「えぇ!?」
まさかの事実に大きな声をあげるしかなかった。
「ジャパンカップに出ないって」
「そもそも、レートが合わないだろ。夏は走ってないからな。それに、エリザベス女王杯の直後だ。また怪我されては敵わん」
テキの時致さんの考えは確かにわかる。でも、相手は引き下がらなかった。
「ジャパンカップは国際的なレースですよ!?確かに、怪我は恐ろしいですが……でも、第1回という記念もありますし、出る方がかなりいいと思いますよ!!」
「あのだなぁ……はぁ……」
時致さんが深くため息を吐く。それは、かなり怒っていることを示している。
これはやばい。嫌な予感がする。
「たった1レースにどんな価値があるんですか?そのレースでこの馬の命が終われば、その後が全てダメになる。貴方達報道機関からしたら、国際的なレースは価値のあるレースなのでしょう。しかし、私たちにとっては、走る必要を感じないただのレース。走る意味なんてないです。貴方達の価値観をこちらに押し付けないでいただきたい。だから、ジャパンカップは回避します」
そうだそうだ!!押し付けんなこの野郎!!
「それと、カメラのフラッシュ、やめてくれません?馬が驚くので」
「ですが、いい写真が」
「馬が怪我したら、その金を全て払えるんですか?ん?」
………つか、かなりキレてる。手もつけたくない。
「とりあえず今は忙しいのですよ。レース直後だから、まだ興奮しているライネルタキオンを鎮めるのに苦労するんですから」
[女王ライネルタキオンの御帰還!!]
大きな文字で彩られたライネルタキオンの写真。
「ふっ……よくやるわ。思ってもないことを……」
「時致さん。自分、これは許せないです」
「そうか?」
「だって、これを書いたのは、あの時の記者とかですよ!?」
ジャパンカップに出ないことを疑問にして、突撃してきたあの記者。
「はぁ……あのなぁ……あいつらは、ライネルタキオンがいい話のネタになると思ってやって来たんだ。それを利用して何が悪い。あいつらは、利用しようとしてされてんだ。ミイラ取りがミイラになった訳だ」
「ですが、この内容、嘘っぽいような感想ばかりじゃないですか!!」
「嘘は悪い。だが、嘘は時として必要になるんだ。あいつらにとって、今、嘘が必要になったんだろう」
「そう、なんですか」
「あぁ。さ、次のレースの準備をするぞ」
「次?次ってどのレースで……まさか」
次のレースと言ったら、大きいものはもう数が少ない。そして、ライネルが出走出来そうなのは、あと1つ。
「有馬記念。その為に、ジャパンカップを回避するんだ」
『さぁ、やってまいりました。今年最後のレース。第26回有馬記念です!!中山競馬場にて、お送りいたします』
『それでは出走馬を紹介致しましょう』
『注目といえばこの馬!!17番ライネルタキオン!!』
「大丈夫か?」
「は、はい……」
いつもとは違う雰囲気。
「無理はするなよ」
「えぇ……分かってます」
腰を上げて、ライネルのところへと向かう。
そうだ。ここからなんだ。
スタートしたばかりなんだ。まだ、終わっちゃいない。
「よし……行ってきます」
「あぁ。行ってこい」
『全出走馬、ゲートに収まりました。第26回有馬記念……今スタートしました!!』
『先頭をゆくのはやはりこの馬、ライネルタキオン!!差を1馬身2馬身と広げていく』
『まだ、まだ加速するのかライネルタキオン。差は15馬身……いや、まだ開く。大逃げ、大逃げです!!』
どうだ……他の馬とは違うだろ?
そうだろ?藤峰く……ん……おい!?顔色悪いじゃないか!!
ったく、早く終わらせるぞ!!
『またもや加速するライネルタキオン。限界はあるのか?』
2番手とは、かなり離れたな。置いてけぼり、だな。
なぁ、藤峰くんよ、ここまであっさり勝てるんだから、早く身体の調子を整えようぜ。
『最後の直線に入った先頭ライネルタキオン。後方との差は驚異の19馬身。もう追いつけない』
加藤くんもいるから、焦らなくていいんだぜ。
私が乗せるのは、加藤くんと藤峰くん、あとは厩舎の私との関係者のみなんだからさ。
安心s…………。
「ガハッ……」
有馬記念。数万人の競馬ファンが投票した、人気のある馬のみが走れるレース。
数万人がその結果を見るために、中山競馬場に集まった。
そんな中山競馬場。レースの結果が見えかけた時、辺り全体が、静かになった。
歓声も、拍手も、何もない。あるのは静音のみ。
その場にいた全員の目線の先には、ただ、一頭の馬の姿があった。
ライネルタキオン。
その馬は、逃げを得意とし、今回も大逃げをしていた。
『ライネルタキオン、転倒!!』
実況がようやく動き出す。
確定されていたはずの勝利が、崩れ落ちていく。
『藤峰騎手、落馬しました!!』
競走中止。その事実が突きつけられる。
第26回有馬記念。ライネルタキオン、競走中止。
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