No.12 運命の皐月
『春麗かな空が広がる中山競馬場にて、皐月賞が行われます』
曇りがちな空を見上げて、ため息を吐く。
なんだよ、というような顔をしたライネルがこちらの顔を伺ってくるが、それは今はどうだっていい。
「テキ、質問があります!!」
「なんだね、島くん」
「ライネルを、ライネルを2週連続出走させるのは本当なんですか!?」
「あぁ、もちろん。本当だ。馬主の意向だからな」
ぶっきらぼうに答えられたが、仕方がない。馬主の意向だから。
「なら、海外出走する、というのは」
桜花賞。不良馬場にて、ライネルは18馬身差で勝った。
つまり、馬場が悪い方が速くなるのではないか、と見られている。
「それはまだわからんよ。馬主も唸ってたし……なにより、馬が海外の気候に合うかが問題だろ」
テキの答えに胸を撫で下ろす。
ライネルは、ライネルタキオンは特殊な馬だ。
ごく一般的な馬は、寒さに強く、暑さに弱い。でも、ライネルタキオンは違う。寒さに弱いのだ。それで、暑さに強いのなら問題はないだろうが、暑さにも強いというわけではない。弱いのだ。
冬は寒暖差で体調を崩す。夏は体温の急上昇や脱水症状に陥りやすい。
そもそも、この馬は12月に一切走らなかった。馬房から出ようともしなかった。ウォーキングマシンで歩かせはしたが。
こんな特殊な馬、そうそう見知らぬ相手には任せられない。
「まぁ、私としても、海外はちょっとな……輸送でも、北海道から青森間でも体調崩したからな……馬運車には慣れてるようだが、船がダメとなると、航空機なんてもっとダメだろ」
そして今、中山競馬場のパドックをライネルと共に歩いている。
はっきり言って、不安だ。桜花賞での突然の失速。あれの影響が心配だ。
「ライネル、足には気をつけろよ」
首元をさすりながら言うと、気持ちよさそうに目を閉じてたのが突然顔をこちらに向けて眺めてくる。
「心配すんなってか」
言葉を出しても、何も反応せずに見つめてくる。
飽きたのか突然前を向く。
反応に困ったので隣にずっといる加藤さんを見る。肩をすくめて加藤さんが一緒に反応してくれる。
「島さん」
「加藤さん……」
「確かに足には不安はあるかもしれない。でも、ライネルはそこまで弱くない。それに、ちゃんとレース後に1日は休みがありましたから。な、ライネル」
確かに休みはありましたけど。
「大丈夫です。必ず無事に戻って来れますから」
『1枠1番、カツトップエース』
ゲート手前。いつもよりも慌ただしい。
「牡馬ばかりだな」
牝馬はライネルのみか。
「勝つぞ。僕たちが、最強だと見せるんだ。お前が走って、一番近くの僕が応援してやる。いざとなったら、近くにいるということを鞭で教えてやる」
『7枠13番、ライネルタキオン』
「よし、行くか」
『全出走馬、ゲートイン完了。………今スタートしました!』
『先頭はやはりこの馬、13番ライネルタキオン!!その1馬身後ろにカツトップエース』
やはり、牡馬は速いなぁ……。負けてられない。
言わせない!!牝馬だからなんて、絶対に言わせない!!言わせてたまるもんか!!
『13番ライネルタキオン、ここで加速!!だがカツトップエースくらいつく!!ライネルの後ろから離れない!!完全にロックオン!!』
どこまでもついてくるなら、逃げるのみ。
この速さについて来い、カツトップエース!!
『13番ライネルタキオン、さらに加速!!2000mだぞ!!持つのか!?』
私は速い。私は馬ではない。馬ではない。そうだ。私は、馬ではない。超光速の粒子。
誰も追いつけない、何も追いつけない。
物理法則というルールを殴り捨て、ただ加速する。そうだ。私は、音速をも超える。
『更なる加速!!差がじわじわと……いや、1馬身2馬身と増えていく!!これは独走になるか!?』
まだだ。もっと先へ……光速の向こう側に……。
『ライネルタキオン、またもや加速!!この馬に速度の上限はあるのか!?後方とはかなり離れているぞ!、その差はなんと、15馬身差だ!!』
景色がしらばむ。でも、そんなことは関係ない。まだだ。まだ、足りていない。
もっと、もっと、あの先へと……。
………………。
……………。
…………。
「ライネル!!」
あぁ、まだ、届かないのか。
「ライネル!!」
いや、まだだ。まだ、足は止まっていない!!まだ回せれる。もっと早く回せれる。
「ライネルっ!!」
『ライネルタキオン!!ゴールを目前に転倒!!大丈夫か!?』
「ライネル、おい、ライネル!!」
声が聞こえる……誰だ……ここは……あぁ、そうか。またか。
加藤くん。まだ降りていないな。
まだ、走れる。走るんだ。
「立つな!!もうお前は……」
知らない。知らない。そんな言葉は知らない。
いらない。いらない。必要としない。
あの日誓った。二度と挫けない。
私は、絶対だ。
『ライネルタキオン、今ゴール!!』
ほら、終わったぞ。加藤くん。
「大丈夫か!?」
テキの時致さんが駆け寄ってくる。
ライネルタキオンは、ゴール直前に転倒。ヘッドスライディングのような形だったが、すぐに立ち上がって、ゴールした。
「骨折はしてないよな!?」
「はい。多分」
普通に立ち上がったから、骨折はしてないはずだ。
「ルタ!!」
後ろから大きな声が聞こえてきた。
その声にライネルは反応して後ろを振り返っている。
「どちら様ですか?」
「そっか。加藤くんとは初対面か。こちらはライネルタキオンの馬主、山城大牙。山城さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです。ルタは……ライネルタキオンは大丈夫ですか?」
馬主だったのか。
「今、確認しようとしてて」
「そうですか……」
時致さんと山城さんが話し込んでいる間に、改めてライネルタキオンを見る。
転倒したとは思えないほど、普通に立っている。
足に外傷は見当たらず、異常もなさそうだとは思う。
「目視じゃわからんか……馬体検査かな」
「やはり、そうなりますか……」
転倒するも、最後まで騎手を落とさなかったライネル。その馬体には、かなりの負担がかかっていただろう。
次回の内容は、馬体検査で異常発覚!?ライネルタキオンの運命は。
お楽しみに〜。
競走馬シーンの続きを
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早く読み終えたい
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もう少しゆっくりと進んでほしい