アグネスじゃないタキオン   作:天津神

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はい、2回目の内容が無い回。ただ、久しぶりに藤峰くんの登場だ。



No.10

No.10

 

「はぁ……」

 

 ため息が出る。

 目の前では、弥生賞の後だと言うのに、元気に首を動かすライネルがいた。

 

「マジでか……」

 

 僕は、とあることで悩んでいた。

 

 

 

「え、藤峰さん、もうすぐ復帰ですか」

「あぁ。復帰はするね。復帰は」

 

 藤峰さんの復帰は、僕が乗れなくなることを意味する。

 

「そう、ですか……」

 

 それからは、僕は落ち込み続けていた。

 この最高な馬に乗れなくなる。それが嫌なんだ。

 

「はぁ……」

 

 何度目かのため息が出る。

 すると、先ほどまで首を振っていたライネルが、じっと僕を見つめる。

 

「……」

 

 その目はまるで、疑問に思っているかのようだった。

 

「なぁ……ライネル。僕、もしかしたら乗れなくなっちまうかもしれないんだ」

 

 だから、暴露することにした。

 

「藤峰さんが、復帰するらしいんだ。よかったな。約束の相手が戻ってきて」

 

 自虐風に言ってしまう。

 これは、僕の悪い癖だ。

 嫌なことがあると、ついしてしまう。

 

「………なんだい」

 

 服の裾を噛んで引っ張ってくる。

 

「いや、僕はどこにも行かないさ……」

 

 それでも、離さない。

 

「僕は、お前に乗ってていいのか?」

 

 裾を噛んだまま、引っ張ってくる。

 

 

 

「加藤くん」

「藤峰さん……」

 

 あの後、厩務員室で考え込んでいたら、藤峰さんがやって来た。

 

「凄かったよ。君のあのレース」

「いえ……あれは……」

 

 藤峰さんが褒めてくれた。でも、あれは……誰にでもできる。

 

「あれは……僕の力なんかじゃないです」

「……なぜなんだい?」

「あれは……ライネルのおかげなんです。僕は、何もしていません」

 

 ライネルは賢い。だから、鞭はいらない。僕の力で勝てたわけじゃない。ライネルの力なんだ。

 

「なら、君のおかげだよ」

「何を言ってるんですか。僕は何も……」

「だって、ライネルを信用してるんだろう?」

「そりゃ、そうですよ」

「なら、君のおかげだ。聞いたよ、俺が乗れなくなって、代わりに君が乗るってなっても、ライネルが中々走らなかったって。でも、君のおかげで、ライネルがやる気を出してくれたんだ。互いに信頼してるから、鞭なんか使わずに走れてるんだろう?確かに、ライネルの力で走っているのだろうけど、そこに君の力がないなんてことは絶対にない。もしそうなら、ライネルは君を乗せることを拒まなかったはずだ」

「…………じゃあ、僕は、胸を張って、誇っていいんですか?僕の力で走って勝ったって」

「言っていいと思うよ。だって、君が、精一杯ライネルに話しかけて、己に鞭を打って、納得させたんだろ?君の力じゃないか」

 

 そうか……それで、いいんですね……。

 

「……ありがとう、ございます……」

「いや、こっちこそ、ライネルと共に走ってくれてありがとう」

 

 

 

「久しぶりだね、ライネル!!」

 

 おー、藤峰くんじゃないか!!超お久じゃーん。

 

「元気だなぁ……」

 

 そりゃそうじゃん。だって、1ヶ月に1回しかレースに出ないって、どんだけ期間空いてるんだよ。もっと短くてもいいよ。

 

「よし……時致さん、乗ってみてもいいですか?」

「いいよ。ほら、出すぞ」

 

 ウェーイ。

 

「テンション高いな。これは妬けるわけだ」

「でも、ライネルは加藤くんもすんなり乗せるんですよね?」

「あぁ。そうだな」

 

 今日は何千mっすか!?

