とある事情により完全封鎖された鎮守府がある。
かつては多数の艦娘が所属し、かしましいくらいに賑わっていたのだが、現在は気味が悪いくらいに静かだ。
その鎮守府でいったい何が起きたのか―――それを知る者はほとんど、少なくとも私の周りにはいない。
「…行きますか」
実を言うと完全封鎖とはもう名ばかりのものだ。たしかにしばらくは立ち入りを制限されていた時期があった。
でも必要な情報だけ得られれば、彼らにとってはもう用済み。入り口付近に設置されていただろうバリケードが無残に壊されていたり、外壁にカラースプレーのようなもので落書きされていたりするのを見るに数年前からここはただの廃墟と化していた。
「あ、雨…」
あの時と同じよう…。ぽつぽつと降り始めた雨はまもなくして一寸先も見えないくらいのものになった。
私は鎮守府へと駆け込んだ。そして薄暗い中、事前に用意していた懐中電灯を点けるとやはり外観同様に中もかなり朽ちているし、荒らされている。
でもそれで私が歩みを止めることはない。今日もまた…ここで一緒に過ごしたみんなの声を私は拾いに行く。
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【駆逐艦寮のある一室に放置された日記1より抜粋】
■月■日 天気(晴れ)
注射を打つの怖かったけどすぐ終わってよかった!
あー、早くみんなに会いたい!早く一緒にご飯食べたり、お話したりしたい!
■月■日 天気(晴れ)
注射を打ってもらったところが少しかゆい。ふくはんのう?とかいうやつなのかな…。
なんかちょっと体が熱い気がするのもそれのせいだよね…。こういう時は安静にするのが一番!
明日には治ってますように!
■月■日 天気(曇りっぽい晴れ)
きょうは元気いっぱい!なんかすごく体の調子がいい!
ひさしぶりに海にも出れた!みんなとも話せた!やっぱり潮風を浴びるのは最高だよ!
皐月、元気良すぎ!って怒られちゃったけどね( ´∀` )
■月■日 天気(雨)
なんかすごくお腹すいた!そういえば今日ってお祝いの日じゃないか!食堂の方が騒がしいからこれ書き終わったら行ってみようかな…。
でもなんか体の調子はいいんだけど…また注射打ったところがかゆくなってきた気がする~。頭もボーっとするし。
まあ、そのうち良くなるでしょ!
【駆逐艦寮のある一室に放置された日記2より抜粋】
〇月〇日
白露たちが目を覚ましたと聞いた。こんな奇跡があるなんて…嬉しくて居ても立ってもいられないよ。
まだ隔離棟にいるらしいけど、もうすぐしたら会えるらしい。それなら僕も早くワクチンを打たなきゃね。
〇月〇日
副反応…聞いてたものよりきつい。でもこれに耐えればみんなに会える…。
頑張ろう。
〇月〇日
ひさしぶりにしらつゆやゆうだちたちにあえるけどあたまがいたくてなんかへんだせっかくあえるのにこんなことおかしいよじもかけなくなってきたしことばがでてこないでもこれをかいているときがいちばんおちつくんだ
【弓道場に落ちていたメモ1】
何が起きてるの?どうしてこんなことになったの?みんなどうしちゃったの?気を落ち着ける為にこれを書く。
翔鶴姉とはぐれたけど探しに行けない。外に誰かいる。鍵はかけた。ここに隠れていれば大丈夫なはず。
【弓道場に落ちていたメモ2】
加賀さんがすぐそこにいるこのままじゃ食べられ
【執務室の机に保管されていた日記より抜粋】
理由は分からないが複数の艦娘が暴動を起こしているらしい。現状把握をする間もなく現在、数名の艦娘と共に執務室に立てこもっているがそれも時間の問題だ。
何とか外部と連絡を取ろうと試みてはいるが、なぜか通信機器が機能していない。
長門たちもかなり疲弊しているのか、呼吸が荒く苦しそうだ。これを書いたら見張りを交代し、彼女たちを休ませよう。ここを放棄することになれば、彼女たちの力は不可欠なのだから。
使うことはないと思っていたが、銃に弾を込めておいた方がいいだろう。
これは最悪の場合だが、彼女たちを撃つ覚悟もしなければならない。
【潜水艦寮のある一室に落ちていたメモより抜粋】
あたまがいたい。きもちわるい。でっち、みんな……会いたいよ。またみんなでオリョール海へ行きたかった。
【破れたメモ】
いま生き残っている子の多くは今回の件を深海棲艦による攻撃と考えているみたいだけど違うと思う。これは私たちが味方だと思っていた側からの裏切り。私たちは実験台にされたんだ。
自分の腕を見てみなよ。赤く腫れあがって、膿が出てきてる。ここまでくると次第に思考がまとまらなくなる。そもそも錆びついた体が急激に良くなるなんてよく考えればおかしなことなのにね。
変わり果てた姉妹のことを嘆く子も多い。あれは化け物なのにね。思考もなくなって、ただ肉を求めて獣のようにはいずり回ることしか出来ない化け物なのにね。
もういいや、遅かれ早かれみんな化け物になるんだから。でもせめて、せめて私の隣にいる熊野だけは守ってあげたい。
【工廠に放置されたメモ1】
ワクチン注入後、錆びついていた艦娘が何事もなかったかのように動き出すなんて…。何にせよこれで!
上層部から派遣された彼らにワクチンについて尋ねると何も教えてもらえなかった。極秘事項なんだろう。
彼らはワクチンを打たれたみんなのデータを取るのとかで忙しいらしい。何かお手伝い出来たらなあ。
【工廠に放置されたメモ2】
これだけの短期間で治療が出来てしまうなんて…このワクチンはすごい!
みんなもうずうずしていて落ち着かない様子!もうこの隔離棟なんていらないね!
【工廠に放置されたメモ3】
彼らが話しているのをこっそり聞いてしまった。実験?戦闘データ?いったいどういうこと?
なんだろう。落ち着かない。
彼らに真相を問いただそうとしたけど、いつの間にか鎮守府から居なくなってる。
【工廠に放置されたメモ4】
青葉さんごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
【壁にペンキで書かれた文字より】
生きている人が居たら資材置き場に来てください!みんなでここから脱出しましょう