響くファンファーレ。集まった観客からの声が、この舞台がとても大きなものだと告げている。今までに経けんしたことない、人数の多さ。
ホープフルステークス。中山レース場、芝、2000m。G1だ。
『誰をも魅了し、心を奪う新たな希望が生まれる、ホープフルステークス』
アナウンスが聞こえる。そうだ。もうすぐ始まるんだ。
あの地獄のパドックを乗り越えたんだから、大丈夫……なはずだ。
〜パドックでのこと〜
『ここは負けられない、1番人気1番アグネスタキオン』
『実力は完全に上位ですね。いいレースが期待できそうです』
『続いては、この評価は少し不満か?2番人気6番アグネスタキオン』
『あ、あの……ライネルタキオンです』
『あ、すみません。2番人気6番ライネルタキオン』
勝負服(トレセン学園支給の共通のもの)着てたら、アグネスタキオンと間違われた。
ショックでこのまま倒れそう。
「……………」
「「……………」」
何故か周りも突然静かになるし……。なんでぇ、なんでぇ!?
周りは騒いでてもいいよぉ……確かに間違われて気まずいしさ、でもさぁ……この空気はないんじゃない。
「やぁ……飛んだ災難だねぇ……」
「災難どころか、災害級なんだけど……」
いろんなウマ娘から見られる。
うぅ……つらたにえんやばたにえんこうないえん。
「にしても、勝負服はどうしたんだい?学園支給のを着ているみたいだが……」
「間に合わなかった」
「なるほど」
仕方ないじゃないか。間に合わないものは間に合わない。
サイズが合わなかった(ダボダボになった)のだから。私に非は無い!!
「ま、先日言った通り、全力だ」
「勿論。私に簡単に負けるんじゃ無いよ」
「わかってるさ」
とまぁ、こんなことがありましたわー。
わーわーわー。お腹がギュルルンいいましたわー。ガチで小腸とか大腸とか内臓がストレスに弱いから、やめてくんなまし?
ゲート、意外と広いじゃん。
『注目のウマ娘を紹介します。3番人気、5番アポロプス』
隣の無言の栗毛のウマ娘がいる。
たまーにこっちをチラチラと見てくるのが気になるが、それでも何も話しかけてこない。それがありがてぇてぇ……。
『緊張でか落ち着かないか、2番人気、6番ライネルタキオン』
『13万人のうち、4割の期待に応えられるか、1番人気、1番アグネスタキオン』
もうすぐ始まる……負けられない戦い。
『各ウマ娘、態勢が整いました……一斉にスタート!!』
ゲートが開き、前へと駆け出す。
『先頭は、ライネルタキオン。2番手にアポロプス。その後ろには7番タルカルポリスと1番アグネスタキオン』
先頭に躍り出たらあとはこっちのもん!!
「このまま……ずっと!!」
「そうはさせん!!」
『アグネスタキオン、ここで先頭との差を縮めに来る!!』
後ろから追い上げてくるアグネスタキオン。
顔は見えないが、普段とは違う表情だろう。
それに、私の声が聞こえているのなら、高らかに言ってやる。
「抜けるものなら、抜いてみろ。アグネス!!」
『ライネルタキオン、ここでさらに加速!!2000mまで保つのか!?かなりのハイペースだ!!』
『これはかかっていますね。冷静になれると良いのですが』
何がかかっていますね、だ。
勝手に言わせといてやる。後悔すんなよ、実況。
私は、“あの”ライネルタキオンだ。
ゲーム内で、各地を回り、その環境全てに対応し、逃げる時は日を跨いでも逃げて、共に生き延びて来たんだ。
こんなところで負けるわけにはいかない。
『さぁ、向正面に入って、先頭は6番ライネルタキオン。その後ろには1番アグネスタキオン』
『完全に食らいついてますね。このまま逃げ切れるでしょうか』
『後方から追い上げてくるのは、5番アポロプス!!』
後ろから感じられる力。そして、実況からわかる状況。
これは、固有スキルの発動。圧倒的な加速力(不自然な加速)で、先頭の背中を追いかけたり、後続を突き放したりと、便利なものだ。
それが、私達を邪魔する。
『アポロプス、アグネスタキオンとの差をどんどん詰める!!』
やばいな。追いつかれないように、今からここで、仕掛ける!!
「なっ……!?」
「……!?」
『ライネルタキオン、さらに加速!!ここで仕掛けるのか!?でも、アポロプスの勢いは止まらない!!アグネスタキオンを交わしてライネルタキオンの背中を捉えた!!しかし、ライネルタキオンまだ加速する!!』
そういえば、私には、固有スキルがあるのだろうか。
前回も発動していないような気がする。
『さぁ、最終コーナーに入っていきます。先頭ライネルタキオン。続いてアポロプス、アグネスタキオン。5バ身はなれて』
ふむ。どうやら、私とアグネスとアポロプスという栗毛のウマ娘が争ってるわけか。
『アグネスタキオン、アポロプスと並んだ!!』
来たか。
「っ!?」
瞬間、と言えばいいのだろうか。後ろで、大きなオーラが一点に集まって、爆発したかのような感覚。
こんな時に発動するとしたら、アグネスタキオンの固有スキルだけ。でも、あれは3位以下じゃないと……まさか、抜く直前にか!!
これが、アグネスのスキルか。
『アグネスタキオン!!アポロプスを交わした!!そして、レースは最後の直線へ!!中山の直線は短いぞ!!』
どうか、発動してくれ。
今、ここで来なければならないんだ。
このレース、勝つために!!
目の前が白くぼやけてくる。
もうどうなったっていい。勝てればいいんだ。
だから、力を貸して、ライネル!!
『急な坂もものともしないライネルタキオン!!速度を落とさずに上っていく!!その後ろからアグネスタキオンが差を縮めて登っていく!!』
もうすぐだ。もう少しだけなんだ。ほんのちょっとでもいい。力を……!!
『アグネスタキオン並んだ!!並んだ!!』
もう少しで……!!
目を開けると、そこは白色の何もない場所だった。
誰もいない。何もない。
ふと、声が聞こえる。
『偽りがいる』『消えろ』
違う!!私はライネル、ライネルタキオン本人だ!!
『偽りが語ってるよ』『懲りない偽りだ』
何が偽りだ!!私はここで生きてる!!走ってるんだ!!
『ねぇ、偽りは黙って座ってたら?』『ここにいるのも相応しくない』
うるさい!!私は、私は!!
誰なんだろう……。
『お前は、誰だ』
私は……。
『今並んでゴール!!判定はいかに!?』
次回 Nomal number最終回 Name less
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