アグネスじゃないタキオン   作:天津神

18 / 50
変更点
京都芝内回り1600mのタイムを
1分08秒0

1分38秒0
に変更しました。


No.5 栗毛で無名の新馬

 

 

『新たな希望が生まれる新馬戦。ここ、京都競馬場にて、お送りいたします。では、ゲートインと共に、出走する馬をご紹介しましょう』

 

 スタンドに集まる観客の数はいつもと同じくらいか、自分の立っているところを取るのは苦労しない程度だ。

 

「勝ってくれよ……9番、もしくは5番」

 

 金に困ってるわけではない。お小遣いには困ってるが、生活するための分は残してある。

 いつもは一番人気の馬の馬券を買うが、今日はそんな余裕ないので、博打をうつ。

 9番人気のライネルタキオン。パドックでの暴れっぷりと、血筋的な分、そして、牝馬であることが不人気の理由の馬。

 自分は、この日から、趣味が変わった。そう言わせてくれる馬だ。

 

『ゲートイン完了。京都競馬場新馬戦……今スタートしました!!全頭綺麗にスタートを切りました』

 

 スタートと共に上がってくるのは、一番人気の馬だ。

 でも、その名前は忘れてしまった。それ程、9番ライネルタキオンの印象が強かった。

 

『9番ライネルタキオン、先頭の後方1馬身……いや、半馬身……どんどん伸びて今並んだ!!』

 

 早めのスパート。スタートしてまだ100mも行ってないぐらいの時に、だ。

 

『交わした!!先頭は9番ライネルタキオン!!伸びる伸びる!!後方と差を広げていく!!』

 

 最初は、ほんのわずかな可能性に賭けただけだった。

 でも、その可能性が、今、絶対に近づいていく様は、心を熱くさせた。

 

「行け、行け!!逃げろ!!」

 

 気がつくと、馬券を握りしめ、大声をあげていた。

 

『後方とは8馬身!!8馬身差だ!!いや、まだ伸びる!!まだ伸びる!!』

 

 圧倒的、まさにその言葉しかない。2番手はもう届かない。

 

「逃げ切れ!!そのまま!!」

『ライネルタキオン、今1着でゴール!!記録は……1分38秒コンマ0!!』

 

 周囲が騒ぎ出す。普通、新馬戦ならもう少し時間がかかるものだが、ライネルタキオンはそれを成し遂げた。

 飛び交う馬券と罵声。その全てが、ライネルタキオンへと向けられた。

 やめろ、折角勝った馬に、なんてことをするんだ。

 そう言いそうになった。でも、言えなかった。もし、言っていたら、自分は二本足で立てていたかどうかわからない。

 ふと気づくと、スタンドを見つめる熱い眼差しがあった。

 芝の上で、威厳ある立ち姿。背中には、乗り替わりせざるを得ず、交代した騎手が跨っている馬がただ、見つめていた。

 その姿に釘付けになる。

 周囲の期待を覆し、いや、期待通りに走り、見事勝利した牝馬、ライネルタキオン。

 あの馬の熱い眼差しは、阿鼻叫喚と化したスタンドの大人を一瞥すると、落ち着いている自分を見つめているかのように思えてくる。

 まるで、自分が馬券を買って当てたことを知っているかのように思えた。

 ふと、言葉が漏れ出る。

 

「王だ……」

 

 周囲を俯瞰し、冷静に生きる。なによりも、その立ち姿が、綺麗だった。だから、つい、自分の思い描く「王」という言葉と重なった。

 でも、あの馬は、王じゃない。ライネルタキオンという名前がある。それに、牝馬だ。

 なら、こう呼ぶべきだろう。

 『女王』ライネルタキオン。

 期待の有無に関わらず、結果を残す馬。

 私は、この馬を見てから、ある思いで胸が満たされていく。

 今までは単なる遊戯だった競馬は、単なる遊戯ではない。夢を託し、希望と共に、走る姿を祈りながら、応援しながら見届ける競技だと。

 私たちは、伝説の始まりを見たのだろうか。そんな走りをしていた。

 

 〜1980年11月第2週発売の競馬雑誌より〜

 

 

 

 

「よくやった!!」

 

 デビュー戦の後、藤峰くんは普通に目を覚まして、トレセンに来てくれている。

 でも、その骨折した右腕は痛そうだ。

 

「おぉ……ごめんなぁ、ライネル。まだしばらくは乗れそうにない」

 

 大丈夫だって。今は乗れなくても時間はたっぷりある。

 完全体になって、走ろうね!!

 

「元気だなぁ」

「ほんと、すごい元気でしたよ」

「加藤も、本当にありがとう」

 

 藤峰くんが、加藤くんの背中を叩く。

 仲良いなぁ。

 

「それで、大体どのくらいかかりそうですか?」

 

 そう、そこ気になるんだよね。

 

「全治1ヶ月。リハビリもあるから……乗れるとしたら、2ヶ月後かな」

「まぁ、それぐらいかかりますよね」

 

 だろうねぇ……。

 

「藤峰さーん。病院に戻りますよ〜!!」

「じゃあ、戻るよ。またな、ライネル、加藤」

「えぇ」

 

 じゃあな!!はよ治せよ。

 

 

 

 

「馬、好きなんですね」

「えぇ。可愛いでしょう?甘えてくるんですよ、あんなに大きくても」

「そうなんですか……今度、私も触れ合いに行ってみようかな」

「なら、ライネルタキオンがおすすめですよ。賢いですし」

「今度、ですよ。まずは、その怪我を治しましょうね」




はい。ということで、Nomal numberでのデビュー戦と似た結果になりました。距離が2000mだったら、15馬身差になってましたね。
感想等、お待ちしております。

ウマ娘シーン、流石にチョロチョロと投稿しても

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  • ダメ、時間系列を守って読みたい!!

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