アグネスじゃないタキオン   作:天津神

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No.3

 

 

「そういえばライネル」

「ん?」

「トレーナーはいつつけるんだ?」

 

 朝練の途中、ルドルフが首を傾げながら走る。ようそんな器用なことできるなぁ。

 

「ふーむ……今のところはな……トレーナー選びは慎重にしたいからな」

「そうか……」

 

 

 

「さてと……」

 

 土曜日。それは、毎週開催される選抜レースの日。

 

「ふむ。姉ちゃんもか。これは厳しいレースになりそうだな」

「んなことを言うな、ラティ」

 

 何回目かもわからない選抜レース。

 私のトレーナーはいつ決まるんだい?と毎回思う。

 

「ま、本気で行こうか」

「だな」

 

 

 

 

 

『さぁ、先頭を行くのはライネルタキオン!!その後方1バ身後ろからライネルナラティブが追い上げてくる!!』

「遅いぞ、ラティ!!」

「チッ……毎回速すぎんだよ!!」

 

 前の方で叫んだ姉の声につい、文句が出てしまう。

 姉、ライネルタキオン。何故か、左耳飾りウマ娘は右耳飾りウマ娘よりも力が弱かったりする中、圧倒的な速度で蹴散らしたウマ娘。

 その時についた渾名が“女王”

 そんな姉、“女王”ライネルタキオンと共に、走っている。

 なんて嬉しいことか。ここまで強いウマ娘と競うことができることもだが、なによりも、それが姉であることの方がとても重要。

 気兼ねなくトレーニングにさそうことができるし、普段何やっているのかも筒抜け。

 よくクラスの中で言われたものだ。

 

『えー、羨ましい。私、ライネルタキオンさんの妹になりたかった』

『私はライネルタキオンさんの姉になりたい』

 

 どうだ、羨ましいだろ。もっと言ってもいいぞ。

 でも、ここは譲らない。

 

「なら、追いつくまで!!」

「できるものならね!!」

 

 独り言ですら聞き取る地獄耳。姉は言葉通りに加速していく。

 それに釣られて、私も加速していく。

 近づいていく背中、足音。

 縮まる差が0になり、前には誰も居なくなり……。

 

「もらったぁ!!」

 

 先頭。私が先頭だ。

 後ろには、あのライネルタキオンがいる。

 

「もうすぐ……!!」

 

 ゴールラインが明確に見えてくる。

 周りには、誰も見えない。何もない。

 

『今ゴール!!見事に逃げ切りました!!』

 

 おい、待て。なんだ、今の。

 

『少し遅れて、今、ライネルナラティブがゴール!!』

 

 2着、だと……!?

 先頭は誰だ!!?

 

「だから言っただろう。できるものなら、と」

「姉ちゃん……」

 

 肩で息をするが、疲れよりも驚きの方が強い。

 何故だ。何故、どこで抜かれた。

 

「とりあえず、お疲れ様。しんどいでしょ。少し待ってて。運んであげるからさ」

 

 何故、どこ、いつ、どうやって。

 

「どう、して……」

 

 私は、いつ、抜かれたんだ……。

 

 

 

「おい、見たかよ……」

「あぁ……マジでヤベェな……」

 

 周囲の喧騒が面倒だが、全力で挑むべきことに全力で挑んだ結果がこれだ。

 なぁ、なぜ、わたしにはトレーナーがつかないんだ?

 周りのトレーナー候補達から距離を取られると、まるで変質者みたいで心が傷つくのだけど……。

 ちなみに、ナラティブは疲労でぶっ倒れ直前。すぐに保健室に搬送した。

 

「あ、あの〜」

「ん?なんですか?」

 

 1人の女性が話しかけてきた。多分、トレーナーだろう。ヒト娘だし。

 

「私の、担当になってくれませんか……?実は……」

「おお!!いいですとも!!ぜひ!!トレーナーには飢えていたもので!!」

 

 よし、トレーナー確保!!ようやくトゥインクルシリーズに出れる!!

 やったやった、と心の中ではしゃいでいると、後ろに誰か来た。

 

「やぁ、ライネル。とうとう決まったんだな」

「あぁ、そうさ。ようやく決まったよ、ルドルフ」

「こ、皇帝っ!?」

 

 トレーナーさんが驚いてるようだが、無理もない。

 相手はあの皇帝だからな。

 

「はじめまして、ライネルのトレーナーさん。私はシンボリルドルフだ。よろしく頼む」

「あ、は、はい……えぇ、どういうこと……」

 

 困っているようだが、それは私もだったなぁ……初めて会った時に、そうなったなぁ……懐かしい……。

 

「ところで、この後時間はあるか?」

「契約書類を書いた後は暇だ。どうせ、今日はもうトレーニングはできない」

「そうか。なら、少し相談に乗ってくれないか?」

「わかった」

「ひぇぇ……女王と皇帝だ……」

「すげぇメンツ……鳥肌が立ちそう……」

 

 

 

 

「ここは……」

「あ、目が覚めましたね」

「そうか、保健室か」

 

 姉との勝負。結果は私の負け。

 

