No.10
「はぁ……」
ため息が出る。
目の前では、弥生賞の後だと言うのに、元気に首を動かすライネルがいた。
「マジでか……」
僕は、とあることで悩んでいた。
「え、藤峰さん、もうすぐ復帰ですか」
「あぁ。復帰はするね。復帰は」
藤峰さんの復帰は、僕が乗れなくなることを意味する。
「そう、ですか……」
それからは、僕は落ち込み続けていた。
この最高な馬に乗れなくなる。それが嫌なんだ。
「はぁ……」
何度目かのため息が出る。
すると、先ほどまで首を振っていたライネルが、じっと僕を見つめる。
「……」
その目はまるで、疑問に思っているかのようだった。
「なぁ……ライネル。僕、もしかしたら乗れなくなっちまうかもしれないんだ」
だから、暴露することにした。
「藤峰さんが、復帰するらしいんだ。よかったな。約束の相手が戻ってきて」
自虐風に言ってしまう。
これは、僕の悪い癖だ。
嫌なことがあると、ついしてしまう。
「………なんだい」
服の裾を噛んで引っ張ってくる。
「いや、僕はどこにも行かないさ……」
それでも、離さない。
「僕は、お前に乗ってていいのか?」
裾を噛んだまま、引っ張ってくる。
「加藤くん」
「藤峰さん……」
あの後、厩務員室で考え込んでいたら、藤峰さんがやって来た。
「凄かったよ。君のあのレース」
「いえ……あれは……」
藤峰さんが褒めてくれた。でも、あれは……誰にでもできる。
「あれは……僕の力なんかじゃないです」
「……なぜなんだい?」
「あれは……ライネルのおかげなんです。僕は、何もしていません」
ライネルは賢い。だから、鞭はいらない。僕の力で勝てたわけじゃない。ライネルの力なんだ。
「なら、君のおかげだよ」
「何を言ってるんですか。僕は何も……」
「だって、ライネルを信用してるんだろう?」
「そりゃ、そうですよ」
「なら、君のおかげだ。聞いたよ、俺が乗れなくなって、代わりに君が乗るってなっても、ライネルが中々走らなかったって。でも、君のおかげで、ライネルがやる気を出してくれたんだ。互いに信頼してるから、鞭なんか使わずに走れてるんだろう?確かに、ライネルの力で走っているのだろうけど、そこに君の力がないなんてことは絶対にない。もしそうなら、ライネルは君を乗せることを拒まなかったはずだ」
「…………じゃあ、僕は、胸を張って、誇っていいんですか?僕の力で走って勝ったって」
「言っていいと思うよ。だって、君が、精一杯ライネルに話しかけて、己に鞭を打って、納得させたんだろ?君の力じゃないか」
そうか……それで、いいんですね……。
「……ありがとう、ございます……」
「いや、こっちこそ、ライネルと共に走ってくれてありがとう」
「久しぶりだね、ライネル!!」
おー、藤峰くんじゃないか!!超お久じゃーん。
「元気だなぁ……」
そりゃそうじゃん。だって、1ヶ月に1回しかレースに出ないって、どんだけ期間空いてるんだよ。もっと短くてもいいよ。
「よし……時致さん、乗ってみてもいいですか?」
「いいよ。ほら、出すぞ」
ウェーイ。
「テンション高いな。これは妬けるわけだ」
「でも、ライネルは加藤くんもすんなり乗せるんですよね?」
「あぁ。そうだな」
今日は何千mっすか!?
あ、無視っすか。
「どこで走れますかね」
「今空いてるのは、ダートだな。芝は少し作業中だ」
「よし、行くぞ、ライネル」
はいはい。ダートっすね。
視線が高い。約4ヶ月ぶりの景色。
「ふぅ……行くぞ!!」
合図を出して、ライネルがスタートを切る。
「ぐっ……」
スタートダッシュの勢いが強すぎて声が漏れてしまう。
速い……前とは大違いだ。明らかに違う。
しばらく駆けていると、突然ライネルが速度を落とす。
「お、おい?ライネル?」
最終的に足を止めてしまう。
「ど、どうしたんだ?まさか故障か!?」
ライネルから降りようとしたら、突然歩き出す。
そして、ダートから出て、座り込む。
故障じゃないのか?
仕方なく降りると、ライネルが立ち上がり、鼻で押してくる。
「お、おい、どうしたんだ」
「藤峰くん、どうしたんだ!?」
「それが、僕にもさっぱりで……」
時致さんが駆け寄ってくるが、一向にライネルは押してくる。
「ライネルがこんなにも不満だなんて……初めてで……」
「………」
時致さんが、じっとライネルを見て、そして、俺も見る。
「藤峰くん、もしかして、まだ怪我治ってないとかあるか?」
「え、あ、はい。そうですけど……」
まだ治っていない。万全ではないが、許容量ではある程度。特に問題はないはず。
「それだよ。多分。ライネル、鞍上のことを気にするから、それでわかったんだろ」
「そういえば、かなり賢いですからね」
「あぁ。だから、走るのをやめたんだろう。君があの高さから落ちたら、ひとたまりもない。それがわかる馬なんだから、余計にだな」
時致さんが説明すると、ライネルも押してくるのをやめる。
「藤峰くん。怪我が完全に治るまでは、ライネルは任せられない。じゃないと、ライネルがどうなるかわからない」
「はい」
「ライネル自身も、鞍上がそんな状態だと、気になって走れないんだろう。な?」
時致さんの言葉に、ブルルと鳴いて反応する。
「そうか……すまなかったな、ライネル。今度、一緒に走る時は、完璧に治すからな」
いや、マジねーわ。怪我しながら乗るとかマジねーわ。危険が危ない程マジねーわ。
なんか最初のスタートダッシュで変な声出てたのも多分それが原因だろ。
それに、体重落ちてただろ。筋力も相当落ちてるだろ。遠心力で何度も落ちそうになってたしな。
ま、これはまだしばらくは加藤くんと走るな。
「あー!!書類多い!!なぜ!!」
「うるさいよ、島くん」
デスクの上には、書類が山をなして山脈を作り、V字谷を形成している。
「休憩してこい。馬と遊んで、気でももんどけ」
そう言われて、部屋から追い出された。
えぇ……馬といってもなぁ……。
「ってことがあったんだ」
ふーん。そうか。
今、厩務員の一人が私の馬房の中に一緒にいる。暇なので話を聞いてた。
「ガチで今3徹後だから、ここで寝ていい?」
いいぞいいぞ。いっそ、寝てくれ。
「さて、島くんは……おや」
「ん?どうかしましたか」
「寝てるわ。ライネルと一緒に。そっとしとくぞ」
感想等、お待ちしてます。
感想がくると、次のお話が来るのが速いです。何故か?嬉しいからに決まってるんだよなぁ、これが。
私は、楽しくて打ってるけど、長々しくなると、打つ気がなくなってくるんだよねぇ……ほんと不思議。ウマ娘のシーンまで早く行きたい。
ウマ娘シーン、流石にチョロチョロと投稿しても
-
いい!!
-
ダメ、時間系列を守って読みたい!!