アグネスじゃないタキオン   作:天津神

15 / 50
No.2

 

 

「よぉし。さてと……」

 

 私が生まれてから2年ぐらい。いろんなことが……なかった。同じ日々の繰り返しだった。起きて食って寝て起きて運動して寝ての繰り返し。

 馬具もつけられた。ハミは最初慣れずにペッペしたけど、今は馴染んで逆にないと不安になる。

 

「ルタ、いくぞ!!」

 

 はいはい。そんなに引っ張らんといてーなー。結構痛いんじゃ。

 

「こっちの準備終わりましたー」

「よし、いくぞ」

 

 目の前には馬運車が。

 そこにのっそのっそとゆっくりと入る。

 

「えらくゆっくりだな」

「そうですね……いやいや乗ってるように見えます」

 

 さて、どこに向かうのか気になる。

 1980年の競走馬は誰がいるかなー。てか、カレンダー見えたからよかったけども、見えなかったら時代わかんなさすぎて暴れてた。

 ケータイないし、パソコンも部屋の中に見当たらないとか。つか、テレビがブラウン管だからな。

 会長とたたかうのはごめんこうむる。

 

「向こうでも元気でな。新しいトレセンだから、綺麗だと思う」

 

 へー。出来立てほやほやのトレセンかー。

 

 

 

 長い長い旅。高速でゴトゴト音が鳴るが、そんな音も気持ちいい。新鮮だ。

 そんな旅も終わり、着いたのは、山奥。

 

「やっと着いた〜……美浦トレセン不便ですよね」

 

 なんと、美浦トレセンか!?

 

「山の中だからな〜。まぁ、空気が澄んでるからいいんだけどなぁ……気をつけろよ。ここの水は不味い」

「マジスカ。この馬、耐えれますかね」

「さぁな。知らん」

 

 まじか。水まずいのか。

 

「さっさとおろして、ラーメン食いに行こ」

「そうだな」

 

 まじかぁ……。

 

 

 

 

「おー、牝馬にしてはガタイがいいなぁ」

「ですね」

 

 馬運車から降りてきた馬を眺めての一言。本当にガタイがいい。

 

「さてと……調教の準備しとかないと」

「名前の方、どうなってますかね」

「ん?紙に書いてあっただろ。ライネルタキオンだそうだ」

 

 

 さぁ、やってまいりました。練習場。

 内容を確認しましょう。

 走る。とりあえず走る。走ることが終わったら、走ることが始まります。

 そして、ゲートの練習。

 

「いやぁ、賢いですね」

 

 えへへ……それほどでも。

 

「デビュー戦が楽しみだな」

「いい走りしそうですよね」

 

 にしても、空気がうまいなぁ……走ってみると、風が心地よい。

 いい場所だな!!

 

「おわっ!?ちょ、暴れんな」

 

 乗ってる奴がなんか言ってるが無視無視。

 

「戻るぞー、ライネルー」

 

 はいはい。つか、どこに戻るん?

 

「こっちだこっち。えーっと、この角か。ここだここ」

 

 厩務員が止まった場所は、比較的綺麗な建物。

 私の部屋だね!!

 

「あいつを呼んどけ。顔合わせぐらいしといたほうがいいだろう」

 

 1人が離れて別の建物が立っている方へと走っていく。

 

「ライネルー。俺はお前に賭けるぞー」

 

 なんか、残ってる男がんなこと言ってるわ。

 

「もう残ってるのはお前だけだからな〜」

 

 さいですかそうですか。

 

「牝馬でもできるってところを見せてくれよ〜。お前、足が他のよりも速いからな〜」

 

 ふーん。

 あ、バッタ。

 

 

 

「これが、僕が乗る馬ですか」

 

 新しくここ、美浦トレセンにやってきた馬を見つめる。

 綺麗な栗毛で、逞しい筋肉を持つ、かっこいい馬。

 そして、その馬は、とても力強く僕を見つめ返している。

 

「凄いですね……」

「そうか?」

「目力が、とても強いです。こんな馬、初めてみましたよ」

 

 強い。多分、意思も強いんだろう。

 あぁ、これは楽しみだ。こいつは、どんな走りをするのだろう。

 

「峰藤くん。こいつの名前は、ライネルタキオンだ」

「ライネル、タキオン……意味は」

「超光速の粒子、だそうだ」

 

 いい名前だなぁ……秒速30万kmの馬……やべぇよ。とても楽しみすぎて、今からでも乗りたいぜ。

 

「ちなみに牝馬だ」

「牝馬!?これで!?この馬体で!?」

 

 なんと、牝馬だと……!?

 

「ま、勝てるだろ。こいつ、賢いしな」

「そうか。よろしくな、ライネル」

 

 俺がそう話しかけると、返事をするかのように鳴いた。

 

「こいつとなら、勝てるかもしれねぇな」

 

 

 

 

『こいつとなら、勝てるかもしれねぇな』

 

 今日あった人の言葉が頭の中で反芻する。

 辺りを見回しても、今は誰もいない。夜空に浮かぶ星と月が、静かに照らしている。

 そして、その後、こうも言った。

 

『俺と、俺と一緒に、ダービーを駆け抜けようぜ』

 

 そう。これは、約束。私と、峰藤という騎手の間での、破られることのない約束。

 そうだな……なんていうべきなんだろうね。心が、ぽかぽかするわけでもない。でも、熱く蠢いている。

 




人と馬との間の約束。それを胸に秘め、明日を駆け抜けろ、ライネル!!
次回、No.3 不遇
お楽しみに!!
感想等お待ちしております。

ライネルタキオンを生徒会メンバーに

  • 入れる
  • 入れない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。