アグネスじゃないタキオン   作:天津神

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復帰&ちょっと重めの話


No.6

 

 

「ルードールーフ」

「すまない……」

 

 生徒会室で、会長がトレーナーに叱られている。

 

「また仕事をこんなに残して……」

「本当にすまない」

「残りは俺がやっておくから、早く寝なさい。いいね?」

「はい……」

 

 ションボリルドルフ(以前ライネルナラティブがそう呼んでいたのを聞いた)がのそのそと生徒会室を後にして、トレーナーが私の方を見る。

 

「ブライアンも、早く戻った方がいいよ。後は俺がやっとく」

「いや、私の分はとっくに終わってる」

 

 会長の監視をしていただけだからな。

 

「そう。なら、早めに戻りなさい。門限は過ぎてる」

「一応、寮長には言ってる」

「でも早めに戻りなさい」

「わかってる。そこまで焦る必要がない、というだけだ」

 

 ま、こんなにも早く終わりが来るとは思ってなかったが。

 

「後は頼む」

「わかった」

 

 時刻にして午後9時。外は暗い。

 慌ただしい日も終わりを告げる頃だ。

 

 

 

 

「後1日か……」

 

 同時刻。府中市にある病院の一室。

 

「はい。明日退院ですからねー」

 

 病室から見える夜景。

 

「………」

「なにか、心配なんですか?」

「はい。どうしても……」

「大丈夫ですよ。何もなかったら、明日、退院ですからね」

「あぁ……」

 

 

 

『ライネル!!ライネル!!』

『早く救急車を!!』

『息が止まってる……心臓マッサージと人工呼吸!!早くよ!!』

『脳に障害が残る可能性がかなり高いです』

『どうにかならないんですか?』

『私たちにはどうにも……奇跡を願うのみです』

 

 

 記憶の片隅。断片とした言葉達。その意味がわかったのは、数日前。目を覚ました日。

 その日、目を覚ましたら、トレーナーさんが私にしがみついて泣いていた。

 何が何だかわからなかったが、時間が経つにつれて、理解できていった。

 そして、今。最後の検査。

 

「特に問題なし」

「よかったですねー」

 

 何も問題なしとの判断。でも、確実に異変はある。

 心の中。そう、あの時の霊だ。

 あの日、私はずっと声が聞こえていた。勝ちたい。勝たないと。そんな声。

 その声は、あの霊が発していた。

 どうやって知ったか?それは簡単。何故か心象世界に行けたから。

 そこに居たのは、前の姿をした私達だった。

 髪の色が黒色の私と、白色の私。

 黒色の私(以降はクロ)は勝利への渇望が強い。つまり、あの時出てきていたのはクロということだ。

 白色の私(以降はシロ)は、不明。話していたらいい子だというのはわかるけど、それぐらいしか分からない。

 それと、固有スキルの発動についてもだ。

 私は前々世では固有スキルが発動せずにぶっ倒れていた。それが今回、発動してぶっ倒れた。

 ぶっ倒れる結末しかないのか?

 まぁ、そこは置いといて、発動した固有スキルはクロのものだった。私だけだと、なんかこう、モヤッとする。

 推測だが、ウマ娘の固有スキル、トウカイテイオーなどのガチャで排出されるのが2種類以上のウマ娘は固有スキルが勝負服ごとにあるように、私のは複数固有スキルがあって、このクロとシロで使うことができるスキルが違うのではないだろうか。それなら納得がいく。私だけだと1つしかスキルは発動せず、クロシロで別々になって発動する的な。多分そういうことだろう。

 それで、クロのスキル内容だが……えー、周りにいるウマ娘の集中力を乱れさせて、自分より前方のウマ娘は体力が余計に減り、後方はスピードがダウンすると……。デバフ系統か。

 

「ライネルタキオンさーん?」

「ん?あぁ……はい」

「お客さんがきてますよ〜」

 

 看護師が部屋に入ってくる。看護師に続いて、トレーナーさんが入ってくる。

 

「ライネル……」

「やぁ、トレーナーさん。ようやく退院だね」

「そう……だね……」

 

 何故かトレーナーさんの顔が暗い。何故だ。

 

「さ、早く戻って、少しずつリハビリしよう」

「………うん」

「ほら、少し手伝って欲しい。まだふらつくからね」

「…………うん」

 

 

 

 

「ライネルさん……おかえりなさい」

「ただいま、カフェ。アグネスはどうしたんだい?」

「今日はトレーナーさんと一緒に出かけています」

「なるほど」

 

 トレセン学園に戻り、いつもの研究室で、残った半日を過ごす。

 その間、ずっとトレーナーさんは下を向いたままだった。

 

「………?」

「………」(首フリフリ)

 

 カフェにボディランゲージで尋ねてみると、知らないと。なるほど。

 では幽霊さんは?

 ふむふむ。なるほど。知らないと。

 

「トレーナーさん?」

「………んぇ?あ、ライネル、どうしたの?」

「いや、何もないんだけど……」

「そう……」

「何か悩み事かい?」

「…………大丈夫。大丈夫だから」

 

 嫌な予感がする。

 

 

 

「トレーナーさん、少し外に行こう」

「………うん」

「トレーナーさん、少しあそこに寄ってみないかい?」

「………うん」

「トレーナーさん、ここで少し休憩に」

「………うん」

「トレーナーさん」

「………うん」

「トレーナー」

「………うん」

 

 

 

 あぁ……眩しい。辛い。重い。

 私は、釣り合ってるのかな……いや、釣り合ってない。絶対に。

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん。大丈夫かい?」

 

 こちらの顔を覗き込んで、心配してくれる担当ウマ娘、ライネルタキオン。

 クイーンカップ、桜花賞、エリザベス女王杯、有記念と制覇してきたウマ娘。

 やっぱり、眩しいよ。

 

「ねぇ……ライネル」

「なんだい」

「話があるの」

 

 決めた。もう、これで後悔しない。

 

「……聞こうじゃないか」

「私、ライネルのトレーナー、辞める」




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