【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】   作:しろとらだんちょー

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うーん、過去編は無理ですね
全ては馬鹿みたいな好感度のせいです


嫌われ系幼馴染 番外(下)

緩やかに回転する白く塗装された乗り物たち。

鈍く発光する電飾にはどこか哀愁を感じて、はしゃぐ子供がより際立つようになっている。何て完成された空間なんだろう。夢というイメージが寸分の狂いなく再現されたみたいだ。

 

「初めて乗りました……! 案外、楽しいものですね」

 

「そうか。俺は最悪の気分だ」

 

あぁ……こいつさえいなけりゃ、もう少しぐらい楽しめたかもな。

 

「意外です。まさか乗り物酔いに弱いタイプだったとは」

 

もはや何も言うまい。

この手の会話が洒落なのか本気(マジ)なのか、見分ける事すら億劫だ。今はただ受け身に徹しよう。何か他の楽しい事を考えるんだ。例えば、遊園地の事とかな。まぁ、今遊園地にいる訳なんだけど。こりゃおもしれぇ。がはは。がはははは。

 

「あー……つまんねー……」

 

いつぞやと同じ速度、角度で天を仰ぐ。

駄目だ。本格的に思考が死んできている。一度だけでも、浸ってしまったからだろうか。明らかに脳が弱まってきている。目の前のこいつを死ぬ気で否定する機構が、ついに限界を通り越して本当に死んでしまったんだろう。これに関しては少し笑えるな。がはは。

 

「! 申し訳ないです。つい、私ばかり……次は貴方の好きな乗り物に」

 

「いや、ちがう。こっちの話だ。乗り物はお前が選べ」

 

ちくしょう。

何でそんな目で俺を見れるんだ。何でそんな声で俺に話しかけられるんだ。何で頭上の数字が青天井に上がっていくんだ。【4億】ってなんだよ。まだ入り口じゃねーかよ。それらしいイベントなんて起きなかっただろーがよ。何でお前の数字はそんなに増えるんだよ。そもそも何の数字なんだよ。

 

「そう……ですか。何か乗りたいものがあれば、遠慮なく言ってください。一緒に楽しみたいですから」

 

全部、全部分からん。

今差し出されている手を掴むべきなのかすら、俺には分からなかった。

 

「……!!!」

 

「何驚いてんだよ。お前が出したんだろうが」

 

「いえ、いえ……う、嬉しくて……っ」

 

結局、手は掴んだ。

立ち上がるための支えにするだけのつもりだったのに、気付けばずっと握ったままになっていた。前の俺ならきっと振り払ってただろうな。俺の中で何が変わったのか、それも分かんねぇ。ていうか、どうせ全部分からないんだ。それならこのままこいつの策に乗った方が、随分楽に過ごせるだろうよ。

 

「次はあれに乗りましょう! きっと楽しいです!」

 

「えぇ……俺のあぁいうの嫌いなんだよな」

 

「私とどっちが嫌いですか?」

 

「……じゃあ、お前」

 

「なら大丈夫です。乗りましょう、ほら」

 

軽く掴んだ手が強く引かれる。

いつの日か見た夢が、この瞬間に重なる。

 

「はぁ、行くか」

 

心が躍ってしまっているなんて、口が裂けても言えなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

貴方を想う。

明るく振る舞う。

貴方に見せた事のない私を魅せる。

 

貴方を想う。

仕草も表情も言動も計算する。

どこを見ているか逐一確認する。

 

貴方を想う。

どんな感情を抱いているか観測する。

かつての夢を完璧に体現する。

 

貴方を、ただ想う。

失ってしまったものを、貴方自身が見つけられるように。

 

 

◇◇◇

 

 

「流石に疲れましたね。少し休憩しましょうか」

 

「…………おう」

 

ジェットコースターにお化け屋敷、コーヒーカップから空中ブランコまで。

遊園地っぽいものは粗方堪能した。その結果が今の疲労だ。とは言っても、激しく疲れている訳じゃない。体力が余っている内に腰掛けて、ちょっとした話でもしようって魂胆だろう。

 

だが、そうはいかない。

 

なぜなら普通に疲れているからだ。

何事にも向き・不向きがあって、何なら種類もある。仕事用の体力はあっても、遊び用の体力は無かったって訳だ。肩で息をするほどじゃないが、ちゃんと疲れてはいる。

 

「大丈夫ですか? 顔色が優れていないように見えます」

 

「あぁ、へーき……へーき……」

 

いつも通り整った顔立ちで、こっちを覗き込んでくる。

数字は【5億4500万】。すれ違う奴らは皆【30】とか【20】なのに、こいつだけ億や万の単位がある。異質にも程があるだろう。なぁ、こいつに見惚れる男どもよ。お前らは知らんだろう。こいつの持つなんらかのステータスが、青天井に上がってる事なんか。

 

「すいません、私だけはしゃいでしまって」

 

「いいって。こっちの話だか」

 

「――じゃあ、話してください」

 

凛と通る声。

それほど大きな声量じゃないのに、より一層の視線を集める。

 

「私は貴方の全てが知りたいです。今何を思って、何を感じているのか。今日は楽しかったですか? それとも、楽しくなかったですか? 私の見ていた景色が貴方と同じだったのか、私は全部知りたいんです」

 

ちぐはぐ、だけど今までで一番真っ直ぐだった。

それこそ、俺の歪んだフィルターを物ともしないぐらいに。

 

「私は楽しかったです。嬉しかったです。貴方といれたこの時間も、貴方が私といてくれた事も。……好き、です。やっぱり好きなんです。貴方にとって迷惑でも、この気持ちだけは抑えられない。大好きです。大好きでした、ずっと……昔から」

 

あまりにも、突然の告白だった。

ついさっきまで疲労に苛まれていたのが嘘みたいで、今はただ凪いだ空気と静寂だけが内と外にある。それに反して思考は大時化で、元々整理されてなかった脳内フォルダはクラッシュ寸前だ。今俺は何を言われたのか、アーカイブを逐一確認しては読み込んでいる。

 

その道中で……いや、奥底で。

一つ不自然な記憶があった。 

 

破損が酷くて開けない、開きたくなど到底ない記憶。

何が入っているのか分からない。きっと見たくないもので溢れてるんだろう。本能が、生理的嫌悪が、嫌というほどこの記憶に反応している。でも、知りたい。珂世が言った言葉を受け取るには、それが必要だと何故だか確信していたから。

 

だから少しだけ開けた。

あの時の凄惨な記憶を、ほんの数瞬だけ振り返ってみた。

 

『もしかしてアンタ、本気にしてたの? アンタなんか、誰も好きになる訳ないじゃん』

『何、その顔。嘘でも付き合ってあげてたんだから、むしろ感謝して欲しいくらいなんだけど』

『……キモっ、なんか言えよ。そんなんだからアンタ嫌われてんだよ』

 

―――なるほど。

 

意を決して振り返ってみた訳だが、今考えてみればずいぶんと安っぽいトラウマだな。かなり恣意的に俯瞰した影響もあるだろうが、それにしても嘘の告白をする奴の性格なんてたかが知れてる訳だし、わざわざあの頃に回帰して言い返すほどでもないというか。ただ、今の今まで囚われていた分が綺麗さっぱり癒えたかと聞かれれば、もちろんそれもNOだ。

 

嫌なタイプの余韻はまだ俺の中に残ってる。

でも、確かになった事がある。俺が嫌いだったのは、俺の過去であり、俺自身。決して、珂世が嫌いだった訳じゃないんだ。だからこの言葉も、今なら素直に受け取れる。

 

 

 

訳ないだろうが馬鹿野郎!!!!!

俺が珂世を嫌いじゃない事と!!

珂世が俺を好きな事には!!

何の! 関係も! ない!!!

 

いくら俺が俺自身をちょっと見直したところで、こいつが俺を好きになる理由なんざ到底見つからない。端から見合ってないんだよ。だから信じられない。だから変わらない。嫌がらせ以外の妥当な解釈がないままだ。

 

「……ごめんな。お前の気持ちには答えられない」

 

ゆえに、俺の返答もこうなってしまう。

懐疑的なままで付き合ってしまう事は一種の侮辱だ。これが俺にとって最善の選択肢で、珂世にとってもそれなりに良い結末の筈だ。だからもう終わりでいいだろ。デートも、関係も。

 

「――終わりませんよ」

 

「ん?」

 

あれ? 俺今声に出してたか?

何か異次元の会話が成り立っているような――

 

「出してはいませんよ。ただ、貴方の目が雄弁なだけです」

 

「……こりゃあ、大した観察眼をお持ちのようで」

 

「ふふっ。それで言えば、貴方も持ってますよね。いや、見えていると言った方が正しいでしょうか」

 

…………待て、待て待て待て。

俺こいつに数字の事話してないよな。誰にも、一言も話してないよな。仄めかしてすらないよな? いや、まだ違うかもしれない。俺の潜在的な能力を見抜いているだけなのかもしれない。

 

「その数字を見ても、まだ信じてくれませんか?」

 

オワタ\(^o^)/

何でバレてるんだ。いや、別にバレて損失が出るタイプの秘密じゃないけども。如何せん、順序ってものがある。せめて俺の口から直接伝えて、正しく伝わって、そこから話が広がっていくのが正しい道筋だろう。だのに、こいつは何で知っている。どういう経路を辿れば知れるんだ。

 

「すみません、仰る通りですね。ちゃんと貴方の口から聞いて話題に上げるべきでした」

 

……おい、目で語るとかいう次元じゃないぞ。

 

「確かに……では撤回しますね。貴方の目はそこまで雄弁じゃないです」

 

「ギリギリ悪口じゃないところを責めるな」

 

「ふふっ、軽口を言い合うのは楽しいですね」

 

「そうか、俺は段々と重くなってきてるよ。お前……何が見えてるんだ?」

 

こいつ、明らかにおかしい。

今の状況だけじゃない。今朝会った時からずっとだ。かなり長い期間遠い距離で接してきた癖に、今日になって急に押せ押せになった理由はなんだ? 今までの珂世なら、罵倒されてすぐの時間にデートに誘うなんて事、絶対にしなかった。何か、こいつなりの確信があったんだ。

 

例えば、俺の頭の中が見れるとか。

 

「……当たりです。やっぱりすごいですね、貴方は」

 

「俺の上位互換じゃねぇかよこの野郎」

 

謎の数字を考察してた俺が馬鹿みたいじゃないか。

張り合うつもりは更々ないから良かったものの、この能力に俺が誇りを持ってたらどうするつもりだったんだ、まったく。……ていうか、頭の中が読めるって事は――

 

「はい、色々と見させて貰いました。『私の事が嫌いじゃない』……とか」

 

「あぁ……まぁ、いいか。この際謝っておく、今までごめんな。勘違いしてんだ。自己嫌悪で何も見えなくなってた。あの時も、ちゃんと考えて答えるべきだった。本当に、ごめん」

 

「いいえ、いいえ、いいんです。私は貴方が知れただけで幸せでしたから」

 

「そうか。なら良かった」

 

奇天烈な展開にしては、随分と丸く収まりそうな雰囲気だ。

こいつに読まれてしまうためあんまり考えたくはないのだが、それで少しは過ってしまう。『あれ? もしかしてこれで帰れるんじゃね? 全部終わるんじゃね?』ってな感じで。まぁ、考えてしまった以上、そうはいかない訳でな。

 

「その通りです。先程も言った通り、終わらせる訳にはいきません。もう、知ってるだけじゃ駄目なんです。貴方の事を、どうしようもなく欲しいと思ってしまったから」

 

そんな真面目な顔して気障な事を言わないでくれよ。

どれだけ大した言葉を使われても、俺はそれを信じられないから。分かるだろ? 俺の心が見えてるんだろ? 心底思ってるんだ。俺はお前の隣を堂々と歩ける人間じゃないって。

 

「いいえ、違います」

 

違わない。何一つ釣り合ってないんだ。

それに頭ごなしに否定しても、お前と一緒になるなんて選択肢は俺の中に生まれない。

 

「違いますよ。貴方はそんな事、何一つだって思ってないんです。私の隣がどうだとか、自分の身の丈がどうだとか、そんな事微塵も考えてないんです」

 

……何だと?

 

「貴方が知りたいのは、私が本当に貴方を好いているかどうかだけ。……それなら、もう分かっているでしょう?」

 

【6億2300万】。

朝に見る時計みたいに、気付いたら数字は大きく進んでいる。流石にそろそろ分かってきた。これはオナニーの回数じゃない。普通に考えて無理だもんな。理とかを超越しなきゃ無理だ。ただ、ただの自慰行為で理を超える奴なんていない訳で。

 

じゃあ何だ?

 

いや、くどいか。

それもそろそろ分かってきたよ。何度も自分の中で問いかける必要なんてない。

 

「ねぇ、好きです」

 

【6億5000万】。

 

「貴方が、貴方だけが大好きです」

 

【7億4600万】。

 

「ずっと、伝わらないものだと思ってました。でも、今なら分かってくれる。否が応でも、貴方は私が見える。だから、何度だって言います。何度だって想います。貴方が満足して、納得する数字になるまで。何度も、何度も、何度も」

 

【8億9700万】。

 

「……これでも、駄目ですか?」

 

【10億】。

そこまで上がった頭上の数字を見て、ようやく道理に沿った答えが見つかる。これは好感度だ。最大値が分からない以上、どこまでも上がる眼前の数値に対してどんな気持ちを抱けばいいかは定かではない。ただ、平均を見れば異常な数値である事は確かだ。

 

まぁ何であれ、こいつはちゃんと俺の事が好きだ。

俺の頭が狂ってるだけと解釈すれば、まだ抗えそうな気はするけどな。でもそんな事をするより、理由でも聞いて納得する方がいいだろう。

 

「十分すぎるくらいだ。分かったよ、付き合おう」

 

「……付き合う? 何を言ってるんですか?」

 

「あ? まさかこの期に及んで――」

 

「結婚しましょう。必要な費用は全部私が出します」

 

またしても、空気が凪いだ。

外野が何かとうるさい気もするし、珂世の数字はまだまだ上がっている気もする。淡々と進む時間と事象の中で俺は馬鹿の一つ覚えのように俯瞰的に自分を見て、また納得しようと考えを巡らせている。何か気の利いた言葉を探している訳でもないんだし、思考自体見抜かれているのだから無駄である事は明白なんだが、それでも珂世は『言葉にしてこそですよ』と言いたげだった。

 

「……よろこんで」

 

「はい、その言葉が聞きたかったです。……ずっと」

 

珂世はテーブルから身を乗り出して、俺の眼前まで顔が迫る。

桁違いの数字(あい)は俺の視界から外れて、代わりに物理的な情報(あい)が熱く唇に伝わった。




二人は幸せなキスをして終了

【男】
名前を出す暇がなかった。
学生時代の嘘コクをどこまでも引きずり、気付けばブラック会社で流れ着いた男。数字が見え始めた理由は定かではないが、まぁ多分神の気まぐれ。結局最後まで珂世に好かれていた訳は分からなかったが、むしろ分からないままの方が良いのかもしれない。

【天々色 珂世(てていろ かせ)】
過去に起きた決定的な出来事で、揺るがない恋情を主人公に抱いてしまった女。
一度主人公に告白を拒否されてから今日に至るまでずっと『知る専』になっていたが、名前を呼ばれてしまった事であらゆる部分が覚醒。今までに知り得た情報と、何故か見えるようになった思考を駆使して、何とか主人公をオトす事に成功した。やったね。因みに好感度の最大は100で、珂世が最終的に到達した数値は【27億4000万】。もし主人公と珂世の能力が逆だったら成立しなかっただろうね。
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