今年もよろしく初投稿します。
「移籍?」
翌日。
食堂で昼食を囲んでいるのはいつものメンバーである。
そんな中で、スズカがポツリと漏らした移籍の話に最初に食い付いたのは、やはりと言うべきかシャムであった。
スズカは一度頷くと、『ポラリス』のパンフレットを鞄から取り出して皆に見せる。
揃って覗き込んだメンバーの内、フクキタルが真っ先に声を上げた。
「ここって私が所属してるチームですよ! もしかして、来てくれるんですか!?」
「あ、そうだったの。なら、これからは同じチームメイトね」
やったあ、と無邪気に喜ぶフクキタル。対して、シャムは少し不満げであった。
早くスズカと同じチームになりたいな、とテーブルに突っ伏して呻くシャム。
それを見て、スズカはふと思った事を口にしてみた。
「シャムちゃん。私と一緒に来てみる? 今日顔合わせするらしいのだけど」
「! 行く!」
「わ、ほんとですか! シャムさんも入るとなれば嬉しいです!」
「ワオ! これが熱い友情というヤツデスネ! ……スズカが移籍してしまうのは寂しいデスガ」
フクキタルと並んで上機嫌になるシャムと、テンションが上下するタイキ。
そこへ待ったをかけたのはサンドイッチを切り分けて食べていたドーベルだった。
「いや、そもそもシャムさんがそこにスカウトされないと意味が無いんじゃ……?」
「え゛っ」
テンションが上がっていたシャムは一転して顔を青ざめさせる。
いや、分かってはいたつもりなのだ。トレセン学園に所属するウマ娘達が走る為にはチームもしくは専属のトレーナーにスカウトされないといけない事を。
どこかで逆スカウトしたという話があったような気もするが、それは特殊なケースである。
兎も角、大抵はスカウトされなければトレーナー付きにはなれないという事だった。
「私、この間の選抜レース3位だったから……声なんて掛かるのかな?」
「え? この間の選抜レースの時、結構声を掛けられていたように見えたけれど」
不安そうに耳を垂らすシャムに、首を傾げながらドーベルが返す。
彼女も同期が出ると聞いて見に行ったのだが、レース後に何度か声を掛けられていたのを見ている。
尤も、当の本人は泣いて走って行ったので、スカウトは受けていないだろうが。
指摘されたシャムは頬杖をつくと、ぷく、と頬を膨らませた。
「だって、あんまりにも負けたのが悔しかったから……」
「あー、それは分かるわ……」
うんうん、と頷くドーベル。競走本能を持つウマ娘の1人として、負けた悔しさというのは良く分かる。
そう言う事なら、とドーベルが納得した所で、フクキタルがぽん、と手を打った。
「あ、そうです。もしかするとシャムさんなら『ポラリス』に入れるかもしれませんよ?」
「どういう事?」
「いえ、トレーナーさんがこの間の選抜レースで気になる子がいたって言ってたので」
「本当!?」
がば、と起き上がってフクキタルに鼻息荒く詰め寄るシャム。
いきなり詰め寄られ、少し後ろに引きながらもフクキタルは頷いた。
「ほ、本当ですよぉ。なので、一緒に行ってみたら良いと思いますよ? 何なら占いも……」
「あ、いえ、大丈夫よ。それなら一度行ってみるわ」
「それがいいと思いマス! チャレンジ精神は大事デス!」
占いをしようと提案するフクキタルに断りを入れたシャムの横で、タイキが両手を組んで嬉しそうに声を上げる。
一方、話を切り出したのにここまで放置されていたスズカは若干死んだ目で昼食を食べていたのだった。
⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱
授業が終わった後、スズカは東条と共に『ポラリス』のトレーナー室にやってきていた。
一緒についていくと言っていたシャムには、移籍の手続きが終わってから合流して引き合わせると言って待ってもらっている。
トレーナー室で待っていた『ポラリス』のトレーナ──―桐生院 茜とサブトレーナ──―桐生院 葵と、書類の交換と挨拶を済ませる。
「よし、書類は問題あらへんな。これでキミは正式にウチのチーム『ポラリス』の一員になる」
「よろしくお願いします」
「茜、スズカをよろしく頼むわね」
任しときぃ、と胸を叩いてみせる茜。
桐生院、と聞いて、厳格な人と為りを想像していたスズカはその様子を見て、少し驚いた。
茜はそんな口をぽかんと開けているスズカを見ると、あはは、と大笑いする。
「驚いたか? ウチは桐生院言うても大阪の分家やからな。東京の本家程お固くはあらへんねん」
「そうなんですか?」
「スズカ。茜のこういう話は耳半分にしておきなさい。茜が型破りなだけだから」
「あはは、照れるやんかハナ」
「褒めてないわよ!」
「そういう所ですよ、お姉ちゃん」
