真剣で衛宮士郎を愛しなさい!   作:Marthe

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前回に続きもうちょっとだけ続きます。というのも、マルギッテは自問自答するイメージなのでストーリーと今一絡めづらいと思うからです。


幕間:マルギッテ2

衛宮士郎を旅館に案内し数時間。それまでクリスお嬢様のことで険しい顔をしていた中将がすっかり柔和に笑んで衛宮士郎と語り合っている。

 

「ほう!君はドイツ語も話せるのか」

 

「はい。得意ではありませんが通常の会話であれば問題ないかと」

 

中将は日本が好きだ。祖国にも劣らない技術となにより古くからあるとされるサムライ魂に心惹かれ度々日本のことを調べては商品を取り寄せたり部下からレポートを受け取ったりと。

 

そんな中将は秘密ではあるが結構日本に訪れている。今回のようにお忍びではあるが、日本をその身で堪能したいとのことでこうして宿をとることもままある。

 

入浴され、今は浴衣姿となった中将と衛宮士郎。・・・とついでに私。

 

本来短時間の日帰りのはずがどうにも一泊する様子を体してきている。

 

目の前にある豪華なこの宿の心づくしを口に運んでは楽し気に話す中将はもう社交辞令ではなく、私達やクリスお嬢様といるときのように優しい眼差しをしている。

 

―――心からこの時間を楽しんでおられるのだろう。

 

対する私と言えば。先ほどの衛宮士郎の世辞(爆弾)に思考を未だに惑わされている。

 

 

 

『・・・。』

 

『なんですか。人のことをジロジロ見て。このようなものは似合わないと自覚しています』

 

『いや、そんなことないと思うぞ。流石だな。元が綺麗だから浴衣、とても似合ってる。素敵だよ』

 

『っ・・・!』

 

思わず恥じらいで身をよじってしまう。どうしてこの男はこうポンポンと考えなしに人の姿を褒めやかすのか。

 

そもそもだ。車内ではあんなに自分を挑発していたというのにこの手のひら返しは一体なんだ。あの大人びた皮肉屋が鳴りを潜め、年相応のものになっている・・・少し無愛想だが。

 

「どうかね。学園卒業後はドイツに、私の所に来ないかね?」

 

「!?」

 

思わずギクリと体が変な動きをしてしまう。中将の人を見る目は本物だ。その目がこの短時間でこの少年を自分の部隊に必要な人材だと見出したということだ。

 

「あはは・・・ありがたい話ですがまだ二年ありますし・・・。それに―――俺には目指すものがあるので」

 

やんわりと、しかし、明確に断った。

 

「ほう・・・その歳でもう未来を見据えているのか。良ければ聞かせてくれないかね。その目指すものとはなんなのか」

 

断られたというのに愉快そうに聞く中将。対する衛宮士郎は少し間を開けて、

 

「なってみたいんですよ。正義の味方(・・・・)ってやつに」

 

そう、夢物語を口にした。

 

「・・・ふふ、ふははは!正義の味方とは!これは大きくでたな!」

 

「正義の味方・・・?」

 

なんだそれは。夢物語にもほどがある。

 

それがいったい何を示すのかこの少年はわかっているのか―――

 

そう思い隣に座する少年を見たとたん、

 

 

―――その、何もかも理解しているという眼に意識を奪われた。

 

 

「君はそれが何を意味するのかわかっているのかね?」

 

「ええ。正義とは秩序を現すもの。全体の救いと個人の救いは両立しない。正義の味方は味方をしたものしか救うことはできない。けれど―――」

 

―――美しいと感じたんです。

 

そう彼は真っすぐに言った。

 

「自分より他人が大事なんてのは偽善だと分かっています。それでも、そう生きられたのならどんなにいいだろうと憧れた」

 

だからと、彼は何時しか鋭い眼差しをした中将を前に胸を張って―――

 

 

「俺は無くしません。引き返すこともしません。なぜならこの夢は決して―――」

 

間違いなんかじゃないんだから―――そう、言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

その夜。マルギッテは不可解な夢を見ていた。

 

『作戦は以上だ。意見のあるものは』

 

『いないようだな。この作戦の要はお前だ、士郎』

 

士郎と、呼ばれた赤毛の青年が立ち上がり、

 

『了解した。なに、少々派手に動き回ればいいだけのこと。ましてや―――』

 

君が一緒なら―――

 

そう言って優しい微笑みで自分を見つめるその顔が―――

 

 

 

「うわあああ!?」

 

