【急募】ヤンデレな彼女と別れる方法【助けて】 作:しろとらだんちょー
アイドルを追いかけてる奴なんて、皆馬鹿だと思ってた。
自分の人生も満足に生きられてないくせに、他人の生き様がどうだとか誇らしそうに抜かす。いくら金をかけたって、いくら声を張り上げたって、その百分の一も届かないくせに、何かを成し遂げたみたいに掲げる。別に愛の在り方に疑問を呈しちゃいないさ。他人の為に生きる人生もあるだろう。だけど、そんな風に生きたって何も返ってこない。強烈な光に引き寄せられた、ただの羽虫にすぎないんだから。
必死に積み上げた虚無が崇高であると疑わず振る舞う姿。
こいつが馬鹿でなきゃ、きっと馬鹿なんていないんだ。
―――それが、数年後。
「うおおおおおおおおおおお!!! 雨流流ぅぅぅぅ!!!!!!!!」
六畳一間の狭い部屋で、型落ちのテレビに映る少女を見て咆哮を上げる。
歌い、踊り、魅了する。少女に向けられる青いスポットライトが輝かしく照らし、凝ったカメラワークがより一層魅力的に映す。食事中で流し目に見てたオッサンの箸を止めて、駅に急ぐチャリンコのガキも足を止める。こんな狭い部屋の中でも、そんな世間の反応がありありと想像出来る。
『いやぁ~圧巻でしたね。どうでしたか、初めてテレビでパフォーマンスした感想は?』
あっという間の三分間が終わって、有名司会者からコメントを求められる。
左程乱れていない前髪をさっと直して、明るく笑顔で応対する。
『そうですね。すっごく緊張してましたけど、今まで応援し続けてくれた人とか、今見てくれている人に精一杯感謝を込めていたら、いつの間にか終わっちゃってました!!』
『なるほどぉ……応援してくれていた人っていうのは、お父さんとお母さんかな?』
『んん……それもありますけど、一番は幼馴染ですね! ずっと励ましてくれていたので!』
当たり障りのない、だけど爽やかさと清純さを含んでいる返答。
もう、れっきとしたアイドルなんだな。あぁ因みに、今雨流流が口にした『幼馴染』は他でもない俺のことを指している。決して俺の妄想なんかじゃないぜ。三年間一緒に切磋琢磨して、かけがえのない時間を過ごした、もはや戦友とも言える大切な関係だ。まさか、テレビで触れて貰えるとは。感極まりそうだ。
「うう……良かっだなぁうるるぅ……!!」
何ならもう極まっているしな。
霞んで上手く見えないこの視界でも、残念な画質の液晶でも、お前は世界一可愛いよ。衝動で立てたスレでも反応は上々だったし、お前にはやっぱり人に好かれる才能があったんだ。こんなところでは燻らない圧倒的なスター性があったんだ。信じて応援してきて、本当に良かったよ。
『いやぁ、鮮烈なデビューですねぇ! これは売れますよぉ!!』
気付けば雨流流は舞台袖に下がっていて、有名コメンテーターが興奮気味にレビューしていた。そうだ、そうだよお前の言う通りだ。分かってるじゃないか。明日の朝には……いや何なら今の今から! SNSのフォロワーが止め処なく増え続けて、通知や連絡は鳴り止まない。混沌とした人気爆発が始まるんだ。世界が、雨流流を、余すところなく見つけるんだ!!