後ろ髪を掻きながら照れる茜に東条と葵が揃って突っ込みを入れる。
茜は、おお、と大げさに驚いて見せながらまた笑った。
「息ピッタリの名コンビやなぁ。3人で天辺取らんか?」
「馬鹿言わないの」
「馬鹿言わないでください」
「あ、あの……」
華麗に天丼を決めている3人にスズカが恐る恐る声を掛けるが、その声は聞こえていないようだった。
その後、やいのやいのと騒ぐ3人が落ち着くまで暫く時間が掛かった。
一通り落ち着いた後、こほん、と咳払いをしたのは茜だった。
「まあ、そういう訳やから、スズカには明日からウチのチームの練習に加わってもらうで」
「はい。……今日からでは無いんですか?」
「今日は顔合わせてしまいや。そんじゃ、行こか?」
「分かりました。……あの、おハナさん」
頷いたスズカは、おハナさんの方へ向く。それを見て、東条も居住まいを正した。
「おハナさん。改めてこれまでありがとうございました」
「ええ。『ポラリス』でも頑張ってちょうだい」
2人は握手を交わし、それからスズカと茜は『ポラリス』のチームルームへ向かう。
それを見送る東条の胸には、少しの寂寥感が残ったのであった。
⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱
トレーナー室で東条と別れたスズカは、茜と葵と一緒に待たせていたシャムを迎えに行く事にした。
待ち合わせの三女神像前に向かうと、暇そうに待っていた彼女を見つけたので声を掛ける。
「シャムちゃん」
「あ、スズカ! 話はもう終わったの?」
こちらに気が付いたシャムはぴょこぴょこと跳ねるように近付いてきた。
この女神、こっちに来てから随分と可愛げが出てきた気がする。最初に出会った時とは大違いだ。
もしかしたら、このシャムが本来の彼女なのかも知れない。そう思うと、自然と笑みが零れた。
「ええ。シャムちゃん、こちらが『ポラリス』のトレーナー達さんよ」
「おー、話には聞いとったけど、まさかホンマに来てくれるとはなぁ。どれ……」
「ひゃあぁっ!?」
シャムに隣の茜を紹介するや否や、当の茜がシャムの背後に素早く回るとトモを触り始める。
いきなりの出来事にピン、と尻尾を逆立て、完全に硬直してしまうシャム。
「な、な、な……!」
「ふーん、ちぃーと細っこいけど、ええ脚やな。けど、逃げするには向いてない気ぃするなぁ?」
茜は困惑した声を上げるシャムに構わず、トモを撫で回し続けている。
余りの展開に、スズカもどう割り込んでいいのか混乱して分からなくなってしまっていた。
一方、葵はまたか、と呆れたような顔をしていた。
この異ような事態に一番早く復活したのはシャムだった。
「きゃ、あぁぁっ!」
「うおっ、危なッ!」
悲鳴を上げ、固まっていた脚を片方後ろへ向かって蹴り上げる。
常人ならばまともに受けてしまうと危険なウマ娘のその蹴りを、茜はあろうことか咄嗟に後ろに飛び退いて躱した。
おっとと、と言いながらスーツをパンパンと払う茜に、スズカは恐る恐る声を掛ける。
「あの、何をしてるんですか……?」
「ん? ああ、これな。脚の触診や。トレーナーたるもの、やっぱ脚見んとなぁ」
「だからっていきなり脚を触る人がいる訳無いでしょ!」
「おるで。『スピカ』の西崎とか。まあ、あれはウチが教えたんやけどな。がはは」
がはは、じゃないわよ、とシャムがぷっつん切れた。
そのまま身体を腕で抱え、庇うようにしながら後ろに下がっていく。
流石に少しバツが悪くなったのか、茜は申し訳無さそうに両手を合わせた。
「あー、その、堪忍な? 見所ある子のトモは触りたくなるねん」
「何なのよ、その悪癖!」
「そうですよ、お姉ちゃん。あれだけ言ったのに相変わらずなんですから」
茜の言い訳に、ゾゾゾ! とシャムが総毛立たせた。このトレーナー、本当にトレーナーか?
シャムと葵の抗議にも茜は気にした様子は無く、そのまま話を続ける。
「まま、ええねん、そんな話は。それより、ウチに入りたい言う事でええんやな?」
「そうだったけど、正直これでどうしようか本気で考えてるわ」
「すまんすまん。一応、今後のトレーニングの事も考えての事やから堪忍してな」
「むぅ……。そこまで言うなら……」
「あの、それで本当に良いんですか……」
今後の為、と言われると少し弱いシャムは、小さく唸ってから渋々と頷いた。
葵は終始呆れ顔だったが、本人が良いならもう良いか、と諦めた。
こうしてシャムも『ポラリス』に入る事が決まったのだった。
少女は新しい道を見つけ、歩んでいく。
その道の行く先は、未だ見えず。
けれど、光は見えていた。
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