「よぉし。さてと……」
私が生まれてから2年ぐらい。いろんなことが……なかった。同じ日々の繰り返しだった。起きて食って寝て起きて運動して寝ての繰り返し。
馬具もつけられた。ハミは最初慣れずにペッペしたけど、今は馴染んで逆にないと不安になる。
「ルタ、いくぞ!!」
はいはい。そんなに引っ張らんといてーなー。結構痛いんじゃ。
「こっちの準備終わりましたー」
「よし、いくぞ」
目の前には馬運車が。
そこにのっそのっそとゆっくりと入る。
「えらくゆっくりだな」
「そうですね……いやいや乗ってるように見えます」
さて、どこに向かうのか気になる。
1980年の競走馬は誰がいるかなー。てか、カレンダー見えたからよかったけども、見えなかったら時代わかんなさすぎて暴れてた。
ケータイないし、パソコンも部屋の中に見当たらないとか。つか、テレビがブラウン管だからな。
会長とたたかうのはごめんこうむる。
「向こうでも元気でな。新しいトレセンだから、綺麗だと思う」
へー。出来立てほやほやのトレセンかー。
長い長い旅。高速でゴトゴト音が鳴るが、そんな音も気持ちいい。新鮮だ。
そんな旅も終わり、着いたのは、山奥。
「やっと着いた〜……美浦トレセン不便ですよね」
なんと、美浦トレセンか!?
「山の中だからな〜。まぁ、空気が澄んでるからいいんだけどなぁ……気をつけろよ。ここの水は不味い」
「マジスカ。この馬、耐えれますかね」
「さぁな。知らん」
まじか。水まずいのか。
「さっさとおろして、ラーメン食いに行こ」
「そうだな」
まじかぁ……。
「おー、牝馬にしてはガタイがいいなぁ」
「ですね」
馬運車から降りてきた馬を眺めての一言。本当にガタイがいい。
「さてと……調教の準備しとかないと」
「名前の方、どうなってますかね」
「ん?紙に書いてあっただろ。ライネルタキオンだそうだ」
さぁ、やってまいりました。練習場。
内容を確認しましょう。
走る。とりあえず走る。走ることが終わったら、走ることが始まります。
そして、ゲートの練習。
「いやぁ、賢いですね」
えへへ……それほどでも。
「デビュー戦が楽しみだな」
「いい走りしそうですよね」
にしても、空気がうまいなぁ……走ってみると、風が心地よい。
いい場所だな!!
「おわっ!?ちょ、暴れんな」
乗ってる奴がなんか言ってるが無視無視。
「戻るぞー、ライネルー」
はいはい。つか、どこに戻るん?
「こっちだこっち。えーっと、この角か。ここだここ」
厩務員が止まった場所は、比較的綺麗な建物。
私の部屋だね!!
「あいつを呼んどけ。顔合わせぐらいしといたほうがいいだろう」
1人が離れて別の建物が立っている方へと走っていく。
「ライネルー。俺はお前に賭けるぞー」
なんか、残ってる男がんなこと言ってるわ。
「もう残ってるのはお前だけだからな〜」
さいですかそうですか。
「牝馬でもできるってところを見せてくれよ〜。お前、足が他のよりも速いからな〜」
ふーん。
あ、バッタ。
「これが、僕が乗る馬ですか」
新しくここ、美浦トレセンにやってきた馬を見つめる。
綺麗な栗毛で、逞しい筋肉を持つ、かっこいい馬。
そして、その馬は、とても力強く僕を見つめ返している。
「凄いですね……」
「そうか?」
「目力が、とても強いです。こんな馬、初めてみましたよ」
強い。多分、意思も強いんだろう。
あぁ、これは楽しみだ。こいつは、どんな走りをするのだろう。
「峰藤くん。こいつの名前は、ライネルタキオンだ」
「ライネル、タキオン……意味は」
「超光速の粒子、だそうだ」
いい名前だなぁ……秒速30万kmの馬……やべぇよ。とても楽しみすぎて、今からでも乗りたいぜ。
「ちなみに牝馬だ」
「牝馬!?これで!?この馬体で!?」
なんと、牝馬だと……!?
「ま、勝てるだろ。こいつ、賢いしな」
「そうか。よろしくな、ライネル」
俺がそう話しかけると、返事をするかのように鳴いた。
「こいつとなら、勝てるかもしれねぇな」
『こいつとなら、勝てるかもしれねぇな』
今日あった人の言葉が頭の中で反芻する。
辺りを見回しても、今は誰もいない。夜空に浮かぶ星と月が、静かに照らしている。
そして、その後、こうも言った。
『俺と、俺と一緒に、ダービーを駆け抜けようぜ』
そう。これは、約束。私と、峰藤という騎手の間での、破られることのない約束。
そうだな……なんていうべきなんだろうね。心が、ぽかぽかするわけでもない。でも、熱く蠢いている。
人と馬との間の約束。それを胸に秘め、明日を駆け抜けろ、ライネル!!
次回、No.3 不遇
お楽しみに!!
感想等お待ちしております。
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