アグネスじゃないタキオン   作:天津神

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なーんか、話がテキトーになったかもだけど、終わりが理想と近くなったからこれでいいや感で投下


No.7

 

 

「私、ライネルのトレーナー、辞める」

 

 夕焼けが眩しく目に飛び込んでくる中、耳にも衝撃が飛び込んできた。

 トレーナーさんが、私を、担当から、外す……?

 

「ちょ……え、あ……え……」

 

 わからない。何故。なぜ。なぜ。どうして?

 

「私に問題が……」

「ない。あるのは私の方。私は、ライネル、あなたにとって、足手纏いにしかならない」

 

 息がうまくできない。空気を求めて口が動くが、吸うという行動につながらない。

 

「私は、どう頑張っても、あなたを支えられないの!!」

 

 

 

「違う!!」

 

 

「違う。そんな事はない!!なんで、なんでそんなこと言うの!!一緒にトレーニングしてきたじゃないか!!トレーナーの指導で、クイーンカップ、桜花賞、皐月賞、エリザベス女王杯、有記念を勝ったじゃないか!!それをどうして……どうして今更やめると言うんだ!!」

「確かに、あなたのようなウマ娘は強い!!でも強すぎるのよ!!私には、似合わない!!あなたは別のもっとすごいトレーナーと一緒にトレーニングしたほうがいい!!」

 

 叫ぶ。思いの丈叫ぶ。

 理屈なんか、キャラなんか殴り捨てて叫ぶ。

 

「私は、まだ新人のトレーナー!!あなたは、女王ライネルタキオン!!格が違いすぎるのよ!!」

 

 キレた。初めてここまでキレた。

 

「ふざけるな!!アンタの評価は、アンタ自身が決めるんじゃない!!周りが決めるんだ!!私のトレーナーは、新人でも輝いてるんだ!!強いウマ娘を育ててるんだ!!それを、それを……!!」

「っ!…………ごめん……」

 

 

 

 

 

 最悪だ。

 どうして、こんなことになっちゃうのだろう……。

 ライネルが入院中、私は理事長のところに辞表を出しに行った。

 

『なんだ、これはっ!!』

『辞表です』

『それは理解している』

『トレーナーを辞めたいのです』

『理由を求めるっ!!』

 

 その後、理由を話したら、こう言われた。

 

『拒否だ!!URAの規則上、これはまだ受け取れない!!』

『担当ウマ娘からの許可は取りましたか?』

 

 秘書の駿川さんにも、言われてしまった。そして、ライネルに言おうとしたら、どうしても言葉が出なかった。

 言えない。言うことができない。それを抱えながら、過ごしていたら、ライネルが不安そうにこっちを見ていた。

 そして、最後に言ったら、全力で拒否された。

 

「それで、許可は取れなかったか」

「やはり、こうなりましたね」

 

 今はまた理事長室に来ていた。なんでも話があるそうだ。

 

「それで、君には話しておこうと思ってな。辞めたいのに辞められない、URAの規則の理由」

 

 

 

 

 ある所に、トレーナーとウマ娘がいた。

 2人は普通のトレーナーとウマ娘の関係だったが、ある日、ウマ娘がG1で、世代最強のウマ娘に勝った。

 それが悲劇の始まりだった。

 トレーナーは、周囲からの圧力、期待に耐えられず、トレーナーを担当ウマ娘に無断で辞めた。

 次の日、元担当ウマ娘は、ずっとトレーナーを探した。

 だが、見つからず、他のトレーナーに話を聞き、辞めたことを知る。

 そのウマ娘はそのことを知ると、虚な目で屋上へと行き……。

 

 

 

「続きは分かりますよね」

「はい……」

「この事件がURAに対する苦情の始まりになったのですよ。あまりにも無責任だ、と。ウマ娘の一生において、この現役時代はかなり重要な意味を持ちます。そして、それを支えるのはトレーナーの役目です。そして、なによりも……」

「ウマ娘は寂しがり屋なんだ……誰かがそばに居ないと、どうしようもなくなる。それこそ、トレーナーという大きな存在ができるほど」

「だから、URAは規則として、トレーナーを辞める際、担当ウマ娘の許可が必要となっています」

「全てはウマ娘と人の為。思いや夢が関わるからこそ、どうしても起きてしまう不都合。これを任せられる人を選ぶためのトレーナー試験。地方と中央でトレーナーのライセンスが違う理由だ」

「じゃあ、今ライネルは……」

「かなり危ない状況でしょうね……」

 

 そっか……ライネルにとって、私はもう家族みたいな存在だったのか。

 

「それに、ライネルさんは少し家庭の事情が特殊でして……」

「確か、養子に出されていたはずだな。本当の両親を知らないし、過ごしてきた親が本当の親ではないことも、小さい頃からわかっていたそうだ」

「唯一の家族は一緒に捨てられた妹のナラティブだけ、ですからね……」

「そして、その後に本当の母親は交通事故。父親は行方不明。はぁ……世の中が難儀過ぎるっ!!」

 

 そうか……そんなことがあったんだ……。

 

「命令っ!!速やかに担当ウマ娘のところへ行き、謝罪をしなさいっ!!」

「なるべく早めでお願いしますよ。どうなるかはわからないので」

 

 

 

 

 

「…………」

 

『私は、ふさわしくない』

 

「………強く、なり過ぎた……」

 

 暗くなった川岸を、1人で歩く。足元を照らす街頭が、1匹の野良猫を照らす。

 野良猫に手を伸ばすが、野良猫が私の手に驚いて、闇の中へと逃げていった。

 本当に1人になったから、先程のことを考える。

 どうすれば、いいのだろう……。

 こんなこと、前々々世でもなかったことだ……。

 どう整理したらいいかわからない。

 どうしたいのかもわからない。でも、トレーナーさんには辞めて欲しくないということしかわかない。

 

