『とうとうこの日がやってまいりました。牝馬の中の牝馬を決めるエリザベス女王杯への出走権を賭けた戦い、牝馬東京タイムズ杯。出走する馬をご紹介しましょう』
『春の皐月賞での怪我以来のレース、勝利を手繰り寄せることは出来るのか。1枠1番、ライネルタキオン』
『かなり調子は良さそうですね。華麗なステップも見て取れます。春の女王、活躍なるか、といったところですね』
長い。長かった。ようやく、この時が来た。
『鞍上の藤峰騎手に不安が残るのか、5番人気です』
「ライネル。行くぞ……俺たちのデビュー戦だ」
交通事故から一年近く経った。
もう、あの頃とはおさらばだ。
「全力で、勝ちに行くぞ」
『全出走馬、ゲートイン完了しました。女王に謁見するチケットを手にするのはどの馬か、今、綺麗に並んでスタートしました!』
前へ。
『先頭は2番ブロケード。後方との差を広げていきます』
前へ、前へと、進まないと。
『その後ろでは1番ライネルタキオンと4番メジロクラウンが競り合っている』
『その後ろではエイティトウショウが虎視眈々と狙っている』
やらないと、叶わない。
前に、前に……!
『7番シャダイダンサー、メジロクラウンを交わして1番ライネルタキオンに並……ばない!!さらに交わして、2番ブロケードの後ろにつく!!』
抜かれた。交わされた。
もう、ダメなのか……。
「走れぇ、ライネル!!」
いや、そうだったな。なんでこんなにも忘れやすいんだろう。
まだ終わっちゃいない。
『1番ライネルタキオン、シャダイダンサーと並んだ!!』
「そのまま交わせ!!」
あいよ!!交わすだけじゃ足りないよなぁ!!
『ライネルタキオン、ブロケードとの差を詰める!!3馬身2馬身と詰めていく!!』
コーナーがどうした。坂道がどうした。
全て、水平な直線に過ぎないじゃないか。
『しかし、ブロケード逃げる!!差は依然と縮まらない!!』
今まで何をしてきた!!怪我が治ってからは、猛トレーニングだっただろ!!
藤峰くんとも、加藤くんとも練習したんだ!!
たかが馬一頭抜かせずに、泣き寝入りするつもりなど、さらさらない!!
人気がなんだってんだ。位置がなんだってんだ。んなこと関係ない。
速ければ、それでいい。
『ライネルタキオン並んだ!!並んだ!!やはりこの馬が来るのか!!ライネルタキオン、意地とでも言わんばかりに坂を駆け上る!!ブロケードも負けじと並び続ける!!』
知ってるか?美浦トレセンに、坂路、無いんだぜ。信じられないよな。
美浦トレセン所属の馬が、坂路でこんなにも速いのによ。
なぁ、今日会ったばかりのブロケードさんとやらよ。
「行け、超えろ、タキオン!!」
『追い越せ、ルタ!!』
『シュンシゲも上がってくる!!カバリエリエースが内から上がってきた!!』
だいぶ上ってきたな。だが、そう簡単に追い付かせたくない。
そんなの、つまらないさ。
『ブロケード、ライネルタキオン、さらに加速!!後方は追いつけない!!差がじわじわと開いていく!!ブロケードか!?ライネルタキオンか!?』
「もっとだ、もっと!!」
『ブロケードか、ライネルか!?いや、ライネルだ!!ライネルタキオン抜いた!!ライネルタキオン抜いた!!』
もうすぐで、スタートライン。
そうだろ、藤峰くん。
まだまだ、先があるんだろ?早く並ぼう。早く並ばないと、誰かに奪われるからさ。
『ライネルタキオン!!見事にエリザベス女王杯の優先出走権を手にしました!!』
さぁ、伝説とまではいかないが、私の物語を始めよう。
『さぁ、やってまいりました。第6回エリザベス女王杯!!最も強い牝馬を決める、最後の競走です』
『京都競馬場の天候は晴れ。良馬場です。いい競走が期待できます。それでは、出走する競走馬の紹介にいきましょう』
『1番ライネルタキオン。クイーンカップ、桜花賞と制してきた牝馬です。鞍上は藤峰騎手です』
『牝馬東京タイムズ杯では、怪我からの復帰以来初の競走でありながら、優勝を果たしています。さらに、今まで、無敗を貫いています。これはかなり期待できそうですね』
「だとよ。さっさと行くぞ、ライネル」
だな、藤峰くん。
「勝つのは俺たちと決まってるんだ。どの馬も追いつけないような走りにするぞ」
『ライネルタキオン、見事に逃げ切った!!9馬身差!!9馬身差の圧巻です!!』
個人経営のラーメン屋のラジオから流れてくる放送に耳を傾けていたら、聞いたことある名前の馬の結果報告だった。
「ほぅ……勝ったんやな、あの馬。マジかぁ……賭けときゃよかった……」
「おう、あんちゃん。競馬好きなのかい?」
店主が話しかけてくる。明るくて気さくな人だ。普段からここに来ては相談したり駄弁ったりして、楽しませてもらっている。
「えぇ、まぁ。好きな馬が走ってるんで」
「へぇ。好きな馬ねぇ……どんな名前だい?」
「ライネル。ライネルタキオンです」
「らいねるたきおん……どんな意味か教えてくれるか?」
「さぁ、俺にもわかんないですよ。でも……」
先程のレースや、過去のレースから見て、こう呼ばれるだろう。
「女王、という意味は確実に含まれましたよ、今日」
「ん?なんかあったのかい?」
「今日は、エリザベス女王杯があったんですよ。それに勝ったので、女王、というわけです」
「なるほどな」
さて、スポーツ新聞買って帰るか。
「ネタ提供、助かるぜ、ライネルタキオン」
メモ帳片手に、金を払って店を出た。
よくよく考えなくても、オリキャラの使用権をルール付きで自由にさせたり、小説や怪文書にしてもいいってしたりするのは多分私だけ。
特に考えてなかった謎の記憶がどんどん溢れ出てくる……なに?ライネルタキオン13歳とかなにこれ?こんなの記憶にあるはずがガガガガガ………ライネルナラティブのシスコンの始まり?んなこと考えてない……
ま、作者は毎日こんな感じてぶっ壊れてます。気分が命ですからね。最近ダダ下がりですからね。流石に旬を過ぎた小説は読む人少なくなる悲しい現実に寄り添いながら生きて行きますわ。
あ、なんか、競走馬回が長すぎる、と感じている方が多そうなので、出来るだけ短くしようかな、とはおもてます。じっくり読みたい派の人の分として、外伝作品(多分、内容的にはこちらが外伝になるだろうけど)を製作中です。
感想等、お待ちしてます
競走馬シーンの続きを
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早く読み終えたい
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もう少しゆっくりと進んでほしい