「そういえばライネル」
「ん?」
「トレーナーはいつつけるんだ?」
朝練の途中、ルドルフが首を傾げながら走る。ようそんな器用なことできるなぁ。
「ふーむ……今のところはな……トレーナー選びは慎重にしたいからな」
「そうか……」
「さてと……」
土曜日。それは、毎週開催される選抜レースの日。
「ふむ。姉ちゃんもか。これは厳しいレースになりそうだな」
「んなことを言うな、ラティ」
何回目かもわからない選抜レース。
私のトレーナーはいつ決まるんだい?と毎回思う。
「ま、本気で行こうか」
「だな」
『さぁ、先頭を行くのはライネルタキオン!!その後方1バ身後ろからライネルナラティブが追い上げてくる!!』
「遅いぞ、ラティ!!」
「チッ……毎回速すぎんだよ!!」
前の方で叫んだ姉の声につい、文句が出てしまう。
姉、ライネルタキオン。何故か、左耳飾りウマ娘は右耳飾りウマ娘よりも力が弱かったりする中、圧倒的な速度で蹴散らしたウマ娘。
その時についた渾名が“女王”
そんな姉、“女王”ライネルタキオンと共に、走っている。
なんて嬉しいことか。ここまで強いウマ娘と競うことができることもだが、なによりも、それが姉であることの方がとても重要。
気兼ねなくトレーニングにさそうことができるし、普段何やっているのかも筒抜け。
よくクラスの中で言われたものだ。
『えー、羨ましい。私、ライネルタキオンさんの妹になりたかった』
『私はライネルタキオンさんの姉になりたい』
どうだ、羨ましいだろ。もっと言ってもいいぞ。
でも、ここは譲らない。
「なら、追いつくまで!!」
「できるものならね!!」
独り言ですら聞き取る地獄耳。姉は言葉通りに加速していく。
それに釣られて、私も加速していく。
近づいていく背中、足音。
縮まる差が0になり、前には誰も居なくなり……。
「もらったぁ!!」
先頭。私が先頭だ。
後ろには、あのライネルタキオンがいる。
「もうすぐ……!!」
ゴールラインが明確に見えてくる。
周りには、誰も見えない。何もない。
『今ゴール!!見事に逃げ切りました!!』
おい、待て。なんだ、今の。
『少し遅れて、今、ライネルナラティブがゴール!!』
2着、だと……!?
先頭は誰だ!!?
「だから言っただろう。できるものなら、と」
「姉ちゃん……」
肩で息をするが、疲れよりも驚きの方が強い。
何故だ。何故、どこで抜かれた。
「とりあえず、お疲れ様。しんどいでしょ。少し待ってて。運んであげるからさ」
何故、どこ、いつ、どうやって。
「どう、して……」
私は、いつ、抜かれたんだ……。
「おい、見たかよ……」
「あぁ……マジでヤベェな……」
周囲の喧騒が面倒だが、全力で挑むべきことに全力で挑んだ結果がこれだ。
なぁ、なぜ、わたしにはトレーナーがつかないんだ?
周りのトレーナー候補達から距離を取られると、まるで変質者みたいで心が傷つくのだけど……。
ちなみに、ナラティブは疲労でぶっ倒れ直前。すぐに保健室に搬送した。
「あ、あの〜」
「ん?なんですか?」
1人の女性が話しかけてきた。多分、トレーナーだろう。ヒト娘だし。
「私の、担当になってくれませんか……?実は……」
「おお!!いいですとも!!ぜひ!!トレーナーには飢えていたもので!!」
よし、トレーナー確保!!ようやくトゥインクルシリーズに出れる!!
