司令官「あーとぶれーく??」   作:蒙古襲来

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久々に書いたんで骨折れる…また気が向いたら書きます


1:ふぇいくあーとぶれーく

 何の前触れもなく、ただ突然に。そうあの日から…あの日から私たちの日常はおかしくなっていったんだ。

 

「ということですので…。皆さんには順々にワクチンを接種して頂くことになると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

 

 多少のざわつきはあったものの、大淀さんからの発表に周りのみんなは安堵しているようだった。かくいう私もそのうちの一人だった。

 

 「これでやっと以前の生活が取り戻せるのね。短いようで本当に長かったわ」

 

 「…注射打つのなんていつぶりだろう。艦娘になってからは病気知らずだったから」

 

 「てか艦娘が病気になるなんてびっくりなんだけど!明石さんだって今までに前例がないって驚いてたくらいだし…」

 

 「どうでもいいよ。なんでもいいから早くそのワクチンってやつを打って安心したい」

 

 中には怪訝そうな顔をしたり、不安そうな表情を浮かべたりしている子もいたが、多くはワクチンを打つことに肯定的で楽観的だった。

 

 「またみんなで一緒にご飯食べたり出来るんだ!やったね、吹雪ちゃん!」

 

 「うん…そうだね!」

 

 さかのぼること数か月前のある日、最初は本当に小さな異変からだった。

 

 「…加古、大丈夫?」

 

 「あ、ああ…。いやなんかさ、ちょっと体だるくて」

 

 鎮守府で体調不良を訴える艦娘が現れ、しかもそれが一人にとどまらずその日のうちに続出したのだ。

 

 「うわ~、風邪ひくなんていつぶりだろう…というか艦娘になって以来初めてかも!古鷹、看病して!」

 

 「いつも遅くまでお酒ばっか飲んで、しかもお腹出して寝てるからでしょ!ほら、間宮さんにお粥つくってもらったから今日はそれ食べてゆっくり寝てること!今日は私も非番だしついててあげるから」

 

 「さすが~古鷹は優しいなぁ!」

 

 でもその時はまだ深刻さなんて微塵もなくて、具合の悪い子のところにお見舞いに行ったり、その子がおどけて見せるから冗談を言い合って楽しく談笑したり…。むしろ久々の体調不良を理由に僚艦に甘える人もいたと聞いたくらいだ。

 

 「うーん、本来は人から艦娘になることで病気にかかることはそれ以降無いはずなんですけどね~。まあ、疲労がたまってみたいなことじゃないですか?」

 

 体調の芳しくない人たちを一通り診た後、明石さんはそう言って首を捻っていた。

 

 確かに私たちは人間から艦娘という存在になる際、いわゆる風邪のような人が罹る病気とは無縁になると説明を受けたはずなんだけれど…。

 

 「病も気からと言いますし、あんまり気にしないように!」

 

 「そうですね!」

 

 その時は明石さんが笑いながらそう言ったのを私は何の疑いもなくただ受け入れるだけだった。

 

 でも…。

 

 「ちょっと!今日の遠征中止って聞いたけど!」

 

 「あー、なんか出撃予定だった駆逐艦の子たち体調悪いみたいよ?」

 

 やっぱり変だった。何かがおかしかった。

 

 「…なんか最近、食堂静かじゃない?」

 

 「みなさん具合悪くて部屋から出られないみたいですよ」

 

 「えー、うちらも気をつけんと!」

 

 艦娘になれば病気知らずと言われていた私たちがこんな一遍に、しかもたくさん…。

 

 「ぅ…体、重い」

 

 「全身がすごく痛い…」

 

 ある日を境に出撃する回数が急速に増えていった。ローテーションで任務にあたっていた私たちにとってそれは今までになかったことだ。

 

 それはつまり元気に動ける艦娘の数が明らかに減っていることを意味していた。

 

 「…聞いた?加古さん、ヤバいみたいよ」

 

 「聞いた聞いた!というか同室の古鷹さんもヤバいって…」

 

 「私たちどうなっちゃうんだろ…」

 

 「ちょっと!今は作戦中よ!私語はつつしんで!!」

 

 「…………」

 

 みんな、肌身に感じる異変に少しずつ不安を募らせていった。

 

 「…夕立ちゃん」

 

 私だってそうだ。不安で不安で仕方なかった。

 

 「上層部にもこの鎮守府の現状は報告しているが…いったい何が起きているんだ?」

 

 「…駆逐艦の子を中心に動揺が広まっているらしい。今は抑え込めているが、我々も正直…限界が近いと感じる」

 

 「分かっている…だが上層部からの返答がない以上どうすることも出来ない。すまないが、引き続きみんなのケアを頼む…」

 

 「…了解した」

 

 司令官や長門さんたちも随分疲れているようだった。それでも気丈に振舞う姿は私たちに勇気を与えてくれていた。

 

 そうだよ…。頑張れば…頑張ってればきっと…!!

 

 「…こんなこと、こんなことありえない!なんで…」

 

 明石さんはもっと疲れているようだった。久々に見た彼女は頬はこけてフラフラになりながらも、上層部から派遣された人たちと必死になってみんなを診ていた。そういえばあれ以来彼女の姿を見ていない気がする。

 

 『今この鎮守府で流行っている病はかなり特異なものであり、伝染の可能性がある為、極力艦娘同士の接触は避けて過ごすこと』

 

 それからしばらくして…最初に体調不良の人たちが現れてから約数週間たった頃、ようやく書面にて知らされたことに鎮守府に所属する者全員が愕然とした。

 

 「…今更、そんな」

 

 でも思えばそんなこと、こんな紙で知らされるよりも前に分かっていることだったはずだ。はずなのに…。

 

 「病気にかかるなんて忘れてたくらいだからね…。でも…それにしても僕たちはもっと気を付けるべきだったよ」

 

 原因不明の体調不良、似たような症状を訴える人は日を追う毎に増えていくばかり。もしかしたらその病は感染するものなのかも…なんて誰だって分かるはずだった。

 

 でも…もう遅い。

 

 「…吹雪、昨日夕立が動かなくなったよ」

 

 「僕は、僕はもうどうしたらいいのか分からない」

 

 「白露も村雨も春雨も…!白露型は僕以外みんな動かなくなっちゃった…」

 

 「みんな体が痛い、重いって…!僕はそれでも見てることしか出来なくて…!」

 

 「…あれだけ苦しそうに声をあげていたのに、最後はみんな一緒だった」

 

 「ギイギイと音を立てて、体は茶色になっちゃって…」

 

 「吹雪、信じられるかい?」

 

 「みんな…錆びちゃったんだよ」

 

 □

 

 「そういえば時雨ちゃんがいなかったみたいだけど…ワクチンのこと知らせなきゃだよね?」

 

 最初の症状は軽い倦怠感から。それから徐々に重く響くような痛みが全身に現れる。

 

 「…吹雪ちゃん?聞いてるにゃしい?吹雪ちゃーん??」

 

 鈍痛の後、体が鉛のように重くなって動けなくなり、全身の皮膚に茶色の斑点が出始める。まるでその様は体が錆びついていくようで…。

 

 「吹雪ちゃん!!」

  

 「あっ!ごめん睦月ちゃん!なに?」

 

 そして最後は…。

 

 「もうっ!上の空だったけどだいじょぶかにゃ?」

 

 「う、うん!大丈夫だよ…!」

 

 「本当?今から時雨ちゃんのところにワクチンのこと知らせに行こうって話なんだけど…」

 

 「あ、うん。私も行くよ」

 

 「やった!じゃあさっそく!」

 

 嬉しそうに笑う睦月ちゃんに手を引かれて私はその場を後にした。

 

 でも、まだ話足りないのか多くの艦娘たちはその場に残って話をしているようだった。もしかしたらお互いにずっと接触を避けてきたから、久々の会話に盛り上がってしまったのかもしれないけど…。私が去りゆき際に聞いた感じでは、やはりみんなワクチンの話でもちきりのようだった。

 

 でもようやくこの悪夢から解放される。それは久し振りに感じた幸せだった。

 

 「あれ、でもいいのかな?」

 

 「にゃ?」

 

 「放送で言われるがままに執務室に集まっちゃったけど、今思えばそれってダメなんじゃ…。艦娘同士の接触は避けてって言われてたのに…」

 

 「あ、そういえば!」

 

 「…………」

 

 「きっとワクチンが出来たから大丈夫ってことなんじゃない?固いことは気にするにゃ!ほら、行こう!」

 

 「う、うん…そうだよね」 

 

 あの時、もっとそのことをしっかり考えていれば…。大淀さんや明石さん、司令官とちゃんと話をして、目先のまがい物の幸せに飛びつかずにしっかり考えていれば…。

 

 「大丈夫…!きっと大丈夫だよね!」

 

 私たちはモルモットにはならずには済んだのかもしれない。

 

 

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