「………どうしよう」

 

 決まらない。決められない。出てこない。

 そんな考えと共に、1歩、2歩と進んでゆく。

 

「ぅぐっ……」

 

 突如走る痛み。胸を押さえて、蹲る。

 

「……んな……まだ、1年、目なの、に……」

 

 早い。あと5年は持つと思っていたのに。

 5年後の有馬記念の後に……これが来ると思っていたのに……。

 あ……そうか……私が、1年目で、有優勝したから……歪んだ……。

 

「まだ……終わらせるわけには……」

 

 

 

 

「まだ帰ってきてませんか……」

「あぁ。彼女にしては珍しい」

 

 寮長から許可を得て、寮に来てみたものの、ライネルはいなかった。

 もう既に日が暮れて、夜になり、門限が近くなっている。冬特有の昼間の短さ故だ。

 寮長は電話が来たみたいで、今は私とシンボリルドルフさんだけだ。

 というか、皇帝シンボリルドルフさんと相部屋だなんて知らなかった……。

 てか、女王と皇帝の組み合わせって、なんか仕組まれてる気がする。似合い過ぎ。

 と、そんなこと考えてる暇なかった。

 

「ライネルのトレーナーさん」

「あ、ヒシアマゾンさん」

 

 廊下を静かに駆けてきたのはここの寮長、ヒシアマゾンさん。

 ウマ娘って、美形が多いんだなぁ……。

 

「ライネルが見つかったとさ。多摩川の堤防の上にいたそうだ。近くを通りかかったウマ娘の方が運んできてくれるって」

「運んで……」

「蹲っていたみたいだね。何があったか、本人から聞いてくれ」

 

 

 

 

「にしても大丈夫かい?」

「えぇ……ありがとうございます」

 

 それは、とても大きなウマ娘だった。

 身長は2mを超え、筋肉が全身から主張されている。

 

「ところで、なんで私の名前を」

「あぁ。君、エリザベス女王杯と有記念、優勝してただろ。それでさ、女王陛下」

 

 やっば。ガチで惚れそうなんだが。だって、このウマ娘、イケメンなんだが。

 

「私は元々、輓曳の方で活躍してたウマ娘なんだ。でも、私的には、そっちのただ、走るだけのレースに出たかった」

「そうなんですか」

「あぁ。でも、巷で聞くと、輓曳の方が引退後も仕事がたくさんあるから、普通のウマ娘は輓曳ウマ娘に憧れる、だそうだな」

「まぁ、そうですね。レースに出ないウマ娘は、力が強すぎる一般人となんら変わらないですからね……」

「だろ?」

「でも、私はそんな普通のウマ娘に憧れます」

 

 視線が私の足にいく。抱えられてるからね。樽のように。

 

「レースに出るウマ娘の中には、家庭の教育によって、無理矢理出走するウマ娘もいます。そして何より、走ることで、私たちウマ娘の命を削っている。命を削って走っている。輓曳であれ、障害であれ、ダートであれ、芝であれ」

「……それで?」

「そして、最後まで命を削った後、待ち受けてるのは、教えられていない社会の常識。ハードルの高い入社試。何より、傷ついた身体による労働です」

「………」

「レースに出ないウマ娘は、万全の状態で労働という命の削り合いに向かう。でも、レースに出たウマ娘は、既に削られている。その差がはっきりと出てしまう。だからか、レースに出たウマ娘達は、その後、社会で活躍することが少ない」

「……なるほど。つまり、女王陛下は今の生活が厳しいと」

「まぁ、そうですね。でも、今の生活は楽しいから、捨てがたいですよ」

「ははっ。確かにそうだったな。学園にいる頃は、とても楽しかった……」

「捨てられない。捨てたくはないんですよ……この生活」

「わかった。だから、病院に連れて行くなってことだったんだね」

「はい……」

 

 星が、月明かりに負けぬように輝く夜。私は、とあるウマ娘と出会い、運んでもらった。

 運命だとかは信じ切れないが、なんらかの関係はあるだろう。彼女の名はライネル。

 私が競走になる前、北海道の牧場に居た、あの時の輓

 こんなところで会えるとは、思っても居なかった。

 んで、トレーナーさんとあの後出会って普通に謝られた。

 まぁ、私のトレーナーを続けてくれるから、許す。

 

 

 

 

「ったく。あの頃のチビが、あそこまでとはねぇ……」

 

『命を削って走っている』

『でも、捨てたくない』

 

 ありし日の小さな子。ルタの渾名で呼ばれ、厳しい教育を受け、今や女王とまで呼ばれていた。本当の親、ビヴァリスは親族で一斉に叩かれ、去っていき、分家の方に保護してもらったあの子。妹が常に背中に張り付いてた頃が懐かしい。

 血縁としてはかなり遠いが、分家の方が近いし、何より一族としてかなり大きいからな。

 

「ま、心配事はないからいいか」

 

 

 

 

 

 

 

「ライネルって、捨てられてたんだよね」

「ん?まぁ、そうだが……分家に保護してもらったぞ?捨てられた後に大婆様に直ぐに回収されて本当の母親とは縁切ったからな。いやぁ、あの頃も懐かしい。本家でも私達の対応に困ったらしくてな。私とライネルと母親以外のウマ娘は全て輓曳ウマ娘。普通に走る方法を教えるのにあまり適していないから、誰に預けるかでかなり揉めたらしいな」




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いつか、皆がおすすめできるような作品になりますように。

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