アグネスじゃないタキオン   作:天津神

10 / 50
No.10 ホープフル

 

 

 響くファンファーレ。集まった観客からの声が、この舞台がとても大きなものだと告げている。今までに経けんしたことない、人数の多さ。

 ホープフルステークス。中山レース場、芝、2000m。G1だ。

 

『誰をも魅了し、心を奪う新たな希望が生まれる、ホープフルステークス』

 

 アナウンスが聞こえる。そうだ。もうすぐ始まるんだ。

 あの地獄のパドックを乗り越えたんだから、大丈夫……なはずだ。

 

 

〜パドックでのこと〜

 

『ここは負けられない、1番人気1番アグネスタキオン』

『実力は完全に上位ですね。いいレースが期待できそうです』

『続いては、この評価は少し不満か?2番人気6番アグネスタキオン』

『あ、あの……ライネルタキオンです』

『あ、すみません。2番人気6番ライネルタキオン』

 

 勝負服(トレセン学園支給の共通のもの)着てたら、アグネスタキオンと間違われた。

 ショックでこのまま倒れそう。

 

「……………」

「「……………」」

 

 何故か周りも突然静かになるし……。なんでぇ、なんでぇ!?

 周りは騒いでてもいいよぉ……確かに間違われて気まずいしさ、でもさぁ……この空気はないんじゃない。

 

「やぁ……飛んだ災難だねぇ……」

「災難どころか、災害級なんだけど……」

 

 いろんなウマ娘から見られる。

 うぅ……つらたにえんやばたにえんこうないえん。

 

「にしても、勝負服はどうしたんだい?学園支給のを着ているみたいだが……」

「間に合わなかった」

「なるほど」

 

 仕方ないじゃないか。間に合わないものは間に合わない。

 サイズが合わなかった(ダボダボになった)のだから。私に非は無い!!

 

「ま、先日言った通り、全力だ」

「勿論。私に簡単に負けるんじゃ無いよ」

「わかってるさ」

 

 

 

 

 とまぁ、こんなことがありましたわー。

 わーわーわー。お腹がギュルルンいいましたわー。ガチで小腸とか大腸とか内臓がストレスに弱いから、やめてくんなまし?

 ゲート、意外と広いじゃん。

 

『注目のウマ娘を紹介します。3番人気、5番アポロプス』

 

 隣の無言の栗毛のウマ娘がいる。

 たまーにこっちをチラチラと見てくるのが気になるが、それでも何も話しかけてこない。それがありがてぇてぇ……。

 

『緊張でか落ち着かないか、2番人気、6番ライネルタキオン』

『13万人のうち、4割の期待に応えられるか、1番人気、1番アグネスタキオン』

 

 もうすぐ始まる……負けられない戦い。

 

『各ウマ娘、態勢が整いました……一斉にスタート!!』

 

 ゲートが開き、前へと駆け出す。

 

『先頭は、ライネルタキオン。2番手にアポロプス。その後ろには7番タルカルポリスと1番アグネスタキオン』

 

 先頭に躍り出たらあとはこっちのもん!!

 

「このまま……ずっと!!」

「そうはさせん!!」

『アグネスタキオン、ここで先頭との差を縮めに来る!!』

 

 後ろから追い上げてくるアグネスタキオン。

 顔は見えないが、普段とは違う表情だろう。

 それに、私の声が聞こえているのなら、高らかに言ってやる。

 

「抜けるものなら、抜いてみろ。アグネス!!」

『ライネルタキオン、ここでさらに加速!!2000mまで保つのか!?かなりのハイペースだ!!』

『これはかかっていますね。冷静になれると良いのですが』

 

 何がかかっていますね、だ。

 勝手に言わせといてやる。後悔すんなよ、実況。

 私は、“あの”ライネルタキオンだ。

 ゲーム内で、各地を回り、その環境全てに対応し、逃げる時は日を跨いでも逃げて、共に生き延びて来たんだ。

 こんなところで負けるわけにはいかない。

 

『さぁ、向正面に入って、先頭は6番ライネルタキオン。その後ろには1番アグネスタキオン』

『完全に食らいついてますね。このまま逃げ切れるでしょうか』

『後方から追い上げてくるのは、5番アポロプス!!』

 

 後ろから感じられる力。そして、実況からわかる状況。

 これは、固有スキルの発動。圧倒的な加速力(不自然な加速)で、先頭の背中を追いかけたり、後続を突き放したりと、便利なものだ。

 それが、私達を邪魔する。

 

『アポロプス、アグネスタキオンとの差をどんどん詰める!!』

 

 やばいな。追いつかれないように、今からここで、仕掛ける!!

 

「なっ……!?」

「……!?」

『ライネルタキオン、さらに加速!!ここで仕掛けるのか!?でも、アポロプスの勢いは止まらない!!アグネスタキオンを交わしてライネルタキオンの背中を捉えた!!しかし、ライネルタキオンまだ加速する!!』

 

 そういえば、私には、固有スキルがあるのだろうか。

 前回も発動していないような気がする。

 

『さぁ、最終コーナーに入っていきます。先頭ライネルタキオン。続いてアポロプス、アグネスタキオン。5バ身はなれて』

 

 ふむ。どうやら、私とアグネスとアポロプスという栗毛のウマ娘が争ってるわけか。

 

『アグネスタキオン、アポロプスと並んだ!!』

 

 来たか。

 

「っ!?」

 

 瞬間、と言えばいいのだろうか。後ろで、大きなオーラが一点に集まって、爆発したかのような感覚。

 こんな時に発動するとしたら、アグネスタキオンの固有スキルだけ。でも、あれは3位以下じゃないと……まさか、抜く直前にか!!

 これが、アグネスのスキルか。

 

『アグネスタキオン!!アポロプスを交わした!!そして、レースは最後の直線へ!!中山の直線は短いぞ!!』

 

 どうか、発動してくれ。

 今、ここで来なければならないんだ。

 このレース、勝つために!!

 目の前が白くぼやけてくる。

 もうどうなったっていい。勝てればいいんだ。

 だから、力を貸して、ライネル!!

 

『急な坂もものともしないライネルタキオン!!速度を落とさずに上っていく!!その後ろからアグネスタキオンが差を縮めて登っていく!!』

 

 もうすぐだ。もう少しだけなんだ。ほんのちょっとでもいい。力を……!!

 

『アグネスタキオン並んだ!!並んだ!!』

 

 もう少しで……!!

 

 

 

 

 目を開けると、そこは白色の何もない場所だった。

 誰もいない。何もない。

 ふと、声が聞こえる。

 

『偽りがいる』『消えろ』

 

 違う!!私はライネル、ライネルタキオン本人だ!!

 

『偽りが語ってるよ』『懲りない偽りだ』

 

 何が偽りだ!!私はここで生きてる!!走ってるんだ!!

 

『ねぇ、偽りは黙って座ってたら?』『ここにいるのも相応しくない』

 

 うるさい!!私は、私は!!

 誰なんだろう……。

 

『お前は、誰だ』

 

 私は……。

 

 

 

 

『今並んでゴール!!判定はいかに!?』




次回 Nomal number最終回 Name less
感想等お待ちしております

ライネルタキオンを生徒会メンバーに

  • 入れる
  • 入れない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。