『はあああ、めっちゃ緊張した!!(笑)』20:43
『どうだった??』20:43
―――だから、もう俺なんて切り捨てていいんだぞ。
と、労わりより先に伝えたくなる。
律儀にも送られてきたメッセージの送り主は雨流流だ。ほら、言っただろ。俺の妄想じゃない、ちゃんと雨流流と幼馴染なんだ。少なくとも、テレビ出演終わり真っ先に連絡してくるぐらいには仲が良い。だからこそ、ちょっとした悩みもあるんだけどな。
既読『お疲れ様!!!! 最高だったぞ!!!!』
既読『そっちもどんな感じだ?』
本当なら数千文字に及ぶ感想を送りつけたいところだが、ここは数歩引いていつも通りの口調で返信する。
『良かった~!!』20:44
『マネージャーさんと控室ではしゃいでる(笑)』20:44
『この衣装、デビュー時限定らしいから見納めだ!!』20:44
『【写真】』20:45
そして送られてくる一枚の写真。
和気あいあいとした雰囲気を画角に収めながら、衣装の全体を写す構図。自撮りながらブレは一切なく、もはや芸術品と化した素晴らしい一枚だ。あと疲れて暑いからか胸元が少し開き気味だが、そこには言及しないのが幼馴染としての正しい距離感ってものだろう。
既読『へー、ライブでは着ないのか』
既読『もったいない、可愛いのに』
しかし、本格的に距離感を考えなきゃいけないな。
ただでさえ今はゴシップの時代なんだ。お得意の捏造・切り取りの被害で芸能界を去った人も、数え出したらキリがない。なるべく対面で会うことは控えつつ、メッセージでのやり取りも少なくしていかないと。ファンの中には彼氏でなくとも、男関連の絡みがあるだけで逆上する奴もいるしな。『幼馴染だから例外だ』なんて考えてくれる人も少ないだろう。
『じゃあ、今度この服で会おっか?』20:47
……ん? こいつは何を言ってるんだ?
まぁただの冗談か。ここまで危機管理能力が低い訳でもあるまい。
既読『いや目立つだろw』
『家で着替えたら問題ないよ!』20:48
『テレビ越しだけじゃなくて、間近でも見てほしい』20:48
『ダメかな?』20:49
距離感云々を語った直後にこれだよ。
俺はどう返せばいいんだ。冗談じゃないならその対処法を俺は知らない。茶化すか、いやそれはきっと悪手だ。中身のない返答をしたって、関係に亀裂が入るだけだ。それだけ避けた――
―――待て、俺は今なんて考えた?
関係に亀裂が入るのは避けたい?
どの面を下げればそんな言葉が吐けるんだ。三年間、確かに俺は雨流流を支え続けたさ。苦しくて、光明が見えなくて、時折意味を見出せなくなる時もあったさ。そんな困難を共に乗り越えたからこそ、この〝今〟があることは重々承知してる。でもその〝今〟は、断じて俺の物じゃない。勘違いしちゃいけないんだ。だけど勘違いし始めていた。
だから、最もらしい理由も見つけたんだろ。
既読『アイドルが一般人の家行っちゃ駄目だろ!w』
既読『俺はテレビ越しで十分だ!ありがとな!』
「ふーっ……これでいい。……これがいいんだ」
本音を言えば見たかった。
目の前で歌って踊って欲しかった。
でも一ファンがそんなこと望んじゃいけない。
せいぜい望んでいいのは、今度開かれるワンマンライブの一等席が当選することぐらいだ。
『そっかぁ、残念』20:51
『代わりに今度のライブはスタッフ席で見られるよう準備しとくね!』20:51
『あれ?寝ちゃった?』20:55
『―メッセージを削除しました―』
『おやすみ!ゆっくり休んでね!』21:00
通知だけでもメッセージはある程度読める。
もちろん会話を急に中断するほどの睡魔には襲われてない。
ただ突如飛び出た『ライブの席を用意する』という誘いを、瞬時に断る気力が湧かなかっただけ。
「そりゃあスタッフ席で見たいでしょうがっ……!!!!」
いらぬ神に祈る必要もない、これ以上ない甘い誘い。
「……うん、明日断ろう」
一拍……否、一泊置かねば正常な判断が出来そうもない。
薄い布団に身を任せ、はしゃいだ後も片づけず眠りについた。
短い……短くない?
感想と評価よろしくナス