「はぁ……」

「お疲れ様でした。かなり上手くいってたんじゃない?」

「いえ……あ、ありがとうございます」

 

 礼を言って、保健室から出る。

 ふむ。汗臭いな。風呂入ってさっさと横になろう。

 いや、寝る前に今日のレース、確認しとくか。

 寮の扉を開けて、着替え等を素早く手に取る。

 

「お疲れ様だね、ナラティブ」

「まぁな」

「おや、どうしたんだい?」

「今は近寄るな」

「なるほど」

 

 何がなるほど、だ。シービー。

 

 

 

 

「なぁ」

「ん?なんだい?」

「今日のレースのことだが」

「あぁ……映像なら手元にあるよ。みるかい?」

「見る」

 

 シービーに尋ねてみたら、案の定あった。

 今日の選抜レース。起こったことの真実。

 

「どこら辺が見たい?」

「最後の直線辺りだな」

 

 スキップして、肝心の部分を見る。

 先頭は、姉ライネルタキオン。後ろに私だ。

 姉が加速すると私も連れて加速する。

 差が縮まる。そのように見えた。

 だが、すぐに異変が起こる。

 

「なんだ、これは」

「さぁ」

 

 姉がさらに加速。私が抜いたと思っていた時は、まだ2番手だったのだ。

 

「一体、何が……」

「さてね。私にもわからない」

 

 見えていた景色と現実が釣り合わない。

 なぜだ。なぜ……。

 

「いや、これは、覚醒、か?」

「なるほど。確かにそれもあり得る」

「そうか。なら原理は簡単ー」

「いや、これは覚醒ではないさ」

「は?」

「覚醒一歩手前だね。本当の分は、もっと凄まじいものさ。ほら、現に、少し君が差を縮めてたじゃないか」

 

 それは、覚醒のラグだろ?

 

「いや、そんな顔しなくても……言葉にして欲しいかな。言いたいことはわかるけども。まぁ、確かにラグに見えるけど、オーラが違う。このオーラは、覚醒の時とほとんど同じだ。違う部分としては、足りてない。迫力が足りてないんだよ」

「長ったらしい。簡単にして欲しい」

「要するに、リミッターかけて覚醒して走ってるんだよ、君の姉は」

 

 なるほど、よくわからん。寝る。

 

「おやすみ。すごいレースだったよ」

「あぁ。おやすみ」

 

 

 

「ん?誰だ!!」

 

 夜間の見回り。流石にこの時間で部屋から出るウマ娘はあまりいない。

 いたとしても、お手洗いか夜食を探すくらいだ。

 そんなはずだが、寮の入り口に、誰かがいた。

 懐中電灯を向けて誰なのか確認しようとする。

 

「……アグネスタキオンか」

 

 シルエットが見えた。完全にアグネスタキオンだ。

 

「早く寝ろよ」

 

 そう言って、見回りを続ける。

 

「どうだい?ヒシアマゾン」

「会長さんか。問題はなかったよ。美浦寮は今日も安全だ」

 

 途中で会長さんと出会ったが、いつもの確認なので問題はない。

 ……………?

 あれ?

 

「会長さん、美浦寮と栗東寮で、生徒の入れ替えはなかったよな?」

「ないぞ。どうかしたのか?」

 

 やばい。変なの見たかもしれん。

 

「か、会長さん。少しついてきて欲しい。嫌な予感がする」

「わかった」

 

 

 

 

「ここに誰かいたのか?」

「あぁ。アグネスタキオンがな」

 

 玄関に来て、周囲に懐中電灯の光を当てる。

 

「いないな」

「移動したとかか……」

 

 見回りに戻ろうとして、廊下に向けると……。

 

「あ……」

 

 いた。

 

「ほう。本当にいるな。おい、アグネスタキオン。早く寮に戻れ」

 

 会長さんが注意するものの、アグネスタキオンは反応しない。

 いや、反応した。

 こちらを見て……。

 

「は、はぁ?か、顔が……顔が……な、ない」

「なんだ、この、背筋まで凍るような冷気は。まだ夏だぞ……」

 

 やばい。あれは、なんだ。本当にアグネスタキオンなのか!?

 

「っ!!避けろ、アマゾン!!」

 

 アグネスタキオン?が突っ込んでくる。

 なんとか身体を動かして、避けるものの、アグネスタキオン?はどこかへと向かっていった。

 

「追いかけるぞ」

 

 

 

「いた!!」

 

 しばらく走ると、アグネスタキオン?が立ち尽くしていた。

 誰かの部屋の前だ。

 アグネスタキオン?は部屋を指さして、こちら側に顔を向け、ニタァと白い線が笑っているかのように現れると、突如として消えた。

 

「な、なんだったんだ……」

「わからない……わからないが……なぜ、私とライネルの部屋を指さして笑った……?」




はい。半覚醒したライネルは強い!!
さて、謎のアグネスタキオンが登場!!一体なんなのか!?
感想等お待ちしてます

アグネスじゃないタキオンの裏話(設定とかそうゆう系の考え等)を別の場所で

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