤解を解く為に、デートをしましょうか」
「いや、うーん……誤解とかそんなんじゃなくてだな?」
やっぱり、こいつはいつだって俺の想像を超えてくる。それも容易く。もう無視するとか遠ざけるとか、そういう段階の話じゃないのかもしれない。いや、本来ならその段階でいい筈なんだよ。きっとな。でもこいつは『序盤の村で魔王が出てくる』みたいな、そんなイレギュラーをずっと繰り出してくる。
そんな事に対応したメンタルアップデートなんて、滅多に行われる訳もなくてだな?
結局自力というか、そもそもサービス終了同然というか。ある種の生贄として、無駄な労力を捧げるしか選択肢がないのが現状だ。つまり、
「駄目、でしょうか?」
脈の無い奴からの上目遣いはイラッとくるな。
とはいえ、ここで衝動的に断っても先はない。
「……一回だけだぞ」
最初で最後のな。
「……!! はい、わかりました……!」
「一回だけ、な? 勘違いすんなよ」
「はい。肝に命じます」
そう念を押した後、緩んだ珂世の口角がほんの少しだけ見えた。
ぎらりと差す太陽はまるでお前だけを照らしているようで、こいつがデートをこぎ付けた今が祝福されるべきだと、全存在が宣っているみたいだ。〝みたい〟なだけで、全部俺の妄想だけど。でも、言いたい事は何となく分かるだろ?
そう思わせてしまうくらい、こいつはあからさまに美しい。
背は俺より高いし、巷で言われるモデル体型でもあるだろうな。朝のニュースでよく聞くような声をしてるし、髪はどこぞのリンスのCMで流れてたやつとそっくりだ。顔は言わずもがな。俺でも分かる、こいつは美しいよ。
だからこそ、俺はこいつが嫌いだ。
生理的嫌悪だなんて気取っていたが、悟りの極地に至った今なら分かる。俺は浅はかにも願ってるんだ。『どこを取っても完璧』『だから、せめて性格だけは……!』てな感じで。少し恣意的な解釈ではあるが、大体は間違ってない筈だ。だって、怖いんだよ。得体が知れないんだよ。それだけ持っててなお、何で俺を求めるのか分からないんだよ。
遊びであってほしい。
くだらない欲望に忠実に従った結果であってほしい。
最低最悪の性悪女でいてほしい。
これ以上、傷付きたくないんだよ。
「……はぁ」
「どうかしましたか? 疲れたのなら、新しく出来たあそこのカフェで休憩を」
「馬鹿の一つ覚えか。いかねぇよ」
「そうですか、残念です」
弱音なら昨日の夜ひたすら吐いた。
酒にも溺れた。感傷に浸るのはこれで終わり。
「準備してくる。流石にこのままじゃいけねぇだろ」
「服装を気にかけてくれるなんて……そういうところも大変素敵だと思います」
小うるさい女を引き連れての外出……なんて気が乗らないんだ。
でもこいつと歩いている以上、否が応でも見られてしまう。最低限の服装になるため、最大限の時間をかける事を念頭において準備を始めた。願わくば、準備が終わった頃には帰ってますように。
【3億1000万】
……あと何でこいつ、数字が3000万も上がってんだ?
ハイパーインフレ
感想と評価オナシャスセンセンシャル
ファンボは近々チラ見せ分をここに載せると思います