司令官「あーとぶれーく??」   作:蒙古襲来

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2:てりーぶるれいん

 鎮守府の外では雨が降っているようだ。窓をたたく雨音が非常にうるさく感じる。

 

 「…………」

 

 いや実のところ、雨音だけをうるさく感じているのではない。どしゃぶりの雨にまじって聞こえてくる声がとてもうるさいのだ。

 

 「…誰か」

 

 呻くような唸るような…どちらともとれるような声は一つではない。いくつもの声がこだまして押し寄せ、鎮守府内に反響している。

 

 「誰か助けて」

 

 そんな中で私の絞り出すような声が誰かに届くことなんて―――ないだろう。

 

 □ 

 

 「イテテ…ワクチンを打ったところがちょっと痛いにゃ…」

 

 「大丈夫?」

 

 きっと痛みを堪えているのだろう…少し顔をゆがめながらも「大丈夫!」と元気に答える彼女―――睦月ちゃんの腕には真新しいガーゼが巻かれていた。

 

 「…………」

 

 視線を彼女から外し、自分の腕に合わせてみる。彼女の腕に巻かれているものと同じようなものが私の腕にも巻かれていた。

 

 「…吹雪ちゃんは痛くないの?」

 

 不思議と痛みはなかった。

 

 「でも…とにかくこれで安心にゃ!」

 

 「…うん、そうだね」

 

 「ちょっと駆逐艦は数が多いから時間かかっちゃったみたいだけど…!少し前に打った他の艦種の人たちなんてみんな元気いっぱいみたい!」

 

 「…………」

 

 「およ?吹雪ちゃん?」

 

 つい数日前から始まったワクチンの接種、それは驚くべき早さで実施された。

 

 防護服のようなものに身を包んだ人たちが私たちの鎮守府を訪れ、私たちが何を言うまでもなく艦種を問わずに接種が始まったかと思えば、もう今日がワクチン接種の最終日だという。

 

 考える間もなく、私と睦月ちゃんはワクチンを打った。私たちが打つ時にはもうほとんど艦娘が居なかったから、きっと私たちの接種で完了になるのだろう。そう思うとなんだか少し誇らしいような気もした。

 

 「吹雪ちゃーん?」

 

 ワクチンの対象になるのは、この鎮守府に所属するすべての艦娘。今のところ健康な私たちは勿論のこと、すでに感染・発症してしまった―――錆びついて動かなくなってしまった子たちにも同じように実施された。

 

 誰かが聞いた話によれば…ワクチンには感染の予防効果だけでなく、病気そのものを無くす効果もあるという。それを聞いた時、私たちは喜ばずにはいられなかった。

   

 『ねえ吹雪、もしかしたら…。もしかしたらまた前みたいにみんなで過ごせるのかな』

 

 ワクチンを打つ少し前、睦月ちゃんと一緒に彼女を訪ねた時のことだ。

 

 以前とは別人のような姿―――頬はこけ、小さな体はもっと小さくやせ衰えたように見える…。しかしそれでもか細い声を震わせるあの子の表情には、期待があった。私にもあった…と思う。

 

 『僕は…そうだったら嬉しいな』

 

 伝染の恐れがあるからと知らされて以来、私たちはお互いの接触を極力避けてきた。でもしばらく見ないうちにこんな…。

 

 すでに病気を発症した者たちは鎮守府内に臨時で開設された隔離所へと移され、身動き一つ取らず、一言も発することなく―――今はただベッドに横たわっているだけだ。

 

 『…ッ』

 

 もちろん会うことなんて出来ないから何とも言えない…言えないけれど。

 

 『うん…大丈夫、大丈夫だよ!』

 

 弱り果てた彼女の希望を―――鎮守府に残された私たちみんなの希望を否定したくなくて…。私は根拠もないのに笑顔でそう断言した。

 

 でも、やっぱり何か変だ。こんな簡単に―――

 

 「吹雪ちゃん!」

 

 「わっ!」

  

 「もう!また考えごと?せっかくのかわいい顔が台無しにゃ」

 

 「…痛いよ睦月ちゃん」

 

 我に返った私の頬をぎゅうっと引っ張って笑う睦月ちゃんを見て、考えすぎかなと私も笑う。

 

 「…あ、雨降ってきた?」

 

 「あ、そうかも。ほら!」

 

 近くの窓から外を眺めるとまだお昼を過ぎた位だというのにもう辺りが真っ暗だ。そのうち窓にうちつける雨も強さを増していった。

 

 「あっ…」

 

 「あれ、もう帰っちゃうのかにゃ?少しくらいゆっくりしていけばいいのに~」

 

 あまりの雨足の強さにもはや濃霧が発生しているかのようだ。

 

 ふと見ると防護服の人たちが大きな車のトランクに荷物を載せて早々と鎮守府を立ち去る姿があった。

 

 なんだかひどく慌てているような気がしたけど…。 

 

 「さよーならー!ありがとにゃー!」 

 

 「あ、窓開けたら雨が入って―――」

 

 窓を開けて大きく手を振る睦月ちゃんとは対照的に、私はどんどんと小さくなり遂には見えなくなったその車に一度は消えたはずの不安が再燃したような気がした。

 

 「「!?」」

 

 そして彼らを見送ってすぐのこと…何だか鎮守府が騒がしい?

 

 「なんか…すごいにぎやかだね」

 

 「うん…」

 

 思わず隣の睦月ちゃんの手を握ると彼女も私の手を握り返した。

 

 「みんなワクチン打ったからって元気になりすぎにゃ…」

 

 そう言う彼女の声は震えていたと思う。

 

 「とりあえず…行くぞよ?」

 

 「うん…」 

 

 それから…えっとそれから―――

 

 それからどうしたんだっけ?

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