やったやった、と心の中ではしゃいでいると、後ろに誰か来た。
「やぁ、ライネル。とうとう決まったんだな」
「あぁ、そうさ。ようやく決まったよ、ルドルフ」
「こ、皇帝っ!?」
トレーナーさんが驚いてるようだが、無理もない。
相手はあの皇帝だからな。
「はじめまして、ライネルのトレーナーさん。私はシンボリルドルフだ。よろしく頼む」
「あ、は、はい……えぇ、どういうこと……」
困っているようだが、それは私もだったなぁ……初めて会った時に、そうなったなぁ……懐かしい……。
「ところで、この後時間はあるか?」
「契約書類を書いた後は暇だ。どうせ、今日はもうトレーニングはできない」
「そうか。なら、少し相談に乗ってくれないか?」
「わかった」
「ひぇぇ……女王と皇帝だ……」
「すげぇメンツ……鳥肌が立ちそう……」
「ここは……」
「あ、目が覚めましたね」
「そうか、保健室か」
姉との勝負。結果は私の負け。
「はぁ……」
「お疲れ様でした。かなり上手くいってたんじゃない?」
「いえ……あ、ありがとうございます」
礼を言って、保健室から出る。
ふむ。汗臭いな。風呂入ってさっさと横になろう。
いや、寝る前に今日のレース、確認しとくか。
寮の扉を開けて、着替え等を素早く手に取る。
「お疲れ様だね、ナラティブ」
「まぁな」
「おや、どうしたんだい?」
「今は近寄るな」
「なるほど」
何がなるほど、だ。シービー。
「なぁ」
「ん?なんだい?」
「今日のレースのことだが」
「あぁ……映像なら手元にあるよ。みるかい?」
「見る」
シービーに尋ねてみたら、案の定あった。
今日の選抜レース。起こったことの真実。
「どこら辺が見たい?」
「最後の直線辺りだな」
スキップして、肝心の部分を見る。
先頭は、姉ライネルタキオン。後ろに私だ。
姉が加速すると私も連れて加速する。
差が縮まる。そのように見えた。
だが、すぐに異変が起こる。
「なんだ、これは」
「さぁ」
姉がさらに加速。私が抜いたと思っていた時は、まだ2番手だったのだ。
「一体、何が……」
「さてね。私にもわからない」
見えていた景色と現実が釣り合わない。
なぜだ。なぜ……。
「いや、これは、覚醒、か?」
「なるほど。確かにそれもあり得る」
「そうか。なら原理は簡単ー」
「いや、これは覚醒ではないさ」
「は?」
「覚醒一歩手前だね。本当の分は、もっと凄まじいものさ。ほら、現に、少し君が差を縮めてたじゃないか」
それは、覚醒のラグだろ?
「いや、そんな顔しなくても……言葉にして欲しいかな。言いたいことはわかるけども。まぁ、確かにラグに見えるけど、オーラが違う。このオーラは、覚醒の時とほとんど同じだ。違う部分としては、足りてない。迫力が足りてないんだよ」
「長ったらしい。簡単にして欲しい」
「要するに、リミッターかけて覚醒して走ってるんだよ、君の姉は」
なるほど、よくわからん。寝る。
「おやすみ。すごいレースだったよ」
「あぁ。おやすみ」
「ん?誰だ!!」
夜間の見回り。流石にこの時間で部屋から出るウマ娘はあまりいない。
いたとしても、お手洗いか夜食を探すくらいだ。
そんなはずだが、寮の入り口に、誰かがいた。
懐中電灯を向けて誰なのか確認しようとする。
「……アグネスタキオンか」
シルエットが見えた。完全にアグネスタキオンだ。
「早く寝ろよ」
そう言って、見回りを続ける。
「どうだい?ヒシアマゾン」
「会長さんか。問題はなかったよ。美浦寮は今日も安全だ」
途中で会長さんと出会ったが、いつもの確認なので問題はない。
……………?
あれ?
「会長さん、美浦寮と栗東寮で、生徒の入れ替えはなかったよな?」
「ないぞ。どうかしたのか?」
やばい。変なの見たかもしれん。
「か、会長さん。少しついてきて欲しい。嫌な予感がする」
「わかった」
「ここに誰かいたのか?」
「あぁ。アグネスタキオンがな」
玄関に来て、周囲に懐中電灯の光を当てる。
「いないな」
「移動したとかか……」
見回りに戻ろうとして、廊下に向けると……。
「あ……」
いた。
「ほう。本当にいるな。おい、アグネスタキオン。早く寮に戻れ」
会長さんが注意するものの、アグネスタキオンは反応しない。
いや、反応した。
こちらを見て……。
「は、はぁ?か、顔が……顔が……な、ない」
「なんだ、この、背筋まで凍るような冷気は。まだ夏だぞ……」
やばい。あれは、なんだ。本当にアグネスタキオンなのか!?
「っ!!避けろ、アマゾン!!」
アグネスタキオン?が突っ込んでくる。
なんとか身体を動かして、避けるものの、アグネスタキオン?はどこかへと向かっていった。
「追いかけるぞ」
「いた!!」
しばらく走ると、アグネスタキオン?が立ち尽くしていた。
誰かの部屋の前だ。
アグネスタキオン?は部屋を指さして、こちら側に顔を向け、ニタァと白い線が笑っているかのように現れると、突如として消えた。
「な、なんだったんだ……」
「わからない……わからないが……なぜ、私とライネルの部屋を指さして笑った……?」
はい。半覚醒したライネルは強い!!
さて、謎のアグネスタキオンが登場!!一体なんなのか!?
感想等お待ちしてます
アグネスじゃないタキオンの裏話(設定とかそうゆう系の考え等)を別の場所で
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ハーメルンの活動報告でしてほしい