風が暑さを運んでくるようになった頃。
俺は、トレセン学園の食堂で悩んでいた。
「次の注目株は誰だ……」
明日行われる選抜レース。
俺はトレーナー。まだ、担当ウマ娘がいないトレーナー。
同僚はさっさと見つけて、もうデビューもしている。
流石に今回、見つけられなければ、かなりやばい。
そう思ってた時期がありました。
はい。出場者未定の為、聞いてもようわからんという結果だけ握りしめてるわ。
「はぁ……」
「よっす。どうだ?候補は考えたか?」
「全く」
同僚が語りかけてくる。
はぁ……。
「ま、もうすぐだ。悩むより、見て決めた方がいいだろ」
「………そうだな。行ってくる」
「おうよ。ん?あー、今日のトレーニング?それなら」
いざゆかん、戦場だ。
晴れた空は、どこまでも青く、遠い。
そんな空の下、数々の未来を持つウマ娘達が、ゲート入りして、始まるのを待つ……待つ……待ってないな!!1人!!
おい!!1枠1番!!いつになったら入るんだ!!レースが始まらんだろぉ!?
あ、背中押されてるわ。ゲート難か。
最後の1人が納められて、ようやく始まる選抜レース。
正直、誰も同じくらいなんだろうなと思っていた。
レースはハイペースで進んでいく。
それは、先程のゲート難娘。
大逃げ。
速い。速すぎる。なぜ、そこまで走れる。なぜ、そんな速度が出せる。
彼女がゴールする。その瞬間、俺は彼女の所に走る。
「な、なぁ!!」
声を出して、引き止めようとするが、彼女の足は止まらない。
誰も彼女に話しかけないのか、周りには他のトレーナーがいない。
なぜ、無視を……。
「はぁ……一つ言っておくが、ここはまだレース場だ。危険だから、スカウトするなら、安全な場所で、だ。そこはよく考えたまえ」
彼女が振り返って、返事をする。
俺の耳はその言葉を聞きいれながら、俺の目と脳は、驚いていた。
誰もが希望をとあるウマ娘に持った。しかし、中々出てこないウマ娘だった。
アグネスタキオン。こんなところで燻っていたのか。
トレーナーがいないから、走らない。後は、誰がトレーナーになるか。
よし、これは絶好のチャンスだ。
絶対に、彼女のトレーナーになってやる。
「是非、俺の担当になってくれ!!」
そんな言葉が飛び交うのは、アグネスタキオンを囲むトレーナー達。
「………なら、私の名前をちゃんと言える人にしよう。さぁ、私の名前を言いたまえ」
は?なぜ名前で決めるんだ?
「アグネスタキオン……」
「「「「アグネスタキオン!!」」」」
全員が同じ名前を言う。いや、叫ぶ。
それに当の本人は、眉をひくつかせながら、若干キレ気味に言った。
「そうかそうか。君たちは事前に調べようともしないのか。そうかそうか。君たちには失望したよ」
そう。誰もトレーナーにしないと発言した。
なぜだ、ちゃんと名前を言っただろうに。
ふと、後ろから駆け足で誰かがかけてくるのが聞こえて来た。
「ひぃ……ふぅ……ま、間に合った……のかな?」
そう、俺と同じトレーナーだ。
「ほう。1人遅れていたのかい?なら、他の人と同じく問おう」
「はぁ、はぁ……どんな問い?」
「私の名前だ」
全員が、遅れて来たトレーナーを見つめる。
こいつも、私たちと同じように……。
「は?何でそんなことを……まぁ、いいや。君は、ライネルタキオン」
「ふぅん……合格だ」
「「「「はぁ!?」」」」
ライネル……?いや、どう見てもアグネスタキオンだろ。
そんな空気が流れる中、新たに駆け足が……。
「ライネルくーん。私のモルモット第2号のライネルくーん。新しい実験したいからこれを飲んでくれないかー」
「誰がモルモット第2号だ!?第一、私はアンタのせいで困ってるんだぞ!!アグネス!!」
そう、あのアグネスタキオンが後ろからやって来た。
「おや?選抜レースだったのかい?」
「そうだよ……はぁ……」
「ふむ。これは失敗したな。妨害できなかったか」
「は?今、なんと?」
「いや、妨害でき……すまん。そんなに怖い顔をしないでくれないか?モルモット第2号くん」
「妨……害……いつもいつも選抜レース直前に勝手に飲み物に薬混ぜ込んでたのって、妨害をするため……?」
「ちょっ……顔が怖い」
「答えろ」
「あ、あの……その……」
「おい、答えろ」
「いや、ライネルくんにトレーナーが着くと、実験台がいなくなってしまうから……」
「…………」
突如として喧嘩をする2人。それに置いて行かれてもはや空気以下と化した俺たちトレーナー。
そんな場所で、空を見上げる。
空は、まだ青い。変わらない。
変わらない空は、俺の状況と一緒だ。
「あぁ、そうそう。他にもウマ娘がいるだろう?そっちにも行ってみたらどうだい。特にそこの君。君なら、担当は1人ぐらい決まるだろう」
最後に、ライネルタキオンがそう言って、アグネスタキオンを引っ張りながら校舎へと戻っていった。
そう言われた俺は、まだ空を見上げるしか無かった。
「いつまでぼーっとしてんだ」
「イタッ……なんだよ」
「担当、できたのか?」
話しかけて来たのは同僚。背中を叩かれ、活を入れられる。
「できなかった」
「そうか……担当、欲しいか?」
「欲しい」
「俺が頑張って、おすすめしてやるよ」
「……ほんとか?」
「ほんとほんと。ただし、担当になったウマ娘を、絶対に幸せにすること。これが条件だ」
幸せ、か。勝利ではなく、幸せか。
「わかった。やる」
「おう。それじゃ、久しぶりに飯行こうぜ」
「奢らせろよ?」
「おうよ」
なお、タキオンに叱られるタキオンと、タキオンを叱るタキオンと、女帝の声が至る所で聞こえて来たとかどうとか……
ライネルタキオンの同室は
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シンボリルドルフ
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サクラバクシンオー
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ツインターボ
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ナカヤマフェスタ
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メジロアルダン
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サクラチヨノオー
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シリウスシンボリ
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ミスターシービー