「よし、とま……」
れ、と続く言葉は出させない。
私はここで止まる事を覚えた!!
「相変わらず賢いな……」
「藤峰さーん」
美浦トレセンの練習場。坂路がなくて少し嬉しかったが、ちょっと不安。
中山の坂は大丈夫だろうか……。
「休憩の時間です」
「そうだな。降りるぞ」
はいはい。
「おわっ……」
「凄いですよね。気遣いというか」
ん?なんや?降りやすいように座るのはあかんか?
「懐かれた、と言いますかね?」
「まだ1日目ですよね?」
「はい……多分、僕を気に入ったのでしょうね」
「さー、ライネルー。立ってー。休憩だけど、立っとかないとダメだから立ってー」
はいよー。
「本当に言うこと聞きますね」
「賢すぎると、走らないとかあるからなぁ……不安だな」
「ですね」
さてと……そういえば、厩舎にカレンダーが置かれたんだった。藤峰くんの練習予定入りのカレンダー。
丸されてる日が練習の日って喋ってたから……2週間連続で練習だな!!
「……何してるんですかね?カレンダーを見つめて」
「さぁ……ライネルの考えることはわからないです」
よし、馬房に一旦戻るぞ!!ほら、ほら!!
「ちょっ、押すな押すな」
早くあーけーろ。あーけーろ。
「わかったわかった。開けるから落ち着けって」
ほら、えーっと時房くん!!だったっけ?よく聞こえんかったから分からんけど、テキのトキ!!はよ水飲ませろや。
「ほら、開けたからさっさと入れ」
ありがとさん。
「顔舐めるな」
「……ぷっ」
「そこ笑うんじゃねぇ!!」
数日後、厩舎近くにある建物の中。
「テキ。あの馬、本当に賢いっすよね」
「確かにな。馬房に自分から戻る。人が乗り降りする時に座って乗りやすくする。止まるべきところでは自分で止まる。人間かよ」
「そうですね。それに、僕が来る前に、厩舎前で待ってるんですよ。周りに誰もいなくても、そこで一頭で足踏みして」
人間慣れしすぎている。はっきり言って怖い。そんな感想が出てくるかもしれないが、それでも、僕にはこんな感想が出てくる。
「怖くないか?」
「全然。むしろ、楽しいですし、嬉しいです。こんなにも賢い馬と会えて、しかも懐いてくれる。僕、思うんですよ。あの馬なら、絶対に勝てるって。今まで思ったことないですよ。勝つんだ、とは思えても、勝てるなんて」
「そうか。あ、明日は並走だからな。併せ馬も用意してる」
「ちょっ、暴れるなライネルー!?」
だって、コイツ、アンタを馬鹿にしやがった!!ぜってぇゆるさねぇ、その馬面に蹴り入れてやらぁ!!
「テキ」
「うん?」
「僕、あの馬がなんなのか分からなくなってきました」
「そうか。明日も併せ馬あるからな」
「今日は大人しいな……」
だって、この子とのお話楽しいもーん。
ねー、ブレインボールブくん。
藤峰くんとトレーニングを何度も何度もやってきた。
デビュー戦まで、後1週間。
今日も、楽しく練習の日だ。
天候は晴れ。いい練習日和だな。
厩舎前で、いつものように待つ。
毎朝厩務員さん達が洗ってくれるおかげで、毎朝綺麗だし、こうしてここで待つこともできる。
足元の草を適当にハミハミしながら、厩舎の壁で背中をかきながら、足の調子を確かめるように地面を踏みしめながら、いつものように藤峰くんを待つ。
「テキ、藤峰は?」
「さぁな。そろそろくるはずなんだが……」
「時致さーん。電話が入ってまーす!!」
「今行く!!」
1時間、2時間と待つ。
3時間、4時間と厩舎前で待つ。
「ライネル、一旦戻ろう?な?」
厩務員がそう言うが、ここで待つ。
一度決めたことは、曲げない。
「ライネル。戻れ」
え、藤峰は?
「藤峰さん、どうかしたんですか?」
「アイツはこれねぇ。事故だ」
「事故?」
事故。そんな……。
「事故で怪我をして乗れねぇ。それに、まだ意識が戻ってねぇ」
んなこと、酷い。運命は、そこまで邪魔するのか。
感想等お待ちしています。
なお、ライネルタキオンは、牝馬です。メスの馬です。なので、左耳に髪飾りがつきます。もう一度言います。牝馬で、左耳に髪飾りがつきます。
ライネルタキオンを生徒会メンバーに
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