アグネスじゃないタキオン   作:天津神

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トレーナー視点強め


No.3

 

 

 風が暑さを運んでくるようになった頃。

 俺は、トレセン学園の食堂で悩んでいた。

 

「次の注目株は誰だ……」

 

 明日行われる選抜レース。

 俺はトレーナー。まだ、担当ウマ娘がいないトレーナー。

 同僚はさっさと見つけて、もうデビューもしている。

 流石に今回、見つけられなければ、かなりやばい。

 

 そう思ってた時期がありました。

 はい。出場者未定の為、聞いてもようわからんという結果だけ握りしめてるわ。

 

「はぁ……」

「よっす。どうだ?候補は考えたか?」

「全く」

 

 同僚が語りかけてくる。

 はぁ……。

 

「ま、もうすぐだ。悩むより、見て決めた方がいいだろ」

「………そうだな。行ってくる」

「おうよ。ん?あー、今日のトレーニング?それなら」

 

 いざゆかん、戦場だ。

 晴れた空は、どこまでも青く、遠い。

 そんな空の下、数々の未来を持つウマ娘達が、ゲート入りして、始まるのを待つ……待つ……待ってないな!!1人!!

 おい!!1枠1番!!いつになったら入るんだ!!レースが始まらんだろぉ!?

 あ、背中押されてるわ。ゲート難か。

 最後の1人が納められて、ようやく始まる選抜レース。

 正直、誰も同じくらいなんだろうなと思っていた。

 レースはハイペースで進んでいく。

 それは、先程のゲート難娘。

 大逃げ。

 速い。速すぎる。なぜ、そこまで走れる。なぜ、そんな速度が出せる。

 彼女がゴールする。その瞬間、俺は彼女の所に走る。

 

「な、なぁ!!」

 

 声を出して、引き止めようとするが、彼女の足は止まらない。

 誰も彼女に話しかけないのか、周りには他のトレーナーがいない。

 なぜ、無視を……。

 

「はぁ……一つ言っておくが、ここはまだレース場だ。危険だから、スカウトするなら、安全な場所で、だ。そこはよく考えたまえ」

 

 彼女が振り返って、返事をする。

 俺の耳はその言葉を聞きいれながら、俺の目と脳は、驚いていた。

 誰もが希望をとあるウマ娘に持った。しかし、中々出てこないウマ娘だった。

 アグネスタキオン。こんなところで燻っていたのか。

 トレーナーがいないから、走らない。後は、誰がトレーナーになるか。

 よし、これは絶好のチャンスだ。

 絶対に、彼女のトレーナーになってやる。

 

 

「是非、俺の担当になってくれ!!」

 

 そんな言葉が飛び交うのは、アグネスタキオンを囲むトレーナー達。

 

「………なら、私の名前をちゃんと言える人にしよう。さぁ、私の名前を言いたまえ」

 

 は?なぜ名前で決めるんだ?

 

「アグネスタキオン……」

「「「「アグネスタキオン!!」」」」

 

 全員が同じ名前を言う。いや、叫ぶ。

 それに当の本人は、眉をひくつかせながら、若干キレ気味に言った。

 

「そうかそうか。君たちは事前に調べようともしないのか。そうかそうか。君たちには失望したよ」

 

 そう。誰もトレーナーにしないと発言した。

 なぜだ、ちゃんと名前を言っただろうに。

 ふと、後ろから駆け足で誰かがかけてくるのが聞こえて来た。

 

「ひぃ……ふぅ……ま、間に合った……のかな?」

 

 そう、俺と同じトレーナーだ。

 

「ほう。1人遅れていたのかい?なら、他の人と同じく問おう」

「はぁ、はぁ……どんな問い?」

「私の名前だ」

 

 全員が、遅れて来たトレーナーを見つめる。

 こいつも、私たちと同じように……。

 

「は?何でそんなことを……まぁ、いいや。君は、ライネルタキオン」

「ふぅん……合格だ」

「「「「はぁ!?」」」」

 

 ライネル……?いや、どう見てもアグネスタキオンだろ。

 そんな空気が流れる中、新たに駆け足が……。

 

「ライネルくーん。私のモルモット第2号のライネルくーん。新しい実験したいからこれを飲んでくれないかー」

「誰がモルモット第2号だ!?第一、私はアンタのせいで困ってるんだぞ!!アグネス!!」

 

 そう、あのアグネスタキオンが後ろからやって来た。

 

「おや?選抜レースだったのかい?」

「そうだよ……はぁ……」

「ふむ。これは失敗したな。妨害できなかったか」

「は?今、なんと?」

「いや、妨害でき……すまん。そんなに怖い顔をしないでくれないか?モルモット第2号くん」

「妨……害……いつもいつも選抜レース直前に勝手に飲み物に薬混ぜ込んでたのって、妨害をするため……?」

「ちょっ……顔が怖い」

「答えろ」

「あ、あの……その……」

「おい、答えろ」

「いや、ライネルくんにトレーナーが着くと、実験台がいなくなってしまうから……」

「…………」

 

 突如として喧嘩をする2人。それに置いて行かれてもはや空気以下と化した俺たちトレーナー。

 そんな場所で、空を見上げる。

 空は、まだ青い。変わらない。

 変わらない空は、俺の状況と一緒だ。

 

「あぁ、そうそう。他にもウマ娘がいるだろう?そっちにも行ってみたらどうだい。特にそこの君。君なら、担当は1人ぐらい決まるだろう」

 

 最後に、ライネルタキオンがそう言って、アグネスタキオンを引っ張りながら校舎へと戻っていった。

 そう言われた俺は、まだ空を見上げるしか無かった。

 

「いつまでぼーっとしてんだ」

「イタッ……なんだよ」

「担当、できたのか?」

 

 話しかけて来たのは同僚。背中を叩かれ、活を入れられる。

 

「できなかった」

「そうか……担当、欲しいか?」

「欲しい」

「俺が頑張って、おすすめしてやるよ」

「……ほんとか?」

「ほんとほんと。ただし、担当になったウマ娘を、絶対に幸せにすること。これが条件だ」

 

 幸せ、か。勝利ではなく、幸せか。

 

「わかった。やる」

「おう。それじゃ、久しぶりに飯行こうぜ」

「奢らせろよ?」

「おうよ」




なお、タキオンに叱られるタキオンと、タキオンを叱るタキオンと、女帝の声が至る所で聞こえて来たとかどうとか……

ライネルタキオンの同室は

  • シンボリルドルフ
  • サクラバクシンオー
  • ツインターボ
  • ナカヤマフェスタ
  • メジロアルダン
  • サクラチヨノオー
  • シリウスシンボリ
  • ミスターシービー

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