司令官「あーとぶれーく??」   作:蒙古襲来

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3:すくりーみんぐがーるず

 

 「…何かあったのかな?」

 

 「どうなんだろ…」

 

 さっきまでは少し遠くの方で聞こえていた騒ぎ声が今は間近に聞こえる。それはそうだ。声のする方に私たち自ら向かっているのだから。

 

 外が雨だからか、少し鎮守府内が薄暗い。

 

 「暗いね…」

 

 「うん…お天気が悪いせいかな?」

 

 何も怖がる必要はないはずだ…ここは私たちの慣れ親しんだ鎮守府なのだから。でも思わず睦月ちゃんと繋いでいた手に力がこもった。

 

 「吹雪ちゃん…」 

 

 「あ、ごめ―――」

 

 「ううん、大丈夫」

 

 強く握りすぎてしまったかと思い手を放そうとするが、睦月ちゃんはそれに首を振った。

 

 「…ちょっと怖いよね」

 

 「うん…」 

 

 それ以降はしばらく沈黙が続くことになった。何とも言えない気味の悪さに私たち二人は喋ることさえままならなかったのである。

 

 「あ、もうすぐ食堂に―――」

 

 どうやら騒がしい声の出処は目の前の食堂かららしい。そして私たちの不安は良い意味で裏切られることになった。

 

 食堂の入り口から見えた光景―――鎮守府のみんなが美味しそうなご馳走やお酒を囲みながら騒いでいる様子に今まで私の胸に巣食っていたはずの不安や恐怖はどこかへ行ってしまった。睦月ちゃんも同じようで、隣を見ると彼女の安堵している表情が目に入った。

 

 「あ、吹雪に睦月!今、ちょうど呼びに行こうと思ってたんだ!」

 

 あまりに予想外の展開に食堂の前で立ち尽くしているとそんな私たちに気が付いた軽巡の川内さんが声を掛けてくれた。

 

 「…川内さん、いったいこの騒ぎは何なんですか?」

 

 「何って…お祝いだよ、お祝い!!」

 

 思わぬ返答に私と睦月ちゃんは思わず顔を見わせた。すると川内さんは「知らないの?」と言いながらこの騒ぎの訳を教えてくれたのだが、その内容に私と睦月ちゃんは衝撃を受けることになった。

 

 なんとワクチンを打ったことで再起不能に陥っていた子たちが元気に回復したというのだ。今回の食堂での騒ぎはその快気祝いらしく、ほとんどの艦娘が参加しているらしい。

 

 これだけ大規模に騒ぐのもそう言われてみると無理はない気もするけど…。

 

 「ほら、あれ!」

 

 にわかには信じられない…信じられないことだが、現に川内さんの指さした方を見ると隔離棟に収容されていたはずの子たちが何事もなかったかのように飲食や会話を楽しんでいる姿があった。

 

 しかも彼女たちは病後にもかかわらず、皆一様に体はすこぶる快調で、食欲も旺盛なのだとか…。

 

 むしろ今までで一番調子が良いと言う子も少なくないらしい。

 

 「な、何にせよ良かったにゃ!」 

  

 「だよね~」

 

 「…………」

 

 睦月ちゃんと川内さんが嬉しそうに話す様子を見て、私もこの状況を本当に嬉しいと思った。

 

 「あ、そういえば明石さんに会った?」

 

 あ、そういえば彼女にはしばらく会っていない気がする…。

 

 それを察してか、川内さんは「久しぶりに会っときなよ!今回のお祝いの功労者でもあるんだから」と私たちの手を取ってゆっくり歩きだした。

 

 食堂内のみんなの尋常じゃないくらいの騒ぎっぷりを目にしながら明石さんの元へと向かう中、川内さんが話すには、明石さんは上層部から派遣されたあの防護服の人たちと一緒になって私たち艦娘へのワクチン接種に尽力してくれたようだった。今回の件で彼女自身かなり疲労がたまっているようだが、みんなが設けてくれた今回の機会を「せっかくだから…」と参加をしてくれたらしい。

 

 「おーい、明石さーん!」

 

 食堂内で一番人だかりが出来ている所、その中心に明石さんはいた。

 

 「あ、川内さん…。それに吹雪ちゃんと睦月ちゃんも…元気でしたか?」

 

 「は、はい!」

 

 「それはよかった…」

 

 久しぶりに見た彼女の印象はやはり相当疲れているというものだった。周りのみんなが自分たちを救ってくれたことに感謝して騒いで囃し立てるのに対し、それを適当に受け流しながら魂の抜けたような姿でそこにただ座っている彼女の姿には何とも言い難い異様さがあった。

 

 「…………」

 

 そして時折明石さんが見せる悲しそうな表情…。どんちゃん騒ぎの中心にいながらその表情は明らかに異質だった。

 

 「あ、明石さん!疲れてるならお部屋に―――」

 

 私が彼女にそう声を掛けた時だ。誰かの悲鳴にも似たような声が食堂内に鳴り響き、と同時に食堂は水を打ったように静まり返った。

 

 「ちょ、ちょっと加古さん!大丈夫ですか!?」

 

 「…………」

 

 「ふ、古鷹さんまで…!いったい何を…」

 

 「ね、ねえ!いくら快気祝いだからってお酒飲みすぎたんじゃない!?酔っぱらいすぎだよ!」

 

 声のした方を見ると重巡の青葉さんと衣笠さんが何やら慌てている様子だ。でもその理由は説明されるまでもなく、見れば一目瞭然だった。

 

 「「…………」」

 

 視線上の思いがけない光景に息をのむ。青葉さんと衣笠さん…いや今や彼女たちだけでなくその場にいた者全員の注目の的になっていたのは、食べ物を両手いっぱいに掴んで勢いよく頬張る加古さんと古鷹さんの姿だった。

 

 「…おいおいなんだよ!酔っぱらいすぎだろーが!」

 

 「アハハ、いくら旨いからって手掴み食べはびっくりだよ!」

 

 誰かの野次るような発言、それに続くように同調するような声が続々と上がる。一部では囃し立てたり、笑ったりする声が上がる中、渦中の加古さんと古鷹さんは一心不乱に目の前の料理を掴んでは口に運ぶだけだ。

 

 「…………」 

 

 酔っぱらって行儀悪い振る舞いをしているだけ―――それだけなら何も心配することは無い。

 

 でも…だからって!

 

 「加古さんはともかく…!古鷹さんまであんな行儀悪くなるなんて…なんか変だよ」

 

 睦月ちゃんの言う通りだ。あの加古さんならともかく…古鷹さんがあんな獣みたいな食べ方…絶対おかしいよ!

 

 「―――ぅ」

 

 なりふり構わず獣のように食事を貪る二人の様子をみんなが見守る中、さすがに近くにいた青葉さんは目に余ったのか羽交い絞めにでもして止めようとしている。その時だ、私は隣にいた明石さんが何かを呟いている気がしてそちらを見た。

 

 明石さんが何故だか青い顔をしていた。

 

 「…明石さん?」

 

 「―――う」

 

 明石さんの顔色はどんどん悪くなっていく。お酒飲みすぎたのかな?そんな私の心配をよそに彼女はさらに青ざめ、体もガタガタと震えだした。

 

 「ちょ、二人とも!いい加減にしてくださいよぉ!」

  

 「お、いいぞ!やれやれ~!」 

 

 「「…………」」

  

 青葉さんが格闘する姿を煽るような声に再び食堂が騒がしくなり始め、明石さんの呟くような声が聞こえなくなる。

 

 それでも私は川内さんと睦月ちゃんに明石さんの状態を話し、川内さんと私で彼女を自室へと連れて行こうとした。 

 

 まさにその瞬間。

 

 「違う!私のせいじゃない!!!」

 

 「え、何を―――ぎゃああああああ!!」

 

 私は明石さんの悲痛な怒鳴り声と青葉さんの絶叫を同時に聞いたのだ。

 

 それから間もなく―――狂喜にあふれていたはずの食堂は阿鼻叫喚の地獄と化した。

 

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