 あ、無視っすか。

 

「どこで走れますかね」

「今空いてるのは、ダートだな。芝は少し作業中だ」

「よし、行くぞ、ライネル」

 

 はいはい。ダートっすね。

 

 

 

 視線が高い。約4ヶ月ぶりの景色。

 

「ふぅ……行くぞ!!」

 

 合図を出して、ライネルがスタートを切る。

 

「ぐっ……」

 

 スタートダッシュの勢いが強すぎて声が漏れてしまう。

 速い……前とは大違いだ。明らかに違う。

 しばらく駆けていると、突然ライネルが速度を落とす。

 

「お、おい?ライネル?」

 

 最終的に足を止めてしまう。

 

「ど、どうしたんだ?まさか故障か!?」

 

 ライネルから降りようとしたら、突然歩き出す。

 そして、ダートから出て、座り込む。

 故障じゃないのか?

 仕方なく降りると、ライネルが立ち上がり、鼻で押してくる。

 

「お、おい、どうしたんだ」

「藤峰くん、どうしたんだ!?」

「それが、僕にもさっぱりで……」

 

 時致さんが駆け寄ってくるが、一向にライネルは押してくる。

 

「ライネルがこんなにも不満だなんて……初めてで……」

「………」

 

 時致さんが、じっとライネルを見て、そして、俺も見る。

 

「藤峰くん、もしかして、まだ怪我治ってないとかあるか?」

「え、あ、はい。そうですけど……」

 

 まだ治っていない。万全ではないが、許容量ではある程度。特に問題はないはず。

 

「それだよ。多分。ライネル、鞍上のことを気にするから、それでわかったんだろ」

「そういえば、かなり賢いですからね」

「あぁ。だから、走るのをやめたんだろう。君があの高さから落ちたら、ひとたまりもない。それがわかる馬なんだから、余計にだな」

 

 時致さんが説明すると、ライネルも押してくるのをやめる。

 

「藤峰くん。怪我が完全に治るまでは、ライネルは任せられない。じゃないと、ライネルがどうなるかわからない」

「はい」

「ライネル自身も、鞍上がそんな状態だと、気になって走れないんだろう。な?」

 

 時致さんの言葉に、ブルルと鳴いて反応する。

 

「そうか……すまなかったな、ライネル。今度、一緒に走る時は、完璧に治すからな」

 

 

 

 いや、マジねーわ。怪我しながら乗るとかマジねーわ。危険が危ない程マジねーわ。

 なんか最初のスタートダッシュで変な声出てたのも多分それが原因だろ。

 それに、体重落ちてただろ。筋力も相当落ちてるだろ。遠心力で何度も落ちそうになってたしな。

 ま、これはまだしばらくは加藤くんと走るな。

 

 

 

「あー!!書類多い!!なぜ!!」

「うるさいよ、島くん」

 

 デスクの上には、書類が山をなして山脈を作り、V字谷を形成している。

 

「休憩してこい。馬と遊んで、気でももんどけ」

 

 そう言われて、部屋から追い出された。

 えぇ……馬といってもなぁ……。

 

「ってことがあったんだ」

 

 ふーん。そうか。

 今、厩務員の一人が私の馬房の中に一緒にいる。暇なので話を聞いてた。

 

「ガチで今3徹後だから、ここで寝ていい?」

 

 いいぞいいぞ。いっそ、寝てくれ。

 

 

 

 

「さて、島くんは……おや」

「ん?どうかしましたか」

「寝てるわ。ライネルと一緒に。そっとしとくぞ」




感想等、お待ちしてます。
感想がくると、次のお話が来るのが速いです。何故か?嬉しいからに決まってるんだよなぁ、これが。
私は、楽しくて打ってるけど、長々しくなると、打つ気がなくなってくるんだよねぇ……ほんと不思議。ウマ娘のシーンまで早く行きたい。

ウマ娘シーン、流石にチョロチョロと投稿しても

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  • ダメ、時間系列を守って読みたい!!

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