アグネスじゃないタキオン   作:天津神

22 / 50
アンケートの結果、「入れる」になりましたが、「入れない」も多かったため、「生徒会の仕事は手伝うが、正式なメンバーではない、単なるスケット」にします。ご協力ありがとうございます。


No.9

 3月。春が訪れる季節。そして、日本では、一年の終わりでもある。

 1980年度の終わり、それの締めくくりとなるレース。弥生賞。

 ま、1981年としてみたら、単なる途中のレースなんだけどな。

 

「………いけるよな?ブレインボールブとは何もなかったんだし」

 

 はじめての牡馬とのレースに、ライネルタキオンのことが不安になる。

 併せ馬の時、ブレインボールブが相手だと落ち着いていたが、その前は暴れに暴れた。騎手は落ちない程度だったが、暴れた。

 

「ま、行くしかない、か」

 

 

 

 

『1枠1番、ライネルタキオン、一番人気です』

 

 アナウンスの内容に驚く。

 

「やったな、ライネル。お前、一番人気だぞ」

 

 首の部分を少し叩きながら言うと、ムスー、と鼻息で返事をしてくれる。

 慌てた様子もないし、暴れそうにもない。

 

「皆、お前に期待してる……勝とうな」

 

 首を下げて、まるで頷いてるかのようにする。

 

 

 

 

「弥生賞……牡馬だらけの中の紅一点か」

 

 出走表が決まり、見せてもらった時の感想。

 周りは牡馬だらけだ。

 はっきり言って、暴れられたら困る。

 

「よし、行ってきます」

「おう。行ってきな」

 

 

 

『寒い冬が明け、温かな日が続くこの頃、弥生賞が中山競馬場にて、開催されます』

 

 オスだ。オスばかりだ。

 えぇ……肩身が狭い。

 

「不安だな……馬っ気出ないでくれよ……」

 

 マジでそれな。困るわ。

 さてさて、目の前にあるのは、ゲートと牡馬!!

 牡馬邪魔だおら!!

 

「はーい、どいてねー、スズフタバー、言うこと聞いてー」

 

 おら!!人間の言うことにはある程度聞けってんだよ!!

 

「す、すみません。スズフタバがなかなか動かなくて……」

「いえいえ。こんなこともありますよ」

 

 にしても、なぜ動かないんだ?

 ゲートには入れないんだが。

 

『3番スズフタバ、なかなか動きません。どうしたのでしょうか。1番ライネルタキオン、スズフタバの横に並んでじっと見つめています』

 

 おい。どうしたんだ?

 ん?あぁ……なるほどね。5番のが怖いのか。ほら、私が壁になっとくから先に3番のところに入りな。

 

『おや、5番トドロキヒホウとの間に1番ライネルタキオンが入ったことで、ようやく動き出しました3番スズフタバ。そして、スズフタバがゲートインすると1番ライネルタキオン、ようやくゲートイン』

 

 長かったー。

 

「ライネル、気をつけろよ。今回は全員牡馬だ」

 

 おう。今更感強いぞ。ゲートの中じゃなくて、パドックでする話だろ。

 

「ま、お前なら勝てるよ」

 

 勝ってやラァ!!

 

『各馬、ゲートイン完了。………今スタートしました』

 

 え。

 

『1番ライネルタキオン、出遅れたっ!!』

 

 しまった。やっちまった。

 

『先頭は5番トドロキヒホウ。その後ろに2番アカネハチマン。その2馬身離れて6番スズフタバ。1番ライネルタキオンはその後ろ……おっと!!6番を交わして、2番アカネハチマンの後ろに張り付いた1番ライネルタキオン!!』

 

 遅れ?そんなの知らない。

 だって、私は速い。この牡馬なんかには、負けるわけにはいかない。

 このコーナーで抜いてやる。

 

『1番ライネルタキオン、2番アカネハチマンと並んで……いや、並ばない!!交わした!!最初の遅れはなんだったのか!?』

 

 はっ!!この程度、なんぼのもんじゃい!!

 

『先頭5番トドロキヒホウ、必死に逃げる。追うライネルタキオン!!心臓破りの坂に入っていく!!』

 

 坂キッツ!!足が重い。傾斜の時点で重心がずれる。

 走りにくい。でも、それは誰もがそう。

 

『並んだ!!並んだライネルタキオン!!さぁ、坂を越えて、ゴールはもうすぐそこ!!』

 

 ここが正念場。

 

「(やれるな、ライネル!!)」

 

 

『ライネル、ライネルタキオンだ!!女王の異名は伊達ではない!!牡馬を抑えて走るライネルタキオン!!まだ、まだ諦めないトドロキヒホウ!!差をじわじわと詰めていく!!間に合うか!?間に合うのか!?』

 

 足音が近くなる。

 回れ、回れ!!今よりも速く、速く!!強く、ふみこめぇ!!

 

『ライネルタキオン、一着でゴール!!見事、牡馬を蹴散らして牝馬の力を見せつけてくれました!!』

 

 ゴールして、少しだけ軽く流して、クールダウン。

 掲示板を見ると、トドロキヒホウとはクビ差だった。

 

「よくやった、ライネル。帰ろう」

 

 加藤くん……そうだな。頭もあんまりうまく動かないし。

 

 

 

[弥生賞制覇!!女王ライネルタキオン、牡馬を蹴散らす!!]

 

「かー、マジか……ルタ、そこまで強かったのか」

「おじさーん」

「ん?あぁ……咲ちゃんか」

 

 新聞を床に置いて、玄関へと向かう。

 

「おじさん」

「どうしたんだ、咲ちゃん」

「ライネル、勝ったんだって!?」

「あぁ。勝ったよ」

「すごいね!!」

「すごいよな!!」

 

 あぁ……どうか、どうか、この笑顔を守るため、怪我をしないでくれよ、ライネルタキオン。




感想等、お待ちしてます。
次回、ようやくあの人が戻ってきます

ウマ娘シーン、流石にチョロチョロと投稿しても

  • いい!!
  • ダメ、時間系列を守って読みたい!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。