ばさりと悲鳴を上げて飛び起きる。

 

「はっ・・・はっ・・・夢・・・?」

 

ブンブンと周りを見渡して、そこが箱根の旅館の一室だということに安堵する。

 

ドクドクと、心臓がこれまで経験したことないほどに脈打っている。

 

そうだ。あの談笑の後、

 

『む、君か。・・・うむ・・・うむ。分かった。すまないね衛宮士郎君。急用ができてしまった。私はここでお暇させてもらうよ』

 

『いえ。この度はありがとうございました』

 

『いやいや、礼を言うのはこちらの方だよ。君との会話は実に楽しかった。それ故にこんな時間になってしまって申し訳ない。手続きは私の方で取っておくので今日は泊っていくと良い』

 

『え、いやそれは・・・』

 

『なに気にすることはない。今から帰ったのでは深夜になってしまうからね。それで学業に戻れとは酷な話だ。それに君は様々な所で貢献していると聞く。今日明日くらいはゆっくり休んでいきたまえ』

 

中将はそう言ってサッと軍服に着替え行ってしまった。そして去り際に、

 

『少尉。君も一泊して衛宮士郎君と共に帰還したまえ』

 

『そ、それは!』

 

『心配することはない。部屋はもう一つ別室を取ろう。まぁ、サムライ・・・正義の味方たる彼が間違いを犯すことなどないし、君にも休暇が必要だろう』

 

それだけ言い置いて彼は祖国ドイツへと帰ってしまったのだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・なんという・・・」

 

普通夢など起きれば忘れてしまうもの。それがありありと頭にこびり付いている。

 

―――あのまま眠り続けていたら確実に・・・

 

「・・・ッ!!!」

 

ブンブンと頭を振る。こびりついて離れないあの微笑みを頭から追い出そうと必死に。

 

深く息を吸い、吐く。心臓はまだトクトクと激しくないまでも早く脈打つが時間は彼女を徐々に冷静にしてくれた。

 

「・・・はぁ」

 

ようやく落ち着いた彼女は自分がびっしょりと汗を搔いているのを感じて顔を顰める。

 

「・・・お風呂に入りましょう」

 

もう一度はぁ、とため息をついて入浴道具を持って部屋を出る。

 

ちょろちょろと池の水が流れる音と流れる風が火照ってしまった体に心地いい。

 

時間は夜明け前といった所か、僅かに空が明るくなり始めている。

 

綺麗に清掃された廊下を歩く。砂利の敷かれた広い庭を迂回するように進み、直進した先が浴場だったはずだ。

 

あの夢は一体何だったのかとようやく冷静に向き合えるようになってきたマルギッテ。しかしまたもや彼女は飛び上がることになる。

 

「あれは・・・衛宮しろッ・・・!!」

 

広く取られた庭には立ち入れるスペースがあり、整えられた風景を楽しむことができる。そんな場所に件の衛宮士郎がポツリと立っていたのだ。

 

ようやく落ち着いてきたというのにその背中を見てまたもや心臓が騒ぎ出し、思わず大きな声を出しかける。顔は見えない。だが、夢の時の微笑みがやはり頭にこびり付いていて。

 

(一体何だというのですか!小娘でもあるまいに!)

 

今年で彼女は21歳。学園に通ってはいるがもう立派な大人だ。それも自分は軍人。己の心を律することなど造作も―――

 

ない。そう言いかけて異変に気付く。人気がないのはわかる。こんな夜が明ける前の時間にうろつく客はいないだろう。だが、周囲がピンと張りつめている。

 

まるでこれから戦闘が始まるかのような緊張感。その原因は中央に立つ衛宮士郎。両手に白と黒の中華刀を手に静かに佇んでいる。

 

 

 

―――瞬間

 

 

 

二刀が舞う。だらりと下げられた両の腕が一瞬にして振りかざされ空気を裂く。

 

下段からの切り上げから始まり横一線、袈裟懸け、両刀を大上段から振り下ろす。

 

その姿に舞踏のような華やかさは無く。ただ武骨に練り上げられた双剣が空を切る。

 

ヒュンヒュンと双剣が舞う。見れば彼は浴衣の上半分を脱ぎ裸身をさらしている。その鍛えられた背中が躍動し、双剣が舞い踊る。

 

その速度は時を追うごとに加速。裸身をさらしている以上この空を切る音は服が立てるそれではなく、双剣が空気を切り裂く音。

 

―――インッ―――インッ

 

既に双剣はマルギッテの目にすら映らぬ速度で振るわれる。空気を裂く音がまるで金属を叩くかのような音を立てる。

 

その姿をマルギッテは呆然と目にしていた。いつもならば血が騒ぎ戦いを望むであろう彼女が、

 

この空気に飲まれたように微動だにせずその姿を見つめる。

 

 

 

 

どれくらいそうしていたのか。一人の観客を前に振るわれていた双剣がピタリと止まった。

 

「―――」

 

静寂が戻ってくる。元より大きく鳴り響くような音ではなかったが、その音は彼女の奥底に未だ鳴り響いている。

 

「―――マルギッテ?」

 

「・・・。」

 

呆然とこちらを見つめる彼女に気づいた士郎が声を掛ける。だが彼女は心ここにあらずと言った様子でこちらを見ていた。

 

「・・・ふむ」

 

両手の双剣に目を移し、そして自分が上半分を脱いでいたことに気が付き汗ばむのを気にせず羽織りなおす。双剣は両手の袖に隠すようにして消す。

 

「マルギッテ。マルギッテ!」

 

「・・・はっ!」

 

近づき軽く肩を揺さぶり、何度か声を掛けてようやく彼女は正気を取り戻した。

 

「マルギッテ。こんな時間になにやってるんだ?」

 

「そ、それは私のセリフです。貴方こそこんな時間に何をしているのですか」

 

そんなことはわかりきったことだった。だが、未だ夢から覚めたばかりのように頭の働かないマルギッテはそんなことを聞いてしまう。

 

「そりゃあ鍛錬に決まってるだろ。女将さんにお願いしてこの場所を借りたんだ。それ以外に刃物を振り回す理由なんかない」

 

そう言って腕を組む士郎。

 

刃物、と聞いてようやく彼女の思考が回転を始める。

 

「二刀使いだったのですか」

 

「ん、あー・・・そうだな。大抵の武器は扱えるが、一番はアレだな」

 

組んでいた腕を解いて困ったようにガシガシと頭を掻く士郎。そして、

 

「このことは秘密にしてくれよな。・・・決闘なんか御免だぞ」

 

「なぜ?」

 

そう問うマルギッテ。ここは箱根だが川神は武道の栄える都市。あれほどの腕前であるならばさぞ名声が上がるだろうに。

 

しかし士郎は逆に困惑したように、

 

「なぜって・・・正義の味方が望んで戦いを起こしてどうするんだよ」

 

「それは・・・」

 

その言葉に何も言えなくなるマルギッテ。そう。彼は来たるべき戦いに備えて腕を磨いているのであって、いたずらに争いをこのまない性格だった。

 

「それより、もう朝になるぞ。・・・体も冷え切っているし、一度風呂にでも入ってあったまってきたらどうだ?」

 

「そ、そうですね・・・」

 

どれくらい惚けていたのか。汗を掻いていた体は冷え切っていて思わずクシュンとくしゃみをする。季節は夏になりつつあるが、この時間はまだ冷える。

 

「ほら。このままだと風邪を引く。朝食まではまだ時間があるし俺も汗を流してくるから」

 

そう言ってぽんと肩を叩いて彼は立ち去っていく。

 

「衛宮士郎・・・」

 

その後ろ姿を見送ってまだぬくもりの残る肩に手を当てる。

 

なにもなかった。そう、特におかしなことは何もなかったのだ。彼は早朝の鍛錬をしていて自分はそれを見かけただけ。川神ならばどこにでも溢れる光景だ。

 

だが、この光景が後にも彼女の奥底に残り続けるのはとても―――不思議なことだった。

 

 

 




マルギッテ編その2でした。前回書かせて頂いた通りマルさんはちょろちょろマルさんになる所があると思うのですが今回はそういうことではなく、士郎の不思議な魅力に翻弄される所が伝わればいいなと思いました。

弓もそう、というか全体的に魔術が根底に存在する士郎の武技は気を扱う川神とは違う魅力を醸し出すと思うのです。

今回実は士郎はきちんと人払いの結界を張っていました。でないと夜明け前とはいえ大変なことになってしまいますからね。今回マルギッテが紛れ込んだのは彼女なりのメルヘンな夢を見て正気を失っていたので誤って踏み込んでしまった感じです。

たくさんの感想、お気に入りありがとうございます。誤字報告もとても助かっています(作者は学がないもので・・・ごめんなさい)正直こんなにもたくさんの方に見ていただけてるなんて夢のようです。これからも頑張って書いていきますのでどうぞよろしくお